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12 ウォル視点
しおりを挟む少し考えさせて、とメアリは言った。それでもメアリに考えさせると悪い方へ考える。
俺が今後、
魂の番の手を取るとか、
子孫を願うとか、
俺にはメアリだけ側に居てくれたらそれでいい。子も望まない。メアリは俺の檻の中で真綿に包まれていればいい。
獣人でも人でも閉じ込めておく事は出来ない。例えそれが俺の望みだとしても。
それでも望んでしまう
俺の愛情だけに包まれて閉じ込めておきたいと。会えるのは話すのは俺だけ。他人と会えない分話せない分俺が側に居る。
メアリの目に映るのは俺だけでいい
メアリの耳に聞こえるのは俺だけの声でいい
メアリの行動一つ全てを把握したい
鎖に繋げれるものなら繋いでおきたい。でもそんな事メアリは望まない。
それでももう一度与えてもらえたチャンスを自ら棒に振るつもりはない。今度こそ失敗は許されない。
俺は毎日メアリの元に通った。花とお菓子それから手紙を渡す。
「少し一緒に庭を歩かないか」
嫌だと言われればラルフと剣を交えて帰り、少しだけならと言われれば庭を散歩する。
今日は頷いてくれた。一緒に庭を散歩して俺はメアリに常に話しかける。
「もうウォル!私は少し考えさせてと言ったでしょ。こう毎日毎日来られると考えられないじゃない」
俺を睨み怒った顔も可愛いと見惚れてしまう。
「メアリが不安な事は何でも聞いてほしい。俺が何でも答える。それにメアリが一人で考えても悪い方に考えるだろ?」
「そう、だけど……」
メアリはある一定の所まで落ち込むように考える。それはいつも悪い方へ悪い方へと考える。一定の所まで落ちたら吹っ切れたようになるけど、落ちてる間は食事も喉を通らなくなる。
学園に入学当初もそうだった。獣人の恋人、令嬢達に向けられた視線はまるで汚い物を見るような目だった。令息達に向けられた視線はメアリを娼婦のように淫らな目で見ていた。
令息達は俺がひと睨みすれば視線を背ける。だけど令嬢達は余計に陰口を叩いた。
『ごめんメアリ、俺がメアリを好きなばかりに、メアリを離せないばかりに、メアリには辛い思いをさせてる。でもどうしてもメアリの手を離す事だけは出来ないんだ』
『それは私もよ』
食事をあまり取らないメアリでもメアリの好きなお菓子だけは食べてくれた。俺は毎日毎日メアリと一緒に行き一緒に帰りメアリをあらゆる視線から守った。どんな視線も俺に向ければいい。どんな視線も陰口もメアリの目に耳に入らないように抱き寄せ常に話しかけた。
この時からかもしれない。メアリを独占したいと強く思ったのは。俺以外の視線や声を許せないと思ったのは。
幼い頃からメアリを独占したいと思っていた。右腕に残る傷もメアリを繋ぎ止めるものだと思えば薄くなるのさえ嫌だった。
今でも思う。この傷さえなければ、あの時メアリを助けなければ、俺の事なんか好きにならないと…。
俺だって自信はない。どうして俺を好きになってくれたのか、獣人の俺との未来をどう思っているのか、
それでも俺の気持ちだけは揺るがない。メアリを愛しているその気持ちだけは一生失わない。心に絶対的な何かがあれば強くなれる。
その何かはメアリだ。
「もう」
「メアリ、不安な事は聞いてくれ。今メアリが何に不安なのか教えてほしい」
「不安なんて沢山あるわ。魂の番に会ったって事はウォルには魂の番がいるのよ?」
「もう惑わされないと言っても信じてもらえないのは分かってる。実際惑わされた。でも相手は他国の獣人だ、もう会う事はない。それにもう惑わされない」
「それが信じられないの」
「俺は魂より俺の心が血がメアリだけだと叫んでいるんだ。今の俺は惑わされない。もうメアリの手を離したくない。もうメアリに嫌われたくない。
メアリと会えなかった数ヶ月、俺は生きてる実感が無かった。俺の世界が色褪せていき、ただ暗闇が俺を包んだ。空っぽの人形に獣の毛皮を纏わせただけの傀儡だった。
メアリに会いたい、ただそれだけの思いしか俺の中には無かった。メアリとの絆だけしか俺には無かった。だから何度も何度もメアリとの絆を俺に刻みつけた。
もし次会ったとしても俺は惑わされない。俺の心に、俺を作る全てがメアリを愛しているからだ」
「……子供だって…」
「子供な…。メアリとの子供は可愛いと思う。でもメアリ以外と子供を作りたいとは思わない。それに俺にとって子供よりもメアリが大事だ。俺はメアリさえ側に居てくれたらそれだけで幸せだ。
子供が居ても幸せとは限らない。子供が居なくても幸せな夫婦はいる。ただ…、跡継ぎが必要なのは分かっているが女性は子供を産めばいい、そんなの間違ってる。馬鹿げているとしか俺は思えない。
そうだろ?女性は子供を産む跡継ぎを産む道具じゃない。女性は愛され守るものだ。お互いを愛し慈しみ思い大事にする、それが夫婦だ。俺は子供よりも夫婦の時間を大事に大切にしたい」
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