209 / 246
第九章
魔界からの脱出
しおりを挟む
扉を開けた先は魔界に繋がっているとイシュタムBは云っていた。
だけど、そこは私の知っている魔界ではなかった。
魔界に最初に来た時は、本当に何もなくて、ただセピア色の世界が広がっているだけだった。
それが、今はうっすらと黒い影が、魔界全体を覆い始めていた。
その暗くなりつつある魔界の空の遠くに、何かがうごめいているのが見えた。
「ねえ…あの超キモいの何?」
「あれは…」
それは、複数の巨大なミミズのように不気味にうごめいていて、少しずつこちらに伸びてきているように見えた。
隣を見ると、魔王はそれを見上げて舌打ちしていた。
「イシュタムめ、失敗したのか…」
「え?何?」
「魔界もテュポーンに侵略されつつあるということだ」
「あれがテュポーン?でもテュポーンて向こうの世界で実体化してるんでしょ?どうして魔界にあんなのが…?」
「イドラの体を奪ったおかげで、向こうと魔界を自由に出入りできるようになったんだろう。あの触手で魔界から魔力を吸い上げようとしているんだ」
「それじゃあ、あれはテュポーンの触手なの?」
「おそらくな。実体化した奴はあの巨体を維持するために相当の魔力を必要とするはず。おそらく実体の方で何かあって、魔力が不足する事態にでも陥ったのだろう」
「魔界から直接魔力を吸いあげるって…超ヤバイ奴じゃん」
私は、イシュタムが見せたテュポーンの映像を思い出した。
確かに怪獣映画かっつーくらいに途方もなく大きかった。
あんなのが魔界から魔力を貰って無限に活動できるとしたら、手が付けられなくなる。
「ねえ、魔界の魔力って無限なの?」
「さてな。果てがあるのかどうかは我にはわからぬが、大量に吸い上げられれば一時的に枯渇することもあるかもしれん。そうなれば魔界の生物は生きていけぬ」
「それ、大変じゃない…!イシュタムはどうして止めないの?」
「イシュタムは実体化しているテュポーンには手出しができないのだ」
「そんな…。どうにかできないの?」
「イドラの意識の底にある魔界の扉を閉じれば、テュポーンを魔界から切り離すことができるのだが…」
「あ…、魔界の扉って、あの魔法陣みたいなもののこと?」
「おまえもそこを通ってきたのだな」
「うん…」
「一緒に来たイシュタムに、その扉を閉めるように命じたのだが、どうやら失敗したようだな」
空に浮かぶ気色の悪い触手を見上げながら、私は早く戻らなくちゃいけないと思った。
あの後、テュポーンはどうなったんだろう。
毒やらなにやら吐いていた気がする。誰か怪我してないといいんだけど。
被害が出ていないことを祈るばかりだ。
「じゃあ、早く行って扉を閉めないと」
「扉は我が閉める。おまえは自分の身体に戻れ」
「え?」
「ここからなら我が戻してやれる。おまえの体は魔王府にあるはずだからな」
「そんなこと、どうして…」
「我は魔王だぞ。魔界から転移させることくらい簡単だ」
「そういうことじゃなくって!なんで私だけ戻るってことになるのよ?」
怒っている私の頭を、魔王の手がポンポン、と軽く叩く。
「おまえは戻れ。これは命令だ。…頼むから言うことを聞いてくれ」
「何よそれ…。1人で戻るのなんてやだよ。一緒に行こうよ」
「魔界の扉を閉めるにはテュポーンの意識下に潜らねばならん。おまえがいると足手まといだ」
「う…、そういうこと言う?」
そう云われちゃうと反論できないんだけど…。
でもその後、彼はフッと笑った。
「だから、おまえには先に戻って、<運命操作>で我の無事を祈って欲しい」
「あ…!そういうことか」
そうよ、体に戻れば、<運命操作>が使えるんだった。
もし何かあっても、それで彼を助けてあげられるし、テュポーンもやっつけられるじゃない?
「うん、わかった」
「…よし、いい子だ」
彼は、私を抱きしめた。
私も彼の背に腕を回してきゅっと抱きしめた。
これって意識体のはず…よね?
でもなんだか、とても暖かく感じる。
「絶対、戻ってきてね」
「ああ」
彼はそう云いながら、私から離れ、手のひらから小さな光を生み出した。
「トワ、自分の身体に戻りたいと願え」
「う、うん」
彼はその光を私に向けてフッと吹いて飛ばした。
すると、私の体―、意識全体がその光に包まれた。
「我はいつもおまえと共にある」
そのセリフを聞いて、突然不安になった。
「やめてよ…。なんか死亡フラグみたいじゃない」
泣きそうな私に、彼は笑いかけた。
「そんな顔をするな。地味な顔がもっと地味になるぞ」
「ひっど!!」
「クッ…冗談だ」
「も~~!こんな時に…!だから本当の姿見られるの嫌だったのよ」
「本来の姿を見られるのが嫌なのは、おまえだけではないぞ」
「…え?」
「トワ」
「何よ?」
「…おまえに会えて良かった。…」
彼はその後も何か言葉を紡いでいたのだけど、私を包む光が大きくなっていってよく聞こえなかった。
どうしてそんなセリフ云うのよ。
マジで死亡フラグたっちゃう人みたいじゃん!
そんなの…ダメなんだから!
