上 下
21 / 61

21

しおりを挟む
 固形物を少しづつ食べる様なってから部屋の中だけ自由に歩き回る事が許された。

 たまに雑務をする為に帰ってくるルトと話しをしたり、レイが伯爵家から持ってきてくれた本を読んだり、刺繍をしたり…。

 寝室のベッドの端に腰掛け、空を眺める。私がルト、ジークルト様の私室に居る事を知られる訳にはいかない。だからカーテンは開けれても窓を開ける事も窓から顔を出す事も出来ない。


コンコン

 続き部屋の扉から顔を出してるルト、


「俺のお姫様は何をしてるのかな?」

「空を見てるの。ルトと同じ色だな~って」

「退屈だよな。ごめん」

「もうそろそろ家に帰らないと。体調も良くなったし。いつまでもルトの部屋に居る訳にはいかないわ」

「そうだけど、俺はこの部屋にずっと居てほしい」

「私もルトの側に居たい。けどこのままこの部屋に居る事は出来ないでしょ?」

「分かってる」

「ルト、私は婚約して堂々と会いたい」

「俺もリーと誰にも何も言われず側に居たい」

「だからね、早く家に帰ってお父様に報告しないと。恋慕う人が出来てその人と婚約したいって。それからルトへ公爵家へ打診してルトが受けてくれたら婚約出来るわ」

「俺は直ぐに受ける」

「うん」

「医師の診察は?」

「もう家に帰っても大丈夫って。後は散歩して体力を付けて下さいって言われた」

「そうか。明日、俺、非番なんだ。明日一緒に俺もついて行く。だから帰るのは明日でも良いか?」

「うん。レイに今日荷物を持って一度帰って貰うから明日帰る事をお父様に伝えて貰うわ」

「いや、お父上には俺から連絡を入れる」

「分かった」

「また夜に戻って来る」

「行ってらっしゃい」

「行ってくる」


 ルトは私の額に口付けして部屋を出て行った。

 部屋を見渡し、今日で最後かと思うとやっぱり寂しい。私が寝るまで髪を撫でてくれた優しい手、愛しいと語る瞳、心休まる心地良い空間、目覚めて横にいる愛しい人、綺麗な黒髪を撫でる一時、毎日交わす会話、側に居るのが当たり前になって、愛しさが毎日毎日積もる。

 寂しい。ルトの温もりも、ルトの声も、もう毎日感じる事も、聞く事も出来なくなる。


 夜、いつもの様に後ろからルトに抱きしめられ布団に入る。 私はルトの方に向き直しルトを抱きしめる。


「リー?どうした?」


 私は首を左右に振る。


「俺のお姫様はご機嫌斜めかな?」


 私は首を左右に振る。


「リー?」

「…………寂しい」

「うん、俺も」

「明日からルトが側に居ないの。ルトの温もりも声も聞けない。それが寂しい。ものすごく寂しい」

「俺も明日からリーが側に居ない事が辛い。毎日リーを抱きしめてリーの温もりを感じて側に俺の腕の中に居る事を実感できて安心できた。側を離れたらまた忘れられたら、記憶を封じたらと思うと不安でまた眠れなくなる」

「ルト、離れたくない」

「俺も離したくない。ようやく、ようやくなんだ。ようやく俺を思い出してくれて、ようやくリーに触れられる様になったんだ。離したくない」

「12年だもんね」

「ああ、長く辛く苦しい12年だった」

「うん」

「離れても俺を忘れないでくれ。朝目覚めても俺を覚えていてくれ」

「もう忘れない。覚えてる。ルトは私の愛しい旦那様でしょ?」

「ああ。愛してる」

「私も、ルトを愛してる」

「毎日会いたい」

「会いに来て?」

「毎日声を聞きたい」

「私もルトの声聞きたい」

「毎日抱きしめて眠りたい」

「私も一緒に眠りたい」

「リーが眠るまで髪を撫でて、リーの寝顔を見たい」

「ルトの優しい手で撫でられるの好き。私もルトの綺麗な黒髪を撫でたい。寝てるルトを眺めていたい」

「リーは早起きだからな」

「だって朝しかルトを独り占め出来ないじゃない」

「リー」


 ルトは私を力強く抱きしめた。私はルトの胸で泣いた。


「リー、俺の愛しいお姫様。もう離さない」


 優しい手が私の髪を撫でる。


「リー、愛してる」


 額に口付けを、


「リー、直ぐに迎えに行くから待っててほしい」


 ルトは私を抱きしめた。


「ルト、待ってる。早く迎えに来て」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

社長、嫌いになってもいいですか?

和泉杏咲
恋愛
ずっと連絡が取れなかった恋人が、女と二人きりで楽そうに話していた……!? 浮気なの? 私のことは捨てるの? 私は出会った頃のこと、付き合い始めた頃のことを思い出しながら走り出す。 「あなたのことを嫌いになりたい…!」 そうすれば、こんな苦しい思いをしなくて済むのに。 そんな時、思い出の紫陽花が目の前に現れる。 美しいグラデーションに隠された、花言葉が私の心を蝕んでいく……。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...