上 下
34 / 54

第34話 ランダムドーピング

しおりを挟む
 制限が撤廃されて以来、俺は思う存分料理ができるようになった。

 どの料理も基本的に好評だが、特にハンバーグの人気がすさまじい。やはり柔らかくてジューシーなハンバーグの美味しさは異世界でも共通なようだ。

 そうこうしているうちに魔力の配分についても大分感覚が掴めてきたので、そろそろ朝食に当たりを混ぜて見ようと思う。

 さて、今日のメニューはエッグベネディクトだ。

 レシピは色々あるが、今回はオーソドックスなベーコンとポーチドエッグ、そしてイングリッシュマフィンのものを作る。

 イングリッシュマフィンはトーストし、ベーコンはしっかりと焼いておく。

 そのイングリッシュマフィンの上にベーコンとポーチドエッグを乗せ、ここにオランデーズソースを掛けてやる。ちなみにオランデーズソースというのは、溶かしたバターに卵黄とレモン汁、塩を入れて混ぜ合わせたものだ。

 あとは胡椒をかけ、隣に野菜サラダを盛り付ければ完成だ。

 ちなみに、今作ったこのエッグベネディクトにだけは、全般的なステータスアップの効果が付いている。といっても、この世界に来て最初に作ったものと違ってかなり効果を弱めてあるので、きっと今日は妙に調子がいい、程度になるはずだ。

 当たりは……そうだな。とりあえずあと三つくらい作って様子を見ようかな。

◆◇◆

 その日、魔窟のコアを目指して進む五人の先遣隊の行く手に、巨大なクマの魔物が現れた。

「あれは! まずい! マーダーベアだ!」
「なんだと!? ここまで強い魔物がいるとは!」
「引け! 正面から戦うな! いったん引いて、おびき寄せて不意打ちをする!」
「はい!」

 先遣隊の騎士たちは大急ぎで逃げ出すが、なんとその行く先にもマーダーベアが立ち塞がる。

「なんだと!?」
「いつの間に!?」
「くそっ! 向こうのマーダーベアは?」
「追いかけてきています!」
「くっ! 切り開く! マーダーベアの出現をキャンプに伝えるんだ! 一人だけでも必ずたどり着け!」
「「「「はい!」」」」

 先遣隊の隊長が悲壮な決意でそう命じると、隊員たちの心は一つにまとまったようだ。全員がきりりと締まったいい表情をしている。

「俺が囮になります!」

 一人の騎士がそう宣言すると身体強化を発動し、帰り道を塞ぐマーダーベアに向かって一気に走りだす。

「待……え?」
「なんだそれ?」
「どうなったんだ?」

 気付けばマーダーベアは真っ二つになっており、囮になると走りだした男は十数メートル先の壁に激突していた。

「いててて……なんだ? 何が起きたんだ?」

 激突した男はそう言って目をぱちくりさせながら、周囲の状況を確認し始めた。一方の残された騎士たちはというと、あんぐりと口を開け、我を忘れて呆然としている。

「あっ! 後ろ! 危ないです!」

 囮になった男が大声をあげ、ようやく我に返った騎士たちが後ろを振り返る。するともう一頭のマーダーベアが迫ってきていた。

「しまった!」

 と、次の瞬間ものすごい突風が吹き、気付けばマーダーベアは真っ二つになっていた。

「え?」
「まただ……」

 騎士たちは目をぱちくりしながらお互いに顔を見合わせる。

「はっ!? そうだ! あいつは?」
「……あそこで壁にぶつかってるな」
「おいおい、どうなってんだ?」

 再び騎士たちはお互いに顔を見合わせた。

 それからハッとした表情になり、周囲を警戒し始める。すると真っ二つになったマーダーベアの遺体がまるで何もなかったかのように消えていく。

「他に魔物は……」
「気配はないな」

 なおも警戒を続けるが、やがて隊長が表情を緩めた。すると他の騎士たちもホッとした表情を浮か、壁に激突した男のもとへと向かう。

「おい! 大丈夫か?」
「は、はい」
「お前! いつの間にあんな速くなったんだ?」
「え? それが、自分でも何が何だか……」
「でも、すげぇじゃねぇか」
「そうですね……」

 仲間たちは褒め称えるが、当の本人は納得していない様子だ。

「とにかく、一度戻ろう。マーダーベアが出たことを伝えなければ」

 こうして彼らは撤退し、祥太たちのいるキャンプへと帰還した。

 そしてマーダーベアの出現と討伐を隊長のエドガールに報告をすると、彼はエドガールと模擬戦をすることになった。だが彼がマーダーベアとの戦いで見せたスピードはまったく出ず、一瞬であしらわれる。

「……この程度でマーダーベアを倒せるはずがない。きっと暗闇でマーダーベアと他の魔物を見間違えたのだろう。次からはきちん魔物の種類を確認するように」
「はい……」

 先遣隊の五人は納得いかない様子ではあるが、首をひねりつつもエドガールの言葉を受け入れたのだった。

◆◇◆

 朝食に当たりを入れ始めてから五日ほどが経過した。どうやら毎日のようにヒーローが出現しており、攻略はかなり順調に進んでいるらしい。

 狙いどおりといえば狙いどおりなのだが……おかしいな。そんなに強力な効果にしたつもりはなかったのだけれど。

 うーん。もしかして、鍛えている騎士たちが食べると強化される幅が大きくなったりとかするのかな?

================
 次回更新は通常どおり、2024/03/09 (土) 18:00 を予定しております。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一
ファンタジー
俺の名は御剣那由多(みつるぎなゆた)。 16歳。 ある日目覚めたらそこは異世界で、しかも召喚した奴らは俺のクラスが勇者じゃないからとハズレ扱いしてきた。 しかも元の世界に戻す事無く、小銭だけ渡して異世界に適当に放棄されるしまつ。 まったくふざけた話である。 まあだが別にいいさ。 何故なら―― 俺は超学習能力が高い天才だから。 異世界だろうが何だろうが、この才能で適応して生き延びてやる。 そして自分の力で元の世界に帰ってやろうじゃないか。 これはハズレ召喚だと思われた御剣那由多が、持ち前の才能を生かして異世界で無双する物語。

処理中です...