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お父様との時間 2
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「離れは分かりました。お祖父様とお祖母様が居なくなってからも母屋にお母様を移さなかったのは何故です?」
「その頃マーガレットの病が見つかった。母屋はマーガレットにしてみれば辛い場所だ。だからだ」
「虐められた場所ですものね」
「ああ」
「なら何故愛人を連れ込んだのです?」
「言い訳になるが、俺達の子供の頃から、地位を得たらどれだけ愛人を持つかが地位を得た者達の間では普通だったんだ」
「だから名声を得たら今度は女性を囲うですか」
「ああ。愛人の数が勲章のようなものだった」
「男性ってしょうもない生き物ですね」
「その通りだ」
「それでもお母様を愛しているのなら」
「病が見つかってからマーガレットは俺を避けるようになった。迷惑しかかけない自分には妻でいる価値はないと言われたよ」
「それでもお父様はお母様を手元に置き続けた」
「当たり前だ。俺が生涯愛する女性はマーガレットただ一人だ」
「それなら尚更愛人なんて作らなければ良かったのに」
「俺も若かったんだ」
「若いからってお母様が悲しむとは思わなかったのですか」
「悲しませてるとは思っていた。俺から解放するのがマーガレットの幸せだとも思っていた」
「なら何故」
「それでも手放す事だけは出来なかったんだ。俺は卑怯な男だ。愛人といる所をマーガレットに見せて、夜になるとマーガレットに会いに行く。他の女を抱いた手でマーガレットを抱きしめる。それでも俺の安らぎはマーガレットを抱きしめてる時だけなんだ。
俺の中で愛人は欲の捌け口でそこに愛は無かった。綺麗だとか好きだとかはその場の雰囲気で言ったが、愛してると言ったのはマーガレットしかいない」
「そんなにお母様を愛していたのなら愛人なんて作ってほしく無かったです」
「俺もあの時はどうかしていた。マーガレットの病は治る見込みのない病だ。マーガレットを失うのが今日か明日か何年後か分からない状態で、俺は一瞬でも他事で考えないように見ないようにしていたのかもしれない。マーガレットの病から逃げた卑怯者なんだ」
「それでも愛人なんて作らずお母様だけを見て愛してる姿を私は見たかったです」
「すまない」
「私はお父様が嫌いでした。愛人と仲良くしてお母様を責めるお父様が嫌いでした。早く別れればいいのにって何度も言いました。それでもお母様はお父様と別れなかった。それが今迄分からなかったのです。
離縁すれば立場の弱い女性の方があたりが強く離縁の先は薄暗いものになります。だから別れないのか、それとも別れる気力もないのか、私には分かりませんでした。
それでもお母様の最後の日の絵を見て始めてお母様もお父様を愛していたから側にいたかったのだと分かりました。
私はもっと早くそれを知りたかったです」
「すまない」
「私はお父様に愛されてない子だと思っていました」
「俺はネイソンもガネットも愛してる。マーガレットとの子供なんだ、愛してる」
「それももっと早く知りたかったです」
「すまない」
「私を愛してくれるのはお母様とお兄様だけだと思っていました。お父様が愛人と仲良さそうにしている姿を見てお父様は愛人しか愛していないと思っていました。だから私は離れに押し込まれたと思っていました」
「今更何を言っても言い訳にしかならないが、ガネットは俺の可愛い娘だ。愛する娘だ」
「今のお父様の言葉は信じられます。私、お父様と元婚約者のせいで男性が苦手だったのですよ?ようやく信じれたケイザック様にも裏切られました。やっぱり男性は信じるだけ損ですね」
「あの男は酷すぎる」
「元婚約者も酷かったですが」
「あれな」
「忘れもしませんよ。お父様は浮気の一つや二つで文句を言うなって言ったんですよ」
「あの時は悪かった。それでも毎朝ガネットを迎えに来て仲良さげだったから噂は噂かと思ったんだ。それにガネットの言う浮気は女性と話していたとかそんなものだと思っていたんだ。婚約が白紙になって始めて体の方の浮気だと知って思わず殴りそうになった」
「殴ってくだされば良かったのに」
「そしたら慰謝料が取れなくなる。お金ではないが、どうせ白紙になるなら貰えるものは貰えばいいんだ」
「まあそうですが」
「元旦那からも貰えるものは貰っておけよ」
「ですが私から離縁したので雀の涙程しか貰えませんよ」
「それでもだ」
お父様とこの年になってようやく親子になった気がしました。もっと早く話をしていたら、もっと早くお父様の気持ちを聞いていたら、お父様との関係も違ったものになっていたかもしれません。
「その頃マーガレットの病が見つかった。母屋はマーガレットにしてみれば辛い場所だ。だからだ」
「虐められた場所ですものね」
「ああ」
「なら何故愛人を連れ込んだのです?」
「言い訳になるが、俺達の子供の頃から、地位を得たらどれだけ愛人を持つかが地位を得た者達の間では普通だったんだ」
「だから名声を得たら今度は女性を囲うですか」
「ああ。愛人の数が勲章のようなものだった」
「男性ってしょうもない生き物ですね」
「その通りだ」
「それでもお母様を愛しているのなら」
「病が見つかってからマーガレットは俺を避けるようになった。迷惑しかかけない自分には妻でいる価値はないと言われたよ」
「それでもお父様はお母様を手元に置き続けた」
「当たり前だ。俺が生涯愛する女性はマーガレットただ一人だ」
「それなら尚更愛人なんて作らなければ良かったのに」
「俺も若かったんだ」
「若いからってお母様が悲しむとは思わなかったのですか」
「悲しませてるとは思っていた。俺から解放するのがマーガレットの幸せだとも思っていた」
「なら何故」
「それでも手放す事だけは出来なかったんだ。俺は卑怯な男だ。愛人といる所をマーガレットに見せて、夜になるとマーガレットに会いに行く。他の女を抱いた手でマーガレットを抱きしめる。それでも俺の安らぎはマーガレットを抱きしめてる時だけなんだ。
俺の中で愛人は欲の捌け口でそこに愛は無かった。綺麗だとか好きだとかはその場の雰囲気で言ったが、愛してると言ったのはマーガレットしかいない」
「そんなにお母様を愛していたのなら愛人なんて作ってほしく無かったです」
「俺もあの時はどうかしていた。マーガレットの病は治る見込みのない病だ。マーガレットを失うのが今日か明日か何年後か分からない状態で、俺は一瞬でも他事で考えないように見ないようにしていたのかもしれない。マーガレットの病から逃げた卑怯者なんだ」
「それでも愛人なんて作らずお母様だけを見て愛してる姿を私は見たかったです」
「すまない」
「私はお父様が嫌いでした。愛人と仲良くしてお母様を責めるお父様が嫌いでした。早く別れればいいのにって何度も言いました。それでもお母様はお父様と別れなかった。それが今迄分からなかったのです。
離縁すれば立場の弱い女性の方があたりが強く離縁の先は薄暗いものになります。だから別れないのか、それとも別れる気力もないのか、私には分かりませんでした。
それでもお母様の最後の日の絵を見て始めてお母様もお父様を愛していたから側にいたかったのだと分かりました。
私はもっと早くそれを知りたかったです」
「すまない」
「私はお父様に愛されてない子だと思っていました」
「俺はネイソンもガネットも愛してる。マーガレットとの子供なんだ、愛してる」
「それももっと早く知りたかったです」
「すまない」
「私を愛してくれるのはお母様とお兄様だけだと思っていました。お父様が愛人と仲良さそうにしている姿を見てお父様は愛人しか愛していないと思っていました。だから私は離れに押し込まれたと思っていました」
「今更何を言っても言い訳にしかならないが、ガネットは俺の可愛い娘だ。愛する娘だ」
「今のお父様の言葉は信じられます。私、お父様と元婚約者のせいで男性が苦手だったのですよ?ようやく信じれたケイザック様にも裏切られました。やっぱり男性は信じるだけ損ですね」
「あの男は酷すぎる」
「元婚約者も酷かったですが」
「あれな」
「忘れもしませんよ。お父様は浮気の一つや二つで文句を言うなって言ったんですよ」
「あの時は悪かった。それでも毎朝ガネットを迎えに来て仲良さげだったから噂は噂かと思ったんだ。それにガネットの言う浮気は女性と話していたとかそんなものだと思っていたんだ。婚約が白紙になって始めて体の方の浮気だと知って思わず殴りそうになった」
「殴ってくだされば良かったのに」
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「まあそうですが」
「元旦那からも貰えるものは貰っておけよ」
「ですが私から離縁したので雀の涙程しか貰えませんよ」
「それでもだ」
お父様とこの年になってようやく親子になった気がしました。もっと早く話をしていたら、もっと早くお父様の気持ちを聞いていたら、お父様との関係も違ったものになっていたかもしれません。
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