79 / 122
第79話 午後のティータイム
しおりを挟む
約束の時間より少し早くやってきたせいか、少し待たされてしまったものの俺は中庭にあるテーブルに案内された。色とりどりの花が咲いており、丁寧にお世話されていることが見てとれる。
そんな庭を鑑賞していると、レティシアとミレーヌがやってきた。
「わりぃわりぃ。待たせちまったか?」
「ううん。さっき来たところだよ。それに私も早くきちゃったし」
「そういやずいぶん早かったな」
レティシアはそう言いながら、持ってきてくれたティーポットから慣れた手つきで紅茶をカップに注いでいく。
「はいよ」
「ありがとう」
カップからは湯気と紅茶の香りが漂ってくる。
「で、なんかあったのか?」
「え? ああ、うん。そうね。実は――」
俺は一連の出来事を説明した。
「警備隊の下っ端どもかぁ。あいつら、評判悪いからなぁ」
「え? そうなの?」
「ああ、一部だけど腐った連中がいやがるからな」
「そうなんだ。どうして警備隊の人たちがそんな……」
「さあな。だが貧民街を中心に色々と悪事を働いていやがるらしいぜ」
「貧民街?」
「貧民街は北西の街壁沿いの一部だ。あのへんは治安も悪いし、あんま近づかねぇほうがいいぜ?」
「うん。分かった。でも警備隊が悪いことをしているのに、どうしてイストール公は見て見ぬふりをするのかな? そんな人には見えないのに……」
「どうだろうなぁ。案外報告されてないのかもな。あとは知ってるんだとしたら、貧民街は町のお荷物だからって放置してるのかもしれないぜ」
「えっ?」
「ただでさえラテル帝国の戦争に男手を駆り出されてるんだぜ? そんな中で税金もほとんど払ってねぇ奴を守る余裕があると思うか?」
「うーん。でも貧民街がしっかりして手がかからなくなれば、その分町全体が良くなる気もするけど……」
「それもそうだな。まあ、あたしはそのへんのところはよく分かんねぇけど。なぁ、ミレーヌはどう思う?」
「え? うーん……」
ミレーヌもそのあたりはさっぱりなのか、首をこてんと傾げた。まあ、そういう俺も素人なのでよく分からないのだが。
「にしても、リリスが飛べるなんて知らなかったぜ。ちょっと見せてくれよ」
「え? うん。いいよ」
俺は席を立ち、少し離れた場所で少しだけ浮上した。
「おっ! すげぇな。マジで浮いてるじゃねぇか。一体どうなってるんだ? 光の翼もすげぇし、マジで使徒って感じだよな!」
「リリスすごい!」
レティシアとミレーヌがかなり大げさに褒めてくれたのだが、アスタルテ様の使徒であるレティシアのその発言はいかがなものかと思う。
「そんなにすごいの?」
「ああ! すげぇなんてもんじゃねぇぜ。これだけのお力をお貸しくださるなんて、アルテナ様は相当のお力をお持ちの女神さまなんだな!」
俺は駄女神の力じゃないと言おうとしたが、ふと変な言葉に変換されそうな予感がしたので落ち着いて考えてみる。
あー、いや、うん。そうだな。俺をエロフに転生させたのは駄女神だしな。飛んでいるのは間違いなく自分の中にある力を使っているが、まあ、拡大解釈をすればこれも駄女神の力で間違いないだろう。
「そうね。アルテナ様のおかげ、かな」
「だよなぁ。あたしだって空を飛べるほどの力をお借りすることはできねぇしな。でも記録の女神さまなのに空を飛ぶなんて関係なさそうだけど……あ! あれか! 真実を記録するには空から見る必要がある、みたいな感じか?」
いや、記録するのと空を飛ぶのは別だと思うのだが……。
それはさておき、空を飛べるというのはかなり特別なことだということが分かったのは収穫だな。
あ、そうだ。どうせなら魔法についても聞いておこう。
俺はレティシアの質問に笑顔で答えてから話題を変える。
「ところでさ」
「ん? なんだ?」
