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今日は休日
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『四月九日(日曜日):偕楽城址公園で花見』
スマホの画面にはそんな言葉が表示されている。僕は夜河さんに聞いてみた。
「今日は偕楽城公園で花見をする予定なんだね?」
夜河さんは頷いてから「でも八重君はこんなだしやめとこうかな」とこちらを見つめた。
「問題ないよ。むしろ行った方が色々分かるかもしれない」
そう答えた僕は布団から出ると立ち上がり、クローゼットを開けた。自分の服がそこにある。見慣れたものが今日になってからはじめて出てきて、ほっとすると同時に今いるのは現実であって夢ではないのだと確信した。
「そうだ、薬は飲まないの?」
夜河さんが尋ねたので枕元の薬箱を見ると、そこには鎮痛剤が入っていた。かなり前から身体に感じていた鈍痛は、どうやら気のせいではなかったらしい。でも薬を手に入れているなんて、昨日までとは世界が違うようだ。
「ああ、薬ってこれでいいのかな?」
夜河さんが頷くので僕は薬を口に含み、コップに水をくんでゴクリと飲み込んだ。暫くすれば鎮痛剤が効いて、動きやすくなるだろう。
「じゃあ、朝ご飯にしよっか」
夜河さんがそう言って部屋を出て行き、僕は服を着替え終わって後を追う。机の上にはすでに茶碗のご飯が湯気を立て、夜河さんは電子レンジでタッパーに入った昨日の残りを温め始めた。昨日の夕飯に僕が作った料理と同じものだが、昨日作った量の二倍はある。僕はやはり世界が変わったのだと思い、なぜか潤んでいた目をこすった。
「いただきます」
皿の上で湯気を立てる夕食のおかずだった煮魚が、なぜだかとても美味しそうに見えた。
「これね、八重くんが作ったんだよ。めっちゃ美味しいでしょ……って言うのも変か」
夜河さんが煮魚を食べながら僕に笑顔を向ける。その笑顔が尊いものだと説明するには、どのような語彙を使っても足りない気がした。僕は煮魚を一口食べた。変わらないまま残っているはずの味が、昨日より数倍美味しい気がした。
「我ながら美味しくできてるね」
夜河さんに言うと、彼女は複雑な表情を浮かべた。
「最近久しく料理できてなかったのに、昨日は突然作るって言い出してさ」
そういえばここ最近は鈍痛と稀に襲う激痛で大学の講義にも行けず、レトルトばかり食べていた気がする。昨日は久しぶりに料理を作ったっけと思っていると、夜河さんが僕の顔をのぞき込んだ。
「記憶は戻ってきた?」
「まあちょっとずつね」
ほっとした様子の夜河さんは、すでに煮魚とご飯を食べきろうという勢いである。僕は少し急いで煮魚を口の中に収めると、茶碗に盛られたご飯を頬張った。
スマホの画面にはそんな言葉が表示されている。僕は夜河さんに聞いてみた。
「今日は偕楽城公園で花見をする予定なんだね?」
夜河さんは頷いてから「でも八重君はこんなだしやめとこうかな」とこちらを見つめた。
「問題ないよ。むしろ行った方が色々分かるかもしれない」
そう答えた僕は布団から出ると立ち上がり、クローゼットを開けた。自分の服がそこにある。見慣れたものが今日になってからはじめて出てきて、ほっとすると同時に今いるのは現実であって夢ではないのだと確信した。
「そうだ、薬は飲まないの?」
夜河さんが尋ねたので枕元の薬箱を見ると、そこには鎮痛剤が入っていた。かなり前から身体に感じていた鈍痛は、どうやら気のせいではなかったらしい。でも薬を手に入れているなんて、昨日までとは世界が違うようだ。
「ああ、薬ってこれでいいのかな?」
夜河さんが頷くので僕は薬を口に含み、コップに水をくんでゴクリと飲み込んだ。暫くすれば鎮痛剤が効いて、動きやすくなるだろう。
「じゃあ、朝ご飯にしよっか」
夜河さんがそう言って部屋を出て行き、僕は服を着替え終わって後を追う。机の上にはすでに茶碗のご飯が湯気を立て、夜河さんは電子レンジでタッパーに入った昨日の残りを温め始めた。昨日の夕飯に僕が作った料理と同じものだが、昨日作った量の二倍はある。僕はやはり世界が変わったのだと思い、なぜか潤んでいた目をこすった。
「いただきます」
皿の上で湯気を立てる夕食のおかずだった煮魚が、なぜだかとても美味しそうに見えた。
「これね、八重くんが作ったんだよ。めっちゃ美味しいでしょ……って言うのも変か」
夜河さんが煮魚を食べながら僕に笑顔を向ける。その笑顔が尊いものだと説明するには、どのような語彙を使っても足りない気がした。僕は煮魚を一口食べた。変わらないまま残っているはずの味が、昨日より数倍美味しい気がした。
「我ながら美味しくできてるね」
夜河さんに言うと、彼女は複雑な表情を浮かべた。
「最近久しく料理できてなかったのに、昨日は突然作るって言い出してさ」
そういえばここ最近は鈍痛と稀に襲う激痛で大学の講義にも行けず、レトルトばかり食べていた気がする。昨日は久しぶりに料理を作ったっけと思っていると、夜河さんが僕の顔をのぞき込んだ。
「記憶は戻ってきた?」
「まあちょっとずつね」
ほっとした様子の夜河さんは、すでに煮魚とご飯を食べきろうという勢いである。僕は少し急いで煮魚を口の中に収めると、茶碗に盛られたご飯を頬張った。
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