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第116話 記録の女神への捧げもの

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 麻薬事件の捜査が完了してから一週間ほどが経過した。副長やデジレファミリーの幹部たちといった主要な犯人の公開処刑も終わり、イストレアの町は平穏な日常を取り戻している。

 この事件の顛末は町のあちこちで再生の宝珠を使って報道されたこともあり、記録の女神アルテナの名前は町中の人々が知るところとなった。当然その報道動画には記録の女神アルテナの使徒リリス・サキュアもメインとして出演していたわけで、イメージアップのために空から警らをしていたときの成果報告と相まってか、イストレアのほとんどすべての住人に俺の顔と名前を知れ渡っている。

 そのためホテルを一歩でも出れば道行く人に囲まれ、ホテルの中ですらたまに他の宿泊客から声をかけられる始末だ。ここまでくるともはや日常生活もままならない。そんなわけで、プライベートがないことを嘆く有名人の気持ちがよく理解できてしまった。

 さて、それとは別に駄女神の神殿建設の件でも進展があった。すでに建設予定地は確保されていたのだが、ついにイストール公が記録の女神アルテナの最初の神殿をイストレアに建設することを公式発表したのだ。

 もはや駄女神を悪魔呼ばわりする住民はいないため、今なら神殿を建設してもイストール公が悪魔の崇拝者呼ばわりされるおそれもない。それにこれ以上建設を遅らせたとしても、また汚職を考えている悪人が何かしてくるかもしれないので、タイミングとしては今がベストだろう。

 というわけで、俺は今、イストール公が発表したその足で建設予定地へとやっている。

 え? なぜいきなり空き地の建設予定地に来たのか?

 いや、実は俺もよく分からない。建築家の手配とか、建設資金の捻出とか、そういったことが先だと俺も思う。

 ただ、イストール公が、演説が終わるなり建設予定地に行くからついて来てほしいと言われ、そのままなんとなく一緒に来たのだ。

 さて、よくわからずにやってきたこの建設予定地だが、なんと土地の周囲をすでに大勢の民衆が取り囲んでいる。

「リリス様~」
「アルテナ様~」

 などという声とともに、割れんばかりの歓声が聞こえてくる。まるでアイドルや映画のスターでも来たかのような騒ぎになっているわけだが、周囲を警備している近衛隊の兵士たちのおかげでなんとか事故にはならずにすんでいる。

 一方のイストール公はというと、何やら期待するような眼差しで俺のほうを見ている。

「……あの、イストール公?」
「何かね? リリス殿」
「質問があるのですが……」
「うむ」
「私たちは何をしにここに来たのでしょう?」
「むっ?」

 イストール公は一転して、怪訝けげんそうな表情を浮かべた。

「記録の女神アルテナ様からのご神託はないのかね?」
「え? どういうことでしょう?」
「最初の神殿の場所を定め、使徒をその場にお連れすれば神の最初の祭壇が顕現する言い伝えがあるのだが……」
「えっ? そうなんですか?」

 そんな話は初めて聞いたぞ?

「むむ? 違うのか? ではどうすれば良いのかね?」
「え? ええと……」

 イストール公はやや困ったような表情で俺に質問してくるが、俺だって何も聞かされていないのだから答えようがない。

 と、次の瞬間、俺たちの前に石造りの簡素な祭壇が出現した。

「えっ?」
「むむ!?」

 イストール公は一瞬驚いたような表情を見せ、すぐさまご満悦といった様子になる。またそれと同時に予定地を囲んでいた群衆たちからもすさまじい歓声が上がる。

「なんだ。やはりリリス殿をお連れすれば良かったのではないか。いやはや、リリス殿も冗談が上手いな」
「え? あ、あはは、すみません」

 俺はなんとかそう誤魔化す。

 ……あの駄女神! なんでこういう大事なことをいつもいつもちゃんと言わないんだ!

 そんな怒りに震えている俺を尻目に、イストール公は祭壇の前に移動した。そして部下から袋を渡されると中から宝石を次々と取り出し、祭壇に捧げていく。

 しばらくして袋の中身をすべて捧げ終えたのか、イストール公は袋を部下に返すと祭壇の前でひざまずいた。祭壇の上にはものすごい量の宝石の山ができている。

 イストール公が跪いて祈りを捧げていると突然祭壇が光に包まれ、気付けば宝石が消えてなくなっていた。

 それを見たイストール公は満足げな表情を浮かべながら立ち上がる。

「記録の女神アルテナ様の最初の祭壇はここに顕現した!」

 イストール公が高らかに宣言し、再び群衆からは盛大な歓声が沸きあがる。

 それからは集まっていた人々が兵士たちに案内され、続々と祭壇の前にやってきた。

 彼らは俺に一礼し、それから思い思いに持ち寄った品物を祭壇に持ってきた物を捧げ、跪いて祈りを捧げる。

 どうやら捧げものにルールはないようで、宝石だけでなくお金、布、花束、剣、果物、フライパンなど様々な物が捧げられては光の彼方へと消えていく。

 俺はその不思議な光景を、どうやって動画にするか考えながら見守るのだった。
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