上 下
110 / 252
第三章

第三章第26話 みんなで変身しました

しおりを挟む
 えっと、どうせ隠しても無駄ならって思ってそのまま過ごしてみることにしたんですけどね。なんだかいつもと違って、じろじろ見られている気がするんです。

 あの王太子様の視線は背筋がぞわぞわってするんですけど、今日のはちょっと違う気がするんです。

「ローザ、それまだやってるんですの?」
「え? はい。隠しても無駄ならいいかなって……」
「まあ、そうですわね。でもあなた、殿方の視線を集めていてよ?」
「え?」

 レジーナさんに言われたほうを見ると、男の子たちがこちらを見ています。でもあたしと視線が合ったせいでしょうか? ぱっと顔を背けました。

 ちょっと目が合っただけで顔を背けられるだなんて、やっぱりあたしは男の子たちに嫌われているみたいです。

 あれ? ちょっと顔が赤いような? 風邪でも引いたんでしょうか?

「ね?」
「はい。そんなにあたし、嫌われてるんでしょうか?」
「「「え?」」」

 あたしの素朴な疑問に、レジーナさんだけじゃなくてヴィーシャさんとリリアちゃんまでもが信じられないといった表情を浮かべています。

「え? えっと? あ、でもあの男の子たちはちょっと顔が赤いですから、もしかしたら熱があるのかもしれませんね。えっと、たしかコーネル先生が風邪には瀉血って言ってましたし、医務室に――」
「ローザちゃん……」
「あなた……」
「まあ、ローザらしいよね」
「え? らしいってどういうことですか?」

 それと、どうしてそんな憐れんだ目であたしを見てくるんですか?

「お子様のローザにはまだまだ早いってことですわね」
「え? 子供じゃないですよ。あたし、ちゃんと洗礼を受けてますから」
「ローザちゃん……」

 なんだかリリアちゃんがますます憐れみの視線を向けてきます。

「ほ、ほら。ローザにだってきっといつか好きな男の子だってできるよ。それにほら、オシャレにだって興味が出てきてるんだし」

 ヴィーシャさんもなんだか酷いです。あたしにはちゃんと、誠実で頼りがいのある素敵な男性と結婚するっていう夢があるんですからね!

◆◇◆

 突然ですが、今日は料理研究会のある日なんです。今日はなんとですね。ピクルスを漬けるんですよ。それで、明日みんなで食べるんです。

「「こんにちは」」

 あたしたちが料理研究会の調理室にやってくると、すでにフロレンティーナ先輩が準備をしていました。

「こんにちは。あら? やっぱり今日のローザちゃんは少し違うわね。噂では聞いていたけれど、美容魔法だったかしら?」
「あ、はい。そうなんです」
「本当にお肌も髪も、今までよりずっときれいに見えるわ。お化粧しているようでお化粧していないみたいな……」

 先輩はそう言って物珍しそうにあたしを観察してきます。

「それ、他の人にも掛けられるのかしら?」
「はい。でもレジーナさんに掛けたらちょっと色が変になっちゃいました」
「色が変?」
「そうなんです。あたしの髪色に合わせた魔法になってるみたいで……」
「あら、そうなの? それなら別の色にできるってことかしら?」
「え? あ、えっと、わからないです。実は、この魔法を試したのは今日が初めてなんです」
「そう。それじゃあ、私の髪色をローザちゃんみたいにきれいな金髪にできるかしら?」
「えっと、じゃあ試してみますね」

 あたしは光の反射を変えて、先輩のきれいな青い髪が金髪に見えるようにイメージをして、魔法を発動します。

「えい!」

 すると魔法はちゃんと発動して、先輩の髪が見事な金髪に変わりました。

「あ、できました!」
「わあっ! すごい! ブロンドのフロレンティーナ先輩も素敵です!」
「あら、本当ね。すごいわ!」

 先輩は少し驚いた様子で自分の髪を確認しています。

「ねえ、ローザちゃん。今度はあたしをフロレンティーナ先輩みたいな青髪にしてみてよ」
「わかりました」

 今度はリリアちゃんを青髪に変身させてみます。

「わあっ! すごい! すごいすごいすごい!」

 そうこうしているうちに他の研究会の皆さんがやってきました。

「こんにちは……え? 誰?」
「もしかして会長? と、リリアちゃん? もしかして染めたんですか⁉」

 金髪になった先輩と青髪になったリリアちゃんに皆さん驚いています。

「まさか。それよりも、すごいでしょう? 噂になっているローザちゃんの美容魔法よ?」
「ええっ⁉ あ、ローザちゃんもいつもよりきれいになってる?」
「ちょっと、あれだけかわいいのにさらにきれいになるなんて!」
「それより、わたくしも髪の色を変えたいですわ!」
「髪の色が変えられるってことは瞳の色も変えられるのか? なあなあ、それならあたいの瞳の色、右は青で左を緑にしてみてくれよ」
「えっ? ザビーネ先輩?」

 なんだかもう、お料理なんて言っている場合じゃなくなってきました。

「ほら、皆さん。ローザちゃんが困ってるわ。一人一人順番にね」

 見かねたフロレンティーナ先輩が整理してくれます。さすが会長ですね。やっぱりこういうときは本当に頼りになります。

 そうしてあたしの前に順番を作ってもらい、一人ずつ美容魔法を掛けることになりました。

「わたくし、赤い髪にしてみたいですわ」
「はい。赤髪ですね」

 燃えるような赤をイメージして、こうですね。えい!

 魔法を発動すると、すぐに髪色が赤く変化しました。

「あたいは銀髪で、瞳は右が青で左は緑で頼むよ」
「あ、はい。ザビーネ先輩」

 なんでしたっけ? こういうのって、夢の世界ではなんとか病って言っていたような?

 えっと、そんなことよりちゃんとイメージしなきゃ。

 銀髪って、銀の食器みたいな感じでしょうか? 瞳は、はい。大丈夫です。イメージはつきそうです。

「えい!」

 なんだが髪の毛がまるで金属っぽい感じになっちゃいました。まるで鏡みたいに反射して、私の顔が映り込んでいます。

 えっと、なんだかこう、金属製のお鍋をかぶっているみたいな?

 瞳は、なんとなくイメージどおりになりました。

 でも、その、頭が……。

「うっ。ぷぷぷ」

 誰かが笑った声が聞こえ、それと同時に周りからクスクスと笑い声が聞こえます。

「え? ちょっと? みんなどういうことだよ? ちゃんと銀髪でオッドアイになったんだよな?」
「え、ええ。そのとおりね。でも申し訳ないけれど、あまり似合っていないわよ?」

 フロレンティーナ先輩がズバリと指摘してしまいました。

「なっ? か、鏡は!」
「その格好で外に出るのはやめたほうがいいわよ。はい」

 そう言ってフロレンティーナ先輩が鏡を差し出しました。それを受け取ったザビーネ先輩はすぐに自分の姿を確認します。

「……っ! これは!」

 ザビーネ先輩はふるふると震えています。

 えっと、やっぱり変ですよね?

「すごい! これだよ! こういうの、カッコイイと思わないか?」
「え?」

 あたしたちはみんなで思わず顔を見合わせてしまいました。

「えっと……」
「ローザ! ありがとう! ずっと銀髪オッドアイに憧れてたんだ!」
「え、えっと、はい」
「ああ、今日は楽しく料理が出来そうだぜ。それじゃ、あたいは先に準備しておくぜ」
「はぁ」

 そう言ってザビーネ先輩は意気揚々とピクルスの材料を取りに歩いていきます。

 そうしてあたしから五メートルくらい離れると、髪の色が元に戻ってしまいました。

「あ、あれ?」
「あら?」
「もしかして?」

 そう呟いたフロレンティーナ先輩がザビーネ先輩の向かったほうへと歩きだしました。すると、やはりあたしから五メートルくらい離れたところで髪色が元の青に戻ってしまいました。

「あらら。ローザちゃんから離れると効果が切れてしまうのね」
「えー、残念」
「でも、すぐに効果が切れるってことは、楽しみ放題じゃない?」
「たしかに!」
 
 こうしてあたしたちは美容魔法で遊び、気が付けば夕方になっていたのでした。

 あれれ? そういえばピクルス、漬け忘れちゃいましたね。

 えへへ。でもなんだかみんなで別人になったみたいで、とっても楽しかったです。

 たまにはこういう日があってもいいですよね?

================
次回更新は通常どおり、2022/02/12 (土) 20:00 を予定しております。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...