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第39話 日本では……(9)
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「おい、見たか?」
「ああ。あの男ども、あんなに近くでリリちゃんの胸をガン見しやがって」
「だよな。許せねぇ」
剛たちはまたしてもホームルーム前の教室でリリスの動画について語り合っているが、これまでとは違って何やら冒険者たちに嫉妬しているようだ。
「俺たちのリリちゃんをあんな目で見やがって……」
するとむすっとした表情の藤田がつかつかと近づいてきた。
「朝から何? 今度はCGに嫉妬してるわけ?」
「なっ!?」
「委員長!?」
「大体あなたたちだってあの火をつけてた人たちと同じようなことしてるんじゃないの?」
「う……」
藤田に痛いところを突かれた剛たちは押し黙る。
「そういえばあれ、まるで本物みたいにしっかりしていたわね。まさかチャークロスまで用意するなんて」
「え? ちゃー?」
「チャークロスよ。火打石を打ち金で打って飛ばした火花で赤熱してたでしょ? あれは綿の布を蒸し焼きにして作るの。木炭の布版みたいなものね。あれ、実際にライターとかなしのキャンプでは使われているそうよ」
「そ、そうなんだ。委員長、やっぱり物知りだな」
「え? と、当然よ。そのくらい常識だわ。そんなことより、魔法で火をつけなかったリリちゃんの人柄が素敵だって私は思ったわ」
「え?」
「そういえば……」
「火も出せたって言ってたよな? たしか」
「そうよ。でもあそこで魔法でやったほうが早いなんて言って火をつけちゃったら、教えてくれたあの男の人の面子は丸つぶれよ? やっぱりリリちゃんはいい子な設定なのね。っていうか、あのあたりだと声優さんの人柄かしら?」
「そっか……」
「リリちゃんは天使だったんだ……」
「やばい! ただでさえ可愛くてエロいのにそのうえ性格までいいなんて!」
「え? ちょっと?」
藤田の説明を聞いて剛たちは勝手に盛り上がり始める。
「よーし、ホームルーム始めるぞー。席に着くけー。それとスマホを机の上に出せー」
教室の扉が開かれ、先生が入ってきたことで会話は中断されるのだった。
◆◇◆
その日の授業が終わり、剛たちがいつもどおり無駄話をしていると市川がおずおずと近づいてきた。
「ね、ねぇ」
「え? あっ! い、市川、さん」
「ど、ど、ど、どうも」
剛たちは挙動不審になりながらもなんとか返事を返す。
「あ、あのね? みんな、この前貸してあげた総受けのやつ、気に入ったって言ってくれたでしょ? だ、だからね。その、べ、別のを持ってきたんだけど、ど、どう、かな?」
恥ずかしそうにそう言うと、おずおずと封筒を差し出した。
それを見た剛たちは硬直し、ギギギと音がでそうなほどにぎこちなくお互いに顔を見合わせる。
「あ、いや、その……」
「な、なんていうか……」
「え?」
すると市川は絶望したような表情になり、目に涙を溜め始める。
「あ、そ、そう、だよね。ご、ごめん。わ、私、その……」
「い、いや! そんなことないから! あ、ありがとう!」
泣きそうになった市川の様子に耐えられなくなったのか、杉田が思わずそんなことを言って市川の差し出した封筒を受け取る。
「ホント? 良かった! じゃあ、感想教えてね。私、図書室にいるから」
市川はそう言うと、足早に教室から出ていった。それを見送った剛たちは一斉に杉田のほうを見る。
「おい! どうすんだよ?」
「い、いや、でもよぉ。あのままじゃ泣かせてたぜ?」
「いや、ちゃんと言ったほうが良かったんじゃないか?」
「俺、男同士とか興味ないからな?」
「俺も」
「お、俺だって!」
「「「お前は責任取れ」」」
杉田もそう反論したが、周りから総ツッコミを受けることになる。
「じゃあ、俺らはリリちゃんの動画回しとくからな。お前はちゃんとそれ読んで、市川さんに感想を伝えて来いよ?」
「俺もリリちゃんが――」
「お前が言ったんだから責任取れ」
「そんなぁ」
杉田の情けない声が無人の教室に響き渡るのだった。
◆◇◆
その晩、剛たちが寝静まった頃、金杉家のリビングではニヤついた表情の洋子が久須男の前に日本酒の入ったグラスを差し出した。
「どうした? 機嫌が良さそうじゃないか」
「そうなのよ。少しずつやってるから大変だけど、大分お金を移せてきたわ」
「そうか。四百万と、元から百万近く入っていたんだろ? だから合計で六百万か。猛夫君も頑張って貯めていたものだな」
「ええ。でもおかげで住宅ローンの支払いが楽になるわ」
「そうだな。猛夫君には足を向けて眠れんな」
久須男はそう言ってニヤリと笑い、グラスを傾けるのだった。
================
悪事は着々と進行中のようです。次回は冒険者としての初仕事を行います。お楽しみに!
