元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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1 涙

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私はラナベル。元公爵令嬢で第一王子アーカス殿下の元婚約者。

断罪されて修道院へ送られた。

修道院での生活はまさに楽園。

規則正しい生活。誰かの為に神経をすり減らされる事もない。

自分の事は自分で

修道院の中では公爵令嬢や第一王子の婚約者という立場もない。

罪を償う一人の人



「ラナベルさん、シスターが呼んでいたわよ」

「ありがとう」


私はシスターの元へ向かった。


コンコン

「ラナベルです」

「入りなさい」


私は扉を開けてお辞儀をしてから部屋に入った。


「ラナベル、貴女は模範になる修道女です」

「ありがとうございます」

「貴女に足りないものがあるとすれば俗世との関わり」

「シスター、私は俗世と関わるつもりは今後もありません」

「それも分かっています。ですが足りないものを身に付ける、それも修道院の決まりです。

貴女には奉仕活動の一環として明日街へ行き街の人達と清掃活動をしてもらいます」

「……分かりました」



次の日の朝、私は修道服に身を包み歩いて街へ行き、待ち合わせの場所へ向かった。


「君が修道院から手伝いに来てくれた子だね」

「はい、今日はよろしくお願いします」

「君の名前は?」

「名前が必要ですか?」

「うーん、個人的に知りたいだけかな?で?名前は?」

「ルナです」

「ルナ?そう、ルナちゃんね。今日はよろしく。街が綺麗になったら褒美もあるから」


ルナ、ごめんね、名前を借りたわ。ラナベルという名は捨てたの。

ラナベルはもう私の名ではない。個体番号。私という人間を示す個体の番号。


修道女は見下される事が多い。人がやりたくない所の掃除を率先してやった。


『貴女の行動、態度、今後もこの修道院で暮らす彼女達と俗世を結ぶ足がかりだと思って奉仕しなさい』


修道院を出てくる時にシスターに言われた言葉。


私は修道院から出るつもりはないけど、他の人は違う。早く出たいと思っている。だから他の人達の為の奉仕。


「ルナちゃんは真面目だな」

「ありがとうございます」

「皆どこかでさぼってるぞ?」

「これが私に与えられた今日の仕事ですから」

「俺もさ、青年団の団長じゃなきゃ真面目にはやらないな。でも団長がやらないと周りに示しがつかないだろ?」

「そうですね」

「さぁさっさと終わらせて褒美の時間にしよう」


褒美、何が貰えるのかしら?別に褒美が欲しい訳ではないけど、褒美、褒美と言われると少し期待をしてしまうわ。

甘いお菓子?それともケーキ?キャンディーでも嬉しいわ。

もう何年と食べてないもの。

修道院でも毎日ではないけどお菓子は出てくる。お菓子作りの得意な子が食事当番の時だけ許されるお菓子。クッキーが多いけど甘味が抑えられていて美味しいとは言えない。


残り少し私は頑張った。褒美の為に…。

なのに…


「ルナちゃんも飲みなよ」

「結構です。私は飲めませんから」


褒美は果樹酒だった…。

お酒を飲んだ事がない私は修道院へ帰ろうとした。それでも団長さんに呼び止められ今もこの席に座っている。


「ならこれを食べな」

「ありがとうございます」


食事を皿に盛られ私は一口食べた。


「おいしい…」

「だろ?俺の自信作」


団長さんは嬉しそうに笑った。

青年団の人達や街の人達はお酒を飲んで楽しそうに笑っている。


パリン!


私は音に驚きビクッとした。


「あいつらまたか」


私は団長さんの顔を見た。


「あいつらは酒が入ると直ぐに喧嘩するんだよ。普段は仲が良いんだけどな。ルナちゃんは気にせず食べな」


食べなと言われても目の端で殴り合いをしている人達が気になって食べれないわよ。

青年団の他の人達や街の人達は気にせず食べたり飲んだりしてるけど、気にならないのかしら。


「あんた貴族の出かい?」


突然おばさんに話しかけられた。


「……はい…」

「まぁそうだろうね。修道院に来る子達は貴族の出の子が多いからね。で?あんたは何をしたんだい?」

「人を、殺しました…」


私は何度も繰り返される断罪にラナベルという自分を殺した。何をしても繰り返される断罪、何度も戻される人生、最後は己を殺さないと自分が保てなかった。

罪といえば自分を殺したこと

勿論チェルシー様にした事も罪。それでも何度も繰り返される日常でチェルシー様を誰も傷つけないようにしてきた。それで罪が償えたとは思っていない。

それでも私も何度も婚約破棄されて傷つけられた。何度も断罪され何度も家族から捨てられた。


「あんたもかい。貴族のお嬢さんは優しいからね。殺すくらいなら蹴飛ばしてやれば良かったんだよ。殴ってやれば良かっただよ。あんたも辛かったね」


おばさんは私の頭を撫でた。


「私ら平民はさ、殺すくらいなら浮気した旦那を放り出すね。勿論蹴り飛ばして殴り飛ばしてからね。あんた達貴族のお嬢さんはお淑やかで育つから、余計に思い詰めたら駄目な方にいっちゃうんだよ」

「そう、ですね…」


私は涙が溢れてきた。私にもまだ涙があったのかと自分でも驚くくらい涙を流した。


「もう忘れな、そんな男の事なんて」


もうとっくに忘れている。

おばさんは私を抱きしめてくれた。

誰も私を抱きしめてくれる人はいなかった。お母様が亡くなりお父様は愛人と過ごしていた。私は幼い弟の面倒を見てきて、弟を抱きしめる事はあっても抱きしめられる事はなかった。

9年婚約していたのにアーカス様にも…、抱きしめられた事はなかった……。



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