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第111話 誘引

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 魔道具の閃光が上空で光った後、上流からものすごい量の水が流れてきて人族の兵士たちを呑み込んでいった。 

 それこそがエルドレッド様が提案した作戦だ。

 あの男が川を渡ったら、そのタイミングで上流にある農業用の貯水池を破壊して鉄砲水を流す。

 するとボーダーブルク側は高台になっているため、冷たい水は人族のほうだけを一方的に襲うのだ。

 そうすれば人族の軍を分断できるうえ、冷たい水に流された兵士たちは寒さに凍えることとなる。

 といっても兵士ならば身体強化くらいはできるはずなので、風邪をひくことはあっても命を落とすようなことはないだろう。

 あとは私たちの兵士が行って、弱った人族の兵士たちを捕虜にするという算段だ。

 ただ今回はあまりにも敵軍の数が多いため、大半はすぐに人族の領域に送り返すことになりそうだが……。

 そうして見ていると、私たちの兵士たちが徐々に移動を始める。

 きっとオリアナさんがあの男を上手く引き付けてくれているのだろう。

 さあ、あとは私があの男を説得するだけだ。

 私がぐっと気合を入れると、マクシミリアンさんが真剣な表情で私を見てきた。

「姫様、ご安心くだされ。このマクシミリアン、身命を賭してお守りいたしますじゃ」
「はい。ありがとうございます」

 するとマクシミリアンさんは微妙な表情で私を見てくる。

「あ! マクシミリアンの働きに期待します」
「お任せくだされ」

 マクシミリアンさんは嬉しそうにそう答えたのだった。

◆◇◆

「魔族魔族魔族魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 将司はうつろな瞳のままそう叫び、オリアナに次々と攻撃を加えていく。

 だが先ほどまでとは違ってがむしゃらに突っ込むのではなく、きちんと隙を見計らって攻撃をするようになっていた。

 剣による攻撃だけでなく魔法も使っており、しかも魔法をオリアナが避ければ他の者に命中するように撃っている。

「こいつ、どうなっているのだ?」

 オリアナは将司の表情と叫び声、そして攻め方のあまりのギャップに困惑しているようだ。

「魔族、死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 将司は斬撃を放つとすぐに身体強化を発動し、斬撃を追いかけるようにしてオリアナとの距離を詰める。

「こいつ!」

 オリアナはレイピアで斬撃を弾くと目にも止まらぬ速さの突きを放った。しかし将司はそれにしっかり反応し、オリアナの剣を下から力まかせに弾いた。

 キィン!

 金属同士がぶつかる激しい音と共にオリアナのレイピアは宙を舞った。

「魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 将司は渾身の突きを弾かれて体勢の崩れたオリアナに向けて剣を力まかせに振り下ろす。

 数えきれないほどの魔族の血を吸った将司の剣がオリアナの体を真っ二つにする……かと思われたが、オリアナは先ほど将司がやったのと同じように自らの体に突風をぶつけ、体一つ分ほどの距離を吹き飛ばすことで無理やりその斬撃を躱した。

 将司の放った一撃は地面にぶつかり、斬撃が地面を走る。

「ああああああ! 魔族! 殺す!」

 すぐさま将司は剣を横にぎ払おうとしたが、その一撃が振るわれる前にオリアナは将司の顔面に掌底を叩き込んだ。

ぜろ!」

 オリアナがそう叫んだ瞬間、将司の顔面で魔法が炸裂し、将司の体は大きく吹き飛んだ。

 放物線を描き、二十メートルほど吹き飛ばされた将司だったがひらりと着地する。

 その隙にオリアナは吹き飛ばされた自身のレイピアを拾い、再び構えた。

 すると将司は相変わらずの虚ろな瞳でオリアナを睨みつけると、憎しみのこもった声で叫ぶ。

「魔族! 魔族魔族魔族魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 あまりに異様な将司の様子に恐怖を覚えたのか、オリアナは半歩下がった。

 それを見逃さず、将司は一気呵成いっきかせいにオリアナを攻めたてた。オリアナは成すすべなくズルズルと後退をしていく。

 だがオリアナは将司の攻撃を喰らわずになんとか受け流し続け、百メートルほどの距離を後退した。

 と次の瞬間、戦いを見守っていた兵士たちの間から突然マクシミリアンが飛び出してきた。マクシミリアンはあっという間に将司との距離を詰めると、横やりを入れる。

「ショーズィ殿! 止まるのじゃ!」
「なっ!? 師匠? ああ、師匠も魔族に操られたんですね。なら仕方ない。師匠は楽にしてあげますよ」

 声色こそ悲しそうなものの、虚ろな瞳に能面のような表情でそう言い放った将司はマクシミリアンに容赦なく剣を振るった。

 瞬く間に何度も金属同士がぶつかり合う激しい音が鳴り響く。

「ショーズィ殿! ワシは操られてなどおらん!」
「可哀想に。操られているのに気付けないなんて……」

 そう言いながらも一切の手加減をせず、マクシミリアンの急所を目掛けて容赦ない連撃を加えていく。

 するとマクシミリアンの背後から声が響く。

「ホリー、今だ!」
「うん!」
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