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第四章

第四章第89話 新学期が始まりました

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 それからは何事もなく過ごし、新学期になりました。

 あ、すみません。ちょっと違いました。何事もなかったのはあたしの周りだけで、オーデルラーヴァとの間では事件が起きました。

 オーデルラーヴァの兵士が攻めてきて、なんとフドネラの先に建てた砦が占領されちゃったらしいんです。

 戦争のことはよく分からないんですけど、砦を占領されちゃうなんて大丈夫なんでしょうか?

 お義父さまもお義姉さまも大丈夫って言っていますけど、心配です。だって、砦がなくなったってことは、次はフドネラの町にオーデルラーヴァの兵士たちが攻め込んでくるってことですよね?

 そうなると、きっとあの親切な門番さんも戦争に巻き込まれちゃうってことですよね?

 でも、止めてって言っても……きっと止めてくれないんですよね……?

 ルクシアの人たちもそうですけど、なんでこんなことをするんでしょうか?

 もっとみんな、仲良くすればいいのにって思うんですけど……。

 あ、それとですね。パドゥレ・ランスカはお取り潰しで、あのおかしな村長とその息子は処刑されるそうです。ただ、パドゥレ・ランスカはそもそも壊滅状態で、二人の安否もギガントスノーベアが居座っているせいで分かっていないそうです。

 そうですよね。あんなに大きなシロクマがいたらどうしようもないですよね。あたしもユキたちのおかげで助かっただけですし。

 あと、ランスカ男爵ともお義父さまが話し合って和解したらしいです。どんな話をしたのかは教えてもらえませんでしたけど、穏便に済ませたって言っていました。ただ、そう説明してくれたときのお義父さまはなんだかちょっと怖かったです。

 正教会のことも心配しないでいいって言ってましたけど……。

 えっと、はい。それでですね。あたしたちは初日から授業です。しかもいきなり苦手な数学の授業があるんですから意地悪です。

 ……はい。もちろん知ってましたけど。

 それとですね。公式訪問のことなんですけど、クラスの人は誰も聞いてきませんでした。

 実はお義姉さまがすごく心配してくれていて、自分からは絶対に話すなって念を押されているんです。だからあたしからそのことを話したりはしていないんですけど、リリアちゃんやヴィーシャさんだけじゃなく、クラスの人は誰も話してきませんでした。

 ……もしかして、気をつかってくれてるんでしょうか?

 あ、でも二人としか仲良しじゃないので単に聞きづらいだけかもしれないですね。

 そんなこんなで授業が終わり、あたしは生徒会にやってきました。お義姉さまが扉を開けて中に入り、あたしも続いて中に入ります。

 するとそこにはもう全員が揃っており、公子さまがあたしを見つけて駆け寄ってきました。

「ああ、ローザ嬢、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「あ、えっと、はい。なんとか……」

 公子さまはキラキラした笑みを浮かべてそう言ってくれましたが……。

「ふん」
「え?」

 不機嫌そうな声に振り向くと、そこにはレアンドルさんがいました。

「あ……えっと……」

 そ、そうでした。レアンドルさんはイヴァンナさんとタルヴィア子爵の……。

 あたしがどう声を掛けたらいいかわからずに困っていると、レアンドルさんはものすごい目であたしをにらんできました。

「ひっ……」
「はぁ」

 レアンドルさんは大きなため息をつきました。それからゾッとするほど冷たい声であたしをなじり始めます。

「なんでアンタが一人で帰ってきたの?」
「えっ?」
「なんで父さんと母さんを見捨てたの?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「ならなんでアンタだけ生きてるんだよ」
「う……」
「お止めなさい!」

 お義姉さまが割って入ってくれました。ですがレアンドルさんはフンと鼻を鳴らし、そっぽをむいてしまいました。

「レアンドル、君の個人的な感情をぶつけるのは止めたまえ。卑劣な者たちの手でご両親を亡くしたことには同情するが、その怒りをローザ嬢にぶつけるのはただの八つ当たりだ。ローザ嬢は外交使節団の一員であり、我が陛下の親書をミハイ三世陛下に届けるという重要な公務を任されていた。君も貴族であればその意味は理解できるだろう?」
「……分かってますよ」

 公子さまに言われ、レアンドルは不貞腐れた様子でそう答えました。ですがあたしのほうをギロリと一睨みしてきます。

「ひっ」
「レアンドル!」
「はいはい」

 レアンドルさんはすぐにそっぽをむいてしまいました。するとお義姉さまがあたしに提案してきます。

「ローザ、今日は生徒会の仕事どころでは無さそうですわね。料理研究会に視察に行ってはどうかしら?」
「え? あっ! はい! そうします!」

 あたしはお義姉さまの提案に二つ返事で乗り、生徒会室を後にするのでした。

◆◇◆

「すみません」
「どちら様……あれ? ローザちゃん!? どうしたの? 生徒会は?」
「はい。ちょっと今日は視察しようかなって思いまして……」
「そうなんだ。入って」
「はい」

 こうしてあたしは料理研究会の視察を始めました。今日は、ベーコンとナスのトマトパスタを作るそうです。

 一緒に調理するのはビタさんというあたしと入れ替わりで中途入会した一年生の子です。

 ビタさん、商人の娘らしいですよ。ご両親は東のほうにある国の出身で、そちらからの交易品を扱っているんだそうです。

 ビタさんは商人の娘だからでしょうか? なんだかものすごく聞き上手って言う感じで、話しやすくて色々と喋っちゃいます。

「そうなんですね~。貴族になるっていうのも大変なんですね」
「はい。そうなんです」
「ローザ先輩の話を聞いて、あたしは貴族は無理だって思いました」
「え? どうしてですか?」
「あたし、将来は両親のような商人になりますから」
「そうなんですね」

 もう将来のことを決めてるなんてすごいです。あたしはなんて……。

「あっ! ちょっと! 先輩! 焦げちゃいますよ!」
「あっ! いけない!」

 急いでベーコンを裏返すとそこにナスを入れて火を通していきます。

「危なかったですね」
「はい」

 そうしてあたしはビタさんと笑い合います。

 えへへ、ちょっと危なかったですけど、楽しいですね!

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 次回更新は通常どおり、2024/08/17 (土) 20:00 を予定しております。
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