120 / 151
女性と子供
しおりを挟むお爺さんの家をあとにして次は女性と子供が暮らす家まで歩いて行った。
戸を叩くと少しの隙間から女性の顔が見えた。
「何か用ですか?」
「この度この領地を治める事になった者です。今日は一軒一軒ご挨拶をして回っています。出来れば少しだけでもお顔を見せて頂けると嬉しいのですが」
私はにっこり笑った。
女性と子供しか居ないのは知っている。だからリーストファー様とリックには少し離れてもらった。
女性は少しだけ戸を開けた。
少しやつれている女性の顔。奥には彼女の息子の姿。奥の部屋からこちらを覗いている。
「暮らしはどうですか?食事はきちんととれていますか?」
お爺さんの家とは違い、畑はあっても作物があまり実っていない。半分以上草が生えている。
「何とか暮らしています。お引き取りください」
バタンと戸が閉められた。
警戒するのは分かる。それでも子供の様子も見たい。女性は痩せていたように見えた。
「ニーナとリックは草むしりをしていて。リーストファー様は私に付いてきてください」
私は今来た道を戻りお爺さんの家に向かった。
コンコン
「お爺さん少しよろしいですか」
何度も声をかけ何度も戸を叩いていたらお爺さんは戸を開けた。
「またまた来ちゃいました。それでですね、助けてください」
「今?さっきの今でか?」
「はい、若造が困っているんです。お願いします」
私はお爺さんに頭を下げた。
お爺さんは大きな溜息を吐いた。
「何を助けてほしいんだ」
「お爺さんは畑の先生ですよ?畑に決まっているじゃないですか。さあ行きましょう」
私は女性の家に向かった。
「お爺さん早く早く、早く来てください」
動かないお爺さんを大声で呼んだ。
「もし移動が大変なら背負いますよ?私の旦那様力持ちですから。怖がる私を笑いながら軽く持ち上げられますもの」
さっき笑った仕返しをしてもいいと思うの。
お爺さんは渋々こちらに歩いて来た。
女性の家の前の畑では草むしりをしているニーナとリック。
「この畑です」
お爺さんは畑を見ている。
「何をやっているんですか!」
女性が怒って出てきた。
やっぱり痩せこけている。食事がしっかりとれていない証拠。子供の様子も見たい。
「母さん…」
今にも消えそうなか細い声で男の子が出てきた。
「出てきちゃ駄目って言ったでしょう!」
女性の大きな声が響いた。
子供も酷く痩せている。孤児院の子供達の方が顔色も良く元気。
「おいあんた、儂の家から朝作ったスープを持ってきてくれ」
お爺さんはリーストファー様を見て言った。リーストファー様は急いでお爺さんの家に向かった。
「ニーナはリーストファー様に付いていって」
お爺さんの家にはお婆さんがいる。女性のニーナが居た方がいい。
「リックは今すぐ街に行ってパンをできるだけ沢山買ってきて。あとキャンディーも何個か買ってきてほしいの。それから野菜の苗もお願い。先にシャルクを見つけてね?シャルクがお金を持っているから」
「姫さんは一人で大丈夫か?」
「私は一人で大丈夫。だから急いで行ってきて」
私は残っている草を抜いた。
この領地には女性と子供だけで暮らす家がまだある。年配の夫婦だけで暮らす家も。お爺さんのように畑を耕し作物を収穫できていればいい。
それとも…
「貴族のお嬢さんが土いじりとはな」
お爺さんも草を抜いている。
「畑は分かりませんが花を植えるのは好きなんです。唯一の息抜きでした。力仕事はできませんが草は抜きましたよ?」
「あんたは変わったお嬢さんだ」
「そうですね、私は家族に恵まれました。私の旦那様は血の繋がった家族には恵まれませんでしたが、血の繋がりではない絆の家族には恵まれました。彼には大勢の家族がいます。共に過ごし、助け合い、そして家族になった。彼も大勢の家族を亡くし苦しんでいる一人ですから…」
私は黙々と草を抜いた。
国とか敵国とか、それを抜きにしたら家族を失った心の痛みはリーストファー様もここの領民も同じ。それでもそれを抜きにはできない。私達はエーネ国の民で彼等は元バーチェル国の民。
希望は捨てたくない。
私が希望を捨てたらそれで終わってしまう。話をして共に協力し合えばいつか必ず実を結ぶ。
今は示す時。
どれだけ汚れようが私が出来ることをする。力仕事はできない。それでも草は抜ける。助けてほしいと頭を下げる事も。
「エーネ国は住みやすい国か?」
「どうでしょう、私はバーチェル国を知りません。それでも私はエーネ国が好きです。ですがそれは私が家族や周りに恵まれたからです」
「そうか」
バーチェル国の歴史や噂話程度なら私も知っている。それでもそこで暮らす人達の生活までは知らない。
ある国は女性でも発言力があると聞く。ある国は王が女性だと。女性が当主にもなれるし、実力さえあれば女性でも騎士にもなれる。
でもバーチェル国の噂話程度でもそんな話は聞かない。エーネ国同様バーチェル国でも女性の立場は弱いのかもしれない。
私もリーストファー様でなければ許されなかった。
「坊主どうした」
男の子は私とお爺さんをじっと見ていた。
「僕も遊びたい…」
「そうか、なら一緒に草を抜いてくれるか」
「うん」
痩せ細った顔で笑った男の子。その笑顔に心が痛くなった。
きっと母親は家の中で子供を守っていた。外に出れば危険だと外には出さず。それでもまだ子供のこの子は外で遊びたい。
この子が自由に外で遊んでも安全な領地にしたい。
子供達が走り回り、子供達の笑い声が聞こえるような。そして人との繋がり。女性が一人でも子供を育てて暮らしていけるように。
痩せ細った体で一生懸命草を抜いている男の子を見て心に誓った。
でもその前に目の前の草を抜かないとね。
7
お気に入りに追加
2,446
あなたにおすすめの小説
影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
旦那様、私は全てを知っているのですよ?
やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。
普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。
私はそれに応じました。
テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。
旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。
………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……?
それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。
私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。
その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。
ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。
旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。
…………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。
馬鹿な旦那様。
でも、もう、いいわ……。
私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。
そうして私は菓子を口に入れた。
R15は保険です。
小説家になろう様にも投稿しております。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる