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第四章
第四章第8話 困ったことになりました
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翌朝、朝食を食べたあたしたちはマルセルさんに呼ばれて執務室へとやってきました。そこにはちょっと難しい表情をしたマルセルさんとレジーナさんがいましたが、あたしたちが入るとすぐに表情を緩めます。
「昨日はありがとう。君たちのおかげで二人とも無事だったよ」
「いえ。あたしたちは当然のことをしただけです」
リリアちゃんがそう答えると、マルセルさんは小さく頷きながらも少し微妙な表情になりました。
えっと、どうしたんでしょうか……。
「ローザ、頬は大丈夫かい?」
「え? あ、はい。ピーちゃんが治してくれました」
するとマルセルさんは少しほっとした表情になりましたが、またすぐに難しい表情になりました。
「ローザ、昨日のことで聞きたいんだけど、いいかな?」
「えっと、はい」
「昨晩、君を平手打ちした医者がいただろう?」
「はい」
アデリナさんを瀉血しようとしたあの人ですよね。
「彼はパブロという男なんだけどね。自分の治療は間違っていないと言い張っているんだ。アデリナが助かったのは瀉血をしたからであって、ローザの魔法のおかげではないとね」
「えっと……」
「しかも、彼の同僚たちからも嘆願が上がっているんだ。瀉血による治療は正しいのだから牢屋に入れるのは間違っている、とね」
「でもあれ以上瀉血されたらアデリナさん、死んじゃってたと思うんですけど……」
「やっぱりそうなのかい?」
マルセルさんは微妙な表情を浮かべています。するとレジーナさんが口を開きます。
「お兄さま、そのような愚かな医者は医者とは呼べませんわ。即刻追放すべきですわ」
「だが、医者たちはずっとそのように治療をしてきたと言っているんだよ?」
「お兄さまだって昨晩はあのヤブ医者ではなく、ローザを信じられたのでしょう?」
「僕は最初から、危なくなったらツェツィーリエ先生の弟子であるローザの魔法を使ってもらうつもりだったからね。そのことはあの医者にも伝えておいた。それなのに邪魔をすればそうなるに決まっているだろう?」
「ならばどうしてローザのことを最後まで信じないんですの?」
「彼はクルージュ医師協会の理事なんだよ。そんな彼が医学的に正しいことをしたのに責任を取らされたとなれば、医師はこぞって町から離れてしまう」
「あら、間違ったことをしたのですから当然ではなくて?」
「どうして間違っているって断言できるんだい? 少なくとも医師たちは納得しないだろう」
「そんなヤブ医者たちには出ていってもらえば良いのではなくて?」
「どういうことだい?」
「だって、ローザの魔法はかなりはっきり何が起こるかをイメージできなければ発動できないのですわ」
「……それは本当かい?」
「わたくし、ツェツィーリエ先生から伺いましたわ。ローザは瀉血が誤りであると考えたことで正しいイメージをすることができるようになり、治癒魔法が使えるようになったのだと。あのツェツィーリエ先生が仰っているのですから、間違いありませんわ」
「……そうなのかい?」
「えっと、はい……」
「そうかぁ」
マルセルさんは大きなため息をつきました。
「それは王都ではどのくらい広まっているんだい?」
「ツェツィーリエ先生が魔法大学の教授たちに伝えてくださっているそうですわ」
「となるとまだまだだろうなぁ」
マルセルさんはそう言って再び大きなため息をつきました。
「うーん、なら教会から正教会のほうから布告を出してもらうほうがいいかな?」
「お兄さま、ダメですわよ? そんなことをしたらローザが学園に通えなくなってしまいますわ。卒業してからならまだしも」
「え?」
あたし、正教会にも狙われるんでしょうか?
「ああ、ごめんごめん。不安にさせちゃったね。大丈夫だよ。正教会は聖ルクシア教会のように強引なことはしてこないからね。ただ、正教会に頼んでローザを支持してもらうとなると、どうしても旗印にはならざるを得なくなっちゃうってことだよ」
「そうですわ。特に今は聖ルクシア教会が猛烈に拡大していっていますもの。聖ルクシア教会に対抗して聖女として祭り上げるなんてことになったら、ローザはもう道を歩けなくなりますわよ?」
「えっと、それはちょっと……」
「そうでしょう? だからお兄さま、正教会に頼るのは無しですわ」
「分かってるよ。はぁ、どうしようかなぁ」
マルセルさんはそう言うと、また難しい表情になりました。するとリリアちゃんが声を上げます。
「あの!」
「ん? なんだい?」
「だったら、治療対決をすればいいんじゃないでしょうか?」
「治療対決?」
「はい。ローザちゃんの魔法と瀉血で、どっちがちゃんと患者さんを治せるか比べればいいんです。そうすればきっとローザちゃんが正しいって分かってもらえると思います」
「なるほど。それはいい考えだね」
え? 治療で対決なんかするんですか?
