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第四章
第四章第48話 大変な依頼が来ました
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用事を済ませに生徒会室へと向かっていたんですが、あたしはツェツィーリエ先生に呼び止められてツェツィーリエの個室にやってきました。
「あの、ツェツィーリエ先生。伝えたいことってなんですか?」
「ええ。ローザちゃんにカルリア公国から治療の依頼が来ているのだけれど、どうかしら?」
「えっ? カルリア公国って、レフ公子様の?」
「そうよ。なんでも、公太后陛下が原因不明のご病気に苦しんでらっしゃるそうなの」
「えっと、こうたいごう? へいか?」
「公太后陛下というのは、公王陛下のお母様のことよ」
「あ、そうなんですね。それで、ご病気っていうのは?」
「手足の痺れと、足が攣ったときのような痛みがお腹全体に出ているそうなの」
それって、ものすごく辛そうです。
「それで、どう? ローザちゃん、治療に行ってみてはどうかしら?」
「えっと、どうやって治せばいいんですか?」
「わからないわ」
「ええっ? そんなぁ」
「カルリア公国中の医者を当たってみたそうなのだけど、瀉血ばかりだったそうなの。ただ、ノヴァック医師のあの論文は向こうにも出回っていたみたいで、それでノヴァック医師経由でこちらに話が回ってきたみたいなのよ」
ノヴァック医師? えっと……あ! あの人ですね。
「向こうも藁にも縋る思いでしょうから、失敗しても大丈夫よ。だから、できたら受けてもらえると嬉しいわ」
「えっと……ツェツィーリエ先生は……」
「わたしは他にやらなくちゃいけないことがあって、一緒には行けないの。ごめんなさいね」
ううっ。一人でそんな王様のお母さんの治療なんて大丈夫でしょうか?
「不安かしら?」
「はい……」
「ローザちゃん、失敗しても怒られないわ。行って、全力で治療してくれれば大丈夫よ。それに、カルリア公国はマルダキア魔法王国を無視できないもの。だから、マルダキア魔法王国でも屈指の公爵家であるマレスティカ家のお嬢様になったローザちゃんが怒られることはないわ」
「でも……」
するとツェツィーリエ先生はニッコリと優しく微笑みました。
「いい? 治療に携わる以上、助けられないということは必ず起きることよ。でもね。どんなに絶望的な患者さんにも笑顔で、前を向いて生きていけるように全力を尽くすことが大事なのよ。もし治療に来てくれたお医者さんが自信がなさそうにしていたら、患者さんやその患者さんを大切に想っている人たちはどう思うかしら?」
「……不安な気分になると思います」
「そうよね。だから、ローザちゃんも治療に携わるときは、治すために全力を尽くす。そういう姿勢を見せることが大事なの。その経験を積むためにも、ローザちゃんに行ってほしいの」
「はい……でもツェツィーリエ先生も……」
「そう。分かったわ。それじゃあ、なんとか予定を開けてみるわ。もしかしたら、数日くらいなら時間が取れるかもしれないわ。ずっと一緒にいてあげることはできないけれど、それならどうかしら?」
「えっと、一緒に来てくれるんですか?」
「ええ。ちょっとだけだけれど」
「それなら、頑張ってみます」
すごく不安ですけど、ツェツィーリエ先生が一緒に来てくれるなら頑張れそうな気がします。
こうしてあたしはカルリア公国からの依頼を受けることにしたのでした。
◆◇◆
その日の夕方、マレスティカ公爵はマルダキア国王と秘密裏に会談をしていていた。
「マレスティカ卿、ツェツィーリエ殿から二日間だけ同行することを条件に了承を得たとの報告が来たぞ」
「そうでしたか。ただ……」
「ただ?」
「やはり国外に出すのは心配です」
すると国王は小さくため息をついた。
「マレスティカ卿、いくらなんでも過保護ではないかね? 今回の依頼の重要性は理解しているはずだ」
