上 下
197 / 244
第四章

第四章第47話 試験が終わりました

しおりを挟む
 オフェリアからの謎の手紙が届いてからおよそ二週間後、マルダキア魔法王国にレオシュの出した使者がやってきた。だが国王への謁見は許可されないどころか、城に滞在することすらも許可されなかった。

 そのため使者は親書だけを担当官に手渡し、城下町のホテルで返事を待っている。

 外国の使者に対する扱いとしてはこれ以上ないほどに冷遇していると言えるだろう。

 だがマルダキア魔法王国はオーデルラーヴァ王国を承認しておらず、国境を封鎖して人の出入りを厳しく制限している。そのため当然といえば当然の扱いではあるし、むしろその場で首をねられなかったのは寛大な対応とも言えるかもしれない。

 そんなレオシュからの親書は一週間ほど放置され、ようやく国王の手に渡った。国王は手紙を受け取ると、それを持ってきた補佐官に怪訝そうな表情を浮かべる。

「ふむ。これは?」
「オーデルラーヴァ王国なるテロ組織の王子を自称するレオシュという者からの親書だそうです」
「内容は?」
「それが……」
「どうした?」
「はい。留学中のオーデルラーヴァ王国民であるローザを引き渡すように通告してきております」
「なんだと?」

 国王はかなり不機嫌そうに手紙を運んできた補佐官をにらんだ。それから手紙の内容を確認し、小さく舌打ちをする。

「所詮はオーデルラーヴァを不法占拠している無法者どもだな。ここまで無礼な親書は初めて見たぞ。まさか戦争をちらつかせて要求を通そうとするとは。このような者が王子を名乗っているとなると、この反乱政府は長くはもつまい」

 国王はそう言うとすぐに指示を出す。

「使者を名乗る不法侵入者の首をね、その首を送り返せ」
「ははっ」

 補佐官の表情はその指示を予想していたのか、国王の指示に短くそう返事をしたのだった。

◆◇◆

 その後、レオシュの使者はすぐに捕縛され、処刑された。

 その首は氷漬けにされてオーデルラーヴァ王国軍がフドネラとの間に構えた検問所に「要求を拒否する」と一文だけ書かれた手紙と共に夜中に投げ込まれた。

 検問所は一時騒然としたものの、攻め込むだけの余力のないオーデルラーヴァ王国側は反撃せず、首と手紙はそのままレオシュのところへと届けられた。

「なんだと!? ふざけるな!」

 それを受け取ったレオシュは癇癪かんしゃくを起こし、またもや自室の調度品を破壊する。

「クソッ! クソッ! クソッ! どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

 そうつぶやくと、ニヤリと下卑た笑みを浮かべる。

「ああ、そうだ。こういうときはオフェリアだな」

 まだ昼間だというのにそんなことを呟くと、レオシュはそのまま入口とは別の扉へと向かって歩いていくのだった。

◆◇◆

 やりました! ついに、ついに試験が終わりました! 夏休みです!

 数学がほんっとうに大変でしたけど、でもお義姉さまと公子様が丁寧に教えてくれたおかげで今回は絶対大丈夫です。

 え? どうしてそんなに自信満々なのかって?

 えへへ、実はですね。なんと試験問題が、公子様が出してくれた問題とほとんど同じだったんです。いくらあたしが数学苦手でも、前の日にちょっと数字が変わっただけの問題の解き方を教わったらさすがに大丈夫です。

 それにしても、公子様ってすごいですよね。問題は全部で八問あったんですけど、そのうち六問はばっちりでした。公子様、もしかして未来予知の能力でもあるんでしょうか?

 え? 公子様の出してくれた問題がなかったらどうなっていたのか、ですか?

 ……えっと、はい。意地悪なこと聞かないでください。無理だったに決まってるじゃないですか。

 そんなことは忘れましょう。とにかく今回は大丈夫なんですから。

 あたしがそんな感傷に浸っていると、リリアちゃんが話しかけてきました。

「あ! ローザちゃん」
「リリアちゃん」
「どうだった?」
「えへへ、バッチリでした」
「え? 本当? すごいなぁ。数学も?」
「はい。今回は数学、自信あるんです」
「えっ? すごい。どんな勉強したの?」
「実はですね。公子様がほとんど同じ問題を昨日、出題してくれたんです。それで解き方も教えてもらって、おかげで全部解けたんですよ」
「へぇぇぇ。すごいなぁ。やっぱり公子様くらいになると過去問が手に入るのかなぁ」
「え? 過去問? ってなんですか?」
「ええっ? そこ? 過去問っていうのは、去年とか一昨年とかの同じ授業の問題のことだよ。ほら、同じことを教えてるんだから、問題も似た感じになるじゃない。ただ試験では問題用紙ごと回収されちゃうから、普通は過去問が手に入らないの」
「そうなんですね。それじゃあ公子様は一体どうやって……」
「そりゃあ、伝手で手に入るんじゃない? 何しろカルリア公国の公子様だもん」

 そうですよね。公子様と王太子様はお友達ですし、なんとでもなりそうな気がします。

 あれ? でもちょっと待ってください。

「あの、もしかしてあたし、ズルしちゃったんでしょうか……」
「え? そんなことないよ。事前に試験問題を手に入れたとかじゃないでしょ?」
「はい。ちょっとずつ違ってました」
「なら大丈夫だよ。料理研究会の先輩たちに教えてもらったんだけど、細かいことは覚えてないって言ってたからねぇ。うん、やっぱりちょっとローザちゃんがうらやましいな。ねぇねぇ、今度はあたしにも問題教えて?」
「はい。もちろんです。教えてもらえたらですけど」
「うん! それじゃあ、ご飯食べに行こ?」
「はい」

 こうしてあたしはリリアちゃんと一緒に食堂へと向かうのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

聖女だけど追放されました!~街で人々の為に商売始めたんだけど、王国の防衛は大丈夫ですよね?~

ルイス
ファンタジー
才能豊かな聖女ミシディアは、国家の防衛任務に就いていたが、代わりが出来たとして、彼女を以前から嫌っていた王子様に追放されてしまった。 彼女は仕方なく、城下街で聖女の能力を活かしたお店を始めることにする。 ミシディアの聖女の能力は底知れぬものであり、最強クラスの冒険者たちも訪れるお店として繁盛することになった。 王国の防衛ですか? 私みたいな非才の身は必要ないらしいので、大丈夫でしょう。

エロフに転生したので異世界を旅するVTuberとして天下を目指します

一色孝太郎
ファンタジー
 女神見習いのミスによって三十を目前にして命を落とした茂手内猛夫は、エルフそっくりの外見を持つ淫魔族の一種エロフの女性リリスとして転生させられてしまった。リリスはエロフとして能力をフル活用して異世界で無双しつつも、年の離れた中高生の弟妹に仕送りをするため、異世界系VTuberとしてデビューを果たした。だが弟妹は世間体を気にした金にがめつい親戚に引き取られていた。果たしてリリスの仕送りは弟妹にきちんと届くのか? そしてリリスは異世界でどんな景色を見るのだろうか? ※本作品にはTS要素、百合要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※本作品は他サイトでも同時掲載しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...