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83 罪人リリーアンヌ
しおりを挟む「罪人リリーアンヌ、外に出ろ」
牢屋の鍵が開き私は牢屋の外に出た。
後ろ手に鎖を縛られ足首にも鎖が付けられた。
私の前を歩く騎士が2名、私の数歩後ろを鎖を持ち歩く騎士、他に騎士が2名後ろを歩く。騎士に挟まれ私は地下の牢屋から処刑場へ向かう階段を一段一段上る。
死への恐怖がない訳じゃない。それでもこの階段を皆が通ったと思えば心が落ち着いた。
一段階段を上れば、階段と擦れ鎖の音がジャラジャラと地下の牢屋内に響きわたる。反響する鎖の音、自分の息づかいが耳に体全身に響いてくる。
前を歩く騎士の一人が扉の取っ手に手をかけた。
なかなか開けようとしない騎士。
「何をしている!早く開けろ!」
もう一人の騎士が怒鳴り声を上げた。
取っ手を握ったまま騎士が後ろを振り返り私を見つめる。私はまだ階段を登りきってはいない。立ち止まった段から私は見上げるように騎士を見た。
「リリーアンヌ嬢、髪を残しますか?」
遺髪、形見として身内に贈られる。
戦いに向かう騎士は髪を残す。亡骸が戻らない時が多いから。長い髪の男性は結った紐の上から髪を切る。短い髪の男性は一掴み髪を切る。
王宮を出立する前の騎士達の儀式
戦いから戻らなかった場合、その髪を身内に渡す。形見として。
でもそれは罪人には必要のない事。
「いいえ」
「では一房だけ、いえ、一本だけでも、よろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
騎士は取っ手から手を離し私の髪の毛を一本だけ剣で切った。
「どうせもういらないものよ、一掴みどうぞ」
「すみません」
騎士は私の髪を一掴み掴み剣で切った。その髪を布で包み服の中にしまった。
「ありがとうございます」
彼は元々ジェイデン付きの近衛騎士だった。ジェイデンが隣国へ行き近衛騎士から王宮の騎士団に移動した。
「お前!勝手は許されないぞ!それを渡すんだ!早く出せ!」
怒鳴り声を張り上げる騎士に私は話しかけた。
「ねぇ貴方、そんなに怒鳴らなくても聞こえるわ。それにこんな狭い所で怒鳴ったら耳が痛くなるじゃない。静かにしてくれる」
「罪人が!」
「ええ罪人よ、だから早く扉を開けてちょうだい。本当に気の利かない人ね。私は早くここに集まった馬鹿達の顔を見下ろしたいの。人の事を悪女だの悪魔だの言うけど、処刑って首を落とされて死ぬのよ?それを見たい人達の方がよっぽど悪魔だと思うわ。人の死を見て喜ぶんだもの。きっと馬鹿みたいに歓声を上げるんでしょ?
ふふっ、上からその姿を見ていたらまるで雛鳥ね。餌をもらう為に口を開けて待ってるのと一緒。でも雛鳥の方が見ていて癒やされるから可愛いわよね。だってここに集まったのはいい年した男性や女性でしょ?可愛さも何もないわ。
馬鹿な人達が口を開けていたら、
ふふっ、
阿呆面?ふふっ、さぁ、早くその阿呆面を拝まないと」
「この悪魔が!皆がお前の処刑を待ち望んでいるんだ!」
「早く開けなさい」
私は騎士を睨み強めの口調で言った。
怒鳴り散らしていた騎士が扉の取っ手を握り扉を開けた。重い扉は少しづつ開いていった。
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「良いのよ」
もう一人の騎士が私の耳元で囁いた。
「必ず彼の方にお渡しします」
「それは必要ないわ。でも貴方に渡したものを貴方がどうしようと私にはもう知る由もないから好きにして」
「はい、最後まで心遣いありがとうございます」
別にジェイデンに渡してほしい訳ではない。ただ、あの状況で彼も最後まで葛藤していたのではないか、そう思っただけ。
ジェイデン付きの近衛騎士達は隣国へ送った私に対して嫌悪感を抱いていたのは知っている。それだけジェイデンは騎士達に好かれていた。
騎士達は騎士として王に忠誠を誓っても、個人的に慕う主は別。ローレン隊の騎士達が私を主と思うように彼の主はジェイデンだった。
ナーシャ様付きになってもマックスは今も尚ジェイデンを主と慕っている。それだけ騎士達の主への忠誠心は揺るぎがない。
そして彼はジェイデンを慕うからこそ形見が欲しいと思ったんだろうと思う。彼にとって私は嫌悪する存在、それでもジェイデンにとって私はまた違う存在。
最後の最後、この扉を出たら私は処刑され髪の毛には血飛沫が付く。それに私に話しかける事も出来ない。
取っ手を持ってからの間、自分の気持ちとの葛藤。そして主を慕う気持ちが勝った。
(ジェイデン、貴方が隣国へ行ってもこの国には貴方を慕う者が多い。貴方なら彼の葛藤も彼の気持ちも分かるでしょ。だからこんな形見、大切にしないで)
少しづつ開く扉、扉の隙間から太陽の陽が薄暗い地下に光をさしていく。
ここが出口だと、光に導かれるように私は階段を登る。
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