心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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あれからお父様が薦める男性と何人か会った。

それでも私の心が揺れる人は現れなかった。それに人も獣人も大勢集まる模擬試合会場で、それも優勝したウォルに皆の視線が集まった時の求婚はまだ記憶に新しい。

そして幻と言われている魂の番が現れた事も、魂の番に惹きつけられるように私の手を離し、惹きつけ合うようにウォルが魂の番に歩き出した事も、そして私が捨てられた事も、まだ皆の記憶に新しい出来事。


お父様が薦める男性の中には私を捨てられた可哀想な子として接してくる人もいる。実際捨てられたんだけど。

獣人と恋人だったのならと会ったその日に体を求めてくる人もいた。

ウォルは私の破瓜を大事にしてくれた。貴族令嬢としての立場も大事にしてくれた。


でも駄目ね

いつまでもたってもウォルと比べてしまう。ウォルならと、いつも相手にウォルに勝るものを探してしまう。

いつまでも引きずっていても仕方がない事は分かってる。人は人と結婚するのが幸せ、それも分かってる。

きっとお父様の薦める男性は誠実な人。でもそれが私には伝わらない。

言葉より雄弁に語った尻尾も人にはない。言葉で意思疎通をする人に言葉を隠されたら、私は何を信じればいいんだろう。


この前会った人も、ハーブティーを美味しいと言っていたわりに一口飲んでカップを置いた。それから一口も口につけなかった。

それは美味しいと言えるの?好みの味じゃないからそう言ってくれれば他のものを用意したわ。だってクッキーは美味しいと何枚も食べてたじゃない。

好みか好みじゃないか、言葉で返してくれないと分からないわ。違う飲み物を用意しようとしたら『大丈夫です』とにこやかに微笑んでいた。

ならなんで一口しか飲まなかったの?

話をしていても、私の話に相槌は打っても自分からは何も話さない。何が趣味で何が得意なのか、結局最後まで分からなかった。

初めて会う者同士なんだから歩み寄りは必要でしょ?

話も弾まず微妙な空気で終わったけど、今後も同じ様な男性ばかりだと私も困る。

これが所謂妥協って事?

こんな私の婚約者になってくれる男性なんだから目を瞑れって?

そうね、もう次の人に決めても良いかもしれない。何人もの男性と会うのも疲れた…。


「メアリ、良い男性はいたか?」

「お父様、こんな私の婚約者になっても良い人ならもう誰でも良いです」

「メアリ、自分の事をこんななど言ってはいけない。気に入らないなら何人でも会ってみれば良い」

「もうそれも疲れました。お父様が薦める男性で私は良いです」

「そうか、分かった」


親が決めた婚約者と婚約するのが貴族令嬢として一般的。私は今まで恵まれていた。お父様は無理に婚約を進める事もなかったしウォルとの事も認めてくれていた。

ウォル以上好意を抱くかは分からないけど、良好な関係にはなりたいとは思う。その為に私が相手に寄り添えばいいだけ。

ウォルが私に寄り添ってくれたみたいに私も相手に寄り添えばいい。


それから1ヶ月後、王宮から帰って来たお父様に呼ばれ私はお父様が待つ書斎へ向かった。ついに私の婚約者が決まったのだと、もうこれでウォルを忘れないといけないと、ウォルとはもう交わらない人生を歩むのだと…。

私の心は悲しみの涙が流れていた。


コンコン

「お父様メアリです」

「入りなさい」


書斎に入るとお父様はソファーに座っていた。私はお父様と向かい合うようにソファーに座った。

お父様は私の顔を見た。


「もうウォルの事は良いのか?」


お父様の言葉に私は一瞬泣きそうになった。ウォルを愛している、長年愛した人を数ヶ月で忘れる訳がない。生涯を共にしようと誓った人。獣人と人、元々交わらない人生を歩む異種族。それでも私達は愛しあった。


「お父様やめて。どうしようもない事はあるの。私が獣人なら、私が狼獣人なら…、そんな事何度も思ったわ。でも私は人間だわ。そしてウォルは狼獣人、それは変わらない。

お父様も言ったじゃない。人は人と結婚するのが幸せになれるって、だから私は人と結婚するの、しないといけないの。

私も幸せになりたい…」

「メアリの幸せは本当にウォル以外で得られるものなのか?」


私はお父様を睨んだ。


「私はウォル以外の人で幸せになるわ。ウォル以外の人で幸せにならないといけないの。きっと愛せる、愛してみせるわ」

「そうか…」


お父様は一言言うと黙った。

何かを考えているお父様を見つめていたらお父様と目が合った。


「一週間後、婚約者に会わせる。一度話してみなさい」

「分かりました」



一週間、私はどんな人が婚約者になってもその人を好きになろうと愛そうと心に決めた。

そして約束の一週間後、私は自分の邸の庭でその相手を待っている。庭を一人で歩き爽やかな風が私の頬を優しく撫でる。

一人で歩いていると突然後ろから抱きしめられた。


「離してウォル」


振り返らなくても分かる。幼い頃から何度も抱きしめられた逞しい腕、温もり、そしてウォルの匂い。


「メアリ…」


ウォルの儚く消えそうな声。不安、緊張、心痛、そのどれもを含んだ声を初めて聞いた。

優しく私を抱きしめる腕が震えている。いつもみたいに力強く抱きしめるのではなく私の反応を見ているような…、私に拒絶されないか、まるで確かめるように優しく抱きしめる。

ここまで弱ってるウォルを見た事はない。

まるで怯える子供みたい…


「離して」


ウォルは私を抱きしめる腕をゆっくり離した。

私はウォルと向き合った。


ふぅ、情けない顔…

泣きたいのは私の方よ?

どうして貴方がそんな、泣きそうな辛そうな、どこか不安な、縋るような、そんな顔をするの?



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