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第二章

第68話 礼儀がなっていないそうです

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 まったく楽しくないクラブ活動を終え、何とか王太子様たちから逃れたあたしたちはようやく寮に戻ってきました。

 ふう。やっと落ち着けそうです。そう思ったのですが、なぜか部屋の前にバラサさんが立っていました。

 バラサさんはあたしたちの方をギロリとにらむと、ぞっとするような冷たい声で言いました。

「どうやら身の程が分かっていないようですわね」
「え?」

 何のことですか?

 あたしは何を言われているのかさっぱりわかりませんでした。

 リリアちゃんなら何かわかっているのかと思って見てみます。リリアちゃんはあの窮屈なポーズをしていますがやはりリリアちゃんも何のことだかわかっていない様子で、あたしたちは思わず顔を見合わせてしまいしました。

 するとバラサさんは大きくため息をつきます。

「昼に伝えたはずですわよ? もうお忘れかしら?」

 あたしは何のことだかわからずにキョトンとバラサさんを見つめます。

「そこの平民! 聞いてるんですの!」

 バラサさんが金切り声を上げました。その瞬間、あたしは今までずっと我慢していた怒りが一気に爆発します。

「何なんですか!」
「あら、礼儀のなっていない野良犬ですわね」
「……礼儀、ですか? 人のことを野良犬だなんて意味不明なことを言う人のほうが――」
「ローザちゃん、ダメだよ。それ以上は!」

 隣にいるリリアちゃんが慌ててあたしの腕を掴んでそれ以上の言葉を止めます。

「オーデルラーヴァの平民は本当に礼儀がなっていないんですわね。ああ、いやですわ」

 バラサさんはそう言うと大げさな態度であたしのことを馬鹿にしてきます。

「王太子殿下はレジーナ様の婚約者ですわ。それなのに殿下のご厚意に甘えてべたべたするなど、恥を知ることですわね」

 バサリと大きな音を立てて扇を広げてバラサさんは自身の口元を隠しました。

 ああ。きっとあの扇で隠された口元はさぞかし意地悪く歪んでいることでしょう。

「そんなことは王太子様に直接言ってください! あたしはそんなこと頼んでません!」

 我慢できなくなったあたしはそう強く言い返すとそのまま自分の部屋の扉を開けて中に入ります。

「え? ちょっと? ローザちゃん!? それはまずいよ!」

 慌ててリリアちゃんがあたしを追いかけてきましたが、バラサさんは追いかけてきませんでした。

「リリアちゃん。あたしもう我慢できません。なんであんなこと言われなきゃいけないんですか!」
「ローザちゃん、相手は貴族なんだよ? 何をされるか……」
「……そしたら、逃げます。学園にいられなくなったって別のどこかに逃げれば……」
「ローザちゃん……逃げるってどこに行くの? オーデルラーヴァに帰るの?」
「う……」

 そう言われて冷静に考えてみるとちょっとまずかったかもしれません。

 そもそもオーデルラーヴァやベルーシには帰れません。それに王太子様絡みのトラブルを起こしたとなればマルダキアでも肩身の狭い思いをしそうです。もしかすると下手すると無実の罪で牢屋に入れられてしまうかもしれません。

 聖ルクシア教会が強いと言われている南や東はユキたちが危険だからダメとなると、もう逃げる先はカルリア公国くらいしか残されていません。

 いくら公子様がまともっぽいとはいえ、王太子様のお友達です。王太子様と外国の平民であるあたしのどちらを取るかと言われたら王太子様でしょう。

「ご、ごめんなさい」
「うん。オーデルラーヴァには貴族がいないって話だからもしかしたら慣れてないのかもしれないけど、でもここには貴族がいて身分があるの。だから、ね。ダメなんだよ」
「そ、そうなんですね」
「うん。その、ちゃんと教えてあげれなくてごめんね?」
「ううん。あたしこそリリアちゃんが止めてくれたのに……」

 あまり納得はできません。ですが、ここはそういう場所なんでしょう。

 レオシュたちに逆らえないのと同じで、孤児院がオーナー様に逆らえないのと同じで、きっとどうしようもないことなのかもしれません。

 そう考えたあたしは屈辱的ではありましたが、バラサさんに頭を下げて失礼な態度を取ったことを謝罪しました。

 どうやらこの国では、貴族であるバラサさんを相手にあの変なポーズをしなかったあたしのほうが悪いのだそうですから仕方がありません。

 こうしないと明日以降もバラサさんにあたしを攻撃をする口実を与えてしまうんだそうです。

 はい。本当に、本当に屈辱的ですけど。

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次回更新は通常通り、2021/05/15 (土) 20:00 を予定しております。
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