「ああ。あの男ども、あんなに近くでリリちゃんの胸をガン見しやがって」
「だよな。許せねぇ」
剛たちはまたしてもホームルーム前の教室でリリスの動画について語り合っているが、これまでとは違って何やら冒険者たちに嫉妬しているようだ。
「俺たちのリリちゃんをあんな目で見やがって……」
するとむすっとした表情の藤田がつかつかと近づいてきた。
「朝から何? 今度はCGに嫉妬してるわけ?」
「なっ!?」
「委員長!?」
「大体あなたたちだってあの火をつけてた人たちと同じようなことしてるんじゃないの?」
「う……」
藤田に痛いところを突かれた剛たちは押し黙る。
「そういえばあれ、まるで本物みたいにしっかりしていたわね。まさかチャークロスまで用意するなんて」
「え? ちゃー?」
「チャークロスよ。火打石を打ち金で打って飛ばした火花で赤熱してたでしょ? あれは綿の布を蒸し焼きにして作るの。木炭の布版みたいなものね。あれ、実際にライターとかなしのキャンプでは使われているそうよ」
「そ、そうなんだ。委員長、やっぱり物知りだな」
「え? と、当然よ。そのくらい常識だわ。そんなことより、魔法で火をつけなかったリリちゃんの人柄が素敵だって私は思ったわ」
「え?」
「そういえば……」
「火も出せたって言ってたよな? たしか」
「そうよ。でもあそこで魔法でやったほうが早いなんて言って火をつけちゃったら、教えてくれたあの男の人の面子は丸つぶれよ? やっぱりリリちゃんはいい子な設定なのね。っていうか、あのあたりだと声優さんの人柄かしら?」
「そっか……」
「リリちゃんは天使だったんだ……」
「やばい! ただでさえ可愛くてエロいのにそのうえ性格までいいなんて!」
「え? ちょっと?」
藤田の説明を聞いて剛たちは勝手に盛り上がり始める。
「よーし、ホームルーム始めるぞー。席に着くけー。それとスマホを机の上に出せー」
教室の扉が開かれ、先生が入ってきたことで会話は中断されるのだった。
◆◇◆
その日の授業が終わり、剛たちがいつもどおり無駄話をしていると市川がおずおずと近づいてきた。
「ね、ねぇ」
「え? あっ! い、市川、さん」
「ど、ど、ど、どうも」
剛たちは挙動不審になりながらもなんとか返事を返す。
「あ、あのね? みんな、この前貸してあげた総受けのやつ、気に入ったって言ってくれたでしょ? だ、だからね。その、べ、別のを持ってきたんだけど、ど、どう、かな?」
恥ずかしそうにそう言うと、おずおずと封筒を差し出した。
それを見た剛たちは硬直し、ギギギと音がでそうなほどにぎこちなくお互いに顔を見合わせる。
「あ、いや、その……」
「な、なんていうか……」
「え?」
すると市川は絶望したような表情になり、目に涙を溜め始める。
「あ、そ、そう、だよね。ご、ごめん。わ、私、その……」
「い、いや! そんなことないから! あ、ありがとう!」
泣きそうになった市川の様子に耐えられなくなったのか、杉田が思わずそんなことを言って市川の差し出した封筒を受け取る。
「ホント? 良かった! じゃあ、感想教えてね。私、図書室にいるから」
市川はそう言うと、足早に教室から出ていった。それを見送った剛たちは一斉に杉田のほうを見る。
「おい! どうすんだよ?」
「い、いや、でもよぉ。あのままじゃ泣かせてたぜ?」
「いや、ちゃんと言ったほうが良かったんじゃないか?」
「俺、男同士とか興味ないからな?」
「俺も」
「お、俺だって!」
「「「お前は責任取れ」」」
杉田もそう反論したが、周りから総ツッコミを受けることになる。
「じゃあ、俺らはリリちゃんの動画回しとくからな。お前はちゃんとそれ読んで、市川さんに感想を伝えて来いよ?」
「俺もリリちゃんが――」
「お前が言ったんだから責任取れ」
「そんなぁ」
杉田の情けない声が無人の教室に響き渡るのだった。
◆◇◆
その晩、剛たちが寝静まった頃、金杉家のリビングではニヤついた表情の洋子が久須男の前に日本酒の入ったグラスを差し出した。
「どうした? 機嫌が良さそうじゃないか」
「そうなのよ。少しずつやってるから大変だけど、大分お金を移せてきたわ」
「そうか。四百万と、元から百万近く入っていたんだろ? だから合計で六百万か。猛夫君も頑張って貯めていたものだな」
「ええ。でもおかげで住宅ローンの支払いが楽になるわ」
「そうだな。猛夫君には足を向けて眠れんな」
久須男はそう言ってニヤリと笑い、グラスを傾けるのだった。
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