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第四章

第四章第2話 お嬢様って大変です

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 どうもこんにちは。ローザです。

 このお休みの間、あたしはマレスティカ公爵家でお世話になることになりました。

 というのもですね。マレスティカ公爵家の養女にしてもらうにあたって、色々と勉強しなきゃいけないことがたくさんあるんだそうです。

 だからお休みの間はここで色々と教えてもらうことになったんです。

 それと、養女にしてもらう時期はあたしが学園を卒業したときってことになりました。そのときにお披露目会というのをするそうで、それまでにマナーとか、色々と覚えないといけないんです。

 それにオフェリアさんたちにも直接会ってお礼を言いたいです。だから無事が分かるまで待つっていう感じなんですけど……無事、ですよね?

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされました。

「ローザ様、スタン子爵夫人がいらっしゃいました」
「あ、はい。どうぞ」

 あたしはそう言うと立ち上がり、子爵夫人を出迎えます。

「スタン子爵夫人、お会いできて光栄です」
「ええ、ローザさん。カーテシーは大分良くなってきましたね。ですが、まだまだ背筋が伸びていませんよ。それから顔をもう少し上げて、そう。そうです。そのまま自然に微笑むのです」
「は、はい」
「引きつっていますよ。もっと自然に。相手が誰であっても、まるでそこに素敵な殿方がいらっしゃると思って微笑むのです」

 素敵な殿方……えっと、えっと……公子様?

 えっと、公子様にはお世話になりっぱなしですし……えっと……。

「ローザさん、なんて表情をしているのですか」
「あ、す、すみません……」

 するとスタン子爵夫人に小さくため息をつかれてしまいました。

「では殿方ではなく、ローザさんの大切な従魔がやってきていると思って笑顔を作るのです」
「は、はい」

 えっと、ユキたちがこっちに向かって来ている……はい。なんだかほっこりしますね。

「そうです。そのように毎回微笑んでください。それから、背筋をもっと伸ばしなさい」

 スタン子爵夫人はあたしの後ろに回り、背筋を伸ばすようにあたしの肩と腰を動かします。

「ひえっ!?」

 あたしは思わずバランスを崩しそうになり、スタン子爵夫人にもたれかかってしまいました。

「あら、ごめんなさい。大丈夫だったかしら?」
「は、はい」
「でもね、ローザさん。レディーはいつだって背筋を伸ばして前を向き、微笑みを絶やしてはいけません。ローザさんはこれだけ可愛らしくてスタイルもいいのだから、きちんとした所作を身に着ければきっと素敵なレディーになれますよ」
「はい……」
「今日もまず、姿勢の訓練から始めましょう」
「は、はい」

 姿勢の訓練っていうのは、背筋をしゃんと伸ばして歩く訓練なんですけど、これ、ものすごく難しいんです。

 やることは簡単で、本を頭の上に乗せて歩くだけなんです。簡単そうに聞こえるかもしれないんですけど、これ、ものすごく難しくって、あたし、すぐに落としちゃうんです。

 でもスタン子爵夫人は簡単そうにやっているんですよね。

「今日こそは、この部屋の端から端まで歩いてもらいます」
「が、がんばります……」

 あたしは本を頭の上に乗せ、落とさないようにゆっくり歩き始めます。

「あっ!?」

 落としてしまいました。やり直しです。

「きちんと背筋を伸ばして前を見るのです。下や手元を見てはすぐに落としてしまいますよ」
「は、はい」

 ……ダメです。やっぱりすぐに落としちゃいました。

「さあ、もう一度」

 何度も何度も挑戦しますが、やっぱりできません。

 ううっ。やっぱりあたしには向いてないんでしょうか……?

◆◇◆

「スタン子爵夫人、ありがとうございました」
「ええ。これからも精進なさい。ローザさん、姿勢の訓練は一人でもできますから、練習しておくように」
「は、はい」

 こうしてスタン子爵夫人を見送り、長い一日が終わりました。

 あ、今日はですね。姿勢の訓練の後にお裁縫と刺繍ししゅうをして、それから歌とピアノの練習をして、その後お昼を食べたら絵の練習をして、ダンスの練習をしました。

 それからお茶を飲んで休憩して、最後は帳簿の付け方と見方を勉強しました。これは将来どこかの貴族の家に嫁いだときに、そこの女主人としてきちんと振る舞うために必要なことなんだそうです。

 えっと、はい。もちろんあたしはどれも才能がないみたいで、まるでダメでした。

 お裁縫はなんだか縫い目が大きくなっちゃってスタン子爵夫人のようにできませんし、音楽やダンスはなんだかズレちゃうんですよね。

 リズム感がないって言われちゃいましたけど、どうすれば良くなるんでしょうか。

 絵は練習用に使う絵具を取り寄せているところなので、今はまだペンでデッサンをするところまでです。

 ただ、どうしてでしょうね?

 目の前にある果物と同じ形に描いているつもりなのに、なんだか不格好になっちゃうんです。やっぱりあたし、絵の才能もないみたいです。

 それと、帳簿はですね。えっと、はい。算数からになりました。

 あ、でもですね。薬草と医療については勉強しなくても大丈夫だって言われました。ツェツィーリエ先生に学園で教わっているのがちゃんと身についているって、褒められちゃいました。

 えへへ。ツェツィーリエ先生のおかげですね。

 でも、貴族のお嬢様が薬草と医療についても勉強しているなんて知りませんでした。

 なんでも、お屋敷で何かあったときにお医者さんが来るのを待って手遅れにならないように、女主人が手当てできないといけないんだそうです。

 ……えっと、レジーナさんたち貴族のお嬢様って、実は大変なんですね。こんなにたくさんのことをできるようにならないといけないなんて。それに魔術の訓練も小さいころからやっているみたいですし、あたしたち庶民が思っているみたいに楽な生活をしているわけじゃないみたいです。

 今日の授業を思い出していると、扉がノックされました。

「ローザ様、夕食の準備ができております」
「あ、はい。今行きます」

 あたしは呼びに来てくれたメイドさんに連れられ、マレスティカ公爵家の食堂へと向かうのでした。
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