「人間の魔法使いってどんな感じなの? 森から出てから魔法使いを見ないんだけど……」
「そうだな……。この国に魔法を使える奴はあんまりいねぇな。エルフと比べたら魔法を使える人間の割合は圧倒的に少ないんだろうけど、魔道具を動かす程度に魔力を流せるのでよければそれなりにできる奴はいるはずだぜ。それこそ、城で働いているような奴は全員できるんじゃねぇか?」
ああ、そういえばフェリクスさんも再生の宝珠に魔力を流して普通に使っていたっけ。
「だが神や精霊から力を借りて魔道具なしで魔法を使えるとなると、その数はぐっと減るな。エルフなら精霊から力をガンガン借りられるんだろうけどな」
「そ、そうね」
エルフがどうなのかは知らないが、イメージ的にはそんな感じなのでとりあえず笑顔で同意しておく。
「ま、それに攻撃魔法が使えるような連中は今ごろ戦場にいるんじゃねえか? あとは、冒険者で戦場に行きたくない奴はもうどっかに逃げたあとな気がするぜ」
ああ、なるほど。たしかに。一般の冒険者なら別の町への移動は自由なんだったな。
そんなことを考えていたのだが、レティシアは俺の表情を誤解したようで安心させるような言葉をかけてくる。
「リリス、安心しろ。いくらリリスが強力な魔法を使えたとしても、戦争に駆り出されることはないはずだぜ。何せリリスはアルテナ様の使徒だからな。使徒を戦争の道具に使うなんて愚かなこと、イストール公がするはずねぇぜ」
「あ、うん。そうだよね。ありがとう」
するとレティシアはニカッと笑ったのだが、すぐに聖女然とした笑みを浮かべた。それとほぼときを同じくして近くの扉が勢いよく開かれたのだった。
そんな庭を鑑賞していると、レティシアとミレーヌがやってきた。
「わりぃわりぃ。待たせちまったか?」
「ううん。さっき来たところだよ。それに私も早くきちゃったし」
「そういやずいぶん早かったな」
レティシアはそう言いながら、持ってきてくれたティーポットから慣れた手つきで紅茶をカップに注いでいく。
「はいよ」
「ありがとう」
カップからは湯気と紅茶の香りが漂ってくる。
「で、なんかあったのか?」
「え? ああ、うん。そうね。実は――」
俺は一連の出来事を説明した。
「警備隊の下っ端どもかぁ。あいつら、評判悪いからなぁ」
「え? そうなの?」
「ああ、一部だけど腐った連中がいやがるからな」
「そうなんだ。どうして警備隊の人たちがそんな……」
「さあな。だが貧民街を中心に色々と悪事を働いていやがるらしいぜ」
「貧民街?」
「貧民街は北西の街壁沿いの一部だ。あのへんは治安も悪いし、あんま近づかねぇほうがいいぜ?」
「うん。分かった。でも警備隊が悪いことをしているのに、どうしてイストール公は見て見ぬふりをするのかな? そんな人には見えないのに……」
「どうだろうなぁ。案外報告されてないのかもな。あとは知ってるんだとしたら、貧民街は町のお荷物だからって放置してるのかもしれないぜ」
「えっ?」
「ただでさえラテル帝国の戦争に男手を駆り出されてるんだぜ? そんな中で税金もほとんど払ってねぇ奴を守る余裕があると思うか?」
「うーん。でも貧民街がしっかりして手がかからなくなれば、その分町全体が良くなる気もするけど……」
「それもそうだな。まあ、あたしはそのへんのところはよく分かんねぇけど。なぁ、ミレーヌはどう思う?」
「え? うーん……」
ミレーヌもそのあたりはさっぱりなのか、首をこてんと傾げた。まあ、そういう俺も素人なのでよく分からないのだが。
「にしても、リリスが飛べるなんて知らなかったぜ。ちょっと見せてくれよ」
「え? うん。いいよ」
俺は席を立ち、少し離れた場所で少しだけ浮上した。
「おっ! すげぇな。マジで浮いてるじゃねぇか。一体どうなってるんだ? 光の翼もすげぇし、マジで使徒って感じだよな!」
「リリスすごい!」
