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(100)最愛 ☆

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 馬車が高級娼館の車止めに止まった途端、私は馬車から飛び出した。
 サンドラの姿が見えたからだ。

「サンドラさん!」
「サラ…!」

 私はサンドラのその豊かな胸に抱きしめられた。
 久しぶりに会うサンドラからは、懐かしくも良い匂いがした。

「無事でよかった。ずっと、心配していたんだよ。ごめんよ、私がもっとしっかりしていれば、おまえを攫わせたりはしなかったのに」
「ううん、サンドラさんのせいじゃないです」

 彼女は私が攫われたことにずっと責任を感じていたと言い、私との再会を心から喜んでくれた。

「少し瘦せたんじゃないのかい?大変な思いをしたんだろう?」
「ううん…、心配かけてごめんなさい…」
「何を謝ることがあるんだい。おまえのせいじゃない。おまえは何も悪くないんだ。本当に、良く戻って来てくれたね。ここには旦那様もいらっしゃるし、もう何も心配いらないよ」
「サンドラさん…ありがとう…」

 サンドラの温かい言葉に、私は涙ぐんでしまった。

「おかえり、サラ」
「…ただいま」

 改めてそう言うと、家族と再会できたみたいで嬉しさがこみあげて来た。
 ガイアは後ろで私がサンドラと抱き合って喜ぶさまを静かに見ていた。

 夕方、後から合流したウルリックを加えて、サンドラが用意した豪華な食卓を囲むことになった。ガイアは久々に顔を揃えた姉弟たちと席を共にできて上機嫌だった。穏やかな顔を見せるガイアを見て、私もなんだか嬉しくなった。
 更に私を喜ばせたのは、その場にエリンがいたことだった。
 奴隷のエリンが主と同じ食卓につくことは許されなかったけど、給仕として私にお茶を運んできてくれた。以前会った時よりもふっくらとして健康そうだったし、何より表情がにこやかになっていたので安心した。
 ウォルフとウルリックは何かと言い争ってはガイアに窘められていた。仲が悪いとは思わないけど、ライバル心が強いのかもしれない。
 それでも皆でこんな風に食事するなんて、初めてだったから嬉しかった。
 元の世界でも、家族そろって食事をした覚えなんて、物心ついてからは記憶にない。
 皆で食べるご飯がこんなに美味しいなんて、知らなかった。

 その後、サンドラと二人で本館にある広めのお風呂に入った。
 石造りの風呂場には石をくりぬいて作られたバスタブがあって、そこに二人で並んで腰掛け、足湯状態で話をした。
 彼女は事情を承知していて、ガイアの記憶が戻ったことを喜んでくれた。

「本当に良かったよ。おまえはもう奴隷じゃないんだね。これからは私も口の利き方に気を付けないといけないね」
「そんな、やめてください。今まで通りでいいですから」
「そうはいかないよ。おまえは旦那様の奥方になるんだ」
「お、奥方…!?」
「何を驚いているんだい」

 奥方なんて言われると、なんだか妙な違和感がある。

「…本当に、私なんかでいいんでしょうか。ガイアは王子様なのに…」
「私は良いと思っているよ。あの旦那様を真っ当な男に変えたんだからね。大したもんさね」
「サンドラさん…」
「自信を持ちな。おまえはいい女になったよ。もっともっと女を磨いて、旦那様を骨抜きにしておやり。そう、今夜からだ。爪が伸びているね。産毛もだ。ベッドに入る前に整えてやろうかね」

 そう言ってサンドラは、例によって私の体のメンテナンスをしてくれた。


 その夜は高級娼館の空きコテージにガイアと一緒に泊まることになった。
 そこはカタリナのいたコテージで、彼女が出て行った後、空いたままになっていた。
 もう、誰に気兼ねすることなく、彼と一緒にいられると思うと心が弾んだ。
 部屋に入るなり、ガイアは私を抱きしめて、キスをしてきた。

