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第三章
第三章第22話 ヒントをもらいました
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「遅くなりました。あ! ローザ嬢! もういらしていたのですね」
生徒会室に入ってきたドレスク先輩は私を見つけるなり、ものすごいウキウキした様子で駆け寄ってきました。
「あ、はい。えっと、お久しぶりです」
「ええ、ローザ嬢。そんなことより私に魔法のことで相談があると聞きました」
あたしの目の前までやってきたドレスク先輩はそう言ってものすごい勢いであたしのほうに迫ってきます。まるで子供のようにキラキラした目をしていますが、ちょっとこんなにグイグイ来られるとちょっと怖いです。それに、あたしの向かいに座っている公子様も目に入っていないみたいです。
「あ、あの……」
「私でよければいつだって相談に――」
「エルネスト。ローザ嬢が困っているぞ」
「っ!?」
公子様にそう言われて初めて公子様がいることに気付いたのか、ドレスク先輩はビクッと体を一瞬振るわせると公子様のほうに顔を向けました。
「こ、これは失礼しました。レフ殿下」
「ああ」
あたしに向かって話しているのとは随分口調が違います。公子様は仲良しの人にはああいう風なのかもしれません。
そういえば、最初に王太子様と一緒に歩いているときはなんだかちょっと冷たそうな感じでしたもんね。あたしにはすごく優しく接してくれているので、もしかすると女性にはそういう感じなんでしょうか?
「エルネスト、ちょうどローザ嬢とその話をしていたところだ。私も一緒にローザ嬢の話を聞くぞ」
「え? はい。ローザ嬢がよろしいのでしたら」
「あ、えっと、お願いします」
あたしがそう答えるとドレスク先輩が急にしゅんとしてしまいました。
えっと? どうしてドレスク先輩は残念そうにしているんでしょうか?
ドレスク先輩は魔術がとにかく大好きで、あたしの魔法に興味があるんですよね。
ということは、あたしの魔法の秘密を真っ先に聞けないのが残念、みたいな感じでしょうか?
あれ? もしかして、こう、なんというか、おもちゃを独り占めできなくてすねている子供みたいな?
えへへ。そう考えるとなんだかドレスク先輩が可愛く思えてきました。
「では、早速ローザ嬢の困っていることを教えていただけますか?」
そんなことを考えていると、王子様スマイルに戻った公子様がそう言ってあたしを促してきました。
「はい。実は――」
それから治癒の魔法が上手く発動できなくて困っていることを説明しました。
「なるほど。たしかに怪我が治るということがどういうことなのか、などということは考えたこともありませんでしたね。イメージ、ですか……」
公子様はそう言って首をひねっています。
そうですよね。やっぱりイメージできないですよね。
「ローザ嬢の言うとおり、イメージするのは難しいでしょう。ですが、治癒魔術の術式から何をしているのかを読み解いてみるのはどうでしょうか?」
「え?」
「治癒魔法の術式は特に複雑であることが知られています」
「そうなんですか?」
「はい。ローザ嬢はまだ入門レベルの内容しか習っていないと思いますが、魔術では術式によって何にどうやって作用するのかを指定しています」
「えっと、はい。ゲラシム先生がそう言っていました」
「その中でも治癒の魔術については術式が独特な構造をしているのです」
「そうなんですね」
「ええ。というのも、治癒魔術の術式は未知の部分がかなりあるのです」
「え?」
「光属性に適性のある者が少ないこともあって、研究があまり進んでいないのです。またその独特の構造のため、どうしてそれで怪我が治せるのかについても分かっていない部分がかなり多いのです」
「はあ。えっと、じゃあツェツィーリエ先生も詳しいことは分からないで使っているんですか?」
「そのはずです。ツェツィーリエ様は特に現場で治療されることを優先されておりましたから、研究などはあまりされていないはずです」
