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15 幸
しおりを挟む一週間修道院で暮らした。貴族籍を抜ける書類を書いて王宮の事務官に手渡し私は街の住人になった。
それから私は修道院を出て街へ向かう。慣れた道を歩き行き交う人と挨拶をする。
「ラナベル!」
「おばさん」
「どうしたんだい」
「この街でずっと暮らす事になりました」
「そうかい、良かったね」
「はい」
「おかえりラナベル」
「ただいま戻りました」
おばさんは優しく私を抱きしめてくれた。
「これからどうするつもりだい」
「食堂でまた働かせてもらえるか聞いてみようと思っています」
「もし駄目なら家においで」
「はい、そうします」
それから私はルナの店に寄った。
カラン
「ちょっと待って下さーい」
奥からルナの声が聞こえた。
「お待たせ、お嬢様?」
「ルナ、ただいま」
「おかえり、なさい、お嬢様……」
ルナの頬を涙が伝った。私の頬も涙が伝った。
「修道院は?」
「もう自由にして良いって言われたの」
「本当に?本当の本当に?」
「ええ、本当よ」
「お嬢様ー」
ルナは勢いよく私に抱きついた。私もルナに抱きついた。
「ありがとうルナ。ルナのおかげで私は修道院から自由になれたの」
「お嬢様は何もしていないのに修道院へ送られた事が間違いだったんです」
「ううん、違うの。私はこの街でルナに会ってシエルさんと会ってこの街の人達と会って変われたの。人形だった私が人間として生きたい、そう思えるようになったの。でもね、ルナがいつも私の気持ちに寄り添ってくれた。叱ってくれて嬉しかった。殿下にはっきり言ってくれて嬉しかった。
私はずっとルナに助けられていたのよ?」
「当たり前です」
「主とメイド、その関係がない私に当たり前だと言ってくれるルナがいたから、だから私は自分と向き合えたの。だから今度は私がルナを助けたい。困った事があったら手を差し伸べたい」
「なら、私に着飾らせて下さい。髪を結って私が作ったワンピースを着て笑って下さい」
「それはメイドと変わらないわ」
「私はお嬢様を可愛くするのが楽しいんです。そこは譲れません」
「ふふっ、ルナって頑固なのね」
「今頃気づきました?」
「薄々は分かっていたわよ?」
ルナと顔を見合わせ笑いあった。
「でも良かった。これからはずっと一緒ですね」
「ええ、ずっと一緒よ。またよろしくね」
「こちらこそ、この街へようこそ」
ルナのお店を出て食堂へ向かう。今は休憩時間。
私は食堂の前で深呼吸をした。
チリンチリン
「休憩時間なんで夜にまたお越し下さい」
調理場の奥から声が聞こえた。
「すみません、従業員を募集していませんか?できればここで働きたいのですが」
「ラナベル!」
奥からシエルさんが勢いよく出て来た。
「ここでまた働かせてくれませんか?」
「修道院は?何も連絡をもらってないけど」
「シスターからもう自由にして良いと言われました。修行は終わりだと言われました」
「そうか、おかえり」
「ただいま戻りました」
「ここはラナベルの家だ」
「はい、では家のお手伝いをさせて下さい」
「いやいや、給料は出すよ。部屋もそのままにしてある」
「ありがとうございます」
「また家族3人で暮らそう」
「はい。あの、シエルさん」
「ん?」
「私と恋をして頂けませんか?私が恋をしていいのか分かりませんしシエルさんは素敵な男性です。私よりもっと素敵な女性がお似合いだと思っているんですが、私が恋をしたいんです」
「うーん、それは恋をしたいだけ?恋ってどんなもんか知りたいだけ?それとも俺と恋をしたいのか?」
「正直言って恋をするのが怖いです。でも私はシエルさんと恋がしたいんです。また嫉妬に狂うかもしれません。貴方を独占したくなるかもしれません」
「嫉妬は嬉しいけどな」
「シエルさんと話した女性を叩くかもしれませんよ?女性と話さないでって言うかもしれませんよ?」
「まぁこの街の人達は皆が家族だから女性と話す事はある。お客だったら無下にも出来ない。
でもな、俺だってラナベルが他の男と仲良く話してたら嫌な気分になるし、誰かが口説こうとしたらそいつを殴りたくなる。そんなの同じだ。
好きだからこそ俺を見てほしい。好きだからこそ嫉妬もする。好きだからこそ独占したいと思う。
でもラナベルの世界を狭めたい訳じゃない。ようやく広げた世界でラナベルには暮してほしい」
「では私と恋は出来ないと?」
「そもそも恋しようって言われてするものじゃないだろ?その人を思いその人を見つめる。可愛い好きだ。俺に気付け、俺を見てくれ。その人の力になりたい。助けるなら俺が助けたい。守るなら俺が守りたい。だから俺を一番にしてくれ。俺を好きになってくれ。俺がラナベルに思った気持ちだ。今はそこに愛しい、うん、それ以上の気持ちだな。
でもラナベルには無いだろ?」
「私は臆病者です。ですが、シエルさんをお慕いする気持ちは持ってます。ただ私は修道女でしたから、その気持ちは持ってはいけないものだと、そう思っていました。
ですが、自由にして良いと幸せを手にして良いと言われた時、真っ先に浮かんだのはシエルさんの顔です。私は貴方と幸せになりたい。貴方を抱きしめる権利を貴方を幸せにする権利がほしいです」
「ラナベルは難しく言い過ぎだ」
「すみません…」
「ラナベル、従業員としてはもう雇えない」
「え?」
「ラナベル、俺の奥さんになってくれ」
「ですが、」
「俺の奥さんになりたいのか、なりなくないのか、どっちだ?」
「なり、たいです」
シエルさんの真っ直ぐ私を見つめる瞳。私も素直な気持ちを返したい。
「俺の嫁になれ」
「はい」
シエルさんは両手を広げた。
「俺を抱きしめる権利を得ただろ?」
「はい」
私は勢いよく抱きついた。
優しく私を包むシエルさん。
「好きだラナベル」
「私もシエルさんが、…好き、です…」
完結
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前のお話で修道院にやっと行けたけどその後どうなったのだろうと気になっていたのでこちらのお話を見つけた時は嬉しくなってしまいました♪
苦しんで苦しんで街で沢山の人のあたたかさに触れて人として心を取り戻せた。素敵な旦那様も出来て本当に良かったです♫
前のお話と今回のお話、とても素敵なお話をありがとうございました😊
にゃおん様
コメントありがとうございます。
両作品をお読み頂きありがとうございます。ようやく修道院へ行け、街の人達の優しさで人として心を取り戻し幸せを見つけました。
これからもにゃおん様の目に作品が止まる事を願っています。
一気読みしました。前回の続きが気になっていたので、ラナベルがシエルとカップルになって良かったです。
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