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第55話 偏見と治療(中編)
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「ふぅ。これでゾンビになる心配はもうありません。ただ、そろそろ魔力が……」
部屋中の患者さんに浄化の奇跡と中治癒の奇跡をなんとかかけ終わった。もう少し頑張れそうな気もするが、あまり無理をして倒れては元も子もない。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
こうして私は治療を終え、病室を後にしたのだった。
◆◇◆
翌日、私は再び臨時病院へとやってきた。昨日と同じ入口から中に入ると、なんとそこにはチャールズさんが立って私のことを待っていた。
「ホリー先生! おはようございます! お待ちしていました!」
「えっ? あ、おはようございます。あの、先生というのは?」
「ホリー先生は先生ですから! ホリー先生の奇跡、ものすごい効き目でした!」
「本当ですか? それは良かったです」
患者さんが少しでも楽になってくれたならこれほど嬉しいことはない。
「今日は重症の患者さんを治療しますね。あ、それと抗ゾンビ薬が足りないって言ってましたよね?」
「はい」
「もしちゃんと傷口を洗えていない患者さんがいたらそちらの処置もします」
「ありがとうございます! もう準備を整えてありますので、まずはそちらからお願いできますか?」
「え? でも重症の患者さんは?」
「ホリー先生のおかげでかなり元気になっていますから大丈夫です。相変わらず予断を許さない状況ではありますが、今すぐ治療が必要というわけではなくなりました」
中治癒の奇跡をかけたところでそこまで劇的に回復するはずはないのだが、どういうことだろうか?
とはいえ、病院のスタッフであるチャールズさんが言うのならきっとそうなのだろう。
「わかりました。案内してください」
「はい。どうぞこちらへ」
私はチャールズさんに案内され、昨日とは別の部屋にやってきた。
少し広めのその部屋には三十人ほどの患者さんが集められているが、重傷者はいないようだ。
「こちらが一グループ目で、同じようなグループがあと二つあります」
それを聞いてチャールズさんの意図が理解できた。きっと病院はこの人たちを早く退院させたいのだろう。
だが抗ゾンビ薬が不足しているせいでゾンビになるのを防げたという確信が持てず、退院させられないのだ。
だからこうして隔離し続ける必要があり、結果的に病院のリソースを浪費してしまっているということなのだろう。
「わかりました。三グループだけなら今日中に終わらせられます」
「ありがとうございます!」
チャールズさんが部屋の中に入ると患者さんにアナウンスを始めた。
「皆さん、ホワイトホルンより奇跡の使い手であるホリー先生がお越しくださいました。ホリー先生の奇跡による治療を受けた患者さんは帰宅できます。順番に行いますので、一列に並んでください」
すると患者さんの視線が私に一斉に集まった。
「あれ? 金髪?」
「小さいな。子供か?」
「ほら、人族は小さいらしいし」
「ああ、そういえば」
「人族……?」
「大丈夫なのか?」
「どうなんだろうな」
中には私を訝しむような声もあるようだが、私はそれらが一切聞こえなかったことにした。
「ホリー先生は出口に立っていただき、前に来た患者の治療をお願いします」
「はい。わかりました」
私はチャールズさんの指示に従い、出口の前で患者さんを待ち構える。
そして最初の患者さんがやってきた。
「治療しますね」
私はすぐに浄化の奇跡をかけた。キラキラとした金色の光が患者さんの体を覆う。
すると後ろで並んでいる患者さんたちがどよめいた。
「すげぇ」
「なんだあれ? あんな魔法、見たことねぇぞ」
「馬鹿だな。奇跡って言ってたじゃねぇか」
「髪が光ってるな」
「あれ? あの娘の瞳、金色だっけ?」
「いや、水色だった気がするぞ」
そんな話をなんとなく聞いている間に浄化の奇跡は終わった。続いて治癒の奇跡をかけ、患者さんの治療は完了した。
「はい。もう大丈夫です」
「あ、ああ。ありがとう」
「どういたしまして」
「では、この治療札を持ってご帰宅ください。念のため一週間は体調に注意して、何かあればすぐにこの病院を訪れてください。では次の方!」
チャールズさんが患者さんに札を渡すと患者さんを部屋の外に追い出した。
するとすぐに次の患者さんがやってくる。
こうして私は三グループ合わせて百人近い患者さんに奇跡をかけたのだった。
部屋中の患者さんに浄化の奇跡と中治癒の奇跡をなんとかかけ終わった。もう少し頑張れそうな気もするが、あまり無理をして倒れては元も子もない。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
こうして私は治療を終え、病室を後にしたのだった。
◆◇◆
翌日、私は再び臨時病院へとやってきた。昨日と同じ入口から中に入ると、なんとそこにはチャールズさんが立って私のことを待っていた。
「ホリー先生! おはようございます! お待ちしていました!」
「えっ? あ、おはようございます。あの、先生というのは?」
「ホリー先生は先生ですから! ホリー先生の奇跡、ものすごい効き目でした!」
「本当ですか? それは良かったです」
患者さんが少しでも楽になってくれたならこれほど嬉しいことはない。
「今日は重症の患者さんを治療しますね。あ、それと抗ゾンビ薬が足りないって言ってましたよね?」
「はい」
「もしちゃんと傷口を洗えていない患者さんがいたらそちらの処置もします」
「ありがとうございます! もう準備を整えてありますので、まずはそちらからお願いできますか?」
「え? でも重症の患者さんは?」
「ホリー先生のおかげでかなり元気になっていますから大丈夫です。相変わらず予断を許さない状況ではありますが、今すぐ治療が必要というわけではなくなりました」
中治癒の奇跡をかけたところでそこまで劇的に回復するはずはないのだが、どういうことだろうか?
とはいえ、病院のスタッフであるチャールズさんが言うのならきっとそうなのだろう。
「わかりました。案内してください」
「はい。どうぞこちらへ」
私はチャールズさんに案内され、昨日とは別の部屋にやってきた。
少し広めのその部屋には三十人ほどの患者さんが集められているが、重傷者はいないようだ。
「こちらが一グループ目で、同じようなグループがあと二つあります」
それを聞いてチャールズさんの意図が理解できた。きっと病院はこの人たちを早く退院させたいのだろう。
だが抗ゾンビ薬が不足しているせいでゾンビになるのを防げたという確信が持てず、退院させられないのだ。
だからこうして隔離し続ける必要があり、結果的に病院のリソースを浪費してしまっているということなのだろう。
「わかりました。三グループだけなら今日中に終わらせられます」
「ありがとうございます!」
チャールズさんが部屋の中に入ると患者さんにアナウンスを始めた。
「皆さん、ホワイトホルンより奇跡の使い手であるホリー先生がお越しくださいました。ホリー先生の奇跡による治療を受けた患者さんは帰宅できます。順番に行いますので、一列に並んでください」
すると患者さんの視線が私に一斉に集まった。
「あれ? 金髪?」
「小さいな。子供か?」
「ほら、人族は小さいらしいし」
「ああ、そういえば」
「人族……?」
「大丈夫なのか?」
「どうなんだろうな」
中には私を訝しむような声もあるようだが、私はそれらが一切聞こえなかったことにした。
「ホリー先生は出口に立っていただき、前に来た患者の治療をお願いします」
「はい。わかりました」
私はチャールズさんの指示に従い、出口の前で患者さんを待ち構える。
そして最初の患者さんがやってきた。
「治療しますね」
私はすぐに浄化の奇跡をかけた。キラキラとした金色の光が患者さんの体を覆う。
すると後ろで並んでいる患者さんたちがどよめいた。
「すげぇ」
「なんだあれ? あんな魔法、見たことねぇぞ」
「馬鹿だな。奇跡って言ってたじゃねぇか」
「髪が光ってるな」
「あれ? あの娘の瞳、金色だっけ?」
「いや、水色だった気がするぞ」
そんな話をなんとなく聞いている間に浄化の奇跡は終わった。続いて治癒の奇跡をかけ、患者さんの治療は完了した。
「はい。もう大丈夫です」
「あ、ああ。ありがとう」
「どういたしまして」
「では、この治療札を持ってご帰宅ください。念のため一週間は体調に注意して、何かあればすぐにこの病院を訪れてください。では次の方!」
チャールズさんが患者さんに札を渡すと患者さんを部屋の外に追い出した。
するとすぐに次の患者さんがやってくる。
こうして私は三グループ合わせて百人近い患者さんに奇跡をかけたのだった。
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