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第34話 足止め
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その日の三時ごろ、私たちはシュワインベルグに到着した。
「ホリーちゃん、キエルナ方面ならそこの三番の馬車乗り場からだよ。切符はあそこの建物で売っているからね」
「ウォーレンさん、ありがとうございます」
「うん。それじゃあ、気をつけて行っておいで」
「はい」
「ニールはちゃんとホリーちゃんを守るんだぞ?」
「もちろんですよ、ウォーレンさん」
こうして私たちはウォーレンさんと別れ、切符を売っているという建物へと向かった。アレクシアさんたちも同じ建物に向かったが、二人は帰りの切符を買うために別の窓口に並んでいる。
だが並んでいるとなんとなく周囲の人が私たちをジロジロと見ている気がする。
あれ? これは?
……ああ、そうか。ホワイトホルンと違ってここには人族が住んでいないのだろう。だからきっと私の髪色が珍しく思われているに違いない。
何かを言ってくる人はいないとはいえ、あまりジロジロ見られるのは気分がいいものではない。
そうして落ち着かない気分で待っていると、ついに私たちの順番が回ってきた。
「はい、次の方」
「キエルナまで大人二名、お願いします」
ニール兄さんが窓口の向こうに座っているお姉さんにそう伝えると、お姉さんの表情が曇った。
「キエルナ方面……少々お待ちください」
お姉さんはそう言って窓口の向こう側で何かをいそいそと調べている。
「申し訳ありません。二週間先まで予約で満席となっています。この窓口でご予約いただけるのは二週間後までですので申し訳ございませんが、現在お取り扱いできません。次の予約受付は来週の月曜日からとなりますので、お手数ですがもう一度お越しください」
「えっ? どうしてそんなことに……」
「今は雪解けの季節ですから、ちょうど人が動き始める時期なんです。それに去年、ホワイトホルンで大規模なゾンビによる襲撃があったのをご存じですか? 実はその事件でホワイトホルンから入荷予定だった馬車馬が全滅してしまったのです。それで本来でしたらこの時期は毎日運行しているのですが減便をせざるを得なくなってしまっているのです」
「そんな……」
まさかあのゾンビの襲撃事件がこんなところに影響を及ぼしていたなんて!
「お急ぎですか?」
「はい」
「それでしたら、魔動車を手配されてはいかがでしょう?」
「魔動車ですか……」
ニール兄さんが渋い顔をした。
「ねえ、ニール兄さん。魔動車って何?」
「ああ、うちの町にはほとんどないもんな。魔動車っていうのは魔道具の一種で、馬の代わりに魔道具で動く車のことだよ」
「えっ! そんな車が!?」
すごい! 知らなかった。
「ただ動かすにはかなりの魔力が必要だから、町長とか隊長くらいじゃないと他の町まで運転するのは厳しいんだ」
「あっ、そっか」
というのも魔道具を動かすには通常、使用者が魔力を注ぎ続けなければならない。さすがに次の町までそれをし続けるのは大変だろう。
「その魔動車って、いくらくらいで借りられますか?」
「そうですね。借りる期間にもよりますが、キエルナまでの往復ですとおよそ千五百リーレくらいでしょうか」
「えっ、そんなに……」
千五百リーレというのはとんでもない大金だ。たとえばうちのお店だと一か月の売上が百~二百リーレくらいなので、この金額は一年分の売上に近い。
「その他にも、運転手が必要でしたらその日当と宿泊費も必要ですね」
「う……」
それは、どう考えても私たちでは無理だ。
「また、来ます」
「お待ちしております。それでは次の方」
こうして私たちはチケットを買うどころか予約すらもできず、窓口を後にした。
するとがっかりして窓口を離れた私たちにアレクシアさんたちが話しかけてきた。
「あら、どうしたの? 浮かない顔ね」
「そうなんです。実は――」
私たちは事情を話した。
「そう。ワタクシたちもなんとかしてあげたいけど、魔動車はいくらなんでも無理ねぇ。次の月曜に朝一番で並ぶしかないんじゃないかしら?」
「やっぱりそうですよね」
「二人ともそんなに落ち込まないで、前向きに考えましょう? ホリーちゃんはせっかく初めての旅行なんだから、お兄さんと一緒に観光でもしてみたら?」
「観光ですか?」
「そうよ。グラン先生が亡くなられてからずっと一人で頑張ってきたじゃない。キエルナに呼ばれたってことは、行くのをやめて帰るっていうわけにもいかないんでしょう? それならそのくらいはしてもいいんじゃないの?」
「……そう、でしょうか?」
「そうよ。あなたも、ちゃんと大事な妹の息抜きをさせてやりなさい」
「は、はい」
「よろしい。それでね。この町で見るなら――」
そうして私たちはアレクシアさんに観光スポットとお勧めの宿を紹介してもらった。
「ホリー、どうしようもないしアレクシアさんの言うとおりに観光するか」
「うん!」
「そうよ。それじゃあ、ワタクシたちはこれで失礼するわ」
「はい。ありがとうございました」
「いいえ」
こうして私たちはアレクシアさんと別れ、お勧めしてもらった宿に向かうのだった。
「ホリーちゃん、キエルナ方面ならそこの三番の馬車乗り場からだよ。切符はあそこの建物で売っているからね」
「ウォーレンさん、ありがとうございます」
「うん。それじゃあ、気をつけて行っておいで」
「はい」
「ニールはちゃんとホリーちゃんを守るんだぞ?」
「もちろんですよ、ウォーレンさん」
こうして私たちはウォーレンさんと別れ、切符を売っているという建物へと向かった。アレクシアさんたちも同じ建物に向かったが、二人は帰りの切符を買うために別の窓口に並んでいる。
だが並んでいるとなんとなく周囲の人が私たちをジロジロと見ている気がする。
あれ? これは?
……ああ、そうか。ホワイトホルンと違ってここには人族が住んでいないのだろう。だからきっと私の髪色が珍しく思われているに違いない。
何かを言ってくる人はいないとはいえ、あまりジロジロ見られるのは気分がいいものではない。
そうして落ち着かない気分で待っていると、ついに私たちの順番が回ってきた。
「はい、次の方」
「キエルナまで大人二名、お願いします」
ニール兄さんが窓口の向こうに座っているお姉さんにそう伝えると、お姉さんの表情が曇った。
「キエルナ方面……少々お待ちください」
お姉さんはそう言って窓口の向こう側で何かをいそいそと調べている。
「申し訳ありません。二週間先まで予約で満席となっています。この窓口でご予約いただけるのは二週間後までですので申し訳ございませんが、現在お取り扱いできません。次の予約受付は来週の月曜日からとなりますので、お手数ですがもう一度お越しください」
「えっ? どうしてそんなことに……」
「今は雪解けの季節ですから、ちょうど人が動き始める時期なんです。それに去年、ホワイトホルンで大規模なゾンビによる襲撃があったのをご存じですか? 実はその事件でホワイトホルンから入荷予定だった馬車馬が全滅してしまったのです。それで本来でしたらこの時期は毎日運行しているのですが減便をせざるを得なくなってしまっているのです」
「そんな……」
まさかあのゾンビの襲撃事件がこんなところに影響を及ぼしていたなんて!
「お急ぎですか?」
「はい」
「それでしたら、魔動車を手配されてはいかがでしょう?」
「魔動車ですか……」
ニール兄さんが渋い顔をした。
「ねえ、ニール兄さん。魔動車って何?」
「ああ、うちの町にはほとんどないもんな。魔動車っていうのは魔道具の一種で、馬の代わりに魔道具で動く車のことだよ」
「えっ! そんな車が!?」
すごい! 知らなかった。
「ただ動かすにはかなりの魔力が必要だから、町長とか隊長くらいじゃないと他の町まで運転するのは厳しいんだ」
「あっ、そっか」
というのも魔道具を動かすには通常、使用者が魔力を注ぎ続けなければならない。さすがに次の町までそれをし続けるのは大変だろう。
「その魔動車って、いくらくらいで借りられますか?」
「そうですね。借りる期間にもよりますが、キエルナまでの往復ですとおよそ千五百リーレくらいでしょうか」
「えっ、そんなに……」
千五百リーレというのはとんでもない大金だ。たとえばうちのお店だと一か月の売上が百~二百リーレくらいなので、この金額は一年分の売上に近い。
「その他にも、運転手が必要でしたらその日当と宿泊費も必要ですね」
「う……」
それは、どう考えても私たちでは無理だ。
「また、来ます」
「お待ちしております。それでは次の方」
こうして私たちはチケットを買うどころか予約すらもできず、窓口を後にした。
するとがっかりして窓口を離れた私たちにアレクシアさんたちが話しかけてきた。
「あら、どうしたの? 浮かない顔ね」
「そうなんです。実は――」
私たちは事情を話した。
「そう。ワタクシたちもなんとかしてあげたいけど、魔動車はいくらなんでも無理ねぇ。次の月曜に朝一番で並ぶしかないんじゃないかしら?」
「やっぱりそうですよね」
「二人ともそんなに落ち込まないで、前向きに考えましょう? ホリーちゃんはせっかく初めての旅行なんだから、お兄さんと一緒に観光でもしてみたら?」
「観光ですか?」
「そうよ。グラン先生が亡くなられてからずっと一人で頑張ってきたじゃない。キエルナに呼ばれたってことは、行くのをやめて帰るっていうわけにもいかないんでしょう? それならそのくらいはしてもいいんじゃないの?」
「……そう、でしょうか?」
「そうよ。あなたも、ちゃんと大事な妹の息抜きをさせてやりなさい」
「は、はい」
「よろしい。それでね。この町で見るなら――」
そうして私たちはアレクシアさんに観光スポットとお勧めの宿を紹介してもらった。
「ホリー、どうしようもないしアレクシアさんの言うとおりに観光するか」
「うん!」
「そうよ。それじゃあ、ワタクシたちはこれで失礼するわ」
「はい。ありがとうございました」
「いいえ」
こうして私たちはアレクシアさんと別れ、お勧めしてもらった宿に向かうのだった。
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