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第106話 トラップ
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それから俺たちは捜査チームにも内緒で、レティシアを隠れ蓑にイストール公と連携を取ることになった。
その間も捜査は続けられ、小さなものから大きなものまで麻薬の保管場所を徹底的に叩いていった。しかも横流しルートとなっていた処分業者がなくなったこともあってか、麻薬の流通量は少しずつ減少していき、末端の取引価格も少しずつ上がってきている。
そんな中、俺たちはかなり大規模な麻薬の保管場所の情報をキャッチした。しかもなんとその保管場所はあのデジレファミリーのものだということがイストール公直属の人たちの調査で判明しており、ボスのエロオヤジが出入りしていることも確認されている。
ちなみにデジレファミリーについての捜査は警備隊ではなくイストール公直属の人たちが秘密裏に行っており、それによると麻薬の密売の元締めであると考えてほぼ間違いないのだそうだ。
さて、そんなデジレファミリーの保管場所だが、スラム街のど真ん中、もっとも治安が悪いとされる場所に位置している。そのため、これまで摘発してきた末端の倉庫などとは比べ物にならない規模の抵抗が予想されるため、今回は大規模に警備隊を動員しての摘発を行うことになった。
そこで俺たちはウスターシュさんと一緒に捜査チーム全員で副長のところに行き、保管場所の大まかな位置と大規模に人員を動員したいこと、そして何が何でも絶対に摘発を成功させたいという熱意を伝えた。
「……なるほど。スラム街の中心にそんな場所があるのか」
副長は相変わらずの鉄仮面でそう答えると、すぐにウスターシュさんの目をじっと見た。
「お前たちの熱意はよく分かった。必ずや、必要な人員を集めよう。決行はいつの予定だ?」
「はい。本来であれば明日にでも決行したいのですが……」
「明日はいくらなんでも人員を集められん」
「では、今週末は可能でしょうか?」
「……そうだな。努力はしてみるが、厳しいかもしれん。この規模の動員となると、隊長にも話を通す必要がある。それについては私がやっておこう」
「なるべく早く、お願いします」
「うむ」
副長は表情を変えずにそう答えたのだった。
◆◇◆
副長に説明し、捜査チームの部屋に戻ってくるなりヴィヴィアーヌさんが口を開く。
「どうする? 明日はさすがに無理だと思ってたけど……」
「今週末っすか」
「今週末だと、また逃げられないかが心配だな」
どうやらヴィヴィアーヌさん、ダルコさん、パトリスさんは同じことを心配しているようだ。
「なら、見張ればいいんじゃない?」
レオニーさんはそう言うが、何しろスラム街のど真ん中だ。そう簡単ではない。
「それが出来ればいいが、場所がな」
「うーん。そっかぁ」
ウスターシュさんに言われ、レオニーさんは残念そうに少しうつむいた。
「でも、私たちはできることをやるしかないですね」
「ああ、ヴィヴィアーヌの言うとおりだ。待つ間に末端の売人を捕まえるなど、できることはいくらでもあるぞ」
ヴィヴィアーヌさんの言葉にウスターシュさんが同調し、檄を飛ばす。
「そうっすね!」
こうして捜査チームのみんなは麻薬の撲滅に向け、気持ちを新たにしたのだった。
◆◇◆
副長に計画を伝えたその日の夜、俺はレティシアと合流してお城の地下にある応接室にやってきた。
「今日のお昼に予定どおり、副長に情報を伝えてきました」
「うむ。ボドワンが副長から話を聞いたと報告を上げてきておる。調整に最短でも一週間はかかるという話だそうだ」
「そうですか。ではやはり……」
「うむ。恐らく時間稼ぎであろうな」
そうだよな。一日で、と言われているのに最短でも一週間というのはあまりに遅すぎる。やはり副長も間違いなくグルなのだろう。
あれほど尊敬されている副長が、ということにいささか衝撃を覚えるが、よく考えれば捜査チームのメンバーが少なすぎるという時点で何かがおかしいと気付くべきだったのだろう。
そもそもイストール公国を揺るがすレベルの犯罪だったのだから、もっと大規模な捜査チームで動くべきだったのだ。
「副長の動き次第だが、早ければ今晩にでも動く予定だ。リリス殿にも記録係として同行願いたい」
「はい。わかりました」
「かたじけない。では部屋と近衛の制服を用意しよう。聖女レティシアよ。そなたはどうする?」
「わたくしは大聖堂に戻りますわ」
「うむ。それがよかろう」
「はい」
こうして俺は一人、お城で待機することとなったのだった。
◆◇◆
深夜、突然部屋の扉がノックされる音で目を覚ました。
「リリス・サキュア様、起きていらっしゃいますか?」
「はい。起きています」
「イストール公よりご伝言です。すぐさま近衛隊の制服を着用し、合流するように、とのことです」
「わかりました」
俺はすぐさまベッドから飛び起き、近衛隊の制服を急いで着る。
おお! この制服、警備隊で借りた制服と違ってサイズがピッタリだ。近衛隊でサイズを測ってもらったことはないはずなのだが、胸が全然きつくない。それに腰回りだってピッタリだし、丈や肩幅もバッチリだ。
しかも素晴らしいことに、近衛隊の制服はかなりデザインがかっこいい。
というわけで、俺は試しに制服姿の自分をウィンドウでプレビューしてみる。
いや、うん。これはいいな。凛々しい感じなのだが、体のシルエットが綺麗に出ていてかなりエロい。これを着て配信したらかなり人気が出そうだ。
って、そんなことを考えている場合じゃなかった。
呼ばれていることを思い出し、俺は急いで集合場所へと向かうのだった。
その間も捜査は続けられ、小さなものから大きなものまで麻薬の保管場所を徹底的に叩いていった。しかも横流しルートとなっていた処分業者がなくなったこともあってか、麻薬の流通量は少しずつ減少していき、末端の取引価格も少しずつ上がってきている。
そんな中、俺たちはかなり大規模な麻薬の保管場所の情報をキャッチした。しかもなんとその保管場所はあのデジレファミリーのものだということがイストール公直属の人たちの調査で判明しており、ボスのエロオヤジが出入りしていることも確認されている。
ちなみにデジレファミリーについての捜査は警備隊ではなくイストール公直属の人たちが秘密裏に行っており、それによると麻薬の密売の元締めであると考えてほぼ間違いないのだそうだ。
さて、そんなデジレファミリーの保管場所だが、スラム街のど真ん中、もっとも治安が悪いとされる場所に位置している。そのため、これまで摘発してきた末端の倉庫などとは比べ物にならない規模の抵抗が予想されるため、今回は大規模に警備隊を動員しての摘発を行うことになった。
そこで俺たちはウスターシュさんと一緒に捜査チーム全員で副長のところに行き、保管場所の大まかな位置と大規模に人員を動員したいこと、そして何が何でも絶対に摘発を成功させたいという熱意を伝えた。
「……なるほど。スラム街の中心にそんな場所があるのか」
副長は相変わらずの鉄仮面でそう答えると、すぐにウスターシュさんの目をじっと見た。
「お前たちの熱意はよく分かった。必ずや、必要な人員を集めよう。決行はいつの予定だ?」
「はい。本来であれば明日にでも決行したいのですが……」
「明日はいくらなんでも人員を集められん」
「では、今週末は可能でしょうか?」
「……そうだな。努力はしてみるが、厳しいかもしれん。この規模の動員となると、隊長にも話を通す必要がある。それについては私がやっておこう」
「なるべく早く、お願いします」
「うむ」
副長は表情を変えずにそう答えたのだった。
◆◇◆
副長に説明し、捜査チームの部屋に戻ってくるなりヴィヴィアーヌさんが口を開く。
「どうする? 明日はさすがに無理だと思ってたけど……」
「今週末っすか」
「今週末だと、また逃げられないかが心配だな」
どうやらヴィヴィアーヌさん、ダルコさん、パトリスさんは同じことを心配しているようだ。
「なら、見張ればいいんじゃない?」
レオニーさんはそう言うが、何しろスラム街のど真ん中だ。そう簡単ではない。
「それが出来ればいいが、場所がな」
「うーん。そっかぁ」
ウスターシュさんに言われ、レオニーさんは残念そうに少しうつむいた。
「でも、私たちはできることをやるしかないですね」
「ああ、ヴィヴィアーヌの言うとおりだ。待つ間に末端の売人を捕まえるなど、できることはいくらでもあるぞ」
ヴィヴィアーヌさんの言葉にウスターシュさんが同調し、檄を飛ばす。
「そうっすね!」
こうして捜査チームのみんなは麻薬の撲滅に向け、気持ちを新たにしたのだった。
◆◇◆
副長に計画を伝えたその日の夜、俺はレティシアと合流してお城の地下にある応接室にやってきた。
「今日のお昼に予定どおり、副長に情報を伝えてきました」
「うむ。ボドワンが副長から話を聞いたと報告を上げてきておる。調整に最短でも一週間はかかるという話だそうだ」
「そうですか。ではやはり……」
「うむ。恐らく時間稼ぎであろうな」
そうだよな。一日で、と言われているのに最短でも一週間というのはあまりに遅すぎる。やはり副長も間違いなくグルなのだろう。
あれほど尊敬されている副長が、ということにいささか衝撃を覚えるが、よく考えれば捜査チームのメンバーが少なすぎるという時点で何かがおかしいと気付くべきだったのだろう。
そもそもイストール公国を揺るがすレベルの犯罪だったのだから、もっと大規模な捜査チームで動くべきだったのだ。
「副長の動き次第だが、早ければ今晩にでも動く予定だ。リリス殿にも記録係として同行願いたい」
「はい。わかりました」
「かたじけない。では部屋と近衛の制服を用意しよう。聖女レティシアよ。そなたはどうする?」
「わたくしは大聖堂に戻りますわ」
「うむ。それがよかろう」
「はい」
こうして俺は一人、お城で待機することとなったのだった。
◆◇◆
深夜、突然部屋の扉がノックされる音で目を覚ました。
「リリス・サキュア様、起きていらっしゃいますか?」
「はい。起きています」
「イストール公よりご伝言です。すぐさま近衛隊の制服を着用し、合流するように、とのことです」
「わかりました」
俺はすぐさまベッドから飛び起き、近衛隊の制服を急いで着る。
おお! この制服、警備隊で借りた制服と違ってサイズがピッタリだ。近衛隊でサイズを測ってもらったことはないはずなのだが、胸が全然きつくない。それに腰回りだってピッタリだし、丈や肩幅もバッチリだ。
しかも素晴らしいことに、近衛隊の制服はかなりデザインがかっこいい。
というわけで、俺は試しに制服姿の自分をウィンドウでプレビューしてみる。
いや、うん。これはいいな。凛々しい感じなのだが、体のシルエットが綺麗に出ていてかなりエロい。これを着て配信したらかなり人気が出そうだ。
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