116 / 151
地下へ続く階段
しおりを挟む夕食も終わり、今はリーストファー様と一緒に先生と呼ばれていた男性の部屋にいる。
「クスッ」
「どうした?」
「懐かしい事を思い出しました。まだ子供の頃、お父様は夜遅くまで執務室にこもっていたんです。今思えば昼間はリックを鍛えていたり王宮へ行ったりしていたので、夜遅くまで執務におわれていたと分かります。
ですが当時読んでいた本の内容が隠し部屋が出てくるお話だったんです。本棚の本を引けば本棚が動き隠し部屋が現れました。私はお父様が執務室にこもるのは隠し部屋があるからだとそう思いました。その部屋で一人だけ何かをしていると。お父様は私やライアンが執務室に入るのを良く思っていなかったので」
執務室には陛下からの密書だったり、まだ子供の私やライアンが読んではいけない内容の書類だったり、きっとお父様にとって執務室は当主の砦だった。
公爵家を公爵領を、そこに関わる全ての人を守る場所。
部屋の外から見た執務室は、本棚にはぎっしりと分厚い本が並び、机の上には書類の束が置いてあった。主のいない執務室でも足を踏み入れてはいけない聖域のような、そんな空気があった。
「エーネ国にそんな仕掛けを作る細工職人もいないのに、そもそも隠し部屋を作って何を隠すというのか。執務室には小部屋もあります。その小部屋にはお父様と筆頭執事しか入れません。わざわざ隠し部屋を作る意味がないと。
ですが年季の入った本棚をこうして見ると思い出してしまって」
「その本では何を隠していたんだ?」
「奥様の姿絵や肖像画、それから下手な刺繍のハンカチや手紙、それから石も置いてありました。奥様から貰った大切な物。その旦那様にとって奥様と出会ってから頂いた宝物が飾ってありました。それを隠していたんです。
リーストファー様なら何を隠します?」
「俺か…、俺ならミシェルの絵かな」
「隠さず捨てて下さい」
リーストファー様は『ククッ』と笑っている。
「でも誰かに見せたくないもの、見られたくないもの、見られては困るもの、隠し部屋なんてそんなものだろ」
リーストファー様は本棚から本を一冊手に取りペラペラと本のページをめくる。
「まあでもこの本棚は動かしてはいないようだぞ?こんな重い本棚を動かせば床に傷がつく。見た所動かした形跡はない。だが隠し部屋か…」
リーストファー様は本をペラペラとめくり、最後のページをめくり終わった。
「うん、隠し部屋があるのかもしれないな」
本を本棚に戻しながらリーストファー様は言った。
「どうしてそう思うのです?」
「孤児院の周りには小屋や家はなかった。戦闘の訓練は裏の森の中で人目を盗んでできる。だが恐怖を与える部屋は必ずこの孤児院の中に作ったはずだ。俺なら自分の部屋の身近に作る」
「拷問部屋ですか?」
「ああ。誰も近づかず、声を出しても聞こえない。そして闇の世界…」
リーストファー様は私を見つめた。
「この下だ」
リーストファー様はコンコンと足で床を鳴らした。
「地下?」
「地下牢と言うだろ?辺境でも地下に牢屋がある。光も入らず閉塞された空間では恐怖が勝つ。精神から追い込み早く出たいと、この閉ざされた闇から抜け出したいと罪を認める」
リーストファー様は机を動かし絨毯をめくった。
床には窪みがあり床の一部を持ち上げれるようになっていた。
「ミシェル、リックを呼んできてくれ」
リーストファー様の真剣な顔に私は頷きリックを呼びに行った。
リックと部屋に戻り、リックはリーストファー様の足元を見た。
「きっとこの床を持ち上げたら地下へ続く階段がある」
リックは頷いた。
「俺とリックが中に入ったらこの床を戻しミシェルはこの部屋から出てくれ」
「危険です」
「それが分かっているならこの部屋に居るのも危険だと分かるな?」
リーストファー様とリック二人の真剣な顔に私は頷いた。
「俺達が中に入ったらベーン副隊長かカイン小隊長を呼んで来てくれ」
「分かりました」
リーストファー様はランプを持ち、リックが床を持ち上げた。床の下には思った通り地下へ続く階段があり、リーストファー様とリックは階段を下りて行った。
「では閉めます」
二人に声が届いたのかは分からない。それでも私は床を下ろしベーン副隊長かカイン小隊長を探した。
辺りをキョロキョロと見渡し探していても二人の姿は見当たらない。
「おい、何をそんなに焦ってるんだ」
突然肩を叩かれ体がビクっと震える。
「ルイス様…」
ルイス様の顔を見て、知らず知らず入っていた力が抜けた。
ルイス様に事情を話し、ルイス様はベーン副隊長とカイン小隊長のもとに走って行った。
部屋の外で待っているとベーン副隊長とカイン小隊長、それからルイス様がこちらに走って向かってきた。
「この部屋か?」
「はい」
ベーン副隊長とカイン小隊長は部屋の中に入った。
「カインは俺と待機。ルイスは夫人を安全な部屋に連れて行け」
ベーン副隊長はそう言うと扉を閉めた。
「行くぞ」
「ですが、」
「ここでは足手まといになる、それくらい分かるだろ?」
「はい…」
もし誰かがまだ地下に潜んでいて、リーストファー様とリックが取り押さえたとしても、その誰かは暗殺者の可能性が高い。
地下から出てきた時、もし私がこの場に居たら真っ先に私を人質に取るだろう。この中で一番弱く、安全な場所まで連れて歩くには女性の方が都合がいい。私が誰か分からなくても。
「心配なのは分かるけどな、信じろ。リーストファーをお前の護衛を。あいつ等にとってお前が傷つくのが一番耐え難い。だから今は安全な場所に行くぞ。リーストファーの代わりに必ず護ってやるから」
「はい、お願いします」
私はルイス様の後ろを付いて行った。
離れ難い、それでも今は我儘を言う時ではない。
だから二人共、無事でいて…。
9
お気に入りに追加
2,446
あなたにおすすめの小説
影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
旦那様、私は全てを知っているのですよ?
やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。
普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。
私はそれに応じました。
テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。
旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。
………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……?
それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。
私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。
その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。
ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。
旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。
…………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。
馬鹿な旦那様。
でも、もう、いいわ……。
私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。
そうして私は菓子を口に入れた。
R15は保険です。
小説家になろう様にも投稿しております。
ごめん、好きなんだ
木嶋うめ香
恋愛
貧乏男爵の娘キティは、家への融資を条件に父と同じ様な年の魔法使いへと嫁いだ。
私が犠牲になれば弟と妹は幸せになれるし、お母様のお薬も手に入るのよ。
辛い結婚生活を覚悟して嫁いだキティは予想外の厚待遇に驚くのだった。
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる