6 / 60
6.
しおりを挟む疲れが溜まっていたみたいで、ぐっすりと寝てしまったわ。扉をノックする音で目が覚め、慌てて起き、ケイトが部屋の中に入ってきた。
「ケイト、ごめんなさい。寝坊してしまったわ」
「アリシアお嬢様、馴れない馬車の旅だったのです。疲れも出たのでしょう。もう少しお休み頂いてもよろしいのですよ」
「大丈夫よ。ジルベーク様はもうお出掛けになったのかしら」
「ジルベーク様は自室にいらっしゃいます。アリシアお嬢様の準備が出来次第、こちらにお迎えにみえるそうです。今日は使用人との顔合わせと邸の案内をして下さるそうですよ」
「ジルベーク様をお待たせしているの?慌てて着替えるわ」
「アリシアお嬢様、ゆっくりで大丈夫ですよ。ジルベーク様は待たせておけば良いのです」
「それは駄目よ。私一人で着替えれるから大丈夫よ」
「一人でできるのですか?」
「ええ。メイドを連れて来れなかったから、練習してきたの」
「そうでしたか」
「それに、簡単に脱ぎ着ができるワンピースだもの。ケイトに迷惑かけない様にするから」
「アリシアお嬢様、そんな悲しい事言わないで下さい。私はアリシアお嬢様のお世話ができると楽しみにしていたのですから」
「そう?なら、お願いしようかしら」
「はい。遠慮せず何でもおっしゃって下さい」
「なら、ワンピースと髪留めを選んでもらおうかしら」
「はい。私が選んでいる間、顔を洗って待っていて下さい」
「ありがとう」
私は顔を洗い、夜着を脱いでケイトが選んでくれたワンピースを着て、髪は簡単に髪留めで止めた。それからケイトがジルベーク様を呼びに行って、
トントン
私は扉を開け、
「ジルベーク様おはようございます。お待たせしてすみませんでした」
「いや、朝食を一緒にとろう」
「はい」
私はジルベーク様の後からついて行き食堂へ向かった。食堂には朝食が準備されていて、ジルベーク様の前の席に座り、朝食を食べ始めた。ジルベーク様は大量にあった料理を直ぐに食べ終わり、私が食べ終わるのを待っていたから、私は慌てて食べた。
「そんなに慌てて食べなくても良い」
「はい」
「ゆっくり食べてくれて良いから、食べながら聞いて欲しい」
「はい」
「昨日はすまなかった。貴女がこちらへ来た時に留守にしてしまった。不安にさせた」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。今日は使用人を紹介する。ただ、邸の使用人は最低限しか居ない。ここ辺境は絶えず争いが絶えない。小競り合いで今の所大きな戦は無いが、俺も騎士達も強いが使用人を護りながら戦を戦う事はできない。戦いが始まれば俺は前線へ行く事になるからな。邸が手薄になる。その為、自分の事は自分で出来るだけやって欲しい」
「はい、心得ています。ケイトに少し手は借りますが、自分の事は自分で出来ますので大丈夫です」
「王女殿下として暮らしていた貴女には酷な話だが…」
「ジルベーク様に嫁ぐのですから、元王女です。王女と臣下では、立場も暮らしも違うのは当たり前です」
「そうか」
私はできるだけ慌てて食べた。私が食べたのを見計らい、使用人の紹介をしてもらった。本当に少ない使用人しか居なかったわ。
執事のイザーク、メイドのケイト、イザークとケイトは夫婦で、10歳と12歳の息子さんがいて、今は王都近くの親戚の家で暮らしているそう。王都にある、執事育成の学校に入る為の勉強をそちらでしているそうなの。辺境の地では家庭教師も見つけられないし、呼ぶ事も出来ないからだとか…。いずれはジルベーク様と私の子の執事になる予定なんですって。
料理長のベン。そして見習いのベンの息子のバン。ベンの奥様は騎士隊の方でベンの弟家族と一緒に働いているみたい。バンは基本こちらの邸でベンに料理を習っているのだけど、夕食の時は騎士隊の食堂へ借り出されている。邸と騎士隊の食材の下準備はバンとベンの弟の息子さん二人と騎士隊の見習い騎士としているらしい。騎士隊だけでも見習い騎士合わせて300人近くいるらしい。国境に約150人、ここに約150人と毎日とても大変なんだとか…。
約150人分の料理なんて想像が出来ないわ。私がここに来る前はジルベーク様も騎士達と一緒に食事をしていたらしく、ベンも基本は騎士隊の方で料理を作っていたって。騎士達の食事と邸の食事は内容が違う為「私も騎士達と同じ料理で大丈夫だから無理しないで欲しい」と伝えたら「前辺境伯様が生きていらした時は邸で召しあがっていたから無理はしていない」と。後「ようやく自慢の腕が振るえる事を楽しみにしていた」と。確かにとても美味しくて王城で食べていた食事にも劣らなくて驚いた程だったわ。
邸に仕える使用人は四人だけだった。馬車はあるけど御者は騎士隊の騎士がやり、庭はあるけど庭師は領地からたまに来て貰い、木の剪定だけしてもらうだけ。だから、少し?だいぶ?殺風景の庭だったのね。
41
お気に入りに追加
2,060
あなたにおすすめの小説
幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。
さくっと読める短編です。
【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる