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第三章
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「魔王様」
カラヴィアが入ってきたとき、少年魔王はポツンとベッドに座っていた。
「なんだ、ちゃんと扉を開けて入ってきたのか」
「やだ、魔王様のお部屋に入るのに<素粒子化>なんか使いませんよ」
「嘘をつくな。以前も忍び込んできただろうが」
「あー、そうでしたっけ…?」
カラヴィアはベッドに座る魔王の傍に立った。
「トワ、って娘を探してるんですってね」
「ああ」
魔王はカラヴィアを横目でチラ、と見てベッドから立ち上がって歩き出した。
「エンゲージするとか、しないとかお聞きしましたけど本当ですか?」
「ああ」
「その女のことが、好きなんですの?」
「…ああ」
「魔王様、ひどい!」
カラヴィアが急に大声を出したので、魔王は驚いて立ち止まった。
「何だ急に」
「ワタシとエンゲージしてくれると、ずっと思っていたのに」
「そんなこと一度も言ったことはないぞ」
「だって、一度寝所に呼んでくださったじゃあありませんか!」
「あれはおまえが勝手に入ってきただけだろう」
「そんなの、魔王様だって承知の上だったじゃありませんか。それなのにまた人間の女だなんて…!」
不躾なカラヴィアの態度に、魔王は苛立ちを見せた。
その感情が彼の周囲に風を巻き起こした。
「いい加減にしろ!」
魔王が一喝すると、部屋に置かれていた置物や雑誌、ペンなどの備品が風と共に巻き上がって、カラヴィアに襲い掛かった。
「きゃあああ!」
いろいろなものを顔や体にぶつけられたカラヴィアは悲鳴を上げ、怯えた。
「も、申し訳ありません、出過ぎたことを申しました」
「何か勘違いしているようだな。決めるのはおまえではない、我だ!」
「ひぃ!すみません、お許しください!殺さないで!消さないで!」
怯えるカラヴィアを一瞥すると、魔王は彼女に背中を向けた。
すると風がピタッと止んで、空中に浮いていた備品はその場で床に落ちた。
「出て行け」
「ああ…魔王様…!私を許してくださるのですね!あっ、そ、そうだ…!」
カラヴィアは自分の豊満な胸の谷間から、宝玉を取り出した。
「魔王様、これをお受け取りください!」
魔王は振り向いた。
カラヴィアはその魔王の手を取って、宝玉を掌の上に乗せた。
魔王はその宝玉を凝視した。
「これは…<覚醒能力封印>の宝玉…!」
「なにやら強い魔力を感じたので、魔王様に献上しようと思って手に入れたのです!」
魔王にギロッと睨らまれたカラヴィアは「ひっ」と短く悲鳴を上げた。
「おまえだったのか…」
「え?何が?」
「商人に宝玉を売って、慌てて買い戻したのだろう?」
「え?あわわわ…どうして知って…」
「まあいい。これで我の封印は解ける。どういう経緯であろうと、我の役立ったことは褒めてやる」
「ああ~…魔王様が褒めてくださった…!」
魔王に褒められて、カラヴィアは小躍りしながら天にも昇る気持ちでバンザイした。
魔王は宝玉を手にして「封印解除」と口にした。
すると、少年の姿だった魔王は、宝玉から出てきた黒い霧に包まれると、みるみるうちに青年の姿に成長していった。
カラヴィアの目には、成長した魔王の周囲が一瞬空間が歪んだように見えた。そして大きな魔力を感じ、身震いした。
「ああ…魔王様!やはりそのお姿の方がずっと威厳がございます!」
「…久しぶりだ、この感覚」
「ああん、ステキ…」
「ふむ。やはり目線の高さが違うな」
魔王が隣の部屋から成長した姿で戻った時、騎士団員たちは皆、カイザーの擬態だと思った。
「おまえたちの目は節穴か」
そう云うと、騎士団員たちは魔王から漂うただならぬオーラを感じ、息をのんだ。
「魔王様、封印が解けたのですか…!」
ジュスターが声を上げた。
「ワタシが宝玉を持ってきたのよ」
魔王の後をついてきたカラヴィアが得意顔で云った。
「おめでとうございます、魔王様」
「おめでとうございます!」
騎士団員たちからの祝福を受けた魔王は、彼らに尋ねた。
「…おまえたちの目には、我はどう映る?」
「めちゃくちゃカッコイイ男性に見えますよ。僕らはカイザー様の擬態で見慣れていますけど…」
ウルクがそう云うと、他のメンバー全員も同意した。
カラヴィアだけは「カッコイイなんて言葉じゃ言い表せないわ!」などと怒っていたが。
「…そうか、おまえたちにはトワの影響があるのだな」
魔王はそう云って微笑んだ。
能力が元に戻った彼にはもはや何も憂慮することはなかった。
「アスタリス、おまえの<目>を寄越せ」
「は、はいっ」
アスタリスが<遠見>スキルを使うと、魔王は彼の背中に手を当てて目を閉じた。
魔王はアスタリスの<視覚共有>で彼と同じ風景を見ている。
「うわあ…ずっと遠くまで見渡せます。魔王様が力を増幅してくださってるんですか?」
「そうだ。そのまま、グリンブルの方角に視線を移せ」
「はい!」
「魔王様、何をご覧に?」
ジュスターが尋ねると、魔王は目を瞑ったまま答えた。
「国境も封鎖し、これだけの人数が探しているにも関わらず見つからないと云うのは解せぬ。となると、考えられるのはポータル・マシンだ。アカデミー以外に、グリンブルのどこかにあるに違いないと考えていた。我の空間魔法検知でその痕跡を探しているのだ」
「さすがは魔王様ですわ!」
カラヴィアが嬉々として叫ぶ。
騎士団員たちは「何だこの人」という目で彼女を見た。
「…見つけた」
魔王が呟く。
「南の森の中だ。…結界が張られているな。これでは見つからんわけだ。<精神耐性>を持っている者を先に向かわせろ」
魔王は目を開けた。
「アスタリス、よくやった。我らも向かうぞ」
「はい!」
ジュスターは他の騎士団員たちにも招集をかけ、慌ただしく南の森へ向かった。
南の森の中にその小屋は隠されていた。
結界は、森の周辺に張られていて、近づいても無意識に小屋から視線を外させるような仕掛けになっていた。
おそらく、この付近に捜査にきた者は何人もいたに違いないが、皆この結界のせいで小屋を見つけられずにいたのだ。
「魔王様、ポータル・マシンがありました」
クシテフォンが結界を破って小屋とマシンを見つけたのだった。
その後、騎士団員たちと魔王、カラヴィアが合流した。
「これ、何ですの?」
カラヴィアが訊くと、ネーヴェが答えた。
「転送装置だよ。これに乗るとどこか別の場所へ一瞬で移動できるんだって」
「へえ…。なーんか見たことあるわあ…」
カラヴィアは興味深そうにマシンを見た。
魔王はマシンを調べている。
「これは試作品だな。しかも手入れもあまりされておらん。よく動いているものだ」
「そんなに状態の悪いものを、トワ様が利用したのでしょうか…?」
ジュスターが心配そうに云った。
「これと同じタイプのものをアカデミーでトワも見ているはずだ。操作方法も知っていただろう」
「なるほど…」
「今は特に異常は見られん。この前に転送で使用した者は大丈夫だったろう」
「しかし、このまま使い続ければ故障し、下手をすれば亜空間に放り出されることになるかもしれん」
「え…!」
「ふむ」
魔王はその場でマシンのメンテナンスを始めた。
その背後でジュスターが心配そうに魔王に語り掛けた。
「本当にこのマシンの行く先に、トワ様がいらっしゃるのでしょうか」
「その可能性は高い。問題は、このマシンの転送先がどこだかわからんことだ」
「…他のマシンではダメなんですか?」
アスタリスが恐る恐る質問する。
「この旧式は、転送先のマシンと1体1で転送を行えるタイプだ。機種によっては一度に複数転送先を登録できるものもあるが、このタイプでは登録先は一つだけだ。つまりこのマシンでないと転送先のマシンにたどり着けない」
「じゃあ、これじゃないと、トワ様の後を追えないんですか」
「そうだ」
「魔王様、これはまだ使用できるんですか?」
「この状態でも、我が空間魔法で補助すれば転送は可能だ」
アスタリスの質問に魔王は自信たっぷりに答えた。
「じゃあ、ワタシがそのマシンで転送先へ行くわ!そのトワって子を探して連れて帰ればいいんでしょ?」
名乗りを上げたのはカラヴィアだった。
「それに行き先がどこであろうと、ワタシの<完全変身>があれば怪しまれないわ。この任務にはうってつけじゃない?」
「カラヴィア…」
「魔王様、ワタシの愛を証明させてくださいまし!必ず、連れて帰りますから!」
「おまえ、大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。だって魔王様が補助してくださるのでしょ?」
「そういう意味ではなく…」
「…魔王様、やはり私が行きます」
ジュスターがカラヴィアを押しのけて申し出た。
「ちょっと!ワタシの邪魔をしないでよ」
「あなたはトワ様の顔を知らないではありませんか。どうやって探すと言うんです?」
「あ…と、そう言われてみたらそうねえ」
「トワは我が与えた指輪を身に着けている」
魔王が口を出すと、カラヴィアは眉をひそめた。
「魔王様が、指輪を?」
「指輪には我の魔力が込められている。おまえならば見抜けよう」
「…それならすぐわかると思いますわ」
「どういうことです?」
「ワタシは人の魔力を視ることができるのよ。どれだけ姿が変わっていても見分けられるの」
カラヴィアはジュスターの耳元でそっと囁いた。
「あなたみたいに、ね」
ジュスターは驚いた顔でカラヴィアを見た。
「てことで、問題ないわ。ワタシが行きまーす」
「よし、台座に乗れ」
カラヴィアはにこやかに手を振りながら恐れることもなく、ポータル・マシンで転送されていった。
「無事に転送したようだな…。むっ」
カラヴィアが姿を消した直後、マシンの一部分から黒い霧のようなものが立ち上り始めた。
次の瞬間、ボン!と爆発音がした。
台座の一部と、魔法具の収納されている円柱部が黒焦げになっていた。
「これが限界だったか…」
「で、でも、転送は成功したんですよね?」アスタリスが慌てて尋ねる。
「ああ、そのはずだ」
「じゃあ、良かったじゃないですか!」
「だが万一トワを見つけても、これでは戻ってこれない。修理するしかないか…」
「では、向こうからマシンで戻ろうとしたら、どうなるんです?」
「通常は何も起こらないはずだ。だが、暴走する可能性はある」
「暴走すると、どうなるんです?」
ジュスターがそう魔王に尋ねた時だった。
突然、ズシン!と地面が大きく揺れた。
「何だ?」
「地震か?!」
騎士団員たちが足を踏ん張る中、アスタリスがスキルを使って周囲を視た。
「えええ~~~!!」
「何だ、どうした?」
叫び声をあげるアスタリスに、魔王が声を掛けた。
「ヒュドラ…巨大なヒュドラが出現しました!!」
カラヴィアが入ってきたとき、少年魔王はポツンとベッドに座っていた。
「なんだ、ちゃんと扉を開けて入ってきたのか」
「やだ、魔王様のお部屋に入るのに<素粒子化>なんか使いませんよ」
「嘘をつくな。以前も忍び込んできただろうが」
「あー、そうでしたっけ…?」
カラヴィアはベッドに座る魔王の傍に立った。
「トワ、って娘を探してるんですってね」
「ああ」
魔王はカラヴィアを横目でチラ、と見てベッドから立ち上がって歩き出した。
「エンゲージするとか、しないとかお聞きしましたけど本当ですか?」
「ああ」
「その女のことが、好きなんですの?」
「…ああ」
「魔王様、ひどい!」
カラヴィアが急に大声を出したので、魔王は驚いて立ち止まった。
「何だ急に」
「ワタシとエンゲージしてくれると、ずっと思っていたのに」
「そんなこと一度も言ったことはないぞ」
「だって、一度寝所に呼んでくださったじゃあありませんか!」
「あれはおまえが勝手に入ってきただけだろう」
「そんなの、魔王様だって承知の上だったじゃありませんか。それなのにまた人間の女だなんて…!」
不躾なカラヴィアの態度に、魔王は苛立ちを見せた。
その感情が彼の周囲に風を巻き起こした。
「いい加減にしろ!」
魔王が一喝すると、部屋に置かれていた置物や雑誌、ペンなどの備品が風と共に巻き上がって、カラヴィアに襲い掛かった。
「きゃあああ!」
いろいろなものを顔や体にぶつけられたカラヴィアは悲鳴を上げ、怯えた。
「も、申し訳ありません、出過ぎたことを申しました」
「何か勘違いしているようだな。決めるのはおまえではない、我だ!」
「ひぃ!すみません、お許しください!殺さないで!消さないで!」
怯えるカラヴィアを一瞥すると、魔王は彼女に背中を向けた。
すると風がピタッと止んで、空中に浮いていた備品はその場で床に落ちた。
「出て行け」
「ああ…魔王様…!私を許してくださるのですね!あっ、そ、そうだ…!」
カラヴィアは自分の豊満な胸の谷間から、宝玉を取り出した。
「魔王様、これをお受け取りください!」
魔王は振り向いた。
カラヴィアはその魔王の手を取って、宝玉を掌の上に乗せた。
魔王はその宝玉を凝視した。
「これは…<覚醒能力封印>の宝玉…!」
「なにやら強い魔力を感じたので、魔王様に献上しようと思って手に入れたのです!」
魔王にギロッと睨らまれたカラヴィアは「ひっ」と短く悲鳴を上げた。
「おまえだったのか…」
「え?何が?」
「商人に宝玉を売って、慌てて買い戻したのだろう?」
「え?あわわわ…どうして知って…」
「まあいい。これで我の封印は解ける。どういう経緯であろうと、我の役立ったことは褒めてやる」
「ああ~…魔王様が褒めてくださった…!」
魔王に褒められて、カラヴィアは小躍りしながら天にも昇る気持ちでバンザイした。
魔王は宝玉を手にして「封印解除」と口にした。
すると、少年の姿だった魔王は、宝玉から出てきた黒い霧に包まれると、みるみるうちに青年の姿に成長していった。
カラヴィアの目には、成長した魔王の周囲が一瞬空間が歪んだように見えた。そして大きな魔力を感じ、身震いした。
「ああ…魔王様!やはりそのお姿の方がずっと威厳がございます!」
「…久しぶりだ、この感覚」
「ああん、ステキ…」
「ふむ。やはり目線の高さが違うな」
魔王が隣の部屋から成長した姿で戻った時、騎士団員たちは皆、カイザーの擬態だと思った。
「おまえたちの目は節穴か」
そう云うと、騎士団員たちは魔王から漂うただならぬオーラを感じ、息をのんだ。
「魔王様、封印が解けたのですか…!」
ジュスターが声を上げた。
「ワタシが宝玉を持ってきたのよ」
魔王の後をついてきたカラヴィアが得意顔で云った。
「おめでとうございます、魔王様」
「おめでとうございます!」
騎士団員たちからの祝福を受けた魔王は、彼らに尋ねた。
「…おまえたちの目には、我はどう映る?」
「めちゃくちゃカッコイイ男性に見えますよ。僕らはカイザー様の擬態で見慣れていますけど…」
ウルクがそう云うと、他のメンバー全員も同意した。
カラヴィアだけは「カッコイイなんて言葉じゃ言い表せないわ!」などと怒っていたが。
「…そうか、おまえたちにはトワの影響があるのだな」
魔王はそう云って微笑んだ。
能力が元に戻った彼にはもはや何も憂慮することはなかった。
「アスタリス、おまえの<目>を寄越せ」
「は、はいっ」
アスタリスが<遠見>スキルを使うと、魔王は彼の背中に手を当てて目を閉じた。
魔王はアスタリスの<視覚共有>で彼と同じ風景を見ている。
「うわあ…ずっと遠くまで見渡せます。魔王様が力を増幅してくださってるんですか?」
「そうだ。そのまま、グリンブルの方角に視線を移せ」
「はい!」
「魔王様、何をご覧に?」
ジュスターが尋ねると、魔王は目を瞑ったまま答えた。
「国境も封鎖し、これだけの人数が探しているにも関わらず見つからないと云うのは解せぬ。となると、考えられるのはポータル・マシンだ。アカデミー以外に、グリンブルのどこかにあるに違いないと考えていた。我の空間魔法検知でその痕跡を探しているのだ」
「さすがは魔王様ですわ!」
カラヴィアが嬉々として叫ぶ。
騎士団員たちは「何だこの人」という目で彼女を見た。
「…見つけた」
魔王が呟く。
「南の森の中だ。…結界が張られているな。これでは見つからんわけだ。<精神耐性>を持っている者を先に向かわせろ」
魔王は目を開けた。
「アスタリス、よくやった。我らも向かうぞ」
「はい!」
ジュスターは他の騎士団員たちにも招集をかけ、慌ただしく南の森へ向かった。
南の森の中にその小屋は隠されていた。
結界は、森の周辺に張られていて、近づいても無意識に小屋から視線を外させるような仕掛けになっていた。
おそらく、この付近に捜査にきた者は何人もいたに違いないが、皆この結界のせいで小屋を見つけられずにいたのだ。
「魔王様、ポータル・マシンがありました」
クシテフォンが結界を破って小屋とマシンを見つけたのだった。
その後、騎士団員たちと魔王、カラヴィアが合流した。
「これ、何ですの?」
カラヴィアが訊くと、ネーヴェが答えた。
「転送装置だよ。これに乗るとどこか別の場所へ一瞬で移動できるんだって」
「へえ…。なーんか見たことあるわあ…」
カラヴィアは興味深そうにマシンを見た。
魔王はマシンを調べている。
「これは試作品だな。しかも手入れもあまりされておらん。よく動いているものだ」
「そんなに状態の悪いものを、トワ様が利用したのでしょうか…?」
ジュスターが心配そうに云った。
「これと同じタイプのものをアカデミーでトワも見ているはずだ。操作方法も知っていただろう」
「なるほど…」
「今は特に異常は見られん。この前に転送で使用した者は大丈夫だったろう」
「しかし、このまま使い続ければ故障し、下手をすれば亜空間に放り出されることになるかもしれん」
「え…!」
「ふむ」
魔王はその場でマシンのメンテナンスを始めた。
その背後でジュスターが心配そうに魔王に語り掛けた。
「本当にこのマシンの行く先に、トワ様がいらっしゃるのでしょうか」
「その可能性は高い。問題は、このマシンの転送先がどこだかわからんことだ」
「…他のマシンではダメなんですか?」
アスタリスが恐る恐る質問する。
「この旧式は、転送先のマシンと1体1で転送を行えるタイプだ。機種によっては一度に複数転送先を登録できるものもあるが、このタイプでは登録先は一つだけだ。つまりこのマシンでないと転送先のマシンにたどり着けない」
「じゃあ、これじゃないと、トワ様の後を追えないんですか」
「そうだ」
「魔王様、これはまだ使用できるんですか?」
「この状態でも、我が空間魔法で補助すれば転送は可能だ」
アスタリスの質問に魔王は自信たっぷりに答えた。
「じゃあ、ワタシがそのマシンで転送先へ行くわ!そのトワって子を探して連れて帰ればいいんでしょ?」
名乗りを上げたのはカラヴィアだった。
「それに行き先がどこであろうと、ワタシの<完全変身>があれば怪しまれないわ。この任務にはうってつけじゃない?」
「カラヴィア…」
「魔王様、ワタシの愛を証明させてくださいまし!必ず、連れて帰りますから!」
「おまえ、大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。だって魔王様が補助してくださるのでしょ?」
「そういう意味ではなく…」
「…魔王様、やはり私が行きます」
ジュスターがカラヴィアを押しのけて申し出た。
「ちょっと!ワタシの邪魔をしないでよ」
「あなたはトワ様の顔を知らないではありませんか。どうやって探すと言うんです?」
「あ…と、そう言われてみたらそうねえ」
「トワは我が与えた指輪を身に着けている」
魔王が口を出すと、カラヴィアは眉をひそめた。
「魔王様が、指輪を?」
「指輪には我の魔力が込められている。おまえならば見抜けよう」
「…それならすぐわかると思いますわ」
「どういうことです?」
「ワタシは人の魔力を視ることができるのよ。どれだけ姿が変わっていても見分けられるの」
カラヴィアはジュスターの耳元でそっと囁いた。
「あなたみたいに、ね」
ジュスターは驚いた顔でカラヴィアを見た。
「てことで、問題ないわ。ワタシが行きまーす」
「よし、台座に乗れ」
カラヴィアはにこやかに手を振りながら恐れることもなく、ポータル・マシンで転送されていった。
「無事に転送したようだな…。むっ」
カラヴィアが姿を消した直後、マシンの一部分から黒い霧のようなものが立ち上り始めた。
次の瞬間、ボン!と爆発音がした。
台座の一部と、魔法具の収納されている円柱部が黒焦げになっていた。
「これが限界だったか…」
「で、でも、転送は成功したんですよね?」アスタリスが慌てて尋ねる。
「ああ、そのはずだ」
「じゃあ、良かったじゃないですか!」
「だが万一トワを見つけても、これでは戻ってこれない。修理するしかないか…」
「では、向こうからマシンで戻ろうとしたら、どうなるんです?」
「通常は何も起こらないはずだ。だが、暴走する可能性はある」
「暴走すると、どうなるんです?」
ジュスターがそう魔王に尋ねた時だった。
突然、ズシン!と地面が大きく揺れた。
「何だ?」
「地震か?!」
騎士団員たちが足を踏ん張る中、アスタリスがスキルを使って周囲を視た。
「えええ~~~!!」
「何だ、どうした?」
叫び声をあげるアスタリスに、魔王が声を掛けた。
「ヒュドラ…巨大なヒュドラが出現しました!!」
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