21 / 122
第21話 ミニョレ村のウェイトレス
しおりを挟む
ミニョレ村へと戻ってきた冒険者たちは唯一の宿であるクロエさんの宿に宿泊することとなった。
昨日までは無料で泊めてもらっている俺しかいなかった宿も、今日からは満室だ。
彼らは当然宿泊費を支払っているわけで、こうなるとなんだか無料で泊めてもらっていることが申し訳なくなってくる。
というわけで、肩身が狭くなってきた俺はクロエさんに手伝いを申し出た。
「え? リリスちゃんがお手伝いを?」
俺の申し出はクロエさんにとって意外だったようだ。
「うん。今日からは忙しくなるでしょ? それにずっとお金を払わないのもどうかと思ってたし……」
「いいのよ? ロランを助けてもらったんだし」
「ううん。私がやりたいの。だから何か手伝わせて?」
「うーん、なら、ウェイトレスでもやってみるかい?」
「うん!」
こうして俺は新米ウェイトレスとして働くことになったのだった。
◆◇◆
「さあ、これが制服だよ。ただサイズが合うかしらねぇ」
クロエさんはそう言ってウェイトレスの制服一式を差し出してきた。
「さ、着せてあげるよ」
「え? でも自分で……」
「遠慮しなさんな。さ、両手を上げて」
「自分で……」
「いいから。さ、早くおし! 時間が無いよ」
「う……」
こうして俺はクロエさんの圧に負け、着付けてもらうことになった。
「それにしてもリリスちゃんはスタイルがいいねぇ」
「ぐえっ!」
いきなり首が締められ、思わず変な声が出てしまった。
今首元を紐で閉じるタイプの白い半袖ブラウスのようなものを着せてもらっているところなのだが、紐を引っ張っただけで首が締まってしまう。
……このブラウス、胸があまりにもきつすぎるのだ。明らかに体形に合っていない。
「ああ、ごめんごめん。やっぱりこれじゃあサイズが合わないねぇ……」
そういうとクロエさんは少し何かを考え、そしてクローゼットの中から何かひらひらしたものを出してきた。
「この飾り襟でその谷間は隠そうか。谷間を男に見せるなんざ娼婦のやることだからね」
俺はクロエさんの言うことに黙って頷いた。
娼婦云々はよく分からないが、たしかに言われてみれば村の女性たちで谷間を見せている女性は一人もいなかった。
それからクロエさんは次々と俺に服を着せていく。
「あらぁ、腰がぶかぶか。リリスちゃん、本当にすごいのねぇ」
そう言ってクロエさんは胴着の前の紐をぎゅっと絞った。
それから俺はエプロンをし、さらに髪を赤いリボンでまとめてもらった。
「はい、できあがり。良く似合ってるよ!」
クロエさんは満足げにそう言った。
「あ、ありがとう」
俺はすぐに配信用のウィンドウを開き、ライブプレビューで自分の姿を確認する。
かわいいが……かなりエロい。
この服は肌の露出が多いわけではない。腰の部分が黒の胴着できゅっと絞られており、飾り布で装飾された大きな双丘がより強調されている。
赤いロングスカートもその上に掛けた黒いエプロンもかわいいし、少し膨らんだ肩口と袖口をきゅっと絞る赤い紐がアクセントになっていてとてもオシャレだ。
金髪に赤いリボンもよく映えている。
だがこの大きすぎる胸のせいでコスプレにしか見えない。
……ん? コスプレ?
そういえばコスプレ希望のコメントがたくさん来ていたような?
よし! どうせだからこれ、動画にしてしまおう。
これがコスプレかどうかはさておき、こうして俺はリクエストに応えてコスプレ風動画の撮影をすることにしたのだった。
◆◇◆
動画のイントロを撮り終え、俺は食堂へとやってきた。一人で森の調査に向かったヤニックさんも戻ってきており、食堂には九人の冒険者が全員集まっている。
ウェイトレスといっても食事のメニューは一つしかないので、仕事は配膳と追加ドリンクの注文を取るくらいしかない。
そうして配膳を終え、食堂の隅で立っているとトマさんがこちらに来いと横柄な態度で俺を身振りで呼んだ。
トマさんたちはすでにエールを十杯もお代わりしているので、かなり顔が赤くなっている。
「はい。ご注文ですか?」
「おう、注文だ。お前、今晩は俺の相手をしろ」
そう言ってこいつはくすんだ金色の硬貨を見せてきた。
「はい?」
何を言っているんだ? こいつ?
嫌悪感から思わず罵声を浴びせたくなるが、ぐっとこらえた。
こんな奴でも一応は村のためにゴブリンを退治しに来てくれたのだ。
「申し訳ありませんが、私はそういったサービスをしていません。他を当たってください」
きっぱりと断ったが、なおも食い下がってくる。
「なあ、その胸とその顔、最初から気に入ってたんだ。いいだろ?」
「イヤっ! やめてっ!」
巨漢が明らかに性的な目で見ながら迫ってくる。
その恐怖に俺は思わず悲鳴にも似た声を上げてしまった。
だがどうやらそれはトマを興奮させてしまったようで、ますますぎらついた目で見てくる。
「なぁ、いいだろ? 俺らは守ってやる冒険者なんだぞ? なぁ?」
「ひっ」
後ずさるもののトマは興奮した様子で迫ってきて、俺はついに壁際に追い込まれてしまった。
これは、もはや精気を搾り取るしかないか?
そう思った瞬間だった。
「やめろ。イストール公から依頼された冒険者が無体を働けばイストール公の品位を穢すことになる」
ミレーヌさんがそう言ってトマを窘めてくれた。
「あんだと!? うるせぇな! ならお前が――」
「何か言ったか?」
気が付けばミレーヌさんはトマの首筋に剣を突きつけていた。
「我々はイストール公の依頼でここに来ている。その意味は分かっているな?」
「……クソッ。わかったよ」
トマがそう言うと、ミレーヌさんは剣を引いた。
「リリス、すまなかった」
「いえ、ミレーヌさんが謝ることじゃないですから。謝るべきは……」
俺はトマを睨んでやったが、トマはそんなことを気にも留めず憎々し気な視線を俺たちへと送ってきている。
……これっぽっちも悪いとは思っていないようだ。
少しは反省しろ!
そんな思いを込め、俺はもう一度トマを睨んでやったのだった。
================
お約束どおり、さっそくガラの悪い冒険者にと絡まれましたが、人の精気は吸わずに済みました。
次回はお仕事の様子を編集して動画投稿します。
昨日までは無料で泊めてもらっている俺しかいなかった宿も、今日からは満室だ。
彼らは当然宿泊費を支払っているわけで、こうなるとなんだか無料で泊めてもらっていることが申し訳なくなってくる。
というわけで、肩身が狭くなってきた俺はクロエさんに手伝いを申し出た。
「え? リリスちゃんがお手伝いを?」
俺の申し出はクロエさんにとって意外だったようだ。
「うん。今日からは忙しくなるでしょ? それにずっとお金を払わないのもどうかと思ってたし……」
「いいのよ? ロランを助けてもらったんだし」
「ううん。私がやりたいの。だから何か手伝わせて?」
「うーん、なら、ウェイトレスでもやってみるかい?」
「うん!」
こうして俺は新米ウェイトレスとして働くことになったのだった。
◆◇◆
「さあ、これが制服だよ。ただサイズが合うかしらねぇ」
クロエさんはそう言ってウェイトレスの制服一式を差し出してきた。
「さ、着せてあげるよ」
「え? でも自分で……」
「遠慮しなさんな。さ、両手を上げて」
「自分で……」
「いいから。さ、早くおし! 時間が無いよ」
「う……」
こうして俺はクロエさんの圧に負け、着付けてもらうことになった。
「それにしてもリリスちゃんはスタイルがいいねぇ」
「ぐえっ!」
いきなり首が締められ、思わず変な声が出てしまった。
今首元を紐で閉じるタイプの白い半袖ブラウスのようなものを着せてもらっているところなのだが、紐を引っ張っただけで首が締まってしまう。
……このブラウス、胸があまりにもきつすぎるのだ。明らかに体形に合っていない。
「ああ、ごめんごめん。やっぱりこれじゃあサイズが合わないねぇ……」
そういうとクロエさんは少し何かを考え、そしてクローゼットの中から何かひらひらしたものを出してきた。
「この飾り襟でその谷間は隠そうか。谷間を男に見せるなんざ娼婦のやることだからね」
俺はクロエさんの言うことに黙って頷いた。
娼婦云々はよく分からないが、たしかに言われてみれば村の女性たちで谷間を見せている女性は一人もいなかった。
それからクロエさんは次々と俺に服を着せていく。
「あらぁ、腰がぶかぶか。リリスちゃん、本当にすごいのねぇ」
そう言ってクロエさんは胴着の前の紐をぎゅっと絞った。
それから俺はエプロンをし、さらに髪を赤いリボンでまとめてもらった。
「はい、できあがり。良く似合ってるよ!」
クロエさんは満足げにそう言った。
「あ、ありがとう」
俺はすぐに配信用のウィンドウを開き、ライブプレビューで自分の姿を確認する。
かわいいが……かなりエロい。
この服は肌の露出が多いわけではない。腰の部分が黒の胴着できゅっと絞られており、飾り布で装飾された大きな双丘がより強調されている。
赤いロングスカートもその上に掛けた黒いエプロンもかわいいし、少し膨らんだ肩口と袖口をきゅっと絞る赤い紐がアクセントになっていてとてもオシャレだ。
金髪に赤いリボンもよく映えている。
だがこの大きすぎる胸のせいでコスプレにしか見えない。
……ん? コスプレ?
そういえばコスプレ希望のコメントがたくさん来ていたような?
よし! どうせだからこれ、動画にしてしまおう。
これがコスプレかどうかはさておき、こうして俺はリクエストに応えてコスプレ風動画の撮影をすることにしたのだった。
◆◇◆
動画のイントロを撮り終え、俺は食堂へとやってきた。一人で森の調査に向かったヤニックさんも戻ってきており、食堂には九人の冒険者が全員集まっている。
ウェイトレスといっても食事のメニューは一つしかないので、仕事は配膳と追加ドリンクの注文を取るくらいしかない。
そうして配膳を終え、食堂の隅で立っているとトマさんがこちらに来いと横柄な態度で俺を身振りで呼んだ。
トマさんたちはすでにエールを十杯もお代わりしているので、かなり顔が赤くなっている。
「はい。ご注文ですか?」
「おう、注文だ。お前、今晩は俺の相手をしろ」
そう言ってこいつはくすんだ金色の硬貨を見せてきた。
「はい?」
何を言っているんだ? こいつ?
嫌悪感から思わず罵声を浴びせたくなるが、ぐっとこらえた。
こんな奴でも一応は村のためにゴブリンを退治しに来てくれたのだ。
「申し訳ありませんが、私はそういったサービスをしていません。他を当たってください」
きっぱりと断ったが、なおも食い下がってくる。
「なあ、その胸とその顔、最初から気に入ってたんだ。いいだろ?」
「イヤっ! やめてっ!」
巨漢が明らかに性的な目で見ながら迫ってくる。
その恐怖に俺は思わず悲鳴にも似た声を上げてしまった。
だがどうやらそれはトマを興奮させてしまったようで、ますますぎらついた目で見てくる。
「なぁ、いいだろ? 俺らは守ってやる冒険者なんだぞ? なぁ?」
「ひっ」
後ずさるもののトマは興奮した様子で迫ってきて、俺はついに壁際に追い込まれてしまった。
これは、もはや精気を搾り取るしかないか?
そう思った瞬間だった。
「やめろ。イストール公から依頼された冒険者が無体を働けばイストール公の品位を穢すことになる」
ミレーヌさんがそう言ってトマを窘めてくれた。
「あんだと!? うるせぇな! ならお前が――」
「何か言ったか?」
気が付けばミレーヌさんはトマの首筋に剣を突きつけていた。
「我々はイストール公の依頼でここに来ている。その意味は分かっているな?」
「……クソッ。わかったよ」
トマがそう言うと、ミレーヌさんは剣を引いた。
「リリス、すまなかった」
「いえ、ミレーヌさんが謝ることじゃないですから。謝るべきは……」
俺はトマを睨んでやったが、トマはそんなことを気にも留めず憎々し気な視線を俺たちへと送ってきている。
……これっぽっちも悪いとは思っていないようだ。
少しは反省しろ!
そんな思いを込め、俺はもう一度トマを睨んでやったのだった。
================
お約束どおり、さっそくガラの悪い冒険者にと絡まれましたが、人の精気は吸わずに済みました。
次回はお仕事の様子を編集して動画投稿します。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
転生したら弱いものまね士になったけど結局活躍した。それはいいとして、英雄になったら隣に住んでたエルフとベッドの上でファンタジーが始まった
ぐうのすけ
ファンタジー
会社帰り、俺は突然異世界に転生した。
転生した異世界は貴族屋敷……の隣にあるボロ屋の息子だった。
10才で弱いと言われるものまね士のジョブを授かるが、それでも俺は冒険者を目指す。
所で隣のメイドさん、俺をからかうの、やめてもらえますか?
やめて貰えないと幼馴染のお嬢様が頬をぷっくりさせて睨んでくるんですけど?
そう言えば俺をバカにしていたライダーはどんどんボロボロになっていくけど、生きておるのか?
まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、俺が英雄になった後隣に住んでいたエルフメイドがベッドの上では弱すぎる。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる