上 下
117 / 122

第117話 聖女服

しおりを挟む
2023/09/11 誤字を修正しました
================

 捧げものをする人々の波は夜更け過ぎになって途切れ、ようやく俺もホテルに帰ることができた。立ちっぱなしだったせいもあってか、かつてないほどの疲労感から俺は部屋に入るなりそのままベッドへと倒れ込み、夢の世界へと旅立った。

 そして今、またあの真っ白な空間に立っている。

 さすがに今日はゆっくり眠らせて欲しいんだが……。

「何よ。会うなりいつも文句ね」
「あ、はい。すみません」

 最近はこのだ……アルテナ様との付き合いにももう慣れてきたので、どうすれば話が早く終わるかも大体理解しているつもりだ。

「……まあいいわ。アタシをちゃんと敬うのはいいことね」
「はい。それで、今度は何をすればいいんでしょうか?」
「ああ、そうだったわ。十分な供物が集まったから、さっさと神殿建立の儀をやっちゃって」
「神殿建立の儀ですか?」
「そうよ。ちゃんと必要なアンタの聖女服も用意したわ。アンタのあっちでの記憶にあった聖女の服をアレンジして、アンタの好きそうな感じのデザインにしておいてあげたわ。感謝しなさい」
「えっ?」
「だから、聖女服よ。アンタの制服みたいなものね。ほら、レティシア、だっけ? あの娘だって外に出るときはいつも聖女服を着てるでしょ?」
「はい……」

 なんだかものすごく嫌な予感がするのだが……。

「じゃ、そういうことで。あとはよろしくね」
「えっ? ちょっと待――」

 なんとか呼び止めようとしたものの時すでに遅く、気付けばいつものベッドの上に戻ってきていた。

「ああ! もう! その神殿建立の儀とやらはどうやればいいのよ!」

 相変わらずの駄女神に俺は結局頭を抱えるのだった。

◆◇◆

 そのままふて寝し、気付けば朝になっていたのだが、どうにもまだ疲労感が残っている。やはり立ちっぱなしはかなり疲れ……いや、違うな。疲労が抜けきっていないのは駄女神のせいな気がする。

 ああ、そうだ。駄女神といえば、聖女服がどうとか言っていたな。

 ううむ。嫌な予感しかしないが、一応確認しておこう。

 そう考え、アバター一覧を確認してみるとたしかに一着増えている。増えているのだが……。

 駄女神よ。これが聖女服でいいのか?

 豪華な髪飾りやネックレスはまあいいとして、スカートの丈が膝上でどう見ても絶対領域がまぶしい系なんだが、この世界のモラル的に大丈夫なのか?

 こんな服を着ている女性なんて見たことないぞ?

 一体どこからこんなデザインが駄女神の中に……って、そういえば俺の記憶を見てデザインしたって言ってたっけか。

 いや? そもそもだ。俺はこれと似たような聖女服なんて見たことないぞ?

 こういうのが好きなのは剛……あっ! そういうことか! また剛が俺のパソコンに勝手に保存してたやつを見たんだな?

 ああ! あの駄女神はどうして! いつもいつもいつもいつも!

「……はぁ」

 なんだか馬鹿らしくなってきた。駄女神だし、腹を立てても仕方ない。

 これも仕送りのためだ。仕事だと割り切ろう。

 そう考え、俺はとりあえず試着してみることにした。

 アバター設定から聖女服を選択し、姿見がわりのライブプレビュー画面で確認する。

 画面に映る俺は大きな赤い宝石があしらわれた金の髪飾りを身に着け、さらに胸元にはさらに大きな赤い宝石のあしらわれた金の首飾りが輝いている。

 トップスはぴっちりしてボタンのない白いハイネックのシャツの上に肩から二の腕までをカバーする不思議な形の上着、そして腰は赤い宝石と金で細工されたコルセットベルトできっちり絞られており、胸がこれでもかと強調されている。

 ボトムスは赤のミニスカートで、その下からは二重の白いレースが覗いており、さらにレースのフリルがついた太ももまであるハイソックスを履いている。

 いや、うん。なんというか、似合ってる。なんと表現したらいいのか分からないが、ものすごく似合っている。悔しいが、駄女神の美的センスは認めざるを得ない。

 だが、だ。本当にこれが聖女服でいいのか?

 こんな聖女服を使徒に着させたら、記録の女神じゃなくてコスプレの駄女神として認識される気がするのだが……。

 うーん。まあ、いいか。そもそも駄女神がこの服を指定してきたのだし、こんな服を着るのは恥ずかしいと信者が集まらなかったとしてもそれは駄女神の責任だろう。

 いや、しかし駄女神の性格からして、その尻拭いをするのは俺になりそうな気がする。

 でも言ったってどうせ無駄だろうしなぁ。

 ……まあ、なんだ。これは仕事だ。きっとこの服を着てライブ配信したら視聴者は喜びそうだ。

 そうだな。うん。それで良しとしよう。

 こうして自分の心に折り合いをつけるといつものワンピースに着替え、朝食に向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

転生したら弱いものまね士になったけど結局活躍した。それはいいとして、英雄になったら隣に住んでたエルフとベッドの上でファンタジーが始まった

ぐうのすけ
ファンタジー
会社帰り、俺は突然異世界に転生した。 転生した異世界は貴族屋敷……の隣にあるボロ屋の息子だった。 10才で弱いと言われるものまね士のジョブを授かるが、それでも俺は冒険者を目指す。 所で隣のメイドさん、俺をからかうの、やめてもらえますか? やめて貰えないと幼馴染のお嬢様が頬をぷっくりさせて睨んでくるんですけど? そう言えば俺をバカにしていたライダーはどんどんボロボロになっていくけど、生きておるのか? まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、俺が英雄になった後隣に住んでいたエルフメイドがベッドの上では弱すぎる。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...