「それはもちろん分かっております。ですが、陛下にご報告申し上げたとおり、娘には大量の婚約申し込みが殺到しております」
「それは小耳にはさんだことがあるぞ。おおかた、マレスティカ公爵家との繋がりと光属性魔法による名声が目当てだろう。平民出身の養女ということもあり、貴族たちからしても打診はしやすいだろう」
「もちろんそのような側面もあるでしょう。ですが、あまりにも常軌を逸していたのです。まさか地方の男爵家や一介の騎士まで釣書を送ってくるとは……」
「どういうことだ? いくら養女とは言え、さすがに見合いで結婚するには家柄が釣り合っていない。そもそも養女を取るということ自体が政治的な結びつきのためということは理解しておるだろうに、一体どこの愚か者だ?」
「それが、送ってきた者たちはどうやら全員あのお披露目パーティーに参加しており、そこで一目惚れをしたのだと書かれておりました」
「ふむ……」
国王は腕組みをし、じっと何かを考えるような仕草をした。
「なるほどな」
「陛下? なるほど、とは?」
「たしかにローザ嬢には不思議な魅力がある。ああ、それは光属性魔法という話や容姿の話ももちろんあるが、それだけではない」
「と、申しますと?」
「ローザ嬢には見るものを魅了するような何かがある。それはあのお披露目パーティーのときの参加者たちを観察していればわかることだ」
「それは……そうでしたが……」
「まるで【魅了】に掛けられたかのようだ」
「陛下?」
「もちろん、ローザ嬢が淫魔どものように【魅了】を使ったとは言っていない。もしそうならばこの程度で済むはずがないし、仮に【魅了】を使われたならあの場で気付いたはずだ」
するとマレスティカ公爵はホッとした表情を浮かべる。
「だがな。男たちがまるで熱病にでもかかったかのようにローザ嬢に夢中になり、家格の差すら考えずに釣書を送る程度には理性が働かなくなったのだ。しかもたった一度、パーティーで同席した程度の関係の者が、だ」
「それは……」
「間違いなく、ローザ嬢には何かがある」
「陛下、それは一体……」
「分からぬ。だが、いや、だからこそローザ嬢が善性の者で良かった。もし悪人であれば稀代の悪女として名を馳せていたことだろうな」
「そうかもしれません。ですから、もし娘が悪意を持った者に利用されると大変なことになります。もし聖ルクシア教会の手に渡れば……」
「うむ。想像したくもないな」
「なので、外に出すことが不安なのです。特に娘は親しい者を人質に取られれば、きっと従ってしまうことでしょう。娘は親しい者を切り捨てることなどできない優しい性格なのですから」
「うむ。だからこそ、あれほどの治癒ができるのだろうな」
「はい」
「だが、カルリア公国についてはその心配はなかろう。ローザ嬢はレフ公子とも良好な関係を築けているそうではないか?」
「はい。そのようです。ですが彼は娘の価値を間違いなく見抜いているはずです。光属性に適性を持っているというだけでも貴族と結婚することは珍しくありません。いくら守るためとはいえ、ローザは我が公爵家の一員です。家柄の釣り合いも取れております」
「そうだな。婚約の打診があれば断れぬだろうな。マレスティカ卿がローザ嬢と交わした約束については聞いておるが……」
「はい。オーデルラーヴァを無法者どもが占拠している以上、西方との交易はすべてカルリア公国を経由することになります」
「うむ。だがあまりにも出しづらい。他国に取られなかっただけ良かったが、使いどころがあまりにも難しい」
「はい……」
それからしばし二人は黙りこくってしまったが、国王が口を開く。
「だが、マレスティカ卿よ。ローザ嬢の婚約についてカルリア公国からの打診はない。レフ公子にも何かの考えがあるのだろうし、この件は脇に置いておくべきであろう」
「はい」
「まずは目の前の問題として、カルリア公国との関係は良好に保っておくべきだ。そのためにもローザ嬢には我が国の公爵令嬢として、親善に努めて来てもらう」