その直後、私の意識はそこから転移した。
だけど、そこは私の知っている魔界ではなかった。
魔界に最初に来た時は、本当に何もなくて、ただセピア色の世界が広がっているだけだった。
それが、今はうっすらと黒い影が、魔界全体を覆い始めていた。
その暗くなりつつある魔界の空の遠くに、何かがうごめいているのが見えた。
「ねえ…あの超キモいの何?」
「あれは…」
それは、複数の巨大なミミズのように不気味にうごめいていて、少しずつこちらに伸びてきているように見えた。
隣を見ると、魔王はそれを見上げて舌打ちしていた。
「イシュタムめ、失敗したのか…」
「え?何?」
「魔界もテュポーンに侵略されつつあるということだ」
「あれがテュポーン?でもテュポーンて向こうの世界で実体化してるんでしょ?どうして魔界にあんなのが…?」
「イドラの体を奪ったおかげで、向こうと魔界を自由に出入りできるようになったんだろう。あの触手で魔界から魔力を吸い上げようとしているんだ」
「それじゃあ、あれはテュポーンの触手なの?」
「おそらくな。実体化した奴はあの巨体を維持するために相当の魔力を必要とするはず。おそらく実体の方で何かあって、魔力が不足する事態にでも陥ったのだろう」
「魔界から直接魔力を吸いあげるって…超ヤバイ奴じゃん」
私は、イシュタムが見せたテュポーンの映像を思い出した。
確かに怪獣映画かっつーくらいに途方もなく大きかった。
あんなのが魔界から魔力を貰って無限に活動できるとしたら、手が付けられなくなる。
「ねえ、魔界の魔力って無限なの?」
「さてな。果てがあるのかどうかは我にはわからぬが、大量に吸い上げられれば一時的に枯渇することもあるかもしれん。そうなれば魔界の生物は生きていけぬ」
「それ、大変じゃない…!イシュタムはどうして止めないの?」
「イシュタムは実体化しているテュポーンには手出しができないのだ」
「そんな…。どうにかできないの?」
「イドラの意識の底にある魔界の扉を閉じれば、テュポーンを魔界から切り離すことができるのだが…」
「あ…、魔界の扉って、あの魔法陣みたいなもののこと?」
「おまえもそこを通ってきたのだな」
「うん…」
「一緒に来たイシュタムに、その扉を閉めるように命じたのだが、どうやら失敗したようだな」
空に浮かぶ気色の悪い触手を見上げながら、私は早く戻らなくちゃいけないと思った。
あの後、テュポーンはどうなったんだろう。
毒やらなにやら吐いていた気がする。誰か怪我してないといいんだけど。
被害が出ていないことを祈るばかりだ。
「じゃあ、早く行って扉を閉めないと」
「扉は我が閉める。おまえは自分の身体に戻れ」
「え?」
「ここからなら我が戻してやれる。おまえの体は魔王府にあるはずだからな」
「そんなこと、どうして…」
「我は魔王だぞ。魔界から転移させることくらい簡単だ」
「そういうことじゃなくって!なんで私だけ戻るってことになるのよ?」
怒っている私の頭を、魔王の手がポンポン、と軽く叩く。
「おまえは戻れ。これは命令だ。…頼むから言うことを聞いてくれ」
「何よそれ…。1人で戻るのなんてやだよ。一緒に行こうよ」
「魔界の扉を閉めるにはテュポーンの意識下に潜らねばならん。おまえがいると足手まといだ」
「う…、そういうこと言う?」
そう云われちゃうと反論できないんだけど…。
でもその後、彼はフッと笑った。
「だから、おまえには先に戻って、<運命操作>で我の無事を祈って欲しい」
「あ…!そういうことか」
そうよ、体に戻れば、<運命操作>が使えるんだった。
もし何かあっても、それで彼を助けてあげられるし、テュポーンもやっつけられるじゃない?
「うん、わかった」
「…よし、いい子だ」
彼は、私を抱きしめた。
私も彼の背に腕を回してきゅっと抱きしめた。
これって意識体のはず…よね?
でもなんだか、とても暖かく感じる。
「絶対、戻ってきてね」
「ああ」
彼はそう云いながら、私から離れ、手のひらから小さな光を生み出した。
「トワ、自分の身体に戻りたいと願え」
「う、うん」
彼はその光を私に向けてフッと吹いて飛ばした。
すると、私の体―、意識全体がその光に包まれた。
「我はいつもおまえと共にある」
そのセリフを聞いて、突然不安になった。
「やめてよ…。なんか死亡フラグみたいじゃない」
泣きそうな私に、彼は笑いかけた。
「そんな顔をするな。地味な顔がもっと地味になるぞ」
「ひっど!!」
「クッ…冗談だ」
「も~~!こんな時に…!だから本当の姿見られるの嫌だったのよ」
「本来の姿を見られるのが嫌なのは、おまえだけではないぞ」
「…え?」
「トワ」
「何よ?」
「…おまえに会えて良かった。…」
彼はその後も何か言葉を紡いでいたのだけど、私を包む光が大きくなっていってよく聞こえなかった。
どうしてそんなセリフ云うのよ。
マジで死亡フラグたっちゃう人みたいじゃん!
そんなの…ダメなんだから!
その直後、私の意識はそこから転移した。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される
葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。
彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。
ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。
父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。
あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。
この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。
さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。
そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。
愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。
※小説家になろうにも掲載しています
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる