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第113話 結末
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「貴様! ホリー先生を放せ! この誘拐犯が!」
オリアナさんが私を助けようと立ちふさがってくれる。
「……魔族め。だがホリーさんはもう俺が助けた。ホリーさんを奪うなど、許さない。ホリーさんを奪われるくらいなら……」
そう言ってショーズィは目の前にオレンジ色の光の球を二つ生み出した。そしてそのうちの一つをオリアナさんのほうに飛ばす。
オリアナさんは片手でそれを弾き飛ばしたが、遠くの地面に着弾して激しく爆発した。
そしてもう一つの光の球は……なんと私の顔面すれすれの場所に浮いている。
この光の球が爆発したら私は……!
あまりの恐怖に私はカタカタと震え、視界が涙でにじんできた。
そんな私にこの男は優しい声で囁く。
「ホリーさん、大丈夫ですよ。卑怯な魔族が攻撃してこなければ大丈夫ですから」
安心なんてできるわけがない。私は今、この男に殺されそうになっているのだ。
「貴様は本当にホリー先生を助けたいのか?」
「ホリーさんが魔族に操られた姿を見続けるくらいなら!」
「貴様……!」
オリアナさんの悔しそうな声がオレンジ色の向こうから聞こえてくる。
嫌だ。助けて。
そう叫びたいのに、私の口からは小さな悲鳴しか出てきてくれない。
やがてオリアナさんが道を譲ったのか、この男は私を抱えたまま走りだした。
私の視界は相変わらずオレンジ一色だが、かなりのスピードが出ているのであろう。
しかし、突然その動きが止まった。
「なっ!? なんだこれ? 魔族め! なんてことを!」
怒りにわなないているのだろうか?
私を抱える両手が小刻みに震え、掴まれている太ももが強く握られる。
「痛っ」
「あ! ごめんなさい。でもほら。魔族どもはこんなひどいことを」
そう言ってこの男は私の視界を塞いでいたオレンジ色の光の球をどこかへやった。
するとそこには大量の冷たい水でぐちゃぐちゃになった人族の陣地の跡があった。
私が思っていたよりも残っている人族の兵士が少ないのは、やはり私たちの兵士が制圧した後だからだろうか?
「あいつら、人の命をなんだと思ってるんだ。兵士を土石流で殺すなんて」
「え?」
いや、そんなはずはない。戦場に出てくる兵士が身体強化を使えないはずがない。
あれ? でもそういえば人族は魔族と比べて魔力が低いと聞いていたけれど、もしかして兵士なのに身体強化を使えない人もいたということ?
「ホリーさん、これが魔族の本性なんですよ。大丈夫です。教皇様のところに行けば正気に戻してもらえますから」
相変わらずの虚ろな瞳で意味不明なことを言ってきた。
……えも知れない恐怖が背筋を駆け抜ける。
いやだ! このまま連れていかれたら私は!
「ホリーさん! 聖域の奇跡を使ってください!」
「っ!」
突然聞こえてきたエルドレッド様の声に、私はすぐさま聖域の奇跡を使った。
「がっ!? ごあああああああああああ!」
この男は獣じみた叫び声をあげ、私は地面に落下した。
お尻を強かに打ってしまい、ジンジンとした痛みが伝わってくる。だが、私の頭上からはそれどころではない異常な叫び声が聞こえてきている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
頭を両手で抱え、ブンブンと頭を振りながらよろめいているこの男から一刻も早く離れようと尻もちを突いたまま後ずさる。
「ホリーさん!」
エルドレッド様の叫び声が聞こえ、この男の姿が視界から消えた。
「大丈夫ですか? すみません。合流が遅れました」
「エ、エルドレッド様……」
思わず涙がボロボロと零れ落ちてしまった。
「ホリーさん、よく頑張りました。怖かったですね」
エルドレッド様は屈み、私を優しく抱きしめてくれる。私はその厚い胸板に顔を埋め、ワンワンと泣いてしまった。
「よく頑張りました。もう大丈夫です」
そう言って私の頭を優しく撫でながら、背中をポンポンと叩いて落ち着かせてくれる。
やがて気分が落ち着いてきた私はそっとエルドレッド様の体を押した。
「あ、あの……すみません」
「大丈夫ですよ」
そう言ってくれたエルドレッド様の視線の先にはあの男が立っていた。
もう獣じみた叫び声を上げておらず、目も虚ろなままだ。
「エルドレッド様、聖域の奇跡ではダメでした。怯ませることはできたんですけど……」
するとエルドレッド様は首を横に振った。
「いえ、ちゃんと効果がありましたよ」
「え?」
「あの男の鎧の下に秘密があるようです。本来ならこのまま首を刎ねてやりたいところですが、どうもあの男には色々と聞きだす必要があります。すぐに済ませるのでここで待っていてください」
エルドレッド様はそう言って私の前に出た。だがエルドレッド様は剣を持っていないではないか!
「エルドレッド様? 剣は……」
「大丈夫ですよ」
自信満々な様子で歩いていくエルドレッド様にあの男は虚ろな瞳を向ける。
「魔族! 魔族魔族魔族魔族魔族魔族魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ええ、魔族ですよ。人族」
そう言ったエルドレッド様の姿が消えた。
気が付けばあの男の腹にエルドレッド様の左の拳がめり込んでおり、男の体がくの字に曲がっている。
「がっ……はっ……」
「この鎧は……なるほど。これで壊れますね」
エルドレッド様があの男の鎧に手を当てる。それから何かの魔法を発動すると、男の着ている鎧が粉々に砕け散った。
エルドレッド様は無言であの男の頭を右手でつかみ、そのまま顔面を地面に叩きつける。
ドスン、と鈍い音がし、もうもうと土煙が立ち上る。
続いてエルドレッド様はまるでボールをけるかのようにあの男の頭を蹴った。その衝撃であの男の体が半回転して仰向けになる。
あ、あれはいくらなんでも死んでしまうのではないだろうか?
いや、敵の兵士なのだから戦場で死ぬのは当然なのかもしれないが……やはり薬師である私としては命が失われるのを黙ってみていることはできない。
「エルドレッド様! そのままでは死んでしまいます」
「この男の身体強化は切れていませんから、この程度では死にません。ですが、ホリーさんにお見せするような行為ではありませんでしたね。失礼しました」
エルドレッド様はそう言って紳士的に微笑んだが、どことなく怒りのような感情が透けて見える。
「さて、何が原因でしょうね?」
エルドレッド様があの男を調べようとすると、男の胸元で輝くおかしな形のネックレスのトップにはめ込まれた赤い宝玉が妖しい光を放った。
「が、ぐあああああああ!」
男は呻き声を上げると、寝ていた状態からビクンと飛び跳ねて一気に立ち上がった。
だがその顔面はあちこちが切れており、鼻がおかしな方向に曲がっている。
「魔族ぅぅぅぅぅぅぅ! 俺は! ホリーさんを! 助けるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
男の体が再びオーラのようなもので包まれる!
そしてエルドレッド様に斬りかかってきたが、エルドレッド様の右の拳が男の顎に突き刺さった。
男はそのまま失神し、その場に崩れ落ちる。
エルドレッド様は左手で男の頭を掴んで持ち上げると、男の首にかかったネックレスをじっと観察した。
「……なるほど。そういうことですか」
男を仰向けに寝かせたエルドレッド様は私のほうを見てきた。
「ホリーさん、このネックレスについている赤い宝玉を覚えて言いますか?」
「あっ! ゾンビの!」
「そうです。おそらくこの男は呪いをかけられ、操られていたのでしょう。幸いなことに作りは同じですから、ホワイトホルンでやったように解呪の奇跡でこの宝玉内に封じられた呪いを解きましょう」
「わかりました」
それからエルドレッド様は次々と魔法をかけていく。
「ホリーさん、ここにお願いします」
「はい」
私は言われたとおりの場所に集中して解呪の奇跡をかけた。
するとさしたる抵抗もなく解呪の奇跡は赤い宝玉に吸い込まれ、あっという間に呪いは解かれた。
私が解呪の奇跡の発動をやめると、エルドレッド様も一つ一つ赤い宝玉にかけていた魔法を解いていった。
それからエルドレッド様は優しい紳士的な笑顔を浮かべ、私の頭をポンポンと優しく叩いてくれた。
「ホリーさん、本当によく頑張りましたね。これでもう大丈夫です」
「は、はい。ありがとうございます……」
私はそわそわした気分になりながらも、なんとかそう答えたのだった。
オリアナさんが私を助けようと立ちふさがってくれる。
「……魔族め。だがホリーさんはもう俺が助けた。ホリーさんを奪うなど、許さない。ホリーさんを奪われるくらいなら……」
そう言ってショーズィは目の前にオレンジ色の光の球を二つ生み出した。そしてそのうちの一つをオリアナさんのほうに飛ばす。
オリアナさんは片手でそれを弾き飛ばしたが、遠くの地面に着弾して激しく爆発した。
そしてもう一つの光の球は……なんと私の顔面すれすれの場所に浮いている。
この光の球が爆発したら私は……!
