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第39話 赤い宝玉の謎
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私たちはいくつもの山を越え森を抜け、そして町を通過してなんとその日の夕方にキエルナに到着してしまった。
馬車であれば何日もかかるはずの道をたったの一日で移動してしまったのだから、この魔動車がいかに速いのかということを実感させられる。
私たちはジェフェリー副課長とダリルさんにお礼を言って別れ、宿を取って一泊した。
そして翌日のお昼過ぎに、私たちはエルドレッド様の工房へとやってきた。そこは町立魔道具研究所という看板が掲げられたちょっと古めかしい建物で、とてもエルドレッド様のような王子様が働いている場所には見えない。
そんなことを思いながら建物を見ていると、入口に立っている警備の人から声をかけられた。
「何か御用ですか?」
「はい。ホワイトホルンのニールとホリーです。エルドレッド殿下のお招きで参りました」
そう言ってニール兄さんは持っていた書類を差し出した。
「ああ、あなた方がそうでしたか。どうぞお入りになり、そちらのロビーでおかけになってお待ちください。面会ができるか確認して参ります」
「ありがとうございます」
こうして私たちは建物の中に入り、ロビーにおかれたソファーに座る。
それからしばらく待っていると、奥からエルドレッド様が小走りでやってきた。
それを見て私たちは慌てて立ち上がる。
「ご無沙汰しております。ホリーさん、ニールさん」
それからエルドレッド様は流れるような動作で私の手を取り、手の甲にキスをする動作をした。続いてニール兄さんに近づき、握手をする。
「お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ。お二人を待っていたところなのです。さあ、どうぞ中へ。私の工房を案内しますよ」
エルドレッド様は流れるような動作で私の前に手を差し出してくれ、私はつい反射的にその手を握った。
う、しまった。恥ずかしい。
「さあ、こちらです」
私はエルドレッド様に手を引かれ、研究所の廊下をゆっくり歩いていく。
「以前お会いしたときのホリーさんも素敵でしたが、今日のホリーさんもまた一段と素敵ですね。お召しのデイ・ドレスがホリーさんの美しい金の髪と水色の瞳を引き立てていて、美しいホリーさんがより美しく見えます」
「え? あ、ありがとうございます」
エルドレッド様は相変わらずとても紳士で、まるで天気の会話をするかのように私の服装を褒めてくれた。
普段であればそんなことを言われてもお世辞だと分かっているのでなんとも思わない。だが今日は王子様であるエルドレッド様に会うということもあり、一着しか持っていないよそ行き用の高い服を着ておめかししているのだ。
もちろんエルドレッド様が普段見ているような豪華なドレスなどではなく、隣のバートさんとハンナさんに仕立ててもらった一般庶民でも買えるレベルのものだ。
それでもこうして頑張っておめかししたことを褒めてもらえるのはちょっと、いや、かなり嬉しい。
ニール兄さんなんてちっとも褒めてくれなかったというのに。
ちらりとニール兄さんのほうを見るが、無表情のまま歩いている。
どうやらニール兄さんはこういった話題に興味はないらしい。
「この先に段差がありますから、気を付けてください」
「はい」
エルドレッド様は見ればわかる階段の存在すら教えてくれ、私が転ばないように優しくエスコートしてくれる。
そうして思ったよりも広い建物を進み、エルドレッド様の工房へとやってきた。
「さあ、どうぞそちらにおかけください」
私たちはソファーに腰かけたのだが、そのソファーがまたなんとも座り心地がいい。まるでお尻にくっつくかのようだ。
やっぱり王子様はお金持ちなんだな、とどうでもいいことを考えているとエルドレッド様が赤い宝玉をもってやってきた。
あのとき、ゾンビを無限に発生させていたあの宝玉だ。
「ホリーさん、こちらについてですがいくつか分かったことがありました」
エルドレッド様はさきほどの紳士的で穏やかな表情とは打って変わって真剣な表情をしている。
「はい」
「どうやらこの宝玉の核は血液を利用しているようです」
「え? 血、ですか?」
「そうです。ただ、なんの血なのかは分かりません。ただ、魔族のものでもなければ人族のものでもないようです」
「え? じゃあ、動物のですか?」
しかしエルドレッド様は首を横に振った。
「私たちの知る限り、このような特性を持つ血液を持つ動物は存在しません」
「ええっ? じゃあどうして血だって分かったんですか?」
「それは魔力の伝導特性です。血液に魔力を流すと特徴的な反応を示すのですが、この宝玉の内部にも同様の反応が見られました。ですから血液中に呪詛を閉じ込め、それをコーティングすることでゾンビを生み出す魔道具としたのだと考えられます」
「えっと?」
「結論から言いますと、現時点においてこの魔道具がどこから来たのかということを知る術はないということです」
「……そうなんですね」
「ただ、我々は人族の領域のある南方から来たのではないかと推測しております」
「人族の? じゃあ、犯人は人族だっていうことですか?」
「いえ、それはわかりません。分かっていることは、魔族領に住んでいる動物ではないということです。人族の住む南の領域、もしくは南にある高い山々であれば、そうした特性の血液を持つ動物が住んでいる可能性はあるでしょう」
「えっと、じゃあ……」
「はい。調査はこれにて打ち切りとなります。魔道具自体はそれほど高度な技術で作られたものではありません。特殊な血液と呪詛の込め方さえ分かれば、見習い魔道具師でも作れる程度の代物です」
「わかりました」
正直、ちょっとモヤモヤした気持ちは残っている。だがエルドレッド様の話を聞く限り、もう調べようがなさそうだ。
