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第12話 建国祭の縁日(後編)

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 亜空間キッチンから戻ってくると、屋台は大変なことになっていた。

 なんと、いかにも金持ちといった身なりの大人の男が何人も陽菜の前にひざまずいていたのだ。

「どうか私を美しい貴女の付き人にしてください」
「いえ! どうかこの私を!」
「美しい方! どうか俺を選んでください! そうしたら一等地にお屋敷をプレゼントします!」
「ちょっと……困ります! あ! 祥ちゃん! 助けて!」

 俺は持ってきたイタリアンサンドを机の上に置き、仲裁に入る。

「止めてください。嫌がってるじゃないですか」
「何だと!? 部外者は引っ込んでろ! このガキが!」

 屋敷をプレゼントすると言っていた男が突然、俺の胸ぐらを掴んできた。

「この貧乏人が! お前ごときが女性に相手をされると思ってるのか!」
「暴力は良くないですよ」
「はっ! 貧乏なうえに力もない! お前のような奴がよくも首を突っ込んだもんだなぁ?」

 そう言って男は胸ぐらを掴む手に力を入れた。

 うっ、首が締まる。

「放してください」
「はっ! 身の程をわきまえて、金輪際女性に関わらないと創造神様に誓うなら放してやるよ」

 あまりに理不尽な物言いに、俺の中でプツリと何かが切れた。

「ふざけんな! なんでお前にそんなこと指図されなきゃいけないんだ!」

 俺は怒りに任せ、胸ぐらを掴んでいる相手の手首を思い切り強く握った。

 ボキッ!

「ぎゃああああああ!」

 嫌な音と共に絶叫を上げた男は胸ぐらを掴んでいた手を放してくれた。だがそのまま手首を押さえ、大暴れし始める。

 ガシャーン!

 神殿で借りたテーブルが倒れ、陽菜が売ってくれていたフルーツサンドと作ってきたばかりのイタリアンサンドが地面に落ちてしまった。

 しかもあろうことか、こいつはその落ちたサンドイッチを踏みつけたではないか!

 商品をめちゃくちゃにしたくせに、こいつはまるで気にした様子もなく俺をにらみつけてきた。

「痛ぇ! この野郎! 何しやがった!」
「何しやがるはこっちのセリフだ! 俺たちの商品をどうしてくれるんだ!」

 食べ物を粗末にするなんて許せない!

「なんだと!」
「何事だ!」

 と、お揃いの制服を着た兵士たちが駆けつけた。

「あっ! 聞いてください! あいつが俺に暴力を振るったんです! 見てください! 俺の手首が!」

 そう言ってだらんとなった右手を見せる。

「ほう?」
「違います。俺が商品補充でちょっと目を離した隙に彼女に声を掛けていて、嫌がっているからやめるように言ったら胸ぐらを掴まれて、二度と彼女と関わるなって脅されたんです。放してくれって言っても放してくれないので、力ずくで放してもらおうとしただけです」
「……そちらの女性の方、もしよろしければお話を伺えますか?」
「あ、はい。あたしは彼と一緒にここでサンドイッチを売ってたんです。それで売り切れちゃったから彼が新しいのを作りに行ってくれたんです。そうしたらなんかこの人たちが寄ってきて、迷惑だって言ってもしつこくて。それで、彼が帰ってきて止めろって言ってくれたんです。あとは彼の言ったとおりで、あの人は彼を脅して、しかもあたしたちの商品までめちゃくちゃにしたんです」
「ほう? なるほど。そう言っているが?」

 兵士の人は男に話を振った。

「そ、それは……」

 男が口ごもると、兵士の人はやれやれといった表情になった。

「なるほど。反論はない、と。ところで、こちらの彼は貴女とどのようなご関係でしょうか?」
「えっと、幼馴染で……」
「ん? オーサ・ナージミー?」
「あっ! えっと、そう。彼氏です」
「何っ!? そういうことでしたか。であれば貴女の彼氏さんの行いは正当防衛ですね。失礼しました」

 そう言って兵士の人は深々と陽菜に頭を下げた。

 え? 何それ? どういうこと? 彼氏と言われたのもびっくりしたし、もちろん満更でもないわけだが、それよりも彼氏かどうかで正当防衛かどうかが変わるということのほうが衝撃が大きい。

「お前を女性の財産の侵害とその彼氏への暴行の現行犯として逮捕する! この男を引っ捕らえよ!」
「「「「はっ!」」」」

 兵士の人たちは男を捕らえ、そのまま神殿のほうへと連れて行った。

「それでは被害について確認させていただきます。ええと、机は足が折れていますね。それと商品は一、二、三……」

 兵士の人と一緒に落ちた商品の数を数えていく。

「えー、合計で三十五点ですね。どれも小銀貨一枚でしょうか?」
「はい」
「ありがとうございます。あとはそちらの机もあの男のせいでしょうか?」
「はい。あ、でもその机は神殿で借りたものです」
「なんと! まさか神殿の備品まで破壊するとは……あの男には軽くない刑罰が下ることでしょう」
「はぁ」

 まるで神殿の備品を壊すことのほうが一介の商人の私物を壊すよりも罪が重いと言っているように聞こえるのだが……?

「ああ、ご安心ください。お二人の責任は問われませんし、商品の被害はあの男の財産から全額の補填されるはずです」
「わかりました」

 こうしてトラブルは一応なんとか解決したものの、机が壊れてしまったことで屋台は閉店せざるを得なくなってしまったのだった。
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