魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第64話 戦況

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 私は再びボーダーブルクにあるボーダーブルク軍臨時病院にやってきた。

「ホリー先生! ああ! ホリー先生! 来て下さったんですね! ありがとうございます」

 病院前に到着した私を見つけたチャールズさんがものすごい勢いで駆け寄ってきた。

「チャールズさん、こんにちは」
「ああ! 本当に良かった!」
「あの、どうしたんですか? そんなにまずいんですか?」
「そうなんです! もう我々だけではどうしようもなくて! さあ! こちらへ」
「え? あ、はい」

 私はチャールズさんに連れられ、病院の中へと足を踏み入れた。するとなんと、エントランスを抜けた先の廊下にまで怪我人が寝かされている。

「チャールズさん、病室って……」
「もう満室なんです。かといってあっちの人族の捕虜収容所に入院させるわけにもいかないんで……」
「……わかりました。重症の人から治療しますね」
「お願いします!」

 チャールズさんに案内されて彼らの脇を通り抜けると、まるで不審者を見つけたかのような表情を向けられた。中には憎しみのこもった目で睨んでくる患者さんもいる。

 やはり人族と戦場で戦った人にとって、金髪の私は敵に見えるだろう。

 それでも、私は私のやるべきことをやるだけだ!

「こちらです」
「はい」

 そうして通された部屋には重傷者が所狭しと寝かされていた。しかもベッドがぎゅうぎゅうに敷き詰められており、どう見ても部屋の広さと収容している患者さんの数が釣り合わない。

 それと、どうやら火傷を負っている患者さんがかなり多いようだ。

「……治療します」
「お願いします! ホリー先生!」
「はい」

 私は一番手前にいる患者さんを治療しようとベッドサイドに近づいた。

 頭に、そして体中に酷い傷を負って苦しそうな表情を浮かべているその患者さんに私は見覚えがある。

「……あの、アーノルドさん、ですよね?」
「……はい。そのとおりです」

 チャールズさんは申し訳なさそうに頷いた。

 まさかこんな短期間に二度も重傷を負うなんて……!

「アーノルドさんはラントヴィルで行われた虐殺を発見した部隊に所属していまして、どうしても許せないと最前線で戦うことを志願したのです」
「……そう、ですか」

 アーノルドさんの気持ちは理解できる。私だって魔王様から話を聞いたときは本当に腹が立ったし、許せないと思った。

 ただ、それでもどうにか話し合いで解決してほしい。私の考えが子供じみているのかもしれないが、どうかこんな怪我を負わないでほしいと願ってしまうのだ。

「治療、しますね。アーノルドさん」

 私はすぐさま大治癒の奇跡を発動した。キラキラとした光がアーノルドさんを包み込み、やがて苦しそうな表情が和らいでいく。

 そしてしばらく治療を続けると、アーノルドさんが目を覚ました。

「う……ホリー、せん、せい?」
「はい。アーノルドさん、もう大丈夫ですよ」
「あ、ああ。ありが……とう。これでまた……戦える」

 そう言い残すと、アーノルドさんは気を失った。だがその表情は穏やかで、胸も規則正しく上下している。

 これなら大丈夫そうだ。

「次の治療をします」

 こうして私は片っ端から大治癒の奇跡をかけていくのだった。

◆◇◆

「ホリー先生、お疲れ様でした!」
「あまりたくさん治してあげられなくてすみません」
「そんなことありません! ホリー先生のおかげで明日がないかもしれなかった十人が元気になれたんです!」
「はい。また明日、魔力が回復したら来ますね」
「よろしくお願いします! それまで患者は我々にお任せください!」
「はい」

 こうして私は病院を出ると、身支度をして町庁舎の町長室にやってきた。

「やあホリー、よく来てくれた」
「ご無沙汰しています」

 私はオリアナさんと抱擁を交わして再会を喜び合う。

「ニール、君もわざわざすまないな。ホワイトホルンの衛兵隊からも有志が来てくれると聞いた。ホワイトホルンの連帯に感謝する」
「いえ、侵略から同胞を守るのは当然のことです」
「……そうか。そうだな」

 オリアナさんは複雑な表情を浮かべた。

「オリアナ町長、先ほどホリーと一緒に病院の様子を見てきましたが、どうしてあんなに負傷者が出ているんですか? 相手は人族ですよね?」
「……ああ、そうだな。どうやら連中は我々が想定していたよりも入念に準備をしていたようだ」
「準備?」
「ああ、そうだ。まず連中の基本戦術は森に隠れての奇襲だ。それもこちらに見つからないように矢を射かけたらすぐに森の中に引いていく。そして深追いをすればいつの間にか取り囲まれて矢が雨あられのように降ってくる。これで前面に突出していた部隊の大半がやられてしまった」
「……ですが、そうと分かっていれば」
「ああ。それで兵には盾を持たせ、土壁を作って対応することにした。すると先ほど入ってきた情報だが、今度は我々が密集したところに今度は火を放ってきた」
「火!? そんなことをしたら森は!」
「ああ。人族側の森はかなり焼けたようだ。だが、我々の兵もかなり炎に巻かれて少なくない被害を受けた。今はコーデリア峠からこちらに緊急搬送をしているところだ」
「でも、視界が開けたなら……」
「ああ、そうだな。もう連中に奥の手はないと信じたいが……」

 そう言ってオリアナさんは厳しい表情をする。

「ホリーは、今日着いたばかりなのにもう治療をしてくれたのだな。ありがとう」
「私は薬師ですから、当然のことです」
「……そうか。だが、もう魔力の限界なのだろう? ホテルに部屋を用意してある。食事を含めてすべての料金は我々が持つ。よく食べ、ゆっくり休んでくれ」
「はい」

 こうして私は初日の治療任務を終え、ホテルへと向かうのだった。
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