「……かしこまりました」
マレスティカ公爵はやや不服そうではあるものの、こうしてローザのカルリア公国行きを了承したのだった。
「あの、ツェツィーリエ先生。伝えたいことってなんですか?」
「ええ。ローザちゃんにカルリア公国から治療の依頼が来ているのだけれど、どうかしら?」
「えっ? カルリア公国って、レフ公子様の?」
「そうよ。なんでも、公太后陛下が原因不明のご病気に苦しんでらっしゃるそうなの」
「えっと、こうたいごう? へいか?」
「公太后陛下というのは、公王陛下のお母様のことよ」
「あ、そうなんですね。それで、ご病気っていうのは?」
「手足の痺れと、足が攣ったときのような痛みがお腹全体に出ているそうなの」
それって、ものすごく辛そうです。
「それで、どう? ローザちゃん、治療に行ってみてはどうかしら?」
「えっと、どうやって治せばいいんですか?」
「わからないわ」
「ええっ? そんなぁ」
「カルリア公国中の医者を当たってみたそうなのだけど、瀉血ばかりだったそうなの。ただ、ノヴァック医師のあの論文は向こうにも出回っていたみたいで、それでノヴァック医師経由でこちらに話が回ってきたみたいなのよ」
ノヴァック医師? えっと……あ! あの人ですね。
「向こうも藁にも縋る思いでしょうから、失敗しても大丈夫よ。だから、できたら受けてもらえると嬉しいわ」
「えっと……ツェツィーリエ先生は……」
「わたしは他にやらなくちゃいけないことがあって、一緒には行けないの。ごめんなさいね」
ううっ。一人でそんな王様のお母さんの治療なんて大丈夫でしょうか?
「不安かしら?」
「はい……」
「ローザちゃん、失敗しても怒られないわ。行って、全力で治療してくれれば大丈夫よ。それに、カルリア公国はマルダキア魔法王国を無視できないもの。だから、マルダキア魔法王国でも屈指の公爵家であるマレスティカ家のお嬢様になったローザちゃんが怒られることはないわ」
「でも……」
するとツェツィーリエ先生はニッコリと優しく微笑みました。
「いい? 治療に携わる以上、助けられないということは必ず起きることよ。でもね。どんなに絶望的な患者さんにも笑顔で、前を向いて生きていけるように全力を尽くすことが大事なのよ。もし治療に来てくれたお医者さんが自信がなさそうにしていたら、患者さんやその患者さんを大切に想っている人たちはどう思うかしら?」
「……不安な気分になると思います」
「そうよね。だから、ローザちゃんも治療に携わるときは、治すために全力を尽くす。そういう姿勢を見せることが大事なの。その経験を積むためにも、ローザちゃんに行ってほしいの」
「はい……でもツェツィーリエ先生も……」
「そう。分かったわ。それじゃあ、なんとか予定を開けてみるわ。もしかしたら、数日くらいなら時間が取れるかもしれないわ。ずっと一緒にいてあげることはできないけれど、それならどうかしら?」
「えっと、一緒に来てくれるんですか?」
「ええ。ちょっとだけだけれど」
「それなら、頑張ってみます」
すごく不安ですけど、ツェツィーリエ先生が一緒に来てくれるなら頑張れそうな気がします。
こうしてあたしはカルリア公国からの依頼を受けることにしたのでした。
◆◇◆
その日の夕方、マレスティカ公爵はマルダキア国王と秘密裏に会談をしていていた。
「マレスティカ卿、ツェツィーリエ殿から二日間だけ同行することを条件に了承を得たとの報告が来たぞ」
「そうでしたか。ただ……」
「ただ?」
「やはり国外に出すのは心配です」
すると国王は小さくため息をついた。
「マレスティカ卿、いくらなんでも過保護ではないかね? 今回の依頼の重要性は理解しているはずだ」
「それはもちろん分かっております。ですが、陛下にご報告申し上げたとおり、娘には大量の婚約申し込みが殺到しております」
「それは小耳にはさんだことがあるぞ。おおかた、マレスティカ公爵家との繋がりと光属性魔法による名声が目当てだろう。平民出身の養女ということもあり、貴族たちからしても打診はしやすいだろう」
