上 下
55 / 182

第55話 偏見と治療(中編)

しおりを挟む
「ふぅ。これでゾンビになる心配はもうありません。ただ、そろそろ魔力が……」

 部屋中の患者さんに浄化の奇跡と中治癒の奇跡をなんとかかけ終わった。もう少し頑張れそうな気もするが、あまり無理をして倒れては元も子もない。

「ありがとうございます。どうぞこちらへ」

 こうして私は治療を終え、病室を後にしたのだった。

◆◇◆

 翌日、私は再び臨時病院へとやってきた。昨日と同じ入口から中に入ると、なんとそこにはチャールズさんが立って私のことを待っていた。

「ホリー先生! おはようございます! お待ちしていました!」
「えっ? あ、おはようございます。あの、先生というのは?」
「ホリー先生は先生ですから! ホリー先生の奇跡、ものすごい効き目でした!」 
「本当ですか? それは良かったです」

 患者さんが少しでも楽になってくれたならこれほど嬉しいことはない。

「今日は重症の患者さんを治療しますね。あ、それと抗ゾンビ薬が足りないって言ってましたよね?」
「はい」
「もしちゃんと傷口を洗えていない患者さんがいたらそちらの処置もします」
「ありがとうございます! もう準備を整えてありますので、まずはそちらからお願いできますか?」
「え? でも重症の患者さんは?」
「ホリー先生のおかげでかなり元気になっていますから大丈夫です。相変わらず予断を許さない状況ではありますが、今すぐ治療が必要というわけではなくなりました」

 中治癒の奇跡をかけたところでそこまで劇的に回復するはずはないのだが、どういうことだろうか?

 とはいえ、病院のスタッフであるチャールズさんが言うのならきっとそうなのだろう。

「わかりました。案内してください」
「はい。どうぞこちらへ」

 私はチャールズさんに案内され、昨日とは別の部屋にやってきた。

 少し広めのその部屋には三十人ほどの患者さんが集められているが、重傷者はいないようだ。

「こちらが一グループ目で、同じようなグループがあと二つあります」

 それを聞いてチャールズさんの意図が理解できた。きっと病院はこの人たちを早く退院させたいのだろう。

 だが抗ゾンビ薬が不足しているせいでゾンビになるのを防げたという確信が持てず、退院させられないのだ。

 だからこうして隔離し続ける必要があり、結果的に病院のリソースを浪費してしまっているということなのだろう。

「わかりました。三グループだけなら今日中に終わらせられます」
「ありがとうございます!」

 チャールズさんが部屋の中に入ると患者さんにアナウンスを始めた。

「皆さん、ホワイトホルンより奇跡の使い手であるホリー先生がお越しくださいました。ホリー先生の奇跡による治療を受けた患者さんは帰宅できます。順番に行いますので、一列に並んでください」

 すると患者さんの視線が私に一斉に集まった。

「あれ? 金髪?」
「小さいな。子供か?」
「ほら、人族は小さいらしいし」
「ああ、そういえば」
「人族……?」
「大丈夫なのか?」
「どうなんだろうな」

 中には私を訝しむような声もあるようだが、私はそれらが一切聞こえなかったことにした。

「ホリー先生は出口に立っていただき、前に来た患者の治療をお願いします」
「はい。わかりました」

 私はチャールズさんの指示に従い、出口の前で患者さんを待ち構える。

 そして最初の患者さんがやってきた。

「治療しますね」

 私はすぐに浄化の奇跡をかけた。キラキラとした金色の光が患者さんの体を覆う。

 すると後ろで並んでいる患者さんたちがどよめいた。

「すげぇ」
「なんだあれ? あんな魔法、見たことねぇぞ」
「馬鹿だな。奇跡って言ってたじゃねぇか」
「髪が光ってるな」
「あれ? あの娘の瞳、金色だっけ?」
「いや、水色だった気がするぞ」

 そんな話をなんとなく聞いている間に浄化の奇跡は終わった。続いて治癒の奇跡をかけ、患者さんの治療は完了した。

「はい。もう大丈夫です」
「あ、ああ。ありがとう」
「どういたしまして」
「では、この治療札を持ってご帰宅ください。念のため一週間は体調に注意して、何かあればすぐにこの病院を訪れてください。では次の方!」

 チャールズさんが患者さんに札を渡すと患者さんを部屋の外に追い出した。

 するとすぐに次の患者さんがやってくる。

 こうして私は三グループ合わせて百人近い患者さんに奇跡をかけたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!

れもん・檸檬・レモン?
ファンタジー
私には双子の妹がいる この世界はいつの頃からか妹を中心に回るようになってきた・・・私を踏み台にして・・・ 妹が聖女に選ばれたその日、私は両親に公爵家の慰み者として売られかけた そんな私を助けてくれたのは、両親でも妹でもなく・・・妹の『婚約者』だった 婚約者に守られ、冒険者組合に身を寄せる日々・・・ 強くならなくちゃ!誰かに怯える日々はもう終わりにする 私を守ってくれた人を、今度は私が守れるように!

処理中です...