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しおりを挟むジル様が騎士隊から戻り、
コンコン
「シアただいま」
「おかえりなさい」
チュッ
朝もですがジル様は騎士隊へ行く時と帰って来た時に私に口付けをします。
「ジル様、私お宝を見つけました」
「宝?宝石か?宝石なら金庫に入ってるぞ?」
「宝石よりも価値のあるお宝です」
「宝石よりもか?剣か?鎧か?」
「それはジル様のお宝です」
「確かにな」
「一度見て下さい」
私はジル様の手を引いて保管庫の前に来た。
「ここは…父上の部屋だ」
「ここは保管庫らしいですよ?」
「保管庫?」
「はい。ジル様一度お一人で入られて下さい。お宝がたくさん眠っています」
「よく分からないが」
ジル様は保管庫の扉を開けて中に入っていった。私は保管庫の外でジル様が出てくるのを待っている。
扉を開けて入ったジル様の声が私にまで聞こえた。
「は、母上……」
ジル様の声は嬉しい悲しいとは少し違い、母を恋しがる子の声……。
何十年ぶりの親子の対面です。私は出て来たジル様を優しく抱きしめるだけです。
暫くしてジル様が保管庫から出て来ました。目を真っ赤にさせていて、
「ジル様」
私はジル様を抱きしめました。
「うっ…」
ジル様の体が震えています。私はジル様の背中を撫でました。
「情けない姿を見せてすまない」
「情けない姿ではありません」
「だがこんな年にもなって…」
「年を取ったら泣いたら駄目ですか?」
「こんなおっさんが泣いていたら気持ち悪いだろ」
「どこにおじさんがいるのです?私には素敵な男性しか見えません。
お母様との思い出、思い出しましたか?」
「ああ、思い出した」
「ジル様はとてもお母様に愛されていたのですよ?お母様の刺繍から温もりを感じました。それにジル様への気持ちも」
「小さい頃花の刺繍が嫌でな…、良く母上に文句を言っていた。父上のように剣の刺繍や紋章にしてくれと」
「まあ」
「母上はいつも笑って「それは貴方を愛してくれる人に頼みなさい」って言われたよ」
「ふふっ、これからは私が剣や紋章をジル様にお渡ししますね」
「頼む」
「ジル様、お宝はここに大切に保管しましょう。これからはいつでもお母様に会えますね」
「いや、もう母親を恋しがる年じゃない。母上を思い出したのは事実だが」
ジル様は私を抱きしめ、
「ありがとう…」
ジル様の声に私まで涙が出てきました。
部屋に戻った私達は、
「ジル様こちらを見て下さい」
お母様のデザインノートをジル様に見せました。
「ジル様が花の刺繍を嫌がってもそれでもお母様がジル様に刺繍をしたのには意味があります。
産着の刺繍もそうですが、ニ種類の花の刺繍が刺してありました。一つはかすみ草です。かすみ草の花言葉は「幸福」「無垢の愛」です。
そしてもう一つはラナンキュラスです。お母様は赤色、紫色、黄色と使い分けて刺繍してありましたが、赤色は「あなたは魅力にみちている」紫色は「幸福」黄色は「優しい心遣い」です。
きっとお母様はジル様に「あなたはとても魅力的な息子よ、優しい心をいつまでも持ち続けて、あなたの幸せを願っているわ、愛してる私の可愛いジル」そう思いながら刺繍を刺していたのではないのでしょうか。
そこにお母様の大きな愛が見えました。
ノートにも花言葉とジル様用とかいてあります」
私はお母様の手書きで書かれているページをめくりました。そこには、
「私の可愛いジル、愛しているわ」
そう書いてありました。
「ジル様、お母様はどれだけ文句を言われてもかすみ草とラナンキュラスを刺繍し続けました。そこにお母様の愛がたくさん詰まっています」
「ああ、ああ……」
ジル様はお母様の字を優しく撫でています。
お父様はどうしてジル様にあの部屋に近づくなと言ったのか分かりません。
でも、お父様も愛しい妻を亡くされ心を痛めていたのは分かります。お母様の姿絵には何度も触れた跡が残っていました。
それに幼いジル様が母親を追い求め恋しがる姿にお父様も心を痛めていたと思います。
お父様の気持ちはお父様にしか分かりません。それでも、愛しい妻を護れなかった後悔、可愛い息子から母親を奪った後ろめたさ、様々な思いがあったのでしょう。
国境に行っていたお父様が悪いのではありません。
流行り病が悪いのです。
それでも自分が側にいたら、と残された方は悔やみご自分を責め、不甲斐ない己に落胆したかもしれません。
今は流行り病を治療する薬がありますが、お姉様が5歳の時、この国で流行り病が流行し大勢の人の命が奪われました。
お姉様も流行り病にかかりお父様は面会すら許されなかったと聞いています。当時お父様は国王になったばかり、跡継ぎのお兄様もまだ産まれておらずお母様も看病も出来ず部屋の外から数分の面会だけだったと。
お姉様は助かりましたが、お父様はそれから流行り病の治療薬の開発を優先にしたそうです。
今では助かる命でも当時は為す術がなかった、それも事実です。
ジル様はお母様に愛されていた、それが分かって良かったです。
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