するとエルドレッド様はニール兄さんのほうを見た。
「続いて、ニールさんの腕についてです」
馬車であれば何日もかかるはずの道をたったの一日で移動してしまったのだから、この魔動車がいかに速いのかということを実感させられる。
私たちはジェフェリー副課長とダリルさんにお礼を言って別れ、宿を取って一泊した。
そして翌日のお昼過ぎに、私たちはエルドレッド様の工房へとやってきた。そこは町立魔道具研究所という看板が掲げられたちょっと古めかしい建物で、とてもエルドレッド様のような王子様が働いている場所には見えない。
そんなことを思いながら建物を見ていると、入口に立っている警備の人から声をかけられた。
「何か御用ですか?」
「はい。ホワイトホルンのニールとホリーです。エルドレッド殿下のお招きで参りました」
そう言ってニール兄さんは持っていた書類を差し出した。
「ああ、あなた方がそうでしたか。どうぞお入りになり、そちらのロビーでおかけになってお待ちください。面会ができるか確認して参ります」
「ありがとうございます」
こうして私たちは建物の中に入り、ロビーにおかれたソファーに座る。
それからしばらく待っていると、奥からエルドレッド様が小走りでやってきた。
それを見て私たちは慌てて立ち上がる。
「ご無沙汰しております。ホリーさん、ニールさん」
それからエルドレッド様は流れるような動作で私の手を取り、手の甲にキスをする動作をした。続いてニール兄さんに近づき、握手をする。
「お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ。お二人を待っていたところなのです。さあ、どうぞ中へ。私の工房を案内しますよ」
エルドレッド様は流れるような動作で私の前に手を差し出してくれ、私はつい反射的にその手を握った。
う、しまった。恥ずかしい。
「さあ、こちらです」
私はエルドレッド様に手を引かれ、研究所の廊下をゆっくり歩いていく。
「以前お会いしたときのホリーさんも素敵でしたが、今日のホリーさんもまた一段と素敵ですね。お召しのデイ・ドレスがホリーさんの美しい金の髪と水色の瞳を引き立てていて、美しいホリーさんがより美しく見えます」
「え? あ、ありがとうございます」
エルドレッド様は相変わらずとても紳士で、まるで天気の会話をするかのように私の服装を褒めてくれた。
普段であればそんなことを言われてもお世辞だと分かっているのでなんとも思わない。だが今日は王子様であるエルドレッド様に会うということもあり、一着しか持っていないよそ行き用の高い服を着ておめかししているのだ。
もちろんエルドレッド様が普段見ているような豪華なドレスなどではなく、隣のバートさんとハンナさんに仕立ててもらった一般庶民でも買えるレベルのものだ。
それでもこうして頑張っておめかししたことを褒めてもらえるのはちょっと、いや、かなり嬉しい。
ニール兄さんなんてちっとも褒めてくれなかったというのに。
ちらりとニール兄さんのほうを見るが、無表情のまま歩いている。
どうやらニール兄さんはこういった話題に興味はないらしい。
「この先に段差がありますから、気を付けてください」
「はい」
エルドレッド様は見ればわかる階段の存在すら教えてくれ、私が転ばないように優しくエスコートしてくれる。
そうして思ったよりも広い建物を進み、エルドレッド様の工房へとやってきた。
「さあ、どうぞそちらにおかけください」
私たちはソファーに腰かけたのだが、そのソファーがまたなんとも座り心地がいい。まるでお尻にくっつくかのようだ。
やっぱり王子様はお金持ちなんだな、とどうでもいいことを考えているとエルドレッド様が赤い宝玉をもってやってきた。
あのとき、ゾンビを無限に発生させていたあの宝玉だ。
「ホリーさん、こちらについてですがいくつか分かったことがありました」
エルドレッド様はさきほどの紳士的で穏やかな表情とは打って変わって真剣な表情をしている。
「はい」
「どうやらこの宝玉の核は血液を利用しているようです」
「え? 血、ですか?」
「そうです。ただ、なんの血なのかは分かりません。ただ、魔族のものでもなければ人族のものでもないようです」
「え? じゃあ、動物のですか?」
しかしエルドレッド様は首を横に振った。
「私たちの知る限り、このような特性を持つ血液を持つ動物は存在しません」
「ええっ? じゃあどうして血だって分かったんですか?」
「それは魔力の伝導特性です。血液に魔力を流すと特徴的な反応を示すのですが、この宝玉の内部にも同様の反応が見られました。ですから血液中に呪詛を閉じ込め、それをコーティングすることでゾンビを生み出す魔道具としたのだと考えられます」
「えっと?」
「結論から言いますと、現時点においてこの魔道具がどこから来たのかということを知る術はないということです」
「……そうなんですね」
「ただ、我々は人族の領域のある南方から来たのではないかと推測しております」
「人族の? じゃあ、犯人は人族だっていうことですか?」
「いえ、それはわかりません。分かっていることは、魔族領に住んでいる動物ではないということです。人族の住む南の領域、もしくは南にある高い山々であれば、そうした特性の血液を持つ動物が住んでいる可能性はあるでしょう」
「えっと、じゃあ……」
「はい。調査はこれにて打ち切りとなります。魔道具自体はそれほど高度な技術で作られたものではありません。特殊な血液と呪詛の込め方さえ分かれば、見習い魔道具師でも作れる程度の代物です」
「わかりました」
正直、ちょっとモヤモヤした気持ちは残っている。だがエルドレッド様の話を聞く限り、もう調べようがなさそうだ。
するとエルドレッド様はニール兄さんのほうを見た。
「続いて、ニールさんの腕についてです」
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