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第51話 ボーダーブルクの現状

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 私たちはボーダーブルクへと通じる道の最後の峠にたどり着いた。さすがのニコラさんも恐怖を感じない程度の速さで運転してくれたため、今回は腰が抜けずにすんでいる。

 峠からは眺望が開けており、眼下にはボーダーブルクの町が一望できるのだが、どうやらホワイトホルンと比べるとかなり大きな都市のようで、周囲はとても高い街壁と水堀で囲まれている。

 その水堀の周囲には黒い点が大量に集まっている。

「あー、結構おるなぁ」
「そうですね」
「でも、あれくらいなら大したことないですよ。ホワイトホルンのときは見渡す限りゾンビでしたから」

 たしかにそれはそうだ。埋めつくされているというレベルではないし、街壁だってホワイトホルンのものよりもずっと立派だ。

 あれならば私たちが行かなくても大丈夫だったような気はするけれど……。

「これなら強行突破できそうですね。まずはこちら側のゾンビを制圧してしまいましょう」
「せやな」
「えっ? あんなにいるのにですか?」
「せやで。ここにおるエル坊は、こんなんでも魔王様の息子なんやで? あんくらい一発や」

 自信満々でそういったニコラさんに対してエルドレッド様は否定も肯定もせず、曖昧に微笑んだ。

「ちゅうわけや。行くで?」
「はい」

 こうして私たちを乗せた魔動車はボーダーブルクへ向かって峠道を下り始める。するとすぐに道は森の中に突入し、私たちの視界は木々で遮られた。

 そして次に眺望が開けたとき、ボーダーブルクの高い街壁とそこに群がるゾンビの群れの姿が私たちの視界に現れた。

「やりますよ」

 エルドレッド様は魔動車の扉を開け、まだ走っているにもかかわらず身軽な身のこなしで魔動車の天井に飛び乗った。

 続いて無数の青い球がゾンビの群れの中に撃ち込まれる。するとあっという間に私たちの進路を塞いでいたゾンビたちは灰となって燃え尽きたのだった。

 ホワイトホルンでは青い火柱の魔法を見たが、やはりあれも炎なのだろうか?

 ゾンビたちが一瞬にして燃え尽きているので、普通の炎よりも燃やす力が強いということは分かる。

 もしかして、温度が高かったりするのだろうか?

 それからもエルドレッド様は圧倒的な火力で迫りくるゾンビたちをたちまち燃やし尽くして道を作りだし、私たちはついにボーダーブルクの門の前に辿りついた。

 しかし私たちの前には水堀があり、跳ね橋が上げられてしまっているため中に入ることができない。

 ここまで来ては入れないなんて!

 そう思ったのだが、エルドレッド様が魔動車の上からジャンプすると街壁の上によじ登ってしまった。

 え! すごい! ホワイトホルンの街壁よりも倍くらい高そうなのに!

 そう感動していると跳ね橋が降ろされた。私たちはゆっくりと跳ね橋を渡り、水堀の内側に渡った。

 するとすぐに門が開き、中からはエルドレッド様と町の衛兵さんらしき人が一緒に出てきた。

「ニコラ博士、ホワイトホルンのホリーさん、ニールさん、駆けつけていただきありがとうございます。さあ、こちらへ」

 衛兵さんがそう言うとエルドレッド様は魔動車に戻ってきた。そしてニコラさんが魔動車をゆっくりと動かして町の中に入る。

 するとそこには一台の魔動車が停まっていた。その魔動車は私たちを先導するようにゆっくりと動き出す。

 こうして私たちはゾンビに襲われたというボーダーブルクの町に到着したのだった。

◆◇◆

 ボーダーブルク町庁舎にやってきた私はそのまま町長室へと案内された。町長室ではすらりと背の高い女性町長が私たちを出迎えてくれた。

 彼女は町長なのにまるで衛兵の偉い人のような服を着ている。まさにクールビューティーという言葉がぴったりのかっこいい女性だ。

「エルドレッド殿下、ようこそお越しくださいました」
「オリアナ町長もお元気そうで何よりです。こちらは魔道具研究所のニコラ博士、それから昨年のホワイトホルンの大襲撃の際に衛兵として戦ったニールさん、そしてホワイトホルンの薬師にしておそらく魔族領で唯一の奇跡の使い手であるホリーさんです」
「ボーダーブルク町長のオリアナだ。見てのとおり私は軍人上がりだ」

 オリアナさんはまるで部下に命令するかのような調子で、なんとなく高圧的な印象を受けてしまう。

「ニコラやで」
「ニールです」
「ホリーです」
「ああ、よろしく」

 簡単な挨拶を交わした私たちは勧められてソファーに腰かけた。すると早速エルドレッド様が口を開く。

「オリアナ町長、先ほど町に入るためにゾンビの群れを蹴散らして参りました。ですがあの程度であればボーダーブルクはご自身で対処できるのではありませんか?」
「ええ、そのとおりです。実際問題、南側のゾンビへの対処は終わりました。ですが、問題はゾンビではないのです」
「というと?」
「問題はゾンビが赤い宝玉の魔道具によって無限に発生し続けていることです」
「っ! それは本当ですか!?」
「はい。最初は妙にゾンビが多いということで討伐隊を組んで対応しておりました。しかしゾンビの発生状況があまりにも異常で、農村にも被害が出始めたことで討伐隊とは別に調査隊を派遣しました。その結果ホワイトホルンで報告されたものと同じような赤い宝玉が見つかり、同じように何もない場所からゾンビが発生したことを確認しました」
「そんな! どうしてここにもあんなおぞましいものが……」

 私はあのときの恐怖を思い出し、思わず自分の肩を抱いた。

「……ホリーといったな。ホワイトホルンでのことはわからないが、なぜボーダーブルクの森にその宝玉があるのかについては理由がはっきりしている」
「え?」
「どういうことですか?」

 私たちが思わず聞き返すと、オリアナ町長は大きく息を吐きだしてからおもむろに口を開くのだった。

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