24 / 61
24
しおりを挟む
「フランベル伯爵、本日はお願いがあります。先日我儘を聞いて頂いたばかりですが、それでも私の話しを聞いて頂けませんか」
「何だ」
「ありがとうございます。先程婚約も婚姻も私の両親は受け入れたとおっしゃいました」
「そうだ」
「そして私とサリーリ嬢は実質婚約者同士」
「そうだ」
「それなら直ぐにでも婚姻をさせて頂けないでしょうか。婿に入る私から申し出るのは不謹慎なのは重々承知しています。ですがもうサリーリ嬢と離れるのは耐えられません。側に居たい、顔を見たい、声を聞きたい。12年この日をずっと待っていました。記憶を取り戻すサリーリ嬢をずっと待っていました。記憶を取り戻す事を信じて、私を思い出す事を信じて、それだけを心の支えにして、希望にして生きてきました。長く辛く苦しい12年でした。それでも私を思い出すまで何年も何十年も待ち続ける覚悟でいました。私を思い出したら直ぐにでも迎えにこようと。
ようやくなんです。ようやく私を思い出してくれ、幼き日の、私を恋い慕ってくれた思いと同じ気持ちで今のサリーリ嬢が私を恋い慕ってくれてる。ようやく幼いリーに約束した、リーが成人したら迎えに来ると言う約束を、お嫁さんにすると言う約束を叶えられるのです。
どうかお願いします。まだ未熟な若輩者です。剣を振るう事しか能の無い男です。ですがサリーリ嬢の側に居られる為ならどんな努力も惜しみません。お願いします、サリーリ嬢と婚姻させて下さい。お願いします」
「今更反対はしない」
「それでは」
「だが直ぐには無理だ」
「何故です」
「ジークルト君の12年は絶望と希望の12年だったと思う。サリーリが記憶を取り戻しそれでも君を慕う気持ちを持っているのなら、婚約も婚姻も反対する気は無い。だかな、貴族とは厄介なんだ。王家から信頼されてる公爵家と我が伯爵家の縁組を面白く思わない者はいる。両家に縁が出来れば実質貴族の中で立場が一番上になる。それと王女殿下が婚約したばかりだ。第二王子殿下も婚姻する。その中で両家の縁組を表に出す事はまだ出来ない。王女殿下が隣国へ嫁ぐまで婚約を発表するのは待ってほしい。婚姻もその後になる」
「では婚約者として側に居る事も一緒に出掛ける事も出来ないと言うのですか」
「王女殿下が嫁ぐまでの辛抱だ」
「私は直ぐにでも伯爵家へ入り、伯爵の跡を継ぐ為にご指導を受けたいと思っています。明日にでも近衛を辞めてこちらで暮らしたい。婚約者ではなく夫として、サリーリ嬢を私の妻にしたい。私は本日、お許しを頂く為に伺いました」
「私は賛成できない」
「父上!」
「ジークルトとサリーリ嬢の婚約も婚姻も反対はしない。ジークルトが12年間苦しんできたのは知っている。サリーリ嬢を一途に慕う気持ちも、騎士としても一人前にもなった。だがお前は王女殿下付の近衛隊の副隊長だ。王女殿下が嫁ぐ日まで責任を持って最後までお護りするのが騎士だ。違うか」
「王太子殿下と王女殿下も了承済みです」
「それでも王女殿下が嫁ぐ日まで近衛隊の騎士として職務を全うするべきだ」
「ですが」
「ジークルト君、私も公爵の意見に賛成だ。今更引き離すつもりもない。君が早く婚姻したい気持ちも分かる。数年、早くて1年だ。それまで待ってほしい」
「嫌です。待てません。もう側を離れる事など出来ません。記憶が戻った初めは毎日不安でした。また全てを忘れられるのではないか、朝目覚めたら私を覚えていないのではないか、側で確認しないと安心出来ませんでした。
ですが今は一緒に過ごす心地良い時間が安らぎを、今迄声に出して言えなかった私の気持ちを今はサリーリ嬢に伝える事ができる嬉しさ、顔を見て会話をする事でようやく不安がなくなり眠れる様になりました。
父上や伯爵は今迄待てたのだから数年待てるだろうと言うでしょう。ですが、お互い慕う気持ちが、思いが通じ合った後の数年は今迄とは違うのです。思いが通じ合ったからこそ待てないのです。12年側に居る事も側で護る事もできず離された。でも今は側に居る事も側で護る事も離れずにいる事もできる。それなのにまだ待てと言うのですか」
「王女殿下が嫁ぐまでだ」
「嫁ぐまで1年もあります」
「1年の辛抱だ」
「待てません」
「自分の職務も全う出来ない男に大事な一人娘はやれん」
「っ…」
「私も卑怯な事を言っている自覚はある。ジークルト君にとってはようやく手に入れたサリーリとの時間だ、早く婚姻したい気持ちも分かる。だが今後も貴族として過ごす以上、貴族を敵には回せないんだ。分かってくれ」
「っ……」
「ジークルト君にはこの1年が12年よりも長く辛く苦しい1年になるだろう。だが12年と違うのはサリーリが君を支える事ができる。婚約の発表はまだ出来ないが、各々の家で会う事は出来る。ふたりでこの1年を乗り越えてほしい」
「分かりました」
「分かってくれるか」
「婚約も内密にします。婚姻も待ちます。ですが、私からも一つ条件があります。私の休みの日はこちらで宿泊させて頂きます。婚姻するまでサリーリ嬢に手は出しません。騎士として剣に誓います。ですが同じ部屋で過ごす事は許して頂きたい」
「それは同じベッドで眠るという事か?」
「はい。側に居るという実感を、離さなくて良いという安心を自分自身で感じたい」
「剣に誓うのだな」
「誓います」
「仕方ない、許そう」
「ありがとうございます」