「もちろんそのような側面もあるでしょう。ですが、あまりにも常軌を逸していたのです。まさか地方の男爵家や一介の騎士まで釣書を送ってくるとは……」
「どういうことだ? いくら養女とは言え、さすがに見合いで結婚するには家柄が釣り合っていない。そもそも養女を取るということ自体が政治的な結びつきのためということは理解しておるだろうに、一体どこの愚か者だ?」
「それが、送ってきた者たちはどうやら全員あのお披露目パーティーに参加しており、そこで一目惚れをしたのだと書かれておりました」
「ふむ……」
国王は腕組みをし、じっと何かを考えるような仕草をした。
「なるほどな」
「陛下? なるほど、とは?」
「たしかにローザ嬢には不思議な魅力がある。ああ、それは光属性魔法という話や容姿の話ももちろんあるが、それだけではない」
「と、申しますと?」
「ローザ嬢には見るものを魅了するような何かがある。それはあのお披露目パーティーのときの参加者たちを観察していればわかることだ」
「それは……そうでしたが……」
「まるで【魅了】に掛けられたかのようだ」
「陛下?」
「もちろん、ローザ嬢が淫魔どものように【魅了】を使ったとは言っていない。もしそうならばこの程度で済むはずがないし、仮に【魅了】を使われたならあの場で気付いたはずだ」
するとマレスティカ公爵はホッとした表情を浮かべる。
「だがな。男たちがまるで熱病にでもかかったかのようにローザ嬢に夢中になり、家格の差すら考えずに釣書を送る程度には理性が働かなくなったのだ。しかもたった一度、パーティーで同席した程度の関係の者が、だ」
「それは……」
「間違いなく、ローザ嬢には何かがある」
「陛下、それは一体……」
「分からぬ。だが、いや、だからこそローザ嬢が善性の者で良かった。もし悪人であれば稀代の悪女として名を馳せていたことだろうな」
「そうかもしれません。ですから、もし娘が悪意を持った者に利用されると大変なことになります。もし聖ルクシア教会の手に渡れば……」
「うむ。想像したくもないな」
「なので、外に出すことが不安なのです。特に娘は親しい者を人質に取られれば、きっと従ってしまうことでしょう。娘は親しい者を切り捨てることなどできない優しい性格なのですから」
「うむ。だからこそ、あれほどの治癒ができるのだろうな」
「はい」
「だが、カルリア公国についてはその心配はなかろう。ローザ嬢はレフ公子とも良好な関係を築けているそうではないか?」
「はい。そのようです。ですが彼は娘の価値を間違いなく見抜いているはずです。光属性に適性を持っているというだけでも貴族と結婚することは珍しくありません。いくら守るためとはいえ、ローザは我が公爵家の一員です。家柄の釣り合いも取れております」
「そうだな。婚約の打診があれば断れぬだろうな。マレスティカ卿がローザ嬢と交わした約束については聞いておるが……」
「はい。オーデルラーヴァを無法者どもが占拠している以上、西方との交易はすべてカルリア公国を経由することになります」
「うむ。だがあまりにも出しづらい。他国に取られなかっただけ良かったが、使いどころがあまりにも難しい」
「はい……」
それからしばし二人は黙りこくってしまったが、国王が口を開く。
「だが、マレスティカ卿よ。ローザ嬢の婚約についてカルリア公国からの打診はない。レフ公子にも何かの考えがあるのだろうし、この件は脇に置いておくべきであろう」
「はい」
「まずは目の前の問題として、カルリア公国との関係は良好に保っておくべきだ。そのためにもローザ嬢には我が国の公爵令嬢として、親善に努めて来てもらう」
「……かしこまりました」
マレスティカ公爵はやや不服そうではあるものの、こうしてローザのカルリア公国行きを了承したのだった。
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