レティシアとミレーヌがかなり大げさに褒めてくれたのだが、アスタルテ様の使徒であるレティシアのその発言はいかがなものかと思う。
「そんなにすごいの?」
「ああ! すげぇなんてもんじゃねぇぜ。これだけのお力をお貸しくださるなんて、アルテナ様は相当のお力をお持ちの女神さまなんだな!」
俺は駄女神の力じゃないと言おうとしたが、ふと変な言葉に変換されそうな予感がしたので落ち着いて考えてみる。
あー、いや、うん。そうだな。俺をエロフに転生させたのは駄女神だしな。飛んでいるのは間違いなく自分の中にある力を使っているが、まあ、拡大解釈をすればこれも駄女神の力で間違いないだろう。
「そうね。アルテナ様のおかげ、かな」
「だよなぁ。あたしだって空を飛べるほどの力をお借りすることはできねぇしな。でも記録の女神さまなのに空を飛ぶなんて関係なさそうだけど……あ! あれか! 真実を記録するには空から見る必要がある、みたいな感じか?」
いや、記録するのと空を飛ぶのは別だと思うのだが……。
それはさておき、空を飛べるというのはかなり特別なことだということが分かったのは収穫だな。
あ、そうだ。どうせなら魔法についても聞いておこう。
俺はレティシアの質問に笑顔で答えてから話題を変える。
「ところでさ」
「ん? なんだ?」
「人間の魔法使いってどんな感じなの? 森から出てから魔法使いを見ないんだけど……」
「そうだな……。この国に魔法を使える奴はあんまりいねぇな。エルフと比べたら魔法を使える人間の割合は圧倒的に少ないんだろうけど、魔道具を動かす程度に魔力を流せるのでよければそれなりにできる奴はいるはずだぜ。それこそ、城で働いているような奴は全員できるんじゃねぇか?」
ああ、そういえばフェリクスさんも再生の宝珠に魔力を流して普通に使っていたっけ。
「だが神や精霊から力を借りて魔道具なしで魔法を使えるとなると、その数はぐっと減るな。エルフなら精霊から力をガンガン借りられるんだろうけどな」
「そ、そうね」
エルフがどうなのかは知らないが、イメージ的にはそんな感じなのでとりあえず笑顔で同意しておく。
「ま、それに攻撃魔法が使えるような連中は今ごろ戦場にいるんじゃねえか? あとは、冒険者で戦場に行きたくない奴はもうどっかに逃げたあとな気がするぜ」
ああ、なるほど。たしかに。一般の冒険者なら別の町への移動は自由なんだったな。
そんなことを考えていたのだが、レティシアは俺の表情を誤解したようで安心させるような言葉をかけてくる。
「リリス、安心しろ。いくらリリスが強力な魔法を使えたとしても、戦争に駆り出されることはないはずだぜ。何せリリスはアルテナ様の使徒だからな。使徒を戦争の道具に使うなんて愚かなこと、イストール公がするはずねぇぜ」
「あ、うん。そうだよね。ありがとう」
するとレティシアはニカッと笑ったのだが、すぐに聖女然とした笑みを浮かべた。それとほぼときを同じくして近くの扉が勢いよく開かれたのだった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
青のスーラ
月芝
ファンタジー
気がついたらそこにいた。
月が紅く、ドラゴンが空を飛び、モンスターが闊歩する、剣と魔法のファンタジー世界。
挙句に体がえらいことに! わけも分からないまま、懸命に生き抜こうとするおっさん。
森での過酷なサバイバル生活から始まり、金髪幼女の愛玩動物に成り下がり、
頑張っても頑張っても越えられない壁にへこたれながら、しぶとく立ち上がる。
挙句の果てには、なんだかんだで世界の謎にまで迫ることになっちゃうかも。
前世の記憶や経験がほとんど役に立たない状況下で、とりあえず頑張ります。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる