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第二章

第二章第44話 剣姫 vs. 謎の魔物(前編)

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 一気に距離を詰めたエレナは右の前脚に連撃を叩き込むとそのままひらりと飛び退る。魔物は不快そうに唸り声を上げると右脚を振り払うがすでにその場からエレナは離れており、その攻撃は空を切った。

「グルルルル」

 不愉快そうに唸り声をあげた魔物は大きく息を吸い込むと、再び天井付近に赤く燃える岩が出現した。その岩はエレナのほうに目掛けて飛んでいくが素早い動きでそれを躱したエレナは再び右の前脚に連撃を叩き込んだ。

 それに対して先ほどと同じように右前脚を大きく振ってエレナに攻撃をしようした魔物の攻撃は空を切る。

「グオォォォォォォォォ」

 咆哮をあげた魔物の巨体が先ほどと同じように白く帯電し始めた。そして魔物がエレナのほうを睨み付けた瞬間、エレナの展開していた氷の剣の一本が魔物の後頭部を強襲する!

 バキッ、という鈍い音と共に氷の剣は後頭部に直撃した。

「グガァァァァァァ」

 魔物はその衝撃に後ろを振り返り、滅茶苦茶に電撃を飛ばした。

「こっちよ」

 エレナは小馬鹿にしたような口調でそう言うと再び右前脚に連撃を叩き込んだ。

 三度目となるこの攻撃はようやく実を結び、右前脚から鮮血が流れ出す。

「ガァァァァァァ!」

 痛みを感じたのだろう。魔物は怒りの形相でエレナを叩き潰そうと両の前脚で攻撃を繰り出してきた。

 ブン、ブンという音を立てて見るからに重そうな一撃が繰り出されては空を切り、エレナはそれに合わせてカウンターの斬撃を体のあちこちに当てていく。

 戦っているエレナはさながら踊りでも踊っているかのようだ。

「す、すごい……」

 あまりの戦いに思わず俺は見とれてしまった。

「そうですわね。ディーノ様の想い人は素敵ですわね」
「……」

 いや、そういうわけでは……。

 ただ、今のエレナはすごく優雅できれいだと思う。

 あの自分勝手でわがままですぐに暴力を振るってくる幼馴染ではなく、見惚れるほどに美しい戦いをする『剣姫』だ。

 あれが……剣姫か。

 なれるわけがないというのは分かっている。

 だが、それでも何故か隣に立って戦いたいという気持ちが湧いてくるのはなぜだろうか?

 そんな不思議な感情に戸惑っていると、メラニアさんは優しい笑顔を浮かべる。

「大丈夫ですわ。ディーノ様だって、ひたむきに努力をするということができる方ですもの。きっといつか、隣に立って守ってあげられる日がきますわ」
「え? そう、でしょうか……」
「ええ。きっとですわ。ディーノ様が努力をし続ければきっと」
「……」

 そうなのだろうか? だが、メラニアさんにそう言ってもらえるとなんだかできそうな気がしてくる。

 一方の戦いは膠着状態に陥っているようだ。

 エレナは攻撃をくらっていないが、どうやら一撃が軽すぎて決定打は与えられていないようだ。

 宙に浮いていた氷の剣もすでに八本が魔物の体に突き刺さっており、残る二本は随分と離れた場所に浮かんでいる。

「ガアァァァァァァァァッ!」

 しびれを切らしたのか、魔物はひと際大きな咆哮を上げると大きく息を吸い込んだ。

 また隕石か?

 そう思って上を見るが隕石は現れず、今度は魔物の全身から衝撃波が放たれた。

 衝撃波は魔物を中心にしてあっという間に広がっていく。

「くっ!」

 俺は断魔の盾を前に出してメラニアさんを衝撃から庇う。

「くそっ! なんだこれは!」
「くっ。エレナちゃん! 大丈夫かい?」

 ルイシーナさんを庇っているリカルドさんがそう悪態をつき、攻撃を仕掛ける隙を探っていたカリストさんはそう叫んだ。

 だが、先ほどまで魔物と戦っていたはずのエレナの姿はそこにはない。

 え? まさかやられたのか?

「エレナ? おい! エレナ!?」

 俺は慌ててそう叫ぶが返事はない。

「そんな……」

 エレナがやられたかもしれない。そんな事実に頭が真っ白になりかけた。

 だが次の瞬間、高速で忍び寄ってきた氷の剣の一つが魔物の顎を下から突き刺さした。

「ガッ!?」

 魔物は驚いて下を見るが当然そこには誰もいない。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 エレナの気合の入った声が上から聞こえてくると次の瞬間、エレナは上から落下してきて魔物の首筋に一撃を加えた。

 バシュッという音ともに魔物の首から血しぶきが飛び散る。

「グガァァァァァァァ!」

 魔物は苦痛に顔を歪める。だが、それでも致命傷には至っていないようだ。

 咆哮を上げると白く輝き帯電し始める。

 その規模は先ほどのものよりもかなり大きそうだ。

「まずい! みんな、離れるんだ!」

 カリストさんの号令でみんな魔物からさっと離れて距離を取る。

 だがエレナはその指示に従わない。

「エレナ! 離れろ!」

 俺はそう叫ぶが声が聞こえていないのか、エレナは電撃を放つであろう魔物に自分から向かっていってしまう。

 そして次の瞬間、すさまじい数の電撃が魔物から無数に放たれた。とてもではないが、その一撃を避ける場所など見当たらない。

「エレナ!」

 俺は思わずエレナの名を呼んだのだった。

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次回更新は通常通り、2021/05/02 (日) 21:00 を予定しております。
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