異世界で奴隷になったら溺愛されました。

（18）浴場 ☆

　明日の商談を前に緊張していた私は、夕食の前にサンドラに浴場に連れ出された。

「今日は特別に主用の大浴場に入ってもいいと旦那様からの仰せだ。ゆっくりしておいで」

　サンドラはそう言って風呂用のガウンを置いて去って行った。
　特別にって、どういう風の吹き回しだろう。
　いつもは大きなお風呂を横目に見ながら、隣の小さな浴場で、浴槽からお湯を汲んで体を流すだけの簡単な入浴をしている。
　みんなで使うお湯なので、浴槽に浸かったりはできないし、後がつかえているのでのんびりもしていられない。

　服を脱いで、髪を結わえて大浴場に足を踏み入れた。
　浴場は、中央のドラゴンの像の目に埋め込まれた光石と四方の壁に掲げられた光石で照らされてそれなりに明るかった。
　たっぷりの湯が貯められている円形の浴槽の中央に、人影があった。

　え？
　誰かいる…？
　湯気ではっきりと見えなかったけど、考えてみたらここはご主人様用のお風呂なわけで…。

「来たな。入ってこい」

　それはガイアだった。
　ドラゴン像の台座の下は緩やかな階段になっていて、腰から下が湯に浸かった状態で、彼はそこに腰かけていた。
　掛湯をしてから浴槽に入ると、結構深くて、胸までの深さがあった。
　お風呂というより温水プールに近い感覚だ。
　少しぬるめのお湯は、温泉そのままの温度なのだろう。

「あったかい…」

　こんな風に湯船に浸かるのは久しぶりで、テンションが上がる。
　そのまま体を伸ばして泳いでみる。
　お風呂で泳いじゃいけないって親に怒られそうだけど、気持ちよくて平泳ぎのようにスイスイと湯の中を移動した。

「おまえ、泳げるのか」
「はい。お風呂に浸かったの久しぶりなので…気持ちいいです」
「そうか。そんなに喜ぶなら、また連れて来てやろう」

　口から湯を吐く中央の巨大なドラゴン像の近くまで来ると、そのたもとに座している彼が、上から私を見下ろしている。

「好きなだけ泳ぐと良い」

　…と言われても、上からじゃ丸見えじゃん…。
　こんな裸で泳ぐとこ見られるの、超恥ずかしいんだけど…。

「あ、あの…すいません、はしゃいじゃって…」

　私は立ち止まってガイアを見上げた。
　像のたもとに座る彼の上半身は、改めて見ると逞しくて彫像みたいで眩しすぎる。
　これは…モテるだろうな。
　…って、よく考えてみたら男の人と一緒にお風呂に入るとか、ヤバすぎるんですけど…！
　なんだか急に恥ずかしさがこみあげて来た。

「こっちへ来い」
「は、はい…」

　ガイアの差し出す手を取ると、グイッと引き寄せられて彼の膝の上に横抱きに座らされた。
　そうするとちょうど腰あたりまでお湯に浸かることになった。
　目線が上がって、浴場が一望できる。
　光石が良い感じのライティングになってて、ここで一日ボーっとしてられたら最高だろうなって思った。

「一緒に風呂に入るのは初めてだな」

　私は彼の腕に抱かれながら、その顔を見上げた。
　途端に顔が熱くなった。

「…は、恥ずかしい…です」
「ハハッ、今更恥ずかしいもないだろ？」

　彼は湯を手ですくって、私の胸に掛けながら胸の先端を指で軽くつまんだ。

「あッ…」
「寒くはないか？」
「大丈夫です」

　私は頭をガイアの胸に預けて、しばらくじっとしていた。
　半身浴してるみたいですごく気持ちいい。
　ガイアは先に入っていたせいか、少し汗をかいていて、片手で額の汗を拭いながら髪をかき上げた。
　それを見た時、胸がドキドキした。

「あ、あの…聞いてもいいですか？」
「何だ？」
「実験とか、測定器とかって、何のことですか？」
「ああ、ウルリックの言ったことを覚えていたのか」
「…はい」
「そのうちわかる。ウルリックはもう王都へ発った」
「えっ？もう…ですか？」
「あいつが気になるのか？」
「い、いえ、そういうわけじゃ…」
「おまえ、あいつの元へ行きたいと思っていたんじゃないのか？」

　ギクッとした。
　見透かされている。
　だって彼についていけば、娼婦にならなくて済むかもしれないんだ。

「おまえは嘘がつけないな。思っていることが全部顔に出ているぞ？」
「え？そ、そんなこと…」

　私は自分の顔を両手で押さえた。

「ウルリックがな、おまえを抱きたいと言ってきた」
「え…！？ど、どうして…ですか？私、もう処女じゃないし、胸だって小さいし…」

　ガイアはククッと笑った。

「さあな？おまえはどうしたい？あいつに抱かれたいか？」
「…どうして、そんなこと聞くんですか…」
「おまえがいいというのなら考えてやってもいい」
「…」

　思い知る。
　私はこの人の恋人でも何でもなくて、ただの所有物なんだって。
　平気で物のように他人に貸したりもするんだ。
　だけど、そんなの…

「嫌です」
「なぜ嫌なんだ？ウルリックに気に入られれば娼婦にならなくても済むんだぞ？」
「ガイア様は私が他の人に抱かれても平気なんですか？」

　私の言葉に、ガイアは一瞬その表情を凍らせた。

「俺が優しくするからといって増長するなよ。俺は、おまえが誰と寝ようがどうだっていいんだ」
「…！」

　さっきまで優しかったのに、急に真面目な顔をして、冷たい言葉を吐く。
　突然突き放された気がした。

　私は彼の整った顔を見上げた。
　この人なら、女なんてよりどりみどりなんだろう。
　私なんてきっと、その他大勢の一人で、代わりはいくらでもいるんだ…。

　思わず涙が湧いてきた。

「…また泣く」
「泣いてません」
「泣いてるだろう」
「…意地悪」

　私は両手で顔を覆った。

「なんだと？」
「優しくしたり冷たくしたり、わけわかんない。私…どうすればいいんですか…？」

　頭上でガイアのため息が聞こえた。
　きっと呆れているんだ。

　突然、ぎゅっと抱きしめられた。

「わかった。泣くな。おまえがウルリックを物欲しそうに見ていたから、虐めてやりたくなったんだ」
「物欲しそうになんて見てません！」

　急に顔を上げて叫んだ私を、ガイアは驚いたように見た。

「私が嫌って言うの、わかってたくせに…なんで、私を試そうとするんですか？」
「サラ…」
「ガイア様以外の人となんて、私…絶対嫌です…！」

　彼は私の頬に手を当てて、涙の跡を唇でなぞった。

「サラ」

　さっきまで冷たかったアイスブルーの瞳が揺れる。

「俺が好きか？」

　唐突に彼は尋ねた。

「え…？」
「おまえは俺が好きなのか？」
「す、好きって…？だって私、奴隷ですよ…？」
「それがどうした？」

　彼は私の顎を掴んで上を向かせた。

「奴隷でも心は自由だろ」
「…自由…」
「キスもしたことなかったようだし、何もかも、俺が教え込んだんだ。おまえにとっては俺が初めての男なんだろ？」
「そ、そうです…」
「初めてを奪った男に惚れるのは自然なことだ。…強姦された場合は別だろうが」

　私に言わせれば、あれは強姦も同然だったんだけどな…。
　価値観の違いなのか、彼にとっては違うらしい。

「俺が好きなんだろう？」

　アイスブルーの目が、私の心を見透かそうとする。

「す…好きじゃありません」
「じゃあ、嫌いか？」
「嫌いじゃ…ありません」
「どっちなんだ」
「う…。そういうの、ずるいです…。ガイア様は私を好きじゃないのに…私にばっかり言わせようとするなんて」
「好きじゃないなんて言ってないだろ？」
「…え？」
「言葉なんて紡ぐだけ野暮だな」

　彼は私の口を塞ぐように口づけた。
　息も吸えないほど濃厚に舌を絡めてくる。
　それだけで、頭の芯が痺れる。
　今の言葉の続きを聞きたいのに…。
　私の思考を奪おうと、股間に彼の指が侵入してくる。

「んっ…やっ…」
「ここ、好きだろ？」

　彼の指が遠慮なく蜜壺に突っ込まれる。
　指が抜き差しされると、温かい湯が流れ込んできて、いつもと違う感覚を味わった。

「ああんっ、や…ん」

　反射的に腰が動いてしまう。
　指を抜き差しされ、あまりの快感にまたイってしまう。

「いい顔をするようになったな」

　ガイアは私の達する表情を見ていた。
　めちゃくちゃ恥ずかしくて、思わず顔を両手で覆った。

「恥ずかしい…」
「隠すな。おまえの感じている顔を見たい」

　湯の中で彼の指が私の内部を蹂躙し続ける。
　お尻に、硬いものが当たっている。
　それは屹立した彼のモノだとわかった。

「おまえの中に挿れてくれ」
「…はい」

　私は彼の膝の上に跨り、彼の分身の上にゆっくりと腰を下ろした。
　私のそこは湯の中にも関わらず、たっぷりと蜜を含んで、待ち焦がれたように逞しい彼を吞み込んでいった。

「あっ…ん、ガイア様の…入ってきた…」
「おまえの中、気持ちいいぞ…。それに…この香りが俺を狂わせる…」

　ガイアは私の首筋をペロリと舐めた。
　私は両腕で彼の首に掴まった。
　そうしていないと、彼の突き上げる動作に、体を持って行かれそうになる。
　向かい合って抱き合い、私の体は彼の膝の上で弾むように上下した。
　彼が激しく腰を突き上げるたびにお湯がちゃぷちゃぷと音を立てる。
　いつの間にか結わえていた髪がほどけてしまっていた。

「っ…ガイア様…、っ、気持ち、いい…」
「ああ…、すげえいい…」

　ガイアは繋がったまま私を抱え上げて立ち上がり、階段の上のドラゴン像の台座に私を座らせた。
　私の両太腿を抱え、激しく内部を突き上げた。

「あんっ、あっあっ…」
「サラ」

　彼は私の名を呼ぶと、唇を重ねてきた。
　キスしながら奥まで突き入れられ、いつも以上に感じてしまう。

「んーっ…！」

　私の最奥を貫いたまま、彼は動きを止めた。
　身もだえする程の快感が私の全身を駆け抜けた。

「おまえは俺のものだ…。誰にも渡さない」

　確かにそう聞こえた。
　私は彼の言葉を心の中で何度も反芻した。

　…好きじゃないなんて言ってないだろ？

　あれは、ガイアが私のことを、好きってこと…？
　女をとっかえひっかえするようなモテ男が、こんなイケてない私を…？
　ありえない、ありえない…。
　きっと、女を喜ばせるための話術なんだ。
　…そうに決まってる。

　だけど、もし本当なら…。

　先に私がイったのを確認して、再び彼が動き出した。
　私はドラゴン像の台座に横たえられ、両脚を彼の肩に担がれる形で貫かれた。
　彼の息が荒くなる。
　だけど、イきそうになると彼は私の中から抜いてお腹の上に射精した。
　ここでは香を焚けないからだと気づいた。
　それは奴隷を不用意に妊娠させないための配慮なのだろうけど、感じれば感じる程、その行為がもどかしくて仕方がなかった。

　私の中でイって欲しい。
　孕んでも構わないから、注いでほしい。

「好き…」

　無意識に口走っていた。