妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
123 / 187

122

しおりを挟む
「ではセシムだったな、お主の罪を裁こう」

「はあ~? どうして俺が陛下に裁かれなければいけねえんだ。ただ騙しただけだ」

「確かにお主は貴族ではない。だがな、お主は私の民だ。身分を偽り騙した事は罪だ、分かるな?」

「身分なんて皆偽るだろ。俺だけじゃねえ」

「偽った身分が罪なのだ。隣国とはいえ王族の身分と偽った事が罪なのだ。お主が大公の息子と偽った事が大公が知ればお主は処刑される。そしてこの国は攻め入られ戦が始まる。戦が始まれば犠牲になる者がお主の友かも知れぬ。

お主はエステルを騙す為に大公の息子だと、愛人の子で隠し子だと身分を偽っただけかも知れぬが、お主が偽った為に、大公が愛する奥方以外の女性に現を抜かし不貞したと言ったも同じ事。奥方を愛する大公が怒り狂いお主を捜し出すかも知れぬ。その時、女性を騙す為に身分を使っただけだと言って許して貰えるとでも思っておるのか。

お主だけ処刑されれば済む話では無いのだぞ。お主の話を知っていた者達も同様に処刑される。噂話を消し去るには犠牲が付き物だ。噂話をしただけでも処刑の対象になる。そして見せしめの処刑でようやく皆口を閉ざすのだ。そこまでしなくては噂話は払拭せぬのだ。

お主は私の民だ。私も責任は取らされる。処刑だ。私はこの国の王だ、民が他国の王族に犯した罪の責任で私の首一つで済めば良いが、王妃、息子の王太子、第二王子、そして王太子妃や第二王子の婚約者、王太子の子まで同様に処刑されるかも知れぬ。我等王族が処刑されれば、この国は隣国の属国になる。貴族や平民が今迄と同じ様に暮らせれると思うか?

出来ぬ。属国の民にどれだけの支援が貰えると思う。貴族はまだ良い。隣国の王にとってもこの国の維持が出来る貴族は手の内に置いても使えるしな。貴族の自領の民もだ。今よりも厳しい暮らしにはなるがまだ使える者だ。なら使えぬ者は誰だと思う。読み書きも出来ない、働き口も無い孤児院の子達やお主の様な孤児院育ちの者達、そして王都に住む平民だ。女性は娼館に売られるだろう。子供は人身売買され嗜虐者の玩具にされるだろう。お主のような男性は奴隷の様に死ぬまで厳しい環境下で働かされるか、他国へ売られ医学の発展の為の実験体として過ごす事になる。

そしてお主はこの国の民皆に、敵意と悪意を向けられ外を歩く事は出来ぬ。家の中に居ても罵声を吐かれ石を投げられるだろう。お主の友もだ。お主の友と言うだけで同罪だ。お主が育った孤児院もだ、同罪だ。それ程お主の犯した罪は重いのだ」

「俺は平民だ。誰も平民の、それも孤児院育ちの者の話を信じる訳がねえ」

「お主が孤児院育ちの平民だろうが、誰が話を信じるかではないのだ。大公の息子と身分を偽った事実、偽りと分かった上で話した事だ。それが罪なのだ。お主はエステルの腹の子をどうするつもりだ」

「エステルの父親に俺は養って貰う」

「それは出来ぬ」

「何故だ」

「お主は罪を償わなければならぬ」

「それなら腹の子は知らねえな。俺には邪魔なだけだ。どうせ鉱山で働かされるんだろ?それなのに子まで面倒見れるか」

「分かった。お主は他国の王族の身分を勝手に偽り騙した、よって鉱山送りに処す。お主は監視下の元で生きる事となる。鉱山で罪の話を誰かにした時はお主の命は無いと思え。お主の罪は誰にも教えてはならぬ、分かったな」

「もし誰かに話した場合はどうなる」

「大公にお主を渡す」

「大公も王族だ、話せば分かる人だろ?」

「大公は温厚だが、奥方の事になると残忍になる。話が知られればお主は奥方の心を傷つけたのだ。処刑はされるが、処刑されるまでも苦しむ事になるぞ?早く殺してくれと叫ぶ程な。それでも良いのなら鉱山でも話せば良い、私は止めぬ」

「いや、誰にも話さない」

「処分はこの時からだ。宰相、手続きを頼む。厳しい監視下で此奴の発した言葉は全て書き取る事を命ぜよ」

「はい」

「牢屋に連れて行け」


 騎士がセシム様を縛り部屋を出て行った。


「皆、楽にしてくれ。もう話しても良い」

「お兄様、エステルに会わせて下さいませ」

「今から皆で向かう、付いて来い」


 陛下の後ろを皆で付いて行き、部屋の中へ入る。部屋の中で泣き崩れているエステル様がこちらを向いた。


「お母様~」


 エステル様はお母様を見て早歩きで近寄った。


パシン!


「お母様?」

「貴女と言う子は!なんて事をしてくれたの!」

「お母様、わたくしは…」

「聞きたくないわ!お腹の子も旦那様の子だと言ってたのも嘘だったのね。離れにも行ってないとはどう言う事なの!」

「どうしてわたくしが伯爵の様な格下の男と婚姻させられましたの。わたくしはあの者を夫とは認めておりませんわ」

「貴女がその様な性格だからでしょう。あの者しか貴女の相手になりたがらなかったからよ。貴女が言ったのでしょう、少しでも王族の血筋が入った者が良いと。伯爵家は王族の血筋よ、貴女が望んだ相手でしょう」

「わたくしは格下の貴族の話をした訳ではありませんわ」

「貴女は王女ではないの。王族に嫁げる訳がないでしょう」

「お母様はわたくしは誰からも愛される子だとおっしゃっていましたわ」

「そうね、そもそも私の教育が間違っていたのよ。貴女は誰からも愛される存在ではないわ。親のお父様と私からしか愛されない存在よ。貴女は公爵令嬢と言う肩書きがあったから皆が何も言えなかっただけ。肩書きの無い貴女は高飛車で傲慢な女よ」

「酷い…」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻の私は旦那様の愛人の一人だった

アズやっこ
恋愛
政略結婚は家と家との繋がり、そこに愛は必要ない。 そんな事、分かっているわ。私も貴族、恋愛結婚ばかりじゃない事くらい分かってる…。 貴方は酷い人よ。 羊の皮を被った狼。優しい人だと、誠実な人だと、婚約中の貴方は例え政略でも私と向き合ってくれた。 私は生きる屍。 貴方は悪魔よ! 一人の女性を護る為だけに私と結婚したなんて…。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定ゆるいです。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

婚約破棄します

アズやっこ
恋愛
私は第一王子の婚約者として10年この身を王家に捧げてきた。 厳しい王子妃教育もいつか殿下の隣に立つ為だと思えばこそ耐えられた。殿下の婚約者として恥じないようにといつも心掛けてきた。 だからこそ、私から婚約破棄を言わせていただきます。  ❈ 作者独自の世界観です。

処理中です...