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女性と子供

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お爺さんの家をあとにして次は女性と子供が暮らす家まで歩いて行った。

戸を叩くと少しの隙間から女性の顔が見えた。


「何か用ですか?」

「この度この領地を治める事になった者です。今日は一軒一軒ご挨拶をして回っています。出来れば少しだけでもお顔を見せて頂けると嬉しいのですが」


私はにっこり笑った。

女性と子供しか居ないのは知っている。だからリーストファー様とリックには少し離れてもらった。


女性は少しだけ戸を開けた。

少しやつれている女性の顔。奥には彼女の息子の姿。奥の部屋からこちらを覗いている。


「暮らしはどうですか?食事はきちんととれていますか?」


お爺さんの家とは違い、畑はあっても作物があまり実っていない。半分以上草が生えている。


「何とか暮らしています。お引き取りください」


バタンと戸が閉められた。

警戒するのは分かる。それでも子供の様子も見たい。女性は痩せていたように見えた。


「ニーナとリックは草むしりをしていて。リーストファー様は私に付いてきてください」


私は今来た道を戻りお爺さんの家に向かった。


コンコン

「お爺さん少しよろしいですか」


何度も声をかけ何度も戸を叩いていたらお爺さんは戸を開けた。


「またまた来ちゃいました。それでですね、助けてください」

「今?さっきの今でか?」

「はい、若造が困っているんです。お願いします」


私はお爺さんに頭を下げた。

お爺さんは大きな溜息を吐いた。


「何を助けてほしいんだ」

「お爺さんは畑の先生ですよ?畑に決まっているじゃないですか。さあ行きましょう」


私は女性の家に向かった。


「お爺さん早く早く、早く来てください」


動かないお爺さんを大声で呼んだ。


「もし移動が大変なら背負いますよ?私の旦那様力持ちですから。怖がる私を笑いながら軽く持ち上げられますもの」


さっき笑った仕返しをしてもいいと思うの。

お爺さんは渋々こちらに歩いて来た。

女性の家の前の畑では草むしりをしているニーナとリック。


「この畑です」


お爺さんは畑を見ている。


「何をやっているんですか!」


女性が怒って出てきた。

やっぱり痩せこけている。食事がしっかりとれていない証拠。子供の様子も見たい。


「母さん…」


今にも消えそうなか細い声で男の子が出てきた。


「出てきちゃ駄目って言ったでしょう!」


女性の大きな声が響いた。

子供も酷く痩せている。孤児院の子供達の方が顔色も良く元気。


「おいあんた、儂の家から朝作ったスープを持ってきてくれ」


お爺さんはリーストファー様を見て言った。リーストファー様は急いでお爺さんの家に向かった。


「ニーナはリーストファー様に付いていって」


お爺さんの家にはお婆さんがいる。女性のニーナが居た方がいい。


「リックは今すぐ街に行ってパンをできるだけ沢山買ってきて。あとキャンディーも何個か買ってきてほしいの。それから野菜の苗もお願い。先にシャルクを見つけてね?シャルクがお金を持っているから」

「姫さんは一人で大丈夫か?」

「私は一人で大丈夫。だから急いで行ってきて」


私は残っている草を抜いた。

この領地には女性と子供だけで暮らす家がまだある。年配の夫婦だけで暮らす家も。お爺さんのように畑を耕し作物を収穫できていればいい。

それとも…


「貴族のお嬢さんが土いじりとはな」


お爺さんも草を抜いている。


「畑は分かりませんが花を植えるのは好きなんです。唯一の息抜きでした。力仕事はできませんが草は抜きましたよ?」

「あんたは変わったお嬢さんだ」

「そうですね、私は家族に恵まれました。私の旦那様は血の繋がった家族には恵まれませんでしたが、血の繋がりではない絆の家族には恵まれました。彼には大勢の家族がいます。共に過ごし、助け合い、そして家族になった。彼も大勢の家族を亡くし苦しんでいる一人ですから…」


私は黙々と草を抜いた。

国とか敵国とか、それを抜きにしたら家族を失った心の痛みはリーストファー様もここの領民も同じ。それでもそれを抜きにはできない。私達はエーネ国の民で彼等は元バーチェル国の民。

希望は捨てたくない。

私が希望を捨てたらそれで終わってしまう。話をして共に協力し合えばいつか必ず実を結ぶ。

今は示す時。

どれだけ汚れようが私が出来ることをする。力仕事はできない。それでも草は抜ける。助けてほしいと頭を下げる事も。


「エーネ国は住みやすい国か?」

「どうでしょう、私はバーチェル国を知りません。それでも私はエーネ国が好きです。ですがそれは私が家族や周りに恵まれたからです」

「そうか」


バーチェル国の歴史や噂話程度なら私も知っている。それでもそこで暮らす人達の生活までは知らない。

ある国は女性でも発言力があると聞く。ある国は王が女性だと。女性が当主にもなれるし、実力さえあれば女性でも騎士にもなれる。

でもバーチェル国の噂話程度でもそんな話は聞かない。エーネ国同様バーチェル国でも女性の立場は弱いのかもしれない。

私もリーストファー様でなければ許されなかった。


「坊主どうした」


男の子は私とお爺さんをじっと見ていた。


「僕も遊びたい…」

「そうか、なら一緒に草を抜いてくれるか」

「うん」


痩せ細った顔で笑った男の子。その笑顔に心が痛くなった。

きっと母親は家の中で子供を守っていた。外に出れば危険だと外には出さず。それでもまだ子供のこの子は外で遊びたい。

この子が自由に外で遊んでも安全な領地にしたい。

子供達が走り回り、子供達の笑い声が聞こえるような。そして人との繋がり。女性が一人でも子供を育てて暮らしていけるように。

痩せ細った体で一生懸命草を抜いている男の子を見て心に誓った。

でもその前に目の前の草を抜かないとね。



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