「ローザ、何を考えているかはなんとなく分かるけれど、終末病院なら問題ありませんわ」
「終末病院? ってなんですか?」
「医者が匙を投げた患者たちが入院している病院ですわ。死を待つだけの患者が一人でも助かるならよろしいのではなくて?」
「えっと……はい。そうかもしれません」
こうしてあたしはベアヌ高原に行く前に、病院で治療対決をすることになったのでした。
「昨日はありがとう。君たちのおかげで二人とも無事だったよ」
「いえ。あたしたちは当然のことをしただけです」
リリアちゃんがそう答えると、マルセルさんは小さく頷きながらも少し微妙な表情になりました。
えっと、どうしたんでしょうか……。
「ローザ、頬は大丈夫かい?」
「え? あ、はい。ピーちゃんが治してくれました」
するとマルセルさんは少しほっとした表情になりましたが、またすぐに難しい表情になりました。
「ローザ、昨日のことで聞きたいんだけど、いいかな?」
「えっと、はい」
「昨晩、君を平手打ちした医者がいただろう?」
「はい」
アデリナさんを瀉血しようとしたあの人ですよね。
「彼はパブロという男なんだけどね。自分の治療は間違っていないと言い張っているんだ。アデリナが助かったのは瀉血をしたからであって、ローザの魔法のおかげではないとね」
「えっと……」
「しかも、彼の同僚たちからも嘆願が上がっているんだ。瀉血による治療は正しいのだから牢屋に入れるのは間違っている、とね」
「でもあれ以上瀉血されたらアデリナさん、死んじゃってたと思うんですけど……」
「やっぱりそうなのかい?」
マルセルさんは微妙な表情を浮かべています。するとレジーナさんが口を開きます。
「お兄さま、そのような愚かな医者は医者とは呼べませんわ。即刻追放すべきですわ」
「だが、医者たちはずっとそのように治療をしてきたと言っているんだよ?」
「お兄さまだって昨晩はあのヤブ医者ではなく、ローザを信じられたのでしょう?」
「僕は最初から、危なくなったらツェツィーリエ先生の弟子であるローザの魔法を使ってもらうつもりだったからね。そのことはあの医者にも伝えておいた。それなのに邪魔をすればそうなるに決まっているだろう?」
「ならばどうしてローザのことを最後まで信じないんですの?」
「彼はクルージュ医師協会の理事なんだよ。そんな彼が医学的に正しいことをしたのに責任を取らされたとなれば、医師はこぞって町から離れてしまう」
「あら、間違ったことをしたのですから当然ではなくて?」
「どうして間違っているって断言できるんだい? 少なくとも医師たちは納得しないだろう」
「そんなヤブ医者たちには出ていってもらえば良いのではなくて?」
「どういうことだい?」
「だって、ローザの魔法はかなりはっきり何が起こるかをイメージできなければ発動できないのですわ」
「……それは本当かい?」
「わたくし、ツェツィーリエ先生から伺いましたわ。ローザは瀉血が誤りであると考えたことで正しいイメージをすることができるようになり、治癒魔法が使えるようになったのだと。あのツェツィーリエ先生が仰っているのですから、間違いありませんわ」
「……そうなのかい?」
「えっと、はい……」
「そうかぁ」
マルセルさんは大きなため息をつきました。
「それは王都ではどのくらい広まっているんだい?」
「ツェツィーリエ先生が魔法大学の教授たちに伝えてくださっているそうですわ」
「となるとまだまだだろうなぁ」
マルセルさんはそう言って再び大きなため息をつきました。
「うーん、なら教会から正教会のほうから布告を出してもらうほうがいいかな?」
「お兄さま、ダメですわよ? そんなことをしたらローザが学園に通えなくなってしまいますわ。卒業してからならまだしも」
「え?」
あたし、正教会にも狙われるんでしょうか?
「ああ、ごめんごめん。不安にさせちゃったね。大丈夫だよ。正教会は聖ルクシア教会のように強引なことはしてこないからね。ただ、正教会に頼んでローザを支持してもらうとなると、どうしても旗印にはならざるを得なくなっちゃうってことだよ」
「そうですわ。特に今は聖ルクシア教会が猛烈に拡大していっていますもの。聖ルクシア教会に対抗して聖女として祭り上げるなんてことになったら、ローザはもう道を歩けなくなりますわよ?」
「えっと、それはちょっと……」
「そうでしょう? だからお兄さま、正教会に頼るのは無しですわ」
「分かってるよ。はぁ、どうしようかなぁ」
マルセルさんはそう言うと、また難しい表情になりました。するとリリアちゃんが声を上げます。
「あの!」
「ん? なんだい?」
「だったら、治療対決をすればいいんじゃないでしょうか?」
「治療対決?」
「はい。ローザちゃんの魔法と瀉血で、どっちがちゃんと患者さんを治せるか比べればいいんです。そうすればきっとローザちゃんが正しいって分かってもらえると思います」
「なるほど。それはいい考えだね」
え? 治療で対決なんかするんですか?
「ローザ、何を考えているかはなんとなく分かるけれど、終末病院なら問題ありませんわ」
「終末病院? ってなんですか?」
「医者が匙を投げた患者たちが入院している病院ですわ。死を待つだけの患者が一人でも助かるならよろしいのではなくて?」
「えっと……はい。そうかもしれません」
こうしてあたしはベアヌ高原に行く前に、病院で治療対決をすることになったのでした。
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