妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
29 / 187

28 チャーリー視点

しおりを挟む
 次の日、本当に少女と青年が来た。俺をどうしてそっとしといてくれない。俺は少女を睨んだ。睨んでも少女はお構いなしに話し掛けてくる。


「お兄さん、今日の食料とお酒ここに置くね」

「もう貰わない。だから帰ってくれ」

「食べないと死んじゃうわ」

「死んじゃうか。それも良いかもな。だからもう来ないでくれ」

「ねぇ、お兄さん、死んじゃっても良いなら、その人生私にくれない?」

「何を言ってる」

「ねぇお兄さん、死んで楽になるの?」

「なる」

「そっか。でも死んだらそこで終わりだよ」

「終わって良いんだよ。俺の人生だ。好きにして良いだろ」

「お兄さんの命はお兄さんの物。だから好きにすれば良い。だけど、勿体ないと思わない?」

「は?」

「ねぇお兄さん、馬鹿な男の話聞きたくない?」

「聞きたくない」

「そっか。なら私、勝手に話すから聞いてて。あ!つまらなかったら寝ても良いから」

「………………」

「とある所に馬鹿な男が居たの。頭が良くて聡明。機転が早くて頭のキレも良いの。でもね、その人の婚約者が馬鹿? 違うな~う~ん、クソ?だったの。我儘で傲慢で自分をお姫様って思ってて。自分も王女だと勘違いしてるクソ女。王族の血が入ってる者だけが貴族で入ってない者は平民。そして平民は家畜。そう思ってるクソ女。

馬鹿な男はそんなクソ女でも婚約者として接した。だけどクソ女は婚約者を下僕の様に扱った。 文句を言い、自分の言いなりになる奴隷の様に婚約者を躾たの。 目の前でドレスや宝石を捨て、出掛ければ大声で見下した。 誰も逆らえない環境で育ち、誰も逆らえない場所で婚約者を見下し、いかに婚約者が出来損ないで、それでも婚約し続けてる自分はいかに心が広いか、皆んなに話したの。 自分は慈悲深い女なのだと。婚約者なのだと。

でも誰も信じる人なんていないわ。だって貴族は王族の血が入ってる者なんて少ないもの。それに平民が居て初めて貴族で居られるんだもの。 貴族が居るから陛下は陛下で居られる。 それを知らない者こそが家畜以下よ。 その者こそが生きてる価値のない者よ。

本当の家畜だって食料となり私達を助けてくれてるわ。 家畜だって重要なの。 平民だって平民が働いてくれてるお陰でお金が回るの。お金を作り出す平民は重要なの。 貴族だって平民が作り出したお金を管理して自領を発展させて平民の暮らしを維持させる。そして作り出したお金を国へ納めるの。貴族だって重要なの。

家畜がいて平民がいて貴族がいる。だから国が出来、国が存続し続けるの。国を存続し護るのが王族。その代表が陛下。 それを分からない者こそ生きてる価値はない。そう思わない?

馬鹿な男は違う女に心を求めた。そりゃあそうよね。クソ女の婚約者とずっと一緒に居たら心が壊れるわ。他に心を癒やして貰わないと人で居られなくなるもの。 癒やしを求めて毎日会いに行った。それだけ馬鹿な男は心が悲鳴を上げていた。心が壊れているのも気付かない程にね。 人として生きる事を許してくれた女に恋慕うのは当然の事。 恋慕う人に触れたいと思うのも当然の事。

でも貴族には許されない事だった。

婚約者が常識のある令嬢だったら馬鹿な男は婚約者に誠実だったはず。その相手を恋慕ったはず。 馬鹿な男は自分を律する事が出来る強い方だから。 人として扱われ、心が壊れなければ自分を客観的に見つめれるとても強い方だから。

婚約者と別れ、恋慕う人と別れ、家族と別れ、心が更に壊れた。 全て失った馬鹿な男は生きてる意味が分からなくなった。 生きてる価値が自分に無いと思った。 何の為に存在し何の為に生きてるのか。 馬鹿な男は自暴自棄になった。

馬鹿な男は本当に価値の無い男なの? 生きてる意味が無くても生きて、いつも頭の中で考えてる。 どうしてこうなったと。クソ女でも婚約者として耐えられたはずだと。もっと自分を律せたと。それだけ自分を見つめ直す事が出来る強い方なの。

ねぇお兄さん、貴方は生きてる。生きる事を諦めた人は死の為の行動をする。 でも貴方は生きてる。生きる方法を諦めないで。 貴方は自分で自分の生き方を決められる強い方なの。 賢い貴方なら分かるはずよ?」


 俺は自然と涙が溢れた。 嫌、途中から自然と涙が溢れ出た。この少女は分かってくれてる。 俺の心が壊れていた事を。それを見て見ぬ振りをしていた事を。 俺も人間だ。心がある。心を傷つけられ続け、心を無くした。心を無くせば気にならなくなる。 だけど心を無くしても、結局癒やしを求めた。 癒やしを求めた段階で俺は限界だったんだ。 それをこの少女は分かってくれた。 それだけで俺は、俺の心は救われたよ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?

早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。 物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。 度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。 「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」 そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。 全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

けじめをつけさせられた男

杜野秋人
恋愛
「あの女は公爵家の嫁として相応しくありません!よって婚約を破棄し、新たに彼女の妹と婚約を結び直します!」 自信満々で、男は父にそう告げた。 「そうか、分かった」 父はそれだけを息子に告げた。 息子は気付かなかった。 それが取り返しのつかない過ちだったことに⸺。 ◆例によって設定作ってないので固有名詞はほぼありません。思いつきでサラッと書きました。 テンプレ婚約破棄の末路なので頭カラッポで読めます。 ◆しかしこれ、女性向けなのか?ていうか恋愛ジャンルなのか? アルファポリスにもヒューマンドラマジャンルが欲しい……(笑)。 あ、久々にランクインした恋愛ランキングは113位止まりのようです。HOTランキング入りならず。残念! ◆読むにあたって覚えることはひとつだけ。 白金貨=約100万円、これだけです。 ◆全5話、およそ8000字の短編ですのでお気軽にどうぞ。たくさん読んでもらえると有り難いです。 ていうかいつもほとんど読まれないし感想もほぼもらえないし、反応もらえないのはちょっと悲しいです(T∀T) ◆アルファポリスで先行公開。小説家になろうでも公開します。 ◆同一作者の連載中作品 『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』 『熊男爵の押しかけ幼妻〜今日も姫様がグイグイ来る〜』 もよろしくお願いします。特にリンクしませんが同一世界観の物語です。 ◆(24/10/22)今更ながら後日談追加しました(爆)。名前だけしか出てこなかった、婚約破棄された側の侯爵家令嬢ヒルデガルトの視点による後日談です。 後日談はひとまず、アルファポリス限定公開とします。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...