「何だ」
「ありがとうございます。先程婚約も婚姻も私の両親は受け入れたとおっしゃいました」
「そうだ」
「そして私とサリーリ嬢は実質婚約者同士」
「そうだ」
「それなら直ぐにでも婚姻をさせて頂けないでしょうか。婿に入る私から申し出るのは不謹慎なのは重々承知しています。ですがもうサリーリ嬢と離れるのは耐えられません。側に居たい、顔を見たい、声を聞きたい。12年この日をずっと待っていました。記憶を取り戻すサリーリ嬢をずっと待っていました。記憶を取り戻す事を信じて、私を思い出す事を信じて、それだけを心の支えにして、希望にして生きてきました。長く辛く苦しい12年でした。それでも私を思い出すまで何年も何十年も待ち続ける覚悟でいました。私を思い出したら直ぐにでも迎えにこようと。
ようやくなんです。ようやく私を思い出してくれ、幼き日の、私を恋い慕ってくれた思いと同じ気持ちで今のサリーリ嬢が私を恋い慕ってくれてる。ようやく幼いリーに約束した、リーが成人したら迎えに来ると言う約束を、お嫁さんにすると言う約束を叶えられるのです。
どうかお願いします。まだ未熟な若輩者です。剣を振るう事しか能の無い男です。ですがサリーリ嬢の側に居られる為ならどんな努力も惜しみません。お願いします、サリーリ嬢と婚姻させて下さい。お願いします」
「今更反対はしない」
「それでは」
「だが直ぐには無理だ」
「何故です」
「ジークルト君の12年は絶望と希望の12年だったと思う。サリーリが記憶を取り戻しそれでも君を慕う気持ちを持っているのなら、婚約も婚姻も反対する気は無い。だかな、貴族とは厄介なんだ。王家から信頼されてる公爵家と我が伯爵家の縁組を面白く思わない者はいる。両家に縁が出来れば実質貴族の中で立場が一番上になる。それと王女殿下が婚約したばかりだ。第二王子殿下も婚姻する。その中で両家の縁組を表に出す事はまだ出来ない。王女殿下が隣国へ嫁ぐまで婚約を発表するのは待ってほしい。婚姻もその後になる」
「では婚約者として側に居る事も一緒に出掛ける事も出来ないと言うのですか」
「王女殿下が嫁ぐまでの辛抱だ」
「私は直ぐにでも伯爵家へ入り、伯爵の跡を継ぐ為にご指導を受けたいと思っています。明日にでも近衛を辞めてこちらで暮らしたい。婚約者ではなく夫として、サリーリ嬢を私の妻にしたい。私は本日、お許しを頂く為に伺いました」
「私は賛成できない」
「父上!」
「ジークルトとサリーリ嬢の婚約も婚姻も反対はしない。ジークルトが12年間苦しんできたのは知っている。サリーリ嬢を一途に慕う気持ちも、騎士としても一人前にもなった。だがお前は王女殿下付の近衛隊の副隊長だ。王女殿下が嫁ぐ日まで責任を持って最後までお護りするのが騎士だ。違うか」
「王太子殿下と王女殿下も了承済みです」
「それでも王女殿下が嫁ぐ日まで近衛隊の騎士として職務を全うするべきだ」
「ですが」
「ジークルト君、私も公爵の意見に賛成だ。今更引き離すつもりもない。君が早く婚姻したい気持ちも分かる。数年、早くて1年だ。それまで待ってほしい」
「嫌です。待てません。もう側を離れる事など出来ません。記憶が戻った初めは毎日不安でした。また全てを忘れられるのではないか、朝目覚めたら私を覚えていないのではないか、側で確認しないと安心出来ませんでした。
ですが今は一緒に過ごす心地良い時間が安らぎを、今迄声に出して言えなかった私の気持ちを今はサリーリ嬢に伝える事ができる嬉しさ、顔を見て会話をする事でようやく不安がなくなり眠れる様になりました。
父上や伯爵は今迄待てたのだから数年待てるだろうと言うでしょう。ですが、お互い慕う気持ちが、思いが通じ合った後の数年は今迄とは違うのです。思いが通じ合ったからこそ待てないのです。12年側に居る事も側で護る事もできず離された。でも今は側に居る事も側で護る事も離れずにいる事もできる。それなのにまだ待てと言うのですか」
「王女殿下が嫁ぐまでだ」
「嫁ぐまで1年もあります」
「1年の辛抱だ」
「待てません」
「自分の職務も全う出来ない男に大事な一人娘はやれん」
「っ…」
「私も卑怯な事を言っている自覚はある。ジークルト君にとってはようやく手に入れたサリーリとの時間だ、早く婚姻したい気持ちも分かる。だが今後も貴族として過ごす以上、貴族を敵には回せないんだ。分かってくれ」
「っ……」
「ジークルト君にはこの1年が12年よりも長く辛く苦しい1年になるだろう。だが12年と違うのはサリーリが君を支える事ができる。婚約の発表はまだ出来ないが、各々の家で会う事は出来る。ふたりでこの1年を乗り越えてほしい」
「分かりました」
「分かってくれるか」
「婚約も内密にします。婚姻も待ちます。ですが、私からも一つ条件があります。私の休みの日はこちらで宿泊させて頂きます。婚姻するまでサリーリ嬢に手は出しません。騎士として剣に誓います。ですが同じ部屋で過ごす事は許して頂きたい」
「それは同じベッドで眠るという事か?」
「はい。側に居るという実感を、離さなくて良いという安心を自分自身で感じたい」
「剣に誓うのだな」
「誓います」
「仕方ない、許そう」
「ありがとうございます」
21
お気に入りに追加
988
あなたにおすすめの小説
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる