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第7話 日本では……(2)
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「おはよう、朱里ちゃん、剛君。昨日はよく眠れた?」
洋子が起きてきた朱里と剛に優しく微笑みかけた。まるで昨日の仏頂面が嘘のようににこやかである。
「……おはようございます」
「おはようございます」
朱里は遠慮がちに、剛はやや寝ぼけた様子でそう挨拶を返す。
「昨日はごめんなさいね。いきなりだったからおばさん、ちょっと動転していて……。でも二人だって辛いものね。おばさんは猛夫君の代わりには慣れないけれど、どうか頼ってちょうだい」
洋子は申し訳なさそうにそう言うと、二人に向かって微笑んだ。
「え……?」
「はい。おばさん、よろしく」
朱里は表情を強張らせ、剛はあまり興味がなさそうな様子でそう答える。
「朱里ちゃんも、よろしくね」
「……はい」
「さあ、二人とも学校でしょう? 早く食べなさい」
洋子は二人をそう急かすと、二人のお茶碗に炊き立てのご飯をよそうのだった。
◆◇◆
朝食をとった二人は制服に着替え、それぞれの学校へと向かう。
「ねえ、剛」
「何? 姉ちゃん」
「あの人たちさ」
「分かってるよ。俺らのこと、嫌ってるだろ? 他人だもん」
「うん」
「だから俺、中学卒業したら高校行かないでバイトする。あの人らの世話になりたくないし」
「でも、兄さんは……」
「分かってるよ。兄ちゃんは俺たちのためにすげぇ働いてくれてたし。大学行けって言ってたもんな」
「うん。兄さんはあたしたちのために大学行かなかったのに……」
朱里は辛そうな表情で俯いた。
「あ、姉ちゃん。俺こっち」
「あ! うん。じゃあ、またね」
「うん。また」
こうして二人はそれぞれの学校へと登校するのだった。
◆◇◆
「お! 茂手内じゃん! お前大丈夫なのか?」
剛が教室に入ると、一人の男子生徒が声をかけてきた。彼の名は杉田浩平、剛のクラスメイトである。
「よぉ、杉田。見てのとおり、全然問題なし」
「ホントか? お前、なんか目にクマできてるぞ?」
「マジで? 見てなかったわ」
「やっぱ悩んでるんじゃないのか? お兄さんのこと」
「あ、そういうんじゃねーわ。すげぇの見つけちまったんだよ」
「すげぇの?」
「ああ、リリちゃんっていう新人VTuber。なんとかって異世界にエルフとして転生したっていう設定なんだけど、超かわいいんだよ」
「は? お前、まさかそれで?」
「おう。マジすげぇって。抜けるぜ。ほら、この子」
「ん? どれどれ……うわっ! マジだ! 超かわいい!」
「だろ? ダウンロードしてあるから、放課後な?」
「やったぜ!」
こうして剛は杉田にリリスの動画を見せる約束をしたのだった。
◆◇◆
放課後、預けておいたスマホを担任の教師から返してもらい、剛は校舎裏へと向かった。
するとそこにはすでに五人ほどの男子生徒が集まっていた。彼らは剛と同じ学年で、こうしてよくつるんでいる仲間だ。
「よお、お前らもか」
「おうよ。杉田がすげぇかわいいVTuberをお前が見つけたって聞いたからな」
そう言ったのは山本大翔だ。
「ああ、山本。まじですげぇから」
そう言って剛がスマホを取り出し、リリスの動画を再生する。
「あ、やべぇ」
「超かわいいじゃん」
「やばい。これ実写?」
「なわけねぇだろ。実写でこんなかわいい娘、いるわけないじゃん」
冷静にツッコミを入れたのは西川昭介、剛のクラスメイトである。
「だよなぁ」
彼らの視線は画面の中で微笑むリリスに釘付けになっている。
「この胸、でかいよな」
「透けねぇかなぁ」
「CGが透けるわけねぇだろ」
「ゴブリンってなんだよ」
「おおい! そこモザイクかよ!」
ゴブリンの股間にモザイクがかかっているシーンで彼らは大爆笑した。
「やべぇ、絶対狙ってるだろ」
「だよなぁ」
「絶対エロイラストとか出そう」
「あー、めっちゃ抜けそう」
「っていうか、これだけでも抜けるだろ」
「たしかに!」
「おい、最初から」
「おう」
こうして剛たちは夢中になってリリスの動画を何度も見返すのだった。
◆◇◆
その夜、部屋で寝転んでいる剛のスマホに通知が入った。
「お? やった! リリちゃんの動画!」
剛はすぐさま通知から動画の再生を始める。
「今日はですね。せっかく異世界に転生したので、魔法をみんなにお見せしたいと思います」
「リリちゃんの存在が魔法だよなぁ」
剛はそう呟くと、食い入るように画面を見ている。
「ひゃんっ!?」
「うおっ!?」
リリスが間違って噴水に触った場面で剛は思わず動画を一時停止した。
「やばい。マジヤバい。ってか、これ、本当にCGか? CGってこんな風になるんだっけ? 下着、ちょっと透けてるような?」
剛はそんなことを呟きながらも食い入るように画面を見つめている。
「よし。『リリちゃん、可愛いうえにスタイル良くって最高! 今度はコスプレが見たいです!』っと」
剛はリリスの動画にそうコメントを残した。
そして動画を最後まで見た剛はリピート再生すると、近くに置かれたティッシュ箱へと手を伸ばすのだった。
洋子が起きてきた朱里と剛に優しく微笑みかけた。まるで昨日の仏頂面が嘘のようににこやかである。
「……おはようございます」
「おはようございます」
朱里は遠慮がちに、剛はやや寝ぼけた様子でそう挨拶を返す。
「昨日はごめんなさいね。いきなりだったからおばさん、ちょっと動転していて……。でも二人だって辛いものね。おばさんは猛夫君の代わりには慣れないけれど、どうか頼ってちょうだい」
洋子は申し訳なさそうにそう言うと、二人に向かって微笑んだ。
「え……?」
「はい。おばさん、よろしく」
朱里は表情を強張らせ、剛はあまり興味がなさそうな様子でそう答える。
「朱里ちゃんも、よろしくね」
「……はい」
「さあ、二人とも学校でしょう? 早く食べなさい」
洋子は二人をそう急かすと、二人のお茶碗に炊き立てのご飯をよそうのだった。
◆◇◆
朝食をとった二人は制服に着替え、それぞれの学校へと向かう。
「ねえ、剛」
「何? 姉ちゃん」
「あの人たちさ」
「分かってるよ。俺らのこと、嫌ってるだろ? 他人だもん」
「うん」
「だから俺、中学卒業したら高校行かないでバイトする。あの人らの世話になりたくないし」
「でも、兄さんは……」
「分かってるよ。兄ちゃんは俺たちのためにすげぇ働いてくれてたし。大学行けって言ってたもんな」
「うん。兄さんはあたしたちのために大学行かなかったのに……」
朱里は辛そうな表情で俯いた。
「あ、姉ちゃん。俺こっち」
「あ! うん。じゃあ、またね」
「うん。また」
こうして二人はそれぞれの学校へと登校するのだった。
◆◇◆
「お! 茂手内じゃん! お前大丈夫なのか?」
剛が教室に入ると、一人の男子生徒が声をかけてきた。彼の名は杉田浩平、剛のクラスメイトである。
「よぉ、杉田。見てのとおり、全然問題なし」
「ホントか? お前、なんか目にクマできてるぞ?」
「マジで? 見てなかったわ」
「やっぱ悩んでるんじゃないのか? お兄さんのこと」
「あ、そういうんじゃねーわ。すげぇの見つけちまったんだよ」
「すげぇの?」
「ああ、リリちゃんっていう新人VTuber。なんとかって異世界にエルフとして転生したっていう設定なんだけど、超かわいいんだよ」
「は? お前、まさかそれで?」
「おう。マジすげぇって。抜けるぜ。ほら、この子」
「ん? どれどれ……うわっ! マジだ! 超かわいい!」
「だろ? ダウンロードしてあるから、放課後な?」
「やったぜ!」
こうして剛は杉田にリリスの動画を見せる約束をしたのだった。
◆◇◆
放課後、預けておいたスマホを担任の教師から返してもらい、剛は校舎裏へと向かった。
するとそこにはすでに五人ほどの男子生徒が集まっていた。彼らは剛と同じ学年で、こうしてよくつるんでいる仲間だ。
「よお、お前らもか」
「おうよ。杉田がすげぇかわいいVTuberをお前が見つけたって聞いたからな」
そう言ったのは山本大翔だ。
「ああ、山本。まじですげぇから」
そう言って剛がスマホを取り出し、リリスの動画を再生する。
「あ、やべぇ」
「超かわいいじゃん」
「やばい。これ実写?」
「なわけねぇだろ。実写でこんなかわいい娘、いるわけないじゃん」
冷静にツッコミを入れたのは西川昭介、剛のクラスメイトである。
「だよなぁ」
彼らの視線は画面の中で微笑むリリスに釘付けになっている。
「この胸、でかいよな」
「透けねぇかなぁ」
「CGが透けるわけねぇだろ」
「ゴブリンってなんだよ」
「おおい! そこモザイクかよ!」
ゴブリンの股間にモザイクがかかっているシーンで彼らは大爆笑した。
「やべぇ、絶対狙ってるだろ」
「だよなぁ」
「絶対エロイラストとか出そう」
「あー、めっちゃ抜けそう」
「っていうか、これだけでも抜けるだろ」
「たしかに!」
「おい、最初から」
「おう」
こうして剛たちは夢中になってリリスの動画を何度も見返すのだった。
◆◇◆
その夜、部屋で寝転んでいる剛のスマホに通知が入った。
「お? やった! リリちゃんの動画!」
剛はすぐさま通知から動画の再生を始める。
「今日はですね。せっかく異世界に転生したので、魔法をみんなにお見せしたいと思います」
「リリちゃんの存在が魔法だよなぁ」
剛はそう呟くと、食い入るように画面を見ている。
「ひゃんっ!?」
「うおっ!?」
リリスが間違って噴水に触った場面で剛は思わず動画を一時停止した。
「やばい。マジヤバい。ってか、これ、本当にCGか? CGってこんな風になるんだっけ? 下着、ちょっと透けてるような?」
剛はそんなことを呟きながらも食い入るように画面を見つめている。
「よし。『リリちゃん、可愛いうえにスタイル良くって最高! 今度はコスプレが見たいです!』っと」
剛はリリスの動画にそうコメントを残した。
そして動画を最後まで見た剛はリピート再生すると、近くに置かれたティッシュ箱へと手を伸ばすのだった。
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