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第27話 正当防衛
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「待てぇぇぇぇぇぇ」
トマたちがどことなくわざとらしい叫び声を上げながら村に飛び込んできたが、俺の足元に転がるゴブリンどもの死体を見て眉をひそめた。
「なんだこりゃ? どうなってんだ?」
「兄貴、こいつら……」
「げっ! マスかいてやがる!?」
「うわっ! 汚ねっ!」
トマたちは汚物を見て飛び退る。そんな彼らにレティシアさんが鋭い目つきで問いただす。
「トマ様、ヤニック様、ミレーヌはどうしたのです? それにジュゼッペ様はどうしてお一人で戻ってらしたのです?」
「そ、それがですね、レティシア様。ミレーヌは崖で足を滑らせちまったんですよ。崖下にはゴブリンどもが大量にいて……」
トマはそう答えるが、なぜか目が泳いでいる。
「置いて逃げてきたと言うんですか!? ミレーヌを失えば!」
「とても救出なんか無理な状況だったんですよ。俺らに死ねっておっしゃるんですかい?」
「そのようなことは! ならば今から救出に参りましょう!」
「無理ですよ。ミニョレ村はもう守れません。だからレティシア様だけでもせめて……」
「そんな!」
レティシアさんは悲痛な叫び声を上げた。
いつもお淑やかなレティシアさんがあんなに取り乱しているのだ。きっとミレーヌさんはレティシアさんにとって大切な存在なのだろう。
それに、トマたちの口元が緩んでいるのがどうも気になる。
「……レティシアさん、私が救助しに行きます」
「リリスさん?」
「はぁ?」
レティシアさんは縋るような目で、トマたちは馬鹿にしたような表情で俺を見てきた。
「女がゴブリンの群れに飛び込むだと? お前、レイプ願望でもあるのか? なら俺が今からやってやるよ」
トマはそう言っていやらしい表情でそんなことを言ってきた。
こいつ、バカなんじゃないか?
「な、何をおっしゃっているんですの? リリスさんに乱暴をするなんて!」
「レティシア様、これはこの馬鹿なエルフが自分で言いだしたことですから」
いや、言いだしていないんだが?
レティシアさんも何を言っているのか理解できないといった表情を浮かべる。
「さあ、可愛がってやるぜ。ゴブリンなんかのとこに行きたくなくなるくらいにな」
「……あなた、頭おかしいんじゃない?」
おっと、しまった。つい暴言が飛び出してしまった。
「あ゛? 頭おかしいのはお前だろうが! 女が一人でゴブリンの群れに飛び込むなんざ考えられねぇ。なら先に俺が使ってやるって言ってんだよ。おら! こっち来い!」
そう言ってトマは俺の胸を鷲掴みにしようと手を伸ばしてきたので、俺は反射的にトマの精気を抜き取ってしまった。
おっと! まずい!
慌てて止めたおかげですべての精気を抜き取らずにすんだが、それでもこれは相当効いたようだ。
トマはがっくりと膝をついている。
「ぐ……何……しやがった……」
「あなたが私に乱暴しようとしたから反撃しただけよ」
「こ、このっ!」
トマは気力を振り絞って立ち上がったので、俺はもう少しだけ精気を抜いてやった。
「うっ」
トマはその場に崩れ落ちた。地面に這いつくばりながら俺のほうをものすごい目で睨んではいるものの、ピクリとも動こうとしない。
どうやらもう立ち上がるだけの力すら残っていないようだ。
「ミレーヌさんが落ちた崖の場所を教えてください」
「ぐ……」
トマはなおも俺のことを睨みつけてくる。
「これ以上やると死んでしまうかもしれないわよ?」
そう言ってちらりとレティシアさんのほうを見るが、どうやら止める気はないようだ。
レティシアさんはこのトマにさえも丁寧に扱われていた。きっとアスタルテ教の聖女様にはかなりの権力があり、その聖女様が黙認しているということは少なくとも俺が罰せられることはないのだろう。多分。
「ヤニックさん、ジュゼッペさん、ミレーヌさんのところに案内してくれませんか? そうじゃないと……」
俺はトマのほうをちらりと見ながら二人を脅す。
「……わかりやした。あっしが案内しやす」
「わかりました」
俺は抜き出した精気をトマに戻してあげようと思ったが、いくらそう念じても戻っていくことはない。
どうやら一度抜き取った精気は元に戻せないようだ。思い出してみればゴブリンの精気もひとまとまりになっていたし、きっとそういうものなのだろう。
……なら仕方ない、よね?
俺は抜き出したトマの精気を飲み込んだ。
うーん、ゴブリンのものよりはマシではあるが、お世辞にも美味しいとは言えないなんとも微妙な味だ。
ロラン君のことが美味しそうだと思ったのは、もしかすると下種な欲望まみれの奴の精気が美味しくないということをこの体が本能的に知っていたからなのかもしれない。
「じゃあ、案内してください」
「へい。その、兄貴は……」
「多分、放っておけば回復するんじゃないですか? 知らないですけど」
「な……おい!」
トマが抗議の声を上げるが、そっちが襲ってきたんだから正当防衛だ。
「トマさん、俺が運びますから」
ジュゼッペさんがそう言ってトマをなんとか起き上がらせ、宿のほうへと連れていく。
「じゃ、じゃあ、こっちっす」
それを見送った俺たちは村の外へと向かうのだった。
================
正当防衛とはいえ、ついに人間の精気を食べてしまいました。次回、ミレーヌさんの救出に向かいます。果たして間に合うのでしょうか?
次回もお楽しみに!
トマたちがどことなくわざとらしい叫び声を上げながら村に飛び込んできたが、俺の足元に転がるゴブリンどもの死体を見て眉をひそめた。
「なんだこりゃ? どうなってんだ?」
「兄貴、こいつら……」
「げっ! マスかいてやがる!?」
「うわっ! 汚ねっ!」
トマたちは汚物を見て飛び退る。そんな彼らにレティシアさんが鋭い目つきで問いただす。
「トマ様、ヤニック様、ミレーヌはどうしたのです? それにジュゼッペ様はどうしてお一人で戻ってらしたのです?」
「そ、それがですね、レティシア様。ミレーヌは崖で足を滑らせちまったんですよ。崖下にはゴブリンどもが大量にいて……」
トマはそう答えるが、なぜか目が泳いでいる。
「置いて逃げてきたと言うんですか!? ミレーヌを失えば!」
「とても救出なんか無理な状況だったんですよ。俺らに死ねっておっしゃるんですかい?」
「そのようなことは! ならば今から救出に参りましょう!」
「無理ですよ。ミニョレ村はもう守れません。だからレティシア様だけでもせめて……」
「そんな!」
レティシアさんは悲痛な叫び声を上げた。
いつもお淑やかなレティシアさんがあんなに取り乱しているのだ。きっとミレーヌさんはレティシアさんにとって大切な存在なのだろう。
それに、トマたちの口元が緩んでいるのがどうも気になる。
「……レティシアさん、私が救助しに行きます」
「リリスさん?」
「はぁ?」
レティシアさんは縋るような目で、トマたちは馬鹿にしたような表情で俺を見てきた。
「女がゴブリンの群れに飛び込むだと? お前、レイプ願望でもあるのか? なら俺が今からやってやるよ」
トマはそう言っていやらしい表情でそんなことを言ってきた。
こいつ、バカなんじゃないか?
「な、何をおっしゃっているんですの? リリスさんに乱暴をするなんて!」
「レティシア様、これはこの馬鹿なエルフが自分で言いだしたことですから」
いや、言いだしていないんだが?
レティシアさんも何を言っているのか理解できないといった表情を浮かべる。
「さあ、可愛がってやるぜ。ゴブリンなんかのとこに行きたくなくなるくらいにな」
「……あなた、頭おかしいんじゃない?」
おっと、しまった。つい暴言が飛び出してしまった。
「あ゛? 頭おかしいのはお前だろうが! 女が一人でゴブリンの群れに飛び込むなんざ考えられねぇ。なら先に俺が使ってやるって言ってんだよ。おら! こっち来い!」
そう言ってトマは俺の胸を鷲掴みにしようと手を伸ばしてきたので、俺は反射的にトマの精気を抜き取ってしまった。
おっと! まずい!
慌てて止めたおかげですべての精気を抜き取らずにすんだが、それでもこれは相当効いたようだ。
トマはがっくりと膝をついている。
「ぐ……何……しやがった……」
「あなたが私に乱暴しようとしたから反撃しただけよ」
「こ、このっ!」
トマは気力を振り絞って立ち上がったので、俺はもう少しだけ精気を抜いてやった。
「うっ」
トマはその場に崩れ落ちた。地面に這いつくばりながら俺のほうをものすごい目で睨んではいるものの、ピクリとも動こうとしない。
どうやらもう立ち上がるだけの力すら残っていないようだ。
「ミレーヌさんが落ちた崖の場所を教えてください」
「ぐ……」
トマはなおも俺のことを睨みつけてくる。
「これ以上やると死んでしまうかもしれないわよ?」
そう言ってちらりとレティシアさんのほうを見るが、どうやら止める気はないようだ。
レティシアさんはこのトマにさえも丁寧に扱われていた。きっとアスタルテ教の聖女様にはかなりの権力があり、その聖女様が黙認しているということは少なくとも俺が罰せられることはないのだろう。多分。
「ヤニックさん、ジュゼッペさん、ミレーヌさんのところに案内してくれませんか? そうじゃないと……」
俺はトマのほうをちらりと見ながら二人を脅す。
「……わかりやした。あっしが案内しやす」
「わかりました」
俺は抜き出した精気をトマに戻してあげようと思ったが、いくらそう念じても戻っていくことはない。
どうやら一度抜き取った精気は元に戻せないようだ。思い出してみればゴブリンの精気もひとまとまりになっていたし、きっとそういうものなのだろう。
……なら仕方ない、よね?
俺は抜き出したトマの精気を飲み込んだ。
うーん、ゴブリンのものよりはマシではあるが、お世辞にも美味しいとは言えないなんとも微妙な味だ。
ロラン君のことが美味しそうだと思ったのは、もしかすると下種な欲望まみれの奴の精気が美味しくないということをこの体が本能的に知っていたからなのかもしれない。
「じゃあ、案内してください」
「へい。その、兄貴は……」
「多分、放っておけば回復するんじゃないですか? 知らないですけど」
「な……おい!」
トマが抗議の声を上げるが、そっちが襲ってきたんだから正当防衛だ。
「トマさん、俺が運びますから」
ジュゼッペさんがそう言ってトマをなんとか起き上がらせ、宿のほうへと連れていく。
「じゃ、じゃあ、こっちっす」
それを見送った俺たちは村の外へと向かうのだった。
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正当防衛とはいえ、ついに人間の精気を食べてしまいました。次回、ミレーヌさんの救出に向かいます。果たして間に合うのでしょうか?
次回もお楽しみに!
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