あまりの恐怖に私はカタカタと震え、視界が涙でにじんできた。
そんな私にこの男は優しい声で囁く。
「ホリーさん、大丈夫ですよ。卑怯な魔族が攻撃してこなければ大丈夫ですから」
安心なんてできるわけがない。私は今、この男に殺されそうになっているのだ。
「貴様は本当にホリー先生を助けたいのか?」
「ホリーさんが魔族に操られた姿を見続けるくらいなら!」
「貴様……!」
オリアナさんの悔しそうな声がオレンジ色の向こうから聞こえてくる。
嫌だ。助けて。
そう叫びたいのに、私の口からは小さな悲鳴しか出てきてくれない。
やがてオリアナさんが道を譲ったのか、この男は私を抱えたまま走りだした。
私の視界は相変わらずオレンジ一色だが、かなりのスピードが出ているのであろう。
しかし、突然その動きが止まった。
「なっ!? なんだこれ? 魔族め! なんてことを!」
怒りにわなないているのだろうか?
私を抱える両手が小刻みに震え、掴まれている太ももが強く握られる。
「痛っ」
「あ! ごめんなさい。でもほら。魔族どもはこんなひどいことを」
そう言ってこの男は私の視界を塞いでいたオレンジ色の光の球をどこかへやった。
するとそこには大量の冷たい水でぐちゃぐちゃになった人族の陣地の跡があった。
私が思っていたよりも残っている人族の兵士が少ないのは、やはり私たちの兵士が制圧した後だからだろうか?
「あいつら、人の命をなんだと思ってるんだ。兵士を土石流で殺すなんて」
「え?」
いや、そんなはずはない。戦場に出てくる兵士が身体強化を使えないはずがない。
あれ? でもそういえば人族は魔族と比べて魔力が低いと聞いていたけれど、もしかして兵士なのに身体強化を使えない人もいたということ?
「ホリーさん、これが魔族の本性なんですよ。大丈夫です。教皇様のところに行けば正気に戻してもらえますから」
相変わらずの虚ろな瞳で意味不明なことを言ってきた。
……えも知れない恐怖が背筋を駆け抜ける。
いやだ! このまま連れていかれたら私は!
「ホリーさん! 聖域の奇跡を使ってください!」
「っ!」
突然聞こえてきたエルドレッド様の声に、私はすぐさま聖域の奇跡を使った。
「がっ!? ごあああああああああああ!」
この男は獣じみた叫び声をあげ、私は地面に落下した。
お尻を強かに打ってしまい、ジンジンとした痛みが伝わってくる。だが、私の頭上からはそれどころではない異常な叫び声が聞こえてきている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
頭を両手で抱え、ブンブンと頭を振りながらよろめいているこの男から一刻も早く離れようと尻もちを突いたまま後ずさる。
「ホリーさん!」
エルドレッド様の叫び声が聞こえ、この男の姿が視界から消えた。
「大丈夫ですか? すみません。合流が遅れました」
「エ、エルドレッド様……」
思わず涙がボロボロと零れ落ちてしまった。
「ホリーさん、よく頑張りました。怖かったですね」
エルドレッド様は屈み、私を優しく抱きしめてくれる。私はその厚い胸板に顔を埋め、ワンワンと泣いてしまった。
「よく頑張りました。もう大丈夫です」
そう言って私の頭を優しく撫でながら、背中をポンポンと叩いて落ち着かせてくれる。
やがて気分が落ち着いてきた私はそっとエルドレッド様の体を押した。
「あ、あの……すみません」
「大丈夫ですよ」
そう言ってくれたエルドレッド様の視線の先にはあの男が立っていた。
もう獣じみた叫び声を上げておらず、目も虚ろなままだ。
「エルドレッド様、聖域の奇跡ではダメでした。怯ませることはできたんですけど……」
するとエルドレッド様は首を横に振った。
「いえ、ちゃんと効果がありましたよ」
「え?」
「あの男の鎧の下に秘密があるようです。本来ならこのまま首を刎ねてやりたいところですが、どうもあの男には色々と聞きだす必要があります。すぐに済ませるのでここで待っていてください」
エルドレッド様はそう言って私の前に出た。だがエルドレッド様は剣を持っていないではないか!
「エルドレッド様? 剣は……」
「大丈夫ですよ」
自信満々な様子で歩いていくエルドレッド様にあの男は虚ろな瞳を向ける。
「魔族! 魔族魔族魔族魔族魔族魔族魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ええ、魔族ですよ。人族」
そう言ったエルドレッド様の姿が消えた。
気が付けばあの男の腹にエルドレッド様の左の拳がめり込んでおり、男の体がくの字に曲がっている。
「がっ……はっ……」
「この鎧は……なるほど。これで壊れますね」
エルドレッド様があの男の鎧に手を当てる。それから何かの魔法を発動すると、男の着ている鎧が粉々に砕け散った。
エルドレッド様は無言であの男の頭を右手でつかみ、そのまま顔面を地面に叩きつける。
ドスン、と鈍い音がし、もうもうと土煙が立ち上る。
続いてエルドレッド様はまるでボールをけるかのようにあの男の頭を蹴った。その衝撃であの男の体が半回転して仰向けになる。
あ、あれはいくらなんでも死んでしまうのではないだろうか?
いや、敵の兵士なのだから戦場で死ぬのは当然なのかもしれないが……やはり薬師である私としては命が失われるのを黙ってみていることはできない。
「エルドレッド様! そのままでは死んでしまいます」
「この男の身体強化は切れていませんから、この程度では死にません。ですが、ホリーさんにお見せするような行為ではありませんでしたね。失礼しました」
エルドレッド様はそう言って紳士的に微笑んだが、どことなく怒りのような感情が透けて見える。
「さて、何が原因でしょうね?」
エルドレッド様があの男を調べようとすると、男の胸元で輝くおかしな形のネックレスのトップにはめ込まれた赤い宝玉が妖しい光を放った。
「が、ぐあああああああ!」
男は呻き声を上げると、寝ていた状態からビクンと飛び跳ねて一気に立ち上がった。
だがその顔面はあちこちが切れており、鼻がおかしな方向に曲がっている。
「魔族ぅぅぅぅぅぅぅ! 俺は! ホリーさんを! 助けるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
男の体が再びオーラのようなもので包まれる!
そしてエルドレッド様に斬りかかってきたが、エルドレッド様の右の拳が男の顎に突き刺さった。
男はそのまま失神し、その場に崩れ落ちる。
エルドレッド様は左手で男の頭を掴んで持ち上げると、男の首にかかったネックレスをじっと観察した。
「……なるほど。そういうことですか」
男を仰向けに寝かせたエルドレッド様は私のほうを見てきた。
「ホリーさん、このネックレスについている赤い宝玉を覚えて言いますか?」
「あっ! ゾンビの!」
「そうです。おそらくこの男は呪いをかけられ、操られていたのでしょう。幸いなことに作りは同じですから、ホワイトホルンでやったように解呪の奇跡でこの宝玉内に封じられた呪いを解きましょう」
「わかりました」
それからエルドレッド様は次々と魔法をかけていく。
「ホリーさん、ここにお願いします」
「はい」
私は言われたとおりの場所に集中して解呪の奇跡をかけた。
するとさしたる抵抗もなく解呪の奇跡は赤い宝玉に吸い込まれ、あっという間に呪いは解かれた。
私が解呪の奇跡の発動をやめると、エルドレッド様も一つ一つ赤い宝玉にかけていた魔法を解いていった。
それからエルドレッド様は優しい紳士的な笑顔を浮かべ、私の頭をポンポンと優しく叩いてくれた。
「ホリーさん、本当によく頑張りましたね。これでもう大丈夫です」
「は、はい。ありがとうございます……」
私はそわそわした気分になりながらも、なんとかそう答えたのだった。
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