「んっ…」

 キスしながらガイアは、私の服を肩からスルリと脱がせ、胸を露出させた。
 唇を離すと、彼は両手で直接乳房を揉みしだいた。

「…この手になじむ感じ…。この胸だ…この胸に触れたかった」
「あん…、そんな強くしたら…」
「いいだろ。馬車の中からずっと抱きたいのを我慢してきたんだ」

 足元に服がストンと落とされると、私はそのままベッドに押し倒された。

「あっ…」

 ガイアは私の片方の乳房を口で吸い、もう片方の胸の先端を指で転がす。
 そうしている間に、彼の片手が下腹部に到達し、下着の中に入ってきた。
 ちゅく、と湿った音が響く。

「おまえももう濡れているじゃないか。期待してたのか?」
「やだ…恥ずかしい」

 私のそこは既に濡れそぼっていて、早く彼に愛されたいと訴えていた。

 彼の息が荒い。
 何だか余裕がない感じがする。

「ずっと、おまえに触れたかった…。こうして抱きたかった」

 ガイアは私の乳房にかぶりついた。

「私もよ…。ガイアに抱かれたかった」

 私は彼の髪を撫でながら言った。

「不思議だな。記憶がなかった間も、俺はおまえの体を覚えていた」
「どうして?」
「…さあな。本能、かな」
「…ねえ。私のことを忘れている間、他の人を抱いたりした…?」

 それは別れてからずっと、気にかかっていたことだった。
 私のことを忘れて、昔のガイアに戻っていたのなら、仕方のないことだとも思う。
 思うけど…。

「いいや。抱こうとしたが、拒否した」
「…本当?」
「本当だとも」
「…でも、抱こうとしたんだ?」
「俺はおまえの記憶を奪われていたんだぞ?そこは大目に見てくれ…」

 彼はバツの悪そうな顔をした。
 困った顔が可笑しくて、私は吹き出してしまった。

「…許してあげる」
「俺が抱くのはおまえだけだ。おまえしかいらない」

 その言葉が胸に沁みる。
 ガイアは私の目の前で膝立ちになって、ズボンを下ろした。
 そしてそこから硬く屹立した男根を取り出した。
 急に現れた彼のモノを前にして、私は小さく声を上げた。

「見ろ、もうおまえの中に入りたくてうずうずしている」

 脈打つかのようにそそり立つそれを見ているだけで、体の奥が熱くなってくる。

「すごい…こんなになって…」
「おまえのせいだ。おまえの中で鎮めさせてもらう」

 ガイアは私の両膝を曲げて下着を取り払ってしまうと、両脚を左右に割った。
 大きく開かれた股間に、彼自身があてがわれる。
 それはゆっくりと挿入はいってきた。

「く…」
「あ…っ」

 ガイアの太く逞しいモノが私の内部を押し広げながら入ってくる。
 根元まで収まると、奥まで彼のモノが届いているのを感じる。
 それだけで達してしまいそうだった。

「は…あっ…ガイア…来てる…」
「っ…、そんなに締め付けるな…」

 彼は腰をゆっくりと抽送させ始めた。
 腰をグリグリと回しながら突いてくる。
 すると気持ちのいい所に当たって、そのたびに体が反応してしまう。

「そこ…気持ち…いい…あっ…うん…」
「ここがいいのか?」

 一度その場所がわかってしまうと、彼は執拗にそこを責めてくる。
 私の秘所からは愛液が溢れ出し、濡れた音を立て始めた。
 ガイアは指で私の陰核に触れ、私を更に追い詰める。
 挿入されながらそこを触られると、電気が走ったみたいな刺激を感じる。

「あっ、ダメ…っ!それ、どうにかなっちゃうっ…」
「どうにかってどうなるんだ?」

 ガイアは意地悪そうに囁く。
 私はそれに、首を振って答えた。
 私のそこはどうしようもなく濡れて、彼が出入りする度にいやらしい音が部屋中に響き渡った。

「こんなに濡れているのに、おまえの中はなんでこんなにきついんだ。じきにイっちまいそうだ…」

 そのまま体を持ち上げられ、彼の上に座った状態で抱きしめられると、下から激しく突き上げられた。

「あっ、奥まで、クるッ…」

 両手でお尻を持たれ、腰の動きと連動して上下に動かされると、更に奥深くまで串刺しにされるような感覚になった。
 ガイアのモノがこれでもかというくらい私の奥深くにねじ込まれる。

「やっ…イっちゃう、イっちゃう…ッ!」
「いいぜ、イけよ。俺もイくッ…!」

 一瞬、意識が飛んだ。
 同時に、私の最奥で彼のモノが弾けた。
 ガイアは放った物を私の奥へ奥へと押し込むように、なおも突き続けた。
 イった後も彼は私の中に埋め込んだまま、私を離さなかった。
 向かい合って抱き合ったまま、甘いキスをくれる。
 私も彼の首に腕を回してそれに応えた。
 お互いの瞳にお互いを映したまま、至近距離で見つめ合った。

「サラ」
「はい」
「サラ、サラ…」

 彼は私の名を何度も呼んで、きつく抱きしめ、唇だけでなく首筋にもキスした。
 彼に名を呼ばれるだけで胸が高鳴った。

「好きだ、サラ」
「私も…」
「俺のものだ」
「うん、私はガイアのものよ」
「もう二度と手離さない」

 なんだかいつもより情熱的な彼にドキドキした。

「うん、離さないで」
「ああ、どこにも行かせない」

 ガイアの澄んだアイスブルーの瞳が、私の心の奥まで射抜こうとしているように見えた。

「どうしたの?なんだかいつもと違う…」
「俺は、記憶を失くして初めて自分の気持ちを客観的に知ることができたんだ」
「…客観的に?」

 そうだ、記憶のなかった時、ガイアはまるで他人事のように自分のことを語っていた。

「俺がおまえにしたことは、我ながら酷いと思う。皇帝の言った通り、俺はおまえを泣かせてばかりいた」
「うん…そうだね。いっぱい泣かされたかも」
「ハハ、耳が痛いな」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。俺は、おまえの気持ちも考えず、一方的に奴隷にして傍に置いた。異界人としての性能を知りたいと言ってウルリックにおまえを貸し出そうともしたしな」
「ガイア…。もう、そのことはいいよ」

 私だって、あの時の気持ちを思い出すと辛くなるもの。
 だけど、ガイアの気持ちがわかったから、もう許すことにしたんだ。

「いや、聞いてくれ」
「うん…?」
「最初は興味本位でおまえを抱いた。俺の周りにはいないタイプだったから、少し遊んでやろうと思っていたんだ。だが、おまえを知れば知るほど、俺はのめり込んで行った。…こんなことは初めてだった。初めて、他人を愛しいと思った」
「えっ?初めて…?」
「ああ。遊びならいくらでもしてきたが、本物の恋情に俺はどうしていいか、わからなかった。そのせいでおまえを苦しめた」
「ガイア…」
「いつおまえに愛想をつかされて逃げられるかと不安でもあった。だからあんな宝石を贈って、おまえを繋ぎとめておこうともした」

 …あの青い宝石をくれたのは、そういうことだったんだ…?
 でも、すごく嬉しかった。
 今は修理をすると言ってガイアが持って行ってしまっているけど…。

「そんなことしなくても、逃げたりしないのに」
「俺は、おまえが俺を好きだと言ってくれるのは、俺に処女を奪われたせいだと思っていたんだ」
「え…?」

 そういえば以前、そんなこと言っていた気がする。初めてを奪った男に惚れるのは自然なことだって。

「処女を奪い、奴隷の印を刻んで支配下に置いたのは、異界人のおまえをどう扱って良いかわからなかったからだ」
「そうだったの…」
「加えてこの魔力だ。正直な話、俺は少し浮かれていたんだ。おまえが俺だけに力を与えてくれるという状況に、優越感すら持った。おまえが好意を寄せてくれることを当然のように思っていたんだ。おまえに酷いことをしておいて、俺も調子が良すぎるな」

 ガイアは自嘲気味に言った。

「だが離れてみてやっとわかったんだ」

 ガイアの目が優しく笑った。

「俺はおまえが欲しい。異界人の魔力がどうとかではない。俺は、サラという一人の娘が好きなんだ」
「ガイア…」
「だからメルトアンゼルまで赴き、取り戻すための策を練った。拒絶された時はショックだったんだぞ」

 私は彼の首に回した手にぎゅっと力を込めた。
 ずっと、どうして何も言ってくれないんだろうって…勝手に落ち込んだりしてたけど、ガイアもそんな風に悩んでいたなんて、知らなかった。

