元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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12 縁

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アーカス殿下は騎士に無理矢理馬車に乗せられた。


「またここに来たら今度は容赦しないよ。この街全員で叩きのめしてやるからね、覚悟しな」


馬車が動き出し帰って行った。


私はこの街の人達に何が返せるのだろう。

私も繋がりたい。この優しくて温かい、そして心が広く愛情深い人達と繋がりたい。


団長さんと繋がった手から『大丈夫』そう伝わった。

この街の人達は無理に何も聞こうとはしない。私はずっと何か見えない壁を感じていた。でも違う。壁を作っていたのは私の方。だから歩み寄るのは私からしないといけない。

私はずっと硬い殻に閉じ籠もり自分の身を守っていた。殻の中で私は自由を手に入れその狭い空間の中で生きるのが私にとって楽園だと思っていた。

でも本当の自由は殻の外にしかない。殻を破り外の世界へ、俗世と関わり人間として生きる。そこには辛い事も悲しい事もある。でもそれと同じくらい、ううんそれ以上に楽しい事も嬉しい事もある。

殻を破るのは怖い。この外の世界がとても温かい優しい世界だと知っていても一歩踏み出すにはとてつもない恐怖が待っている。

受け入れてもらえなかったら?

そう頭によぎる。


その時繋がる手が軽く握られた。私は団長さんを見つめる。『大丈夫だ』そう語る団長さんの瞳。

そして繋がる手を外され団長さんは私の背中を押した。


食堂の外、食堂の前には街の住人達がいる。集まる視線。

団長さんは私の肩に手を乗せた。その温もりに信じてみようと、この街の人達を信じてみようと、信じたいとそう思った。


「皆さんありがとうございます。私は…、

私の名前はラナベルです。私は、この街に、来て、良かった……うぅぅ、うぅぅ……」


涙が頬を伝う。


「私も、この街の、皆さんと、同じ、住人に、なりたい……。私を、受け入れて、頂けますか?」


私は顔を俯け目を閉じた。どんな反応か、どんな顔をしているのか、それを見るのが怖い。

私を包む温かい温もり。


「ばかだね、もうとっくにこの街の住人だよ。それにもうあんたは家族だ、私の娘だよ、ラナベル」

「おばさん……」

「ばかな子だね本当に、ばかな子だよ」


おばさんは私を抱きしめ私の頭を撫でてくれた。


「こんなに泣いて」


おばさんは私の涙を手で拭った。


「この子は私達の家族だ、娘だ。誰か文句あるかい。文句がある奴へ出ておいで、私が蹴り飛ばしてやるよ」


皆さん笑顔を見せている。


「別に文句ないな。可愛い娘が一人増えた、幸せな事じゃないか」


常連の年配の男性。


「ラナベルちゃんか、うん良い名だ」


肉屋のおじさん。


「良い名を授けてもらったね」

「はい」


おばさんは優しい顔で私を見つめる。

この街の人達は優しく温かい人達。そして心が広く愛情深い。こんな私を受け入れ家族にしてくれた。娘にしてくれた。

私には大勢のお母さんがいる。お父さんがいる。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、お兄さんもお姉さんも、弟も妹も、そして友達も…。


私はこんなに幸せになって良いんだろうか…

この大勢の家族が困った時は迷わず手を貸そう。私に出来る事はきっとあるはず。


「お嬢様ー」


ルナは私に勢いよく抱きついた。私もルナを抱きしめた。


「ルナ、ありがとう」

「良かったです、良かった、です…」

「うん。ルナ、私の友達になってくれる?」

「はい。癖でお嬢様って言っちゃうかもしれませんが」

「ふふっ、それもルナらしくて私は好きよ」

「私もお嬢様好きです」

「今日は皆好きなだけ飲んで食べていってくれ。お代はいらない。俺の娘の祝だ」


店主さんの声に歓声があがった。

私は横に立った店主さんを見つめる。私の頭を撫でる優しい手。


「ありがとうございます」

「さあラナベル、今日は忙しくなるぞ」

「はい」


その日の夜の営業はものすごく忙しかった。『ラナベルちゃん』そう皆に呼ばれお酒を運び次から次へと料理を運ぶ。

忙しくてもこれは幸せな忙しさ。体はものすごく疲れているのに疲れよりも幸福で満たされた。


営業が終わり『ふぅ』と一息吐いた。


「疲れたな」


団長さんの声は疲れていた。ずっと鍋を振っていた。

食堂の椅子に座り私は目の前に座る団長さんを見つめた。


「あの、」

「ん?」

「私の名前はラナベルです。ご存知だと思いますが私は修道女です。今はこの食堂で働きこの街で暮らしています。私は一人で生きていける、そう思って暮らしてきました。だけどそれは殻に籠もりただ自分を守っていただけです。

ですが殻の外の世界は楽しいと、人は支え合って生きてる事を、人形ではなく人間として生きろと、そう教えてくれたのは団長さんです。

私は団長さんと縁を繋ぎたいです。貴方の名前を私に教えてくれませんか?」

「俺の名前はシエル。この食堂の息子だ。

俺はただ放っておくと儚く消えそうなラナベルを見放そうとは思えなかっただけだ。生きる事を諦めたお前に怒っていただけだ。

昔を思い出す母さんに雰囲気が似ていたのもあるのかもしれない。遠くを見つめる目はいつも死んでいた。過去に縛られ罪をいつまでも引きずる母さんが俺は嫌いだった。

どうして目の前の幸せだけを大事にしない。どうして自分の幸せだけを願わない。

そういつも思っていた。でも捨てた過去があるから幸せがどれだけ尊いか、愛する人に囲まれる生活がどれだけ幸福か、今幸せだからこそ過去を見つめ直せた。そして過去も自分の一部だと受け入れれた。母さんには必要な事だったんだと今は思う。

ラナベル、ラナベルのやり直しは始まったばかりだ。今日ようやく皆と縁を繋いだ。良かったな」

「はい」


優しく笑うシエルさんの顔が私の心を温かくした。


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