妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
93 / 187

92

しおりを挟む
 朝目が覚めると一瞬何処にいるのか分からなかった。


「そうだ…。チャーリーの家だ…。あれ?私なんでチャーリーの部屋に居るの?」


 周りをキョロキョロと眺め、


「そうだった。夜中怖くてチャーリーの部屋に来て、私が眠るまで側に居てくれて……。私、寝ちゃったのね。 チャーリーに迷惑かけちゃった。 チャーリーどこに居るんだろう…」


 私は自分の部屋に戻ろうとチャーリーの部屋を出ようと。廊下で話し声が聞こえ、


「どうして貴方は反省をしないの?」

「だから何度も言っています。怖がるエミリーヌを一人に出来ないと」

「だとしてもエミリーヌちゃんは婚姻前の令嬢なの。分かってるの?」

「分かってます。ですが、昨日ご両親から受けた心の傷が癒えるまで、母上に何を言われようと俺はこれからも一緒に寝ます」

「貴方は一度私の信用を失ってるの。分かるわね?」

「分かってます。エミリーヌを傷つける様な事はしないし、エミリーヌが後ろ指さされる様な事は絶対にしません」

「それを信じろと?」

「俺は女性と身体を繋げました。俺の事、信じられないと言われるのも分かっています。一度知った女性との行為を、身体を、横に眠る愛する人へ自分の欲を我慢出来る訳ないと言いたいのですよね?」

「そうよ」

「確かにエミリーヌの事を愛する女性として全く欲がないとは言いません」

「ほら」

「なら母上は俺が身体を繋げれれば誰でも良いとお思いですか?」

「そうではないわ」

「愛する女性が側に居て欲がわくのは当たり前です。ですが、俺はエミリーヌのご両親とは違う。自分の快楽や欲に負けない。一度負けた人が何を言ってるとお思いでしょう。一度負けたからです。地べたで寝転び、先の見えない不安。今自分は生きてるのか死んでるのかさえ分からない。いっそ死んでしまえたらと思っても目が覚める。絶望、孤独、心の中を闇が広がっていく。底なし沼にどんどん堕ちていく感じです。一度身を持って経験したからこそ、己を律し我慢出来るのです」

「それでも同じ床に寝るのは駄目よ」

「分かってます。ですが、俺はエミリーヌの心を護りたい。もう我慢してほしくないんです。俺を頼ってくれて嬉しかった。エミリーヌは今迄人に頼る事をせずに頑張ってきた。 兄代わりのグレンさん、親代わりのジムさんやメイさん、エミリーヌが頼れ信頼していたのはたった3人です。お祖父様の前侯爵と夫人を入れても5人だけです。当主の代わりにキャメル侯爵家の全てを担ってきてたった5人ですよ? 赤子の時から頼る事をせず、いえ違います、頼り方を知らず19年生きてきました。 そんなエミリーヌが俺を頼ってくれた。それがいかに凄い事か、母上は分かりますか?」

「分かるわ。貴方がエミリーヌちゃんの事をどれだけ大事に大切に思っているか。それに、どうしてエミリーヌちゃんが貴方に頼ったのか。きちんと分かってるわ」

「お父上に頬を打たれた時の恐怖がエミリーヌの心をどれ程深く傷つけたと思います?ご両親の自分勝手な考え方でどれ程心が痛んだと思います? エミリーヌが俺を頼ってくれる以上、俺はエミリーヌもエミリーヌの心も護りたい。そして俺は側に居ると絶対に側を離れないと示したい」

「……分かったわ。貴方を信じるわ」

「ありがとうございます」


 チャーリーが自分の部屋に戻って来て、扉の所に居た私と目があった。


「起きた?」

「うん……」

「聞こえた?」

「うん……。チャーリーに迷惑…かけちゃった」

「迷惑なんてかけられてないよ?」

「でも……」

「俺はエミリーヌの側に居たい。俺はエミリーヌもエミリーヌの心も癒やし護りたい。それに頼られて嬉しかった。その気持ちに嘘はない」

「うん……」

「エミリーヌを愛する女性として欲する目で見てるのは本当」

「うん……」

「そういう気持ちを隠したり嘘をついたりしても仕方ないだろ?」

「うん…。嘘をつかれるのは嫌……」

「だけどね、俺は自分の欲を優先したい訳じゃない」

「うん……」

「エミリーヌを愛してるからこそ、エミリーヌをエミリーヌの傷付いた心を癒やし護りたい」

「うん……」

「それは俺にしか出来ないと俺は思ってる」

「うん……」

「だからね、これからも頼ってほしい」

「良いの?」

「勿論。一人で我慢してほしくないし、一人で泣いてほしくない。涙は俺が拭いたいし、抱き締めて安心してほしい」

「うん」

「それにエミリーヌが俺の事を心が許せて頼れる存在だと認めてくれたって事だろ?」

「そんなのとっくよ」

「本当?」

「私にとって大事な商店を任せた時にはもうチャーリーに心を許せて頼ってた」

「そっか」

「うん。ねぇチャーリー」

「何?」

「夜が……怖いの。夜になるのが、眠るのが……怖いの……」

「今日から一緒に寝よう」

「……うん」

「俺がずっと抱き締めて離れない」

「……うん」

「途中で目が覚めたら俺を起こせば良い」

「良いの?」

「良いにきまってるだろ?」

「うん」

「他は?」

「チャーリーが起きたら私を起こしてほしい」

「どうして?」

「目が覚めてチャーリーが居ないと少し不安……」

「分かった。一緒に起きて一緒に朝食を食べよ?もし早く目が覚めた時は庭を散歩しても良いし、布団の中でゴロゴロして話をしても良いしね」

「うん」

「でも一つ約束して?」

「何?」

「心を隠さないで」

「どう言う事?」

「不安の時は不安、寂しい時は寂しい、嫌な時は嫌、悲しい時は悲しい、怖い時は怖い、どんな事でも我慢はしないでほしい。エミリーヌの心を見せてほしい」

「分かった」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻の私は旦那様の愛人の一人だった

アズやっこ
恋愛
政略結婚は家と家との繋がり、そこに愛は必要ない。 そんな事、分かっているわ。私も貴族、恋愛結婚ばかりじゃない事くらい分かってる…。 貴方は酷い人よ。 羊の皮を被った狼。優しい人だと、誠実な人だと、婚約中の貴方は例え政略でも私と向き合ってくれた。 私は生きる屍。 貴方は悪魔よ! 一人の女性を護る為だけに私と結婚したなんて…。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定ゆるいです。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...