上 下
39 / 182

第39話 赤い宝玉の謎

しおりを挟む
 私たちはいくつもの山を越え森を抜け、そして町を通過してなんとその日の夕方にキエルナに到着してしまった。

 馬車であれば何日もかかるはずの道をたったの一日で移動してしまったのだから、この魔動車がいかに速いのかということを実感させられる。

 私たちはジェフェリー副課長とダリルさんにお礼を言って別れ、宿を取って一泊した。

 そして翌日のお昼過ぎに、私たちはエルドレッド様の工房へとやってきた。そこは町立魔道具研究所という看板が掲げられたちょっと古めかしい建物で、とてもエルドレッド様のような王子様が働いている場所には見えない。

 そんなことを思いながら建物を見ていると、入口に立っている警備の人から声をかけられた。

「何か御用ですか?」
「はい。ホワイトホルンのニールとホリーです。エルドレッド殿下のお招きで参りました」

 そう言ってニール兄さんは持っていた書類を差し出した。

「ああ、あなた方がそうでしたか。どうぞお入りになり、そちらのロビーでおかけになってお待ちください。面会ができるか確認して参ります」
「ありがとうございます」

 こうして私たちは建物の中に入り、ロビーにおかれたソファーに座る。

 それからしばらく待っていると、奥からエルドレッド様が小走りでやってきた。

 それを見て私たちは慌てて立ち上がる。

「ご無沙汰しております。ホリーさん、ニールさん」

 それからエルドレッド様は流れるような動作で私の手を取り、手の甲にキスをする動作をした。続いてニール兄さんに近づき、握手をする。

「お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ。お二人を待っていたところなのです。さあ、どうぞ中へ。私の工房を案内しますよ」

 エルドレッド様は流れるような動作で私の前に手を差し出してくれ、私はつい反射的にその手を握った。

 う、しまった。恥ずかしい。

「さあ、こちらです」

 私はエルドレッド様に手を引かれ、研究所の廊下をゆっくり歩いていく。

「以前お会いしたときのホリーさんも素敵でしたが、今日のホリーさんもまた一段と素敵ですね。お召しのデイ・ドレスがホリーさんの美しい金の髪と水色の瞳を引き立てていて、美しいホリーさんがより美しく見えます」
「え? あ、ありがとうございます」

 エルドレッド様は相変わらずとても紳士で、まるで天気の会話をするかのように私の服装を褒めてくれた。

 普段であればそんなことを言われてもお世辞だと分かっているのでなんとも思わない。だが今日は王子様であるエルドレッド様に会うということもあり、一着しか持っていないよそ行き用の高い服を着ておめかししているのだ。

 もちろんエルドレッド様が普段見ているような豪華なドレスなどではなく、隣のバートさんとハンナさんに仕立ててもらった一般庶民でも買えるレベルのものだ。

 それでもこうして頑張っておめかししたことを褒めてもらえるのはちょっと、いや、かなり嬉しい。
 
 ニール兄さんなんてちっとも褒めてくれなかったというのに。

 ちらりとニール兄さんのほうを見るが、無表情のまま歩いている。

 どうやらニール兄さんはこういった話題に興味はないらしい。

「この先に段差がありますから、気を付けてください」
「はい」

 エルドレッド様は見ればわかる階段の存在すら教えてくれ、私が転ばないように優しくエスコートしてくれる。

 そうして思ったよりも広い建物を進み、エルドレッド様の工房へとやってきた。

「さあ、どうぞそちらにおかけください」

 私たちはソファーに腰かけたのだが、そのソファーがまたなんとも座り心地がいい。まるでお尻にくっつくかのようだ。

 やっぱり王子様はお金持ちなんだな、とどうでもいいことを考えているとエルドレッド様が赤い宝玉をもってやってきた。

 あのとき、ゾンビを無限に発生させていたあの宝玉だ。

「ホリーさん、こちらについてですがいくつか分かったことがありました」

 エルドレッド様はさきほどの紳士的で穏やかな表情とは打って変わって真剣な表情をしている。

「はい」
「どうやらこの宝玉の核は血液を利用しているようです」
「え? 血、ですか?」
「そうです。ただ、なんの血なのかは分かりません。ただ、魔族のものでもなければ人族のものでもないようです」
「え? じゃあ、動物のですか?」

 しかしエルドレッド様は首を横に振った。

「私たちの知る限り、このような特性を持つ血液を持つ動物は存在しません」
「ええっ? じゃあどうして血だって分かったんですか?」
「それは魔力の伝導特性です。血液に魔力を流すと特徴的な反応を示すのですが、この宝玉の内部にも同様の反応が見られました。ですから血液中に呪詛を閉じ込め、それをコーティングすることでゾンビを生み出す魔道具としたのだと考えられます」
「えっと?」
「結論から言いますと、現時点においてこの魔道具がどこから来たのかということを知るすべはないということです」
「……そうなんですね」
「ただ、我々は人族の領域のある南方から来たのではないかと推測しております」
「人族の? じゃあ、犯人は人族だっていうことですか?」
「いえ、それはわかりません。分かっていることは、魔族領に住んでいる動物ではないということです。人族の住む南の領域、もしくは南にある高い山々であれば、そうした特性の血液を持つ動物が住んでいる可能性はあるでしょう」
「えっと、じゃあ……」
「はい。調査はこれにて打ち切りとなります。魔道具自体はそれほど高度な技術で作られたものではありません。特殊な血液と呪詛の込め方さえ分かれば、見習い魔道具師でも作れる程度の代物です」
「わかりました」

 正直、ちょっとモヤモヤした気持ちは残っている。だがエルドレッド様の話を聞く限り、もう調べようがなさそうだ。

 するとエルドレッド様はニール兄さんのほうを見た。

「続いて、ニールさんの腕についてです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...