上 下
134 / 252
第三章

第三章第50話 見張りは男の仕事だそうです

しおりを挟む
 お料理は皆さんにとっても好評でした。

 特に男子はスープのおかわりまでしてくれて、あっという間に用意した分はなくなりました。

 えへへ。なんだかこうして自分で作ったお料理を美味しく食べてもらえるって嬉しいですよね。

 前は丸焼きしか出来なかったわけですから、やっぱり料理研究会に入って良かったです。

 あ、後片付けはいつもどおりピーちゃんが残った骨まで全部綺麗にしてくれました。

「ピーちゃん、いつもありがとうございます」
「ピッ!」

 ピーちゃんは気にしなくていいと言っているみたいですが、どこか嬉しそうにしています。

「もう終わったんですの?」
「はい。ピカピカになりましたよ」
「皿とはスライムがきれいにするものだったんですのね。わたくし、初めて知りましたわ」
「え? あ、えっと、はい。あたしにはピーちゃんがいますから……」

 なんだかロクサーナさんに間違った常識を教えてしまったような……?

 するとロクサーナさんはくるりと背を向けて、テントのほうへと歩いていきます。

「さあ、そろそろ寝ますわよ。明日は早いのですから」
「え?」
「あら? まだ寝ないんですの? それとも野営では他に何かやることがあるんですの?」
「あ、えっと、ここは魔物が出る場所なので、見張りをしておいたほうが……」
「あら、それは彼らの仕事ですわ」

 ロクサーナさんはそう言って男子たちを指さしました。

「ええっ!?」

 それって訓練にならないんじゃ……?

「あら? ローザはもしかすると見張りをやりたいんですの?  それならばわたくしがお願いして差し上げますわ」
「え? え?」

 なぜかおかしな解釈をしたロクサーナさんがマリウスさんたちのほうへと歩いていったので、私も慌てて追いかけます。

「ん? ロクサーナ様? 何か?」
「ええ、マリウス様。ローザが見張りをやってみたいと言っているんですの」
「む……」

 マリウスさんは私をちらりと見ると、すぐに困ったような表情をしました。そしてマリウスさんの隣にいたヴァシリオスさんが私をギロリとにらんできます。

「何を言っている! 女を守るのは俺たち男の義務だ。女を守れずして騎士になどなれるはずがない。女は黙って俺たちに守られていればいいんだ」

 あ……えっと……その?

「か弱い年下の女がやってみたいと言っているんですのよ? 騎士とはその程度の願いも叶えてやれないんですの?」
「そうではありません、ロクサーナ様。私は身の安全の話をしているのです」

 ロクサーナさんもヴァシリオスさんも一体何を言っているんでしょうか?

 これ、演習ですよね? みんなで協力しないとダメなんじゃ……?

「少しくらいは大丈夫なのではなくて?」
「ロクサーナ様、ここは魔物の出る森です。いくら大した魔物が出ないと分かっているとはいえ、油断大敵です。男はロクサーナ様やそこのローザ、それにベティーナを守るのが使命です」

 ……ヴァシリオスさんって目つきが怖くて俺様な感じですけど、悪い人ではないのかもしれませんね。

 少なくともオーデルラーヴァのあいつらと違って、弱い人を守ろうとしているのですから立派だと思います。

 えっと、胸をチラ見されるのは嫌ですけど……。

 でも、ここまで言っているなら任せてみてもいいかもしれません。

「あ、あのっ!」
「なんですの?」
「そこまで言ってくれるならお任せしますけど、あたしもホーちゃんにお願いして見ておいてもらってもいいですか? 魔物が来たらホーちゃんが教えてくれるので……」
「あら、そのフクロウはそんなこともできるんですのね」
「はい。夜目は利きますし、たぶんあたしたちよりも先に見つけてくれると思いますから」
「そう。マリウス様、そのくらいでしたらよろしいですわね?」
「はい。ではローザ、従魔による見張りの補助を頼む」
「はい。ホーちゃん、よろしくお願いします」
「ホーッ!」

 ホーちゃんはひと鳴きすると、私の肩から飛び立っていきました。

「ミャー?」
「ユキはあたしと一緒にお留守番です」
「ミャッ」
「ピピ?」
「ピーちゃんもユキと一緒です」
「ピッ」

 ユキを抱っこしながらピーちゃんに枕になってもらうのがあたしのお気に入りのスタイルですからね。

「本当に賢いですわね」
「まったくです」

 ロクサーナさんもマリウスさんもヴァシリオスさんも、ユキたちに興味津々です。

「こういう従魔なら欲しいな」
「たしかに……」

 マリウスさんとヴァシリオスさんがユキとピーちゃんを見てそうつぶやきます。

「ミャッ!?」
「ピピッ!?」

 ユキとピーちゃんがあたしの後ろに隠れました。

 あれ? このやり取り何度目でしたっけ?

「おいおい。これ、言葉分かってるんじゃないか?」
「従魔になると言葉が分かるようになるのか? それに偵察できる従魔がいれば騎士になってからも役に立ちそうだ。よし、来年は従魔科の授業も取るぞ」
「そうだな」

 なんだかマリウスさんとヴァシリオスさんが二人で勝手に盛り上がっています。

「あの……」
「そうですわね、ローザ。マリウス様、わたくしたちは失礼いたしますわ」
「ん? ああ、そうでした。あとのことは我々にお任せください」
「ええ。よしなに。さあ、ローザ。行きますわよ」
「はい。あの、おやすみなさい」
「ああ」

 そう言うと、マリウスさんはなぜか顔を背けました。

 えっと、なんなんでしょう?

 よく分かりませんが、胸をジロジロ見られるよりはよっぽどマシですけど……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...