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第137話 奇襲作戦の是非

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「倒す、ですか? 一体どうなさるおつもりですか?」
「その点については、キエルナにお任せください」

 エルドレッド様は自信満々にそう答えた。

「ですが!」
「その作戦のため、私はホリーさん、ショーズィさんを連れて一度ボーダーブルクを離れます」
「え?」

 かなり頼りにされているという自覚もあるし、私が今ボーダーブルクを離れたら大変なことになるのではないだろうか?

 そんな私の心配を代弁するかのようにローレンスさんが反対する。

「お待ちください。ホリー先生が怪我人の治療をしてくれているからこそ、あれだけの攻撃を受けながらも被害がたったこれだけで済んでいるのです」
「今回の作戦にはホリーさんの力が必要となります。その代わり、ボーダーブルクへは我が父である魔王陛下に直々に出てもらうように私が説得します」
「魔王陛下が!?」

 ローレンスさんは驚きを隠しきれない様子だ。それもそのはずだ、魔王様の親征など聞いたことがない。

「はい。まずは戦線をコーデリア峠よりも南側に押し返す必要があります。そしてその戦線には黒髪の戦士ミヤマーを抑えることができる者が必要です。それをするには我々魔族の最高戦力である魔王陛下が最適です」
「しかし一体どうやってサンプロミトに攻め込むおつもりですか? 人が通れるのはこのあたりだけだからこそボーダーブルクが常に盾となってきたのです。よもやあの高い山々を越えるおつもりなどとはおっしゃいませんようね?」
「そうですね。通常の方法ではあの山々を越えて進軍するのは不可能でしょう。だからこそ、戦線を南側に押し返す必要があるのです」

 するとローレンスさんは納得したような表情になった。

「なるほど、つまり作戦としては、敵の戦力を釣りだしたうえで別働隊がサンプロミトを叩くということですね?」

 それに対してエルドレッド様は紳士然とした笑みを浮かべた。それを肯定と受け取ったのか、ローレンスさんは小さく頷いた。

「それでしたらたしかに実現は可能そうですね。それに魔王陛下がお出ましになるならそれほど心強いことはありません。ですが先の爆発でボーダーブルクは壊滅的な被害を受けていますし、我が軍も爆発によって相当な兵を失っています。これ以上攻撃を続けることは不可能です」
「そうですね。ですから魔族領の各都市にも増援の依頼、いえ、父に命令を出してもらいましょう」
「それであれば……」

 ローレンスさんは少しほっとしたような表情を見せたが、すぐにエルドレッド様への質問を再開する。

「しかしどうしても腑に落ちないことがあります。なぜホリー先生を後ろに退かせるのでしょうか? ホリー先生の貢献が計り知れないことはこの場に居る皆が知っていることです。そのホリー先生を――」
「ローレンス、そのくらいにしておけ」

 するとそこへオリアナさんが割り込んできた。

「我々は元々ホリー先生なしでやってきたではないか。たしかにホリー先生の存在は心強いが、敵の目的の一つがホリー先生の誘拐なのだ。中途半端な位置に置いて別働隊に奇襲でもされたら目も当てられないだろう」
「……承知しました」

 ローレンスさんはあまり納得していない様子ではあるものの、エルドレッド様への質問をやめて引き下がった。

 オリアナさんも私が下がることに賛成らしい。私の身の安全を考えてということならばもっと他にうまい方法はないのだろうか?

 治療する以外のことはさっぱり分からないため、どうしたらいいのかも分からないのだが……。

「ではサンプロミトへの攻撃はキエルナが責任をもって準備します」
「では次の議題だが……」

 こうして私は反対することもできず、ボーダーブルクからの撤退が決まったのだった。

◆◇◆

 会議が終わった後、私はオリアナさんの執務室へと呼び出された。私が執務室に行くと、そこにはオリアナさんだけでなくエルドレッド様、ショーズィさん、マクシミリアンさんが集まっている。

「オリアナさん……」
「ああ、来たな。先ほどは突然後ろに下がれ、などと言われて驚いたことだろう」
「はい。私が治療をしないと……」
「分かっている。だがな。下がって守られていろと言っているわけではないはずだ」
「え? どういうことですか?」
「私の推測だが、エルドレッド殿下の考えているサンプロミトへの奇襲作戦はホリー先生がいないと成立しないのではないか?」
「えっ!? どういうことですか?」

 私は驚き、思わずエルドレッド様の顔を見た。

 するとなんとエルドレッド様は頷いたではないか!
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