そ、そうだったんですか。
でも、気持ちは分かります。だって、怪我をして辛い人を助けてあげられるならそっちを優先したいですもんね。
「ですから、この構造を解き明かして――」
「エルネスト。言っていることは分かるが、今まで誰もできなかったことをローザ嬢に持ちかけるのはどうかと思うぞ? ローザ嬢は治癒の魔法を使いたいのだから、あまり余計なことは」
「いえ、余計ではありませんよ。レフ殿下。やはり魔術というのはその美しい術式によって――」
ドレスク先輩が何やら熱く語り始めてしまいました。もう何を言っているのかさっぱりわかりません。
「ローザ嬢、私は怪我が治るということをどうイメージしたら良いのかはわかりません。そこで一つ提案なのですが、怪我や病気を治すことを生業にしている医者という職業の者がおります。彼らに話を聞いてみてはいかがですか?」
「お医者さん、ですか?」
「ええ。魔術による治療を受けられない貧しい者を主に治療する職業ですが、多くの怪我や病気を見てきているはずです」
「なるほど! わかりました」
「だからして、って、ローザ嬢!? レフ殿下!?」
あたしたちが話を聞いていないことにようやく気付いたドレスク先輩が驚きの声を上げます。
「あ、えっと、公子様、ドレスク先輩、ありがとうございました。なんだかちょっとヒントが見つかった気がします」
「ええ。お役に立てたなら何よりです」
「ローザ嬢!? そんなっ」
笑顔の公子様と残念がっているドレスク先輩にお礼を言い、あたしは生徒会室を後にしたのでした。
え? 王太子様とレジーナさんですか?
いつの間にか仲直りしていて、部屋の隅のほうで何かおしゃべりしていましたよ。
あんな王太子様ですけど、きっとレジーナさんはそれでも王太子様のことが好きなんだと思います。そうじゃないとあんな人の婚約者なんてやってられないと思いますから。
それにいつも足を踏まれていますし女の子の胸ばかり見ていますけど、王太子様もきっとレジーナさんのことが……あ、えっと、たぶん?
================
次回更新は通常どおり、2022/01/15 (土) 20:00 を予定しております。
生徒会室に入ってきたドレスク先輩は私を見つけるなり、ものすごいウキウキした様子で駆け寄ってきました。
「あ、はい。えっと、お久しぶりです」
「ええ、ローザ嬢。そんなことより私に魔法のことで相談があると聞きました」
あたしの目の前までやってきたドレスク先輩はそう言ってものすごい勢いであたしのほうに迫ってきます。まるで子供のようにキラキラした目をしていますが、ちょっとこんなにグイグイ来られるとちょっと怖いです。それに、あたしの向かいに座っている公子様も目に入っていないみたいです。
「あ、あの……」
「私でよければいつだって相談に――」
「エルネスト。ローザ嬢が困っているぞ」
「っ!?」
公子様にそう言われて初めて公子様がいることに気付いたのか、ドレスク先輩はビクッと体を一瞬振るわせると公子様のほうに顔を向けました。
「こ、これは失礼しました。レフ殿下」
「ああ」
あたしに向かって話しているのとは随分口調が違います。公子様は仲良しの人にはああいう風なのかもしれません。
そういえば、最初に王太子様と一緒に歩いているときはなんだかちょっと冷たそうな感じでしたもんね。あたしにはすごく優しく接してくれているので、もしかすると女性にはそういう感じなんでしょうか?
「エルネスト、ちょうどローザ嬢とその話をしていたところだ。私も一緒にローザ嬢の話を聞くぞ」
「え? はい。ローザ嬢がよろしいのでしたら」
「あ、えっと、お願いします」
あたしがそう答えるとドレスク先輩が急にしゅんとしてしまいました。
えっと? どうしてドレスク先輩は残念そうにしているんでしょうか?
ドレスク先輩は魔術がとにかく大好きで、あたしの魔法に興味があるんですよね。
ということは、あたしの魔法の秘密を真っ先に聞けないのが残念、みたいな感じでしょうか?
あれ? もしかして、こう、なんというか、おもちゃを独り占めできなくてすねている子供みたいな?
えへへ。そう考えるとなんだかドレスク先輩が可愛く思えてきました。
「では、早速ローザ嬢の困っていることを教えていただけますか?」
そんなことを考えていると、王子様スマイルに戻った公子様がそう言ってあたしを促してきました。
「はい。実は――」
それから治癒の魔法が上手く発動できなくて困っていることを説明しました。
「なるほど。たしかに怪我が治るということがどういうことなのか、などということは考えたこともありませんでしたね。イメージ、ですか……」
公子様はそう言って首をひねっています。
そうですよね。やっぱりイメージできないですよね。
「ローザ嬢の言うとおり、イメージするのは難しいでしょう。ですが、治癒魔術の術式から何をしているのかを読み解いてみるのはどうでしょうか?」
「え?」
「治癒魔法の術式は特に複雑であることが知られています」
「そうなんですか?」
「はい。ローザ嬢はまだ入門レベルの内容しか習っていないと思いますが、魔術では術式によって何にどうやって作用するのかを指定しています」
「えっと、はい。ゲラシム先生がそう言っていました」
「その中でも治癒の魔術については術式が独特な構造をしているのです」
「そうなんですね」
「ええ。というのも、治癒魔術の術式は未知の部分がかなりあるのです」
「え?」
「光属性に適性のある者が少ないこともあって、研究があまり進んでいないのです。またその独特の構造のため、どうしてそれで怪我が治せるのかについても分かっていない部分がかなり多いのです」
「はあ。えっと、じゃあツェツィーリエ先生も詳しいことは分からないで使っているんですか?」
「そのはずです。ツェツィーリエ様は特に現場で治療されることを優先されておりましたから、研究などはあまりされていないはずです」
そ、そうだったんですか。
でも、気持ちは分かります。だって、怪我をして辛い人を助けてあげられるならそっちを優先したいですもんね。
「ですから、この構造を解き明かして――」
「エルネスト。言っていることは分かるが、今まで誰もできなかったことをローザ嬢に持ちかけるのはどうかと思うぞ? ローザ嬢は治癒の魔法を使いたいのだから、あまり余計なことは」
「いえ、余計ではありませんよ。レフ殿下。やはり魔術というのはその美しい術式によって――」
ドレスク先輩が何やら熱く語り始めてしまいました。もう何を言っているのかさっぱりわかりません。
「ローザ嬢、私は怪我が治るということをどうイメージしたら良いのかはわかりません。そこで一つ提案なのですが、怪我や病気を治すことを生業にしている医者という職業の者がおります。彼らに話を聞いてみてはいかがですか?」
「お医者さん、ですか?」
「ええ。魔術による治療を受けられない貧しい者を主に治療する職業ですが、多くの怪我や病気を見てきているはずです」
「なるほど! わかりました」
「だからして、って、ローザ嬢!? レフ殿下!?」
あたしたちが話を聞いていないことにようやく気付いたドレスク先輩が驚きの声を上げます。
「あ、えっと、公子様、ドレスク先輩、ありがとうございました。なんだかちょっとヒントが見つかった気がします」
「ええ。お役に立てたなら何よりです」
「ローザ嬢!? そんなっ」
笑顔の公子様と残念がっているドレスク先輩にお礼を言い、あたしは生徒会室を後にしたのでした。
え? 王太子様とレジーナさんですか?
いつの間にか仲直りしていて、部屋の隅のほうで何かおしゃべりしていましたよ。
あんな王太子様ですけど、きっとレジーナさんはそれでも王太子様のことが好きなんだと思います。そうじゃないとあんな人の婚約者なんてやってられないと思いますから。
それにいつも足を踏まれていますし女の子の胸ばかり見ていますけど、王太子様もきっとレジーナさんのことが……あ、えっと、たぶん?
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