遥か彼方の天気と夢

三日月

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雲より高い場所

八話 : 飛んで目で見た雲の上

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明るみを帯びてきた曇り空が、僕たちの帰路を照らした。言い表しがたいほど分厚かった雲は、驚くほど薄くなっていた。
僕と朝陽は肩を並べて学校から離れていった。
帰り道はスピーチのことなんかを話したりした。
公約に何を掲げるかだったり、どんな文にするかだったり。
そして、スピーチの応援演説を朝陽が請け負ってくれることが決まり、頭を下げた。
報酬は僕が望んだように変わることだと朝陽は言った。
朝陽の優しさはあまりにも温かくて、突き放すような冷たささえも感じた。
それからも、選挙関連の様々なことを話していたら、眼前に僕の家が現れた。
そこで、頑張れよ、という朝陽の一言と共に僕は家に入り、スピーチの原稿作りに着手した。
文章を書くのはあまり得意ではない。作文なんかを書こうとすると、決まって文字数が足りない。
自分の気持ちや考えを表現することが極端に少なく表現力が欠如しているからだろうと思う。
それでも、使命感に駆り立てられたように、ペンを原稿用紙に滑らせて、それと同じぐらい消しゴムを紙に擦り付けて、少しづつ仕上げていく。
雲が散り散りになってゆき、月が高く登るまで机に向かっていたが、一日では完成はしなかった。
それから、同じような非日常を繰り返し、じっくりと時間をかけ朝陽に相談などをしながら書き上げていった。
朝陽に表現力がなくて、文字数が少なくなることを伝えると、まとめることが上手いんだよと肯定的に捉えてくれた。嬉しさと、ほんの僅かな寂しさを感じた。
そして、数日したあとようやく完成させることが出来た。
所々に欠陥があるが、僕にしてはよくできたと思う。
完成したあとも修正などを加えつつ、読む練習をした。
紙に穴が空くほど読み返して、記憶力があまり優れていない僕でもほとんどの内容を暗記してしまった。
そうして、まるで暴力みたいに一方的に進んでいく時間は、あっという間に僕を選挙数日前まで連れてきた。
その日は選挙前最後の休日で、僕は家の窓から暗く重苦しい空模様を眺めながら、緊張感を感じていた。不思議と、恐ろしさは感じなかった。
今日は朝陽と練習をする予定だ。
朝陽が来る前に、緊張で岩のようになった口を動かし、何度も何度も繰り返した文を読み始めた。
内容は覚えていたし、口にもしっかり馴染ませた文のはずなのに、流暢とは程遠い話し方だった。
あと数日で、きちんと話せるようになるだろうか。不安に縛られた。
そのようなことを考えていると、チャイムがなった。
今行きますと答えて、玄関まで来た。
鍵を開けて、扉を開こうとしたが何故だか重くて開かなかった。
すると、外側から扉が引っ張られて、重かった扉が開き、朝陽の姿が見えた。
「こんにちは。大丈夫か」
「こんにちは。不安だし、緊張してるよ」
「そうか、じゃあ練習始めるか。頑張れよ」
「わかった。ありがとう」
朝陽は笑った。
そして僕らは練習を始めた。
僕が読む度に、朝陽に指摘を入れてもらった。
スピーチの完成度は順調に上がっていったが、流れるような話し方とは遠く、流れをせきとめる障害物があった。
障害物を壊すべく、繰り返し練習するが、壊れる様子はないように思えた。
そして、練習時間は終わりに近づき、空はより一層深みを増していた。
不安がぬぐえないまま、今日が過ぎ去りそうになっていたが、朝陽は突然立ち上がった。
「萩人、僕のお気に入りの場所に出かけないか」
少し唖然としてしまったが、僕は頷いた。
そうして、僕も立ち上がり、外に出た。
二人で夕方の山央町を歩いた。
言葉はないが、気まずさもなかった。
そして、段々と町の中央に近づいてゆき、山が見えてきた。
山は荘厳な雰囲気を醸し出していた。
山の麓付近について、朝陽は山を登り始め、僕はその後を着いて行った。
少しばかり険しい道を歩いたあと、目的の場所が見えてきたようで、朝陽は早足になった。
そして、小さな平野にたどり着いた。
そして、僕はどうしようもなく、表現しにくい気持ちになった。
ただ、それは否定的な気持ちではなく、肯定的な気持ちだった。
ここに来た時の気持ちを表すために新しい形容詞を作ってもいいのではないかと思った。
「ここ、いい所だろ」
「すごくいい場所だね」
僕はここに惚れてしまって、緊張も不安もすべて壊れて、軽くなった気がした。
今なら、雲を超えてその上の景色を見れる気がした。
空は曇っていたが、晴れているようだった。
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