「最初は私も怖くて、絶対好きになんかなるもんかって思ってた。でも、ガイアの優しさを知って、好きになったの。だけど、ガイアは王子様で、私は奴隷で…どうやっても無理だって、自分で決めつけて勝手に落ち込んでいたの」
「そうか」

 私の言葉を聞くと、彼は囁くように言った。

「サラ」
「はい?」
「愛している」
「…!」

 ずっと、欲しかった言葉。

「…もう一度言って…?」 
「ああ、何度でも言ってやる。好きだ…愛している」

 …やっと、言ってくれた…。

「…嬉しい…」

 その言葉に私はジーンとして、感極まって涙がこみあげてくる。

「泣くな…」

 そう言うとガイアは優しいキスをしてくれた。
 そのまま、もう一度ベッドに押し倒された。
 私の中に入ったままのガイアが、またムクムクと大きくなるのを感じた。
 彼は再び、むさぼるように私を抱いた。

 いつも自信満々なガイアの意外な一面を知って、もっと愛しくなった。
 最初の頃は、その高圧的な態度が怖くて仕方なかったけど、本当は優しい人だって今は知ってる。いつも気持ちよくさせてくれて、性の悦びを教えてくれた。

「ガイア…私も、愛してる」
「俺もだ、サラ」

 ずっと心の奥底にトゲのように引っかかっていたものが抜けてスッキリした私は、心置きなく彼の与える快楽に身を委ねた。
 彼はさっきよりも優しく丁寧に、じっくりと私を愛した。
 愛の言葉を囁きながら。

 事が終って、彼の腕枕で微睡んでいる時、今まで「愛してる」と決して言わなかったことについて尋ねると、彼はこう言った。

「今まで誰にも告げたことはなかったからな」

 その返事に、私は驚いた。

「そうなの?どうして…?」
「言う相手がいなかっただけだ」
「今まで好きになった人、いないの?」
「いない」

 それはそれで寂しい気がして、複雑な気分になった。

「じゃあ、私が初めて…?」
「ああ。おまえだけだ」

 こんな嬉しいことがあるだろうか。
 彼の愛の言葉は、私だけに向けられている、私だけの言葉。
 また涙が溢れてくる。

「また泣く」
「…だって嬉しすぎて…」
「初めて抱いた時も、おまえは泣いていたな」
「あの時は…すっごく怖かったからよ。今とは涙の意味が違うもん」
「あの時のおまえ、喘ぐ姿が可愛かったな」
「やだ、もう…」
「ハハッ、今も可愛いぞ」

 そう言うと彼は私の涙を拭うようにキスした。

「嘘。『顔はまあまあ、体は貧弱』って言ってたくせに」

 私が唇を尖らせて言うと、彼は笑った。

「そんな酷いことを言ったのはどこの誰だ?死罪にしてやる」
「この人」

 私は指でガイアの鼻先をツン、とつついた。
 ガイアはハハ、と笑った。

「もう、笑い事じゃないんだから。婚約者がいることだって隠してたでしょ?すごく哀しかったんだから…」
「悪かった。…あの時は、おまえがヤキモチを妬いてくれて嬉しかったんだ」

 ガイアは私の髪を撫でながら言った。

「もう…人の気も知らないで」
「怒るな。俺だっておまえがいなくなって初めて嫉妬や独占欲なんて感情を思い知ったんだ」
「嫉妬…してたの?」
「した。狂う程に。あの時、乱暴におまえを抱いたのもそのせいだ」

 私はガイアの整った顔を両手で包み込んで、その唇に軽くキスした。

「私もね、男の人に好きって言ったの、ガイアが初めてだったんだよ」
「本当か?」
「信じてくれないの?」
「もう一度キスしてくれたら信じる」
「ん…」

 珍しくねだるので、私はもう一度彼にキスした。
 すると、彼は有無を言わさず舌を入れて来た。

「んっ…ふ…」

 もう、本当にずるいんだから…。

 彼の舌で、その情熱で、私は身も心もとろけさせられていった。
 収まったと思っていた体の奥の炎が、再び燃え出した。

 私たちは、終わりのない夜